2016年

4月

19日

【検証なき日銀】マイナス金利の副作用=翁 邦雄

住宅ローンの申し込みが増えても、 その分は将来的に減りかねない…… Bloomberg
住宅ローンの申し込みが増えても、 その分は将来的に減りかねない…… Bloomberg

 ◇需要先食いで自然利子率低下も

 QQEで国債バブルを醸成

 

翁 邦雄

(京都大学公共政策大学院教授)

 

 日本銀行は、2013年4月から量的・質的金融緩和(QQE)政策を採ってきた。「2年でCPI(消費者物価指数)2%の上昇率」達成という当初の目標は、今も達成できておらず、日銀が 強調している原油価格低下の影響を差し引いても1%程度にとどまる。予想インフレ率も低下し始めており、目標達成への道のりは遠い。他方、長期国債の大量 購入を主軸とするQQEは、実行できる期間の限られる短期決戦型の枠組みであり、いずれ、枠組み変更は避けられないとみられていた。

 1月に日銀がマイナス金利政策をサプライズで導入したことにはさまざまな問題があるが、マイナス金利政策自体はすでに欧州で採用されていること、QQEの行き詰まりが明確であること、「自然利子率」が下がり続けていることなどに照らすと、日銀がこの政策に踏み込んだこと自体は自然とも言える。
  ここで言う自然利子率とは、完全雇用に対応する実質利子率である。自然利子率より市場の実質金利が高いとデフレ傾向、自然利子率より実質金利が低いとイン フレ傾向になると考えられる。先進国では、四半世紀にわたって実質金利が大きく低下し続けているが、それにもかかわらず先進国経済はデフレ傾向にある。こ のため先進国の自然利子率は、長期にわたって市場金利以上に大きく低下してきた可能性が高い。実際、米国や日本の自然利子率を推計した研究でも、足元の自然利子率はマイナスとするものが多い。

 ◇銀行がスケープゴートに

 自然利子率低下の理由としては、技術進歩の停滞や人口減少・高齢化、所得分配の不平等拡大などの要因が考えられる。ちなみに、日本の生産年齢人口の持続的減少は、自然利子率低下の大きな要因である。
 予想インフレ率が低下傾向にあるなかで、自然利子率の低下に合わせて実質金利を下げるには、名目金利を押し下げるしかない。その意味では日銀がマイナス金利に踏み込んだのは、短期の景気安定化政策としては理解しやすい。しかし、マイナス金利は長期的には自然利子率を低下させるという弊害を伴う。また、日銀がQQEにマイナス金利を付け加える政策体系を採用したことで大きな副作用が生じている。
  景気安定化政策として理解できる政策が、なぜ長期的には自然利子率を低下させてしまうのか。それは、金利政策が基本的に「いまお金を使うか、将来お金を使 うか」に働きかける政策だからである。マイナス金利政策は、いまお金を使わせようと強く働きかける。例えば、住宅ローン金利が下がり、住宅投資が活発化す る効果が期待されている。これは「来年建てる予定だった家も今年建てるように働きかける」ということである。需要を先食いした分、来年には需要が減るから 自然利子率は低下する。消費増税前には駆け込み需要で景気が好転し、需要を先食いした後に反動が来るのと同じである。

「いまお金を使うか、将来お金を使うか」への働きかけは、景気変動をならすためにうまく使えば有用性が高い。しかし、人口が持続的に減少して住宅需要が減 り続ける中では、それを金融政策の強化で前倒しすればするほど、将来は厳しくなる。むしろ、アベノミクスの「新三本の矢」に含まれる介護離職ゼロや出生率 上昇なども含め、広い意味の成長戦略の方が自然利子率そのものを上げる方向につながる。
 もう一つの系列の副作用は、マイナス金利とQQEの相性の悪さが生み出すゆがみである。QQEは日銀当座預金を増加させる政策であるが、マイナス金利政策はこれを持つ金融機関の負担を増やす。また、マイナス金利へ誘導すると国債の値段が上がるので、金融機関は国債を売りたくないはずだが、日銀がQQEを続けるにはその国債をさらに大量に購入し続ける必要がある。
 日銀は、マイナス金利で金融機関の負担が増える問題については、日銀当座預金に階層構造を設けることで回避しようとしている。具体的には、当初、約260兆円あった日銀当 座預金のうち、マイナス0・1%が課される「政策金利残高」を約10兆円にとどめ、金利0%の「マクロ加算残高」を約40兆円、0・1%のプラス金利が付 される「基礎残高」を約210兆円とし、当座預金の増加に対応してマクロ加算残高を増やしていくことでマイナス金利の適用分を増やさない、としている。
 ただし、この枠組みは、日銀が利益を国庫に収める日銀納 付金を裁量的に減らして、金融機関の収益を増やすという深刻なゆがみを生み出した。基礎残高への0・1%の付利は、元々は金利誘導の手段だったが、今回の 階層構造導入によって金利誘導と切り離されたからである。このため、0・1%という基礎残高への付利水準には金融政策上の根拠がない。
 金融機関は日銀に補助金をもらっているという趣旨のコメントもみられ始めており、これは「金融機関が貸し出しに回すべき資金を日銀当座預金に滞留させて補助金を得ている」という批判につながる。日銀の政策に協力して日銀当座預金を積み上げてきた金融機関は、突然、そのことで社会的批判を浴びるリスクに直面したことになる。

 

 ◇「出口」をなくすリスク

 

 国債大量購入については......

(『週刊エコノミスト』2016年4月19日号<4月11日発売>30~31ページより転載)

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この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2016年4月19日号

定価:620円(税込)

発売日:2016年4月11日

週刊エコノミスト 2016年4月19日号

 

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