2016年

4月

19日

ワシントンDC 2016年4月19日号

若年層の苦境を政治の問題と断言したサンダース氏 Bloomberg
若年層の苦境を政治の問題と断言したサンダース氏 Bloomberg

◇勢い戻したサンダース氏
◇課題は30歳以上からの支持不足

今村 卓
(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 今秋の米大統領選に向けた民主党の指名争いは、ヒラリー・クリントン前国務長官が首位を走っている。だが、3月26日にワシントンなど3州の党員集会でサンダース上院議員が圧勝し、勢いを取り戻した。同氏の獲得代議員数も1038人に達し、首位クリントン氏との差は228人に縮小した。

 サンダース氏の粘り強さの原動力は、若年層からの圧倒的な支持だ。クリントン氏に勢いがあった3月15日までに17州で行われた予備選・党員集会に限っ ても、サンダース氏は、30歳未満の民主党支持者から154万票を獲得し、得票率は71%に達した。これが、クリントン氏の強みである女性や黒人からの支 持の多さへの対抗力にもなっている。

 若年層が、74歳の「民主社会主義者」のサンダース氏を支持するのは、なぜか。それは同氏が「この世代の生活の苦境は政治の問題であり、政治で改善すべき」と断言した唯一の候補だからだ。若年層にとって、景気は緩慢にしか拡大していないのに、大学の学費は連邦・州政府の予算削減もあり跳ね上がったため、大学に通うには多額の借金をするしかなかった。卒業後はその返済がのしかかるのに安定した就業機会が得られず生活は苦しい。こうした苦境は明らかに政治の問題だ。しかし議会を支配する共和党は個人の問題と片付け、オバマ政権と民主党も学生ローンの金利を抑えたぐらいだった。
 政治の無策が続くなかで、若年層自らも「苦境は自己責任で我慢するしかない」と思い込んでいた。サンダース氏は、こうした若年層の苦境を政治問題として引き上げ、若年層に認識を改めるよう促し、自ら大統領になって問題を解決する、と訴えた初めての政治家だ。
 だがサンダース氏には、若年層の苦境を改善するための現実的な政策がない。公立大学の授業料無償化や国民皆保険制度の導入といった同氏の公約は、連邦議会と多くの州政府・議会の共和党支配がすぐには崩れそうもない以上、実現の可能性はない。

 ◇理想論だけでは限界

 しかも同氏は現実主義に譲歩せず、「民主党政権が目先の現実にこだわり過ぎ」「今こそ理想を求める『政治革命』が必要」と唱える。政治革命の賛同者が増えて議会選の投票率が上がれば、民主党が議会を奪還できるという。対してクリントン氏は、現実的な政策を訴える。
 そのため30歳以上の世代ではクリントン氏の得票率が65%に上る。サンダース氏より現実的な対応で問題を改善しようとするクリントン氏の方がまし、という評価だ。また、30歳以上の人は冷戦時代の記憶があるので、社会主義を連想させるサンダース氏の主張に距離を置きがち。人口は若年層より30歳以上の方がはるかに多いため、これまでの指名争いでクリントン氏がリードしている。
 サンダース氏に勢いがあるとはいえ、クリントン氏を逆転するには今後の予備選の大部分で相当の差をつけて勝利する必要がある。この奇跡に近い目標を達成するには、サンダース氏の現実主義への歩み寄りがカギだ。思い切った変化で若年層以外に支持を広げられなければ、4月19日のニューヨーク州予備選でクリントン氏が下馬評通りに快勝し多数の代議員を得て、サンダース氏は事実上の終戦に追い込まれかねない。
 その場合、失望した若年層が大統領選への関心を失い、本選挙では、民主党候補のクリントン氏に投票しない可能性もある。民主党としては、本選挙に備えて党内の融和と団結を促すためにも、クリントン氏は若年層、サンダース氏はそれ以外の世代の支持獲得を目指し、議論を成熟させていくことを望んでいるだろう。 (了)

(『週刊エコノミスト』2016年4月19日号<4月11日発売>60ページより転載)

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この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2016年4月19日号

定価:620円(税込)

発売日:2016年4月11日

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