2016年

5月

31日

経営者:編集長インタビュー 大西洋 三越伊勢丹ホールディングス社長 2016年5月31日号

◇百貨店受難の時代を「ものづくり」で生き残る

 

 百貨店大手の三越伊勢丹ホールディングスの2016年3月期決算は、売上高1兆2872億円(前年比1・2%増)、経常利益367億円(同6・2%増)で売り上げ・利益ともに微増となった。大西洋社長は「中間層の消費減退が顕著」と危機感をあらわにする。

 

 ◇製造小売りを拡大

 

── 足もとの事業環境は。

大西 中間層の消費の落ち込みを富裕層の旺盛な消費でカバーしてきたが、その富裕層の消費も3月ごろから落ちてきている。円安によりモノの価格が上がる一方で、多くの人は可処分所得が増えず、消費にまわすお金が減っている。

 全国の百貨店売上高は1990年代初頭のバブル崩壊直前まで10兆円近くあったが、現在は6兆円まで減少している。百貨店は全国に約240店あるが、毎年数店閉店している。業界で危機感を共有する必要がある。

── 百貨店不振の原因は。

大西 根本的な問題は、百貨店の同質化が進むとともに、ネット通販(EC)の普及などによって、20代、30代の層が百貨店から離反していったことにある。

 お客様を取り戻すには、百貨店同士で品ぞろえなどが横並びになっている同質化の状況から抜け出さなければならない。ECの強化も必要だ。一般に百貨店の売り上げに占めるECの比率は1~1・5%程度で非常に低い。当社はもう少し多いが、十分な水準ではない。ECサイトの品ぞろえを、2、3年前まで、7万点程度だったものを30万点程度まで拡充し、専用倉庫の設置や専門事業部の立ち上げなども進めている。

── 小売業ではこの数年間でユニクロなどのファストファッションが伸張しました。

大西 ファーストリテイリングは素材の手配から製造・販売まで自社で行うSPA(製造小売り)のため原価率が40%程度と高い。百貨店はその工程の中に多数のプレーヤーが入りコストがかかるので最終的に20%台になる。お客様から見れば、百貨店よりもSPAのファストファッションなどの方が価格と価値のバランスが優れている。百貨店も自分たちでものをつくって売っていかなければならない。

── 具体的には。

大西 最も成功しているのは婦人靴のオリジナルブランド「ナンバートゥエンティワン」だ。4年前に伊勢丹新宿店で始めた当初は3000万円規模だったが、16年3月期は9億8000万円になり、年間で6万から7万足売れている。

 台東区浅草にある工場だけでは製造が間に合わなくなり、全体の3割は中国とベトナムでつくっている。現在、韓国の百貨店にも商品を卸しており、今秋からは欧州の百貨店にも一部卸す。秋からはハンドバッグの取り扱いも始める。

 SPAをやっていかなければ、百貨店の利益率はどんどん下がってしまう。今は洋服が売れない時代で、食品部門の売上高に占める比率が上がってきている。だが食品は利益率が一番低い。

 

 ◇AI、ロボットも活用

 

── 外国人旅行者による「爆買い」の影響は。

大西 海外のお客様による売り上げは全国で約600億円で全体の5%程度だが、銀座三越は20~25%、伊勢丹新宿店は9~10%と高い。店舗の売り上げの10%を超えると、そのお客様の層を意識した店づくりをしないと失礼になる。銀座三越につくった関税や酒税も免税になる空港型免税店を、伊勢丹新宿店の周辺にもつくりたいと考えている。

── 百貨店離れが進む日本人の若者層をどう取り込みますか。

大西 若者は給与が上がらない一方で、通信費の負担が増えている。モノの消費よりもエンターテインメントなどのコトへの消費を重視する傾向があるので、若者に支持されるブランドやモノ・コトを増やす仕掛けに取り組んでいる。

 その一つとして、衣類・雑貨などに関するプロジェクトをクラウドファンディング(ネット経由の資金調達)で支援する展示を伊勢丹新宿店で行っており、少しずつ反応がでてきた。百貨店は自分たちが買うものがある店だということを認知していただき、20代、30代の来店客のシェアを高めていきたい。

── 10年後、20年後の百貨店像は。

大西 商圏が広い首都圏はなんとかやっていけるが、成長にはそれなりの施策が必要だ。地方や郊外は今までのビジネスモデルが成り立たなくなる。モノ・コトが半分くらいの百貨店にするくらいの変革が必要だ。地方では店舗の中に健康や美容をトータルで体験できる医療モールのようなものをつくることも検討している。

 ロボットや人工知能(AI)、決済方法などITを駆使した店づくりをリモデル予定の店舗で試験的にやってみるなど、思い切った取り組みが必要だ。例えば恵比寿三越(東京都渋谷区)は専門店化しているが、もう一度あの場所に恵比寿三越を復活させて、一番新しいお店にしたい。

── かなり大胆な計画ですね。

大西 残念ながら、売り上げは今以上には上がらないと考えなければならない。利益率も下がっている。5年後には会社がなくなってしまうかもしれない。それくらいの危機感を持たないとだめだ。

 

(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=花谷美枝・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 29歳のときに全く新しい店舗をつくるという特別なプロジェクトに異動しました。そこからの4年間がキャリアを変える機会になりました。その後はマレーシア伊勢丹に4年間赴任しました。

Q 「私を変えた本」は

A ドラッカーの著書です。35歳で経営者に近いポストに就いたとき、シンガポールでドラッカーの講演を聞き、考え方が変わりました。

Q 休日の過ごし方

A 先日は六本木を散歩して、カフェでお茶をしたり、当社の店に寄ったり。常に新しいネタを探しています。

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 ■人物略歴

 

 ◇おおにし・ひろし

 東京都出身。麻布高校卒業。慶応義塾大学商学部卒業後、1979年伊勢丹入社。紳士部門を歩んだ後、伊勢丹立川店長、三越MD統括部長を歴任、2009年伊勢丹社長執行役員、12年から現職。60歳。

(『週刊エコノミスト』2016年5月31日号<5月23日発売>4~5ページより転載) 

この記事の掲載号

定価:620円(税込)

発売日:2016年5月23日