2016年

6月

07日

経営者 堀場厚 堀場製作所会長兼社長 2016年6月7日特大号

◇世界の産業を支える「はかる」プロ集団

 

── まず、御社の強みや特徴を教えてください。

堀場 固体や液体、気体をより正確に測るための分析・計測装置を作っています。1945年に父の雅夫が創業して以来、開発型企業として事業を続けてきました。

 決して大きな企業ではありませんが、事業分野は多岐にわたり、自動車や半導体など主要産業を支える「マザーツール」を手掛けている自負があります。取引先には主要企業の研究開発担当者も多い。社員は、こうした優秀な技術者と対等にわたり合わなければなりませんから、個性や才能を持つとんがった人間でなければ務まりません。

 社是に「おもしろおかしく」とうたっているのは、興味を持って自発的に仕事に取り組まないと、よいモノを作れないと考えたためです。

 

 2015年12月期の売上高は前年比11・7%増の1708億円、営業利益は同12・5%増の193億円と、ともに2年連続で過去最高を更新した。2月に発表した新しい中期経営計画では、2020年に売上高2500億円、営業利益300億円の目標を掲げる。

── 新しい計画の狙いは。

堀場 既存の概念を打破し、次のステージに一歩踏み出したいと考えています。従来の目標は、私が掲げた数字を見て社員が驚くことが多かったのですが、新しい計画では、反対に私が「えっ、だいじょうぶなの」と言ってしまったほど、高い目標を社員が提案してくれました。といっても、十分達成できると思っています。独立系企業として生き残るには、少なくとも3000億円の売上高が必要だと考えてきましたから。

 

── 具体的な取り組みは。

堀場 牽引(けんいん)の柱は、自動車計測部門と半導体部門です。

 まず自動車計測部門では、昨年7月に買収した英MIRA(マイラ)社への投資を利益に変えていきたいと考えています。当社のエンジン排ガス測定装置は世界シェア8割を占めますが、モノを売るだけでは成長にも限界があります。買収によって車両開発コンサルティングやエンジニアリング事業をカバーできました。より付加価値の高いサービスを展開します。

 MIRA社は東京ドーム60個分に相当する広大なテストコースを持ち、研究施設内には自動車関連企業約30社が開発拠点を置いています。自動車業界では自動運転車や燃料電池車など次世代車の開発が進んでいますので、こうした企業の開発を後押しすることで当社の事業拡大にも結びつけたいと考えています。

 

── 買収には御社にとって過去最大規模の155億円を投じました。

堀場 買収額が高いと指摘されることもありますが、30~40年に1度のチャンスと考えて決断しました。

 当社の合併・買収(M&A)のユニークな点は、MIRA社を含め過去に買収した主な海外の4社のいずれも、相手先企業から提案されたことです。当社の技術や事業内容だけでなく、企業理念や事業精神にも共感してもらったのだと思います。

 

── 自動車業界では三菱自動車の燃費不正問題が発覚しました。

堀場 問題の背景には企業そのものが抱える課題だけでなく、大学や小中高校など教育面の課題もあるように感じています。

 最近の若手の傾向として、知識は豊富でも、「ハート」が追いついていない印象です。その理由の一つに、学校教育で実験科目が軽視されるようになったことがあるのではないでしょうか。

 我々も同じモノづくり企業ですから、同様の問題を起こす可能性もゼロではありません。社員一人ひとりのモラルと探究心が問われます。

 

 ◇人重視の開発投資

 

── 人づくりが大事ですね。

堀場 特に当社の場合、5~10年の長い期間をかけて進めるビジネスが多い。今教えたことでも、芽が出るのは5年も10年も先になります。そのため研究開発投資は、モノよりも人を育てることを重視しています。

 技術や経験、知恵を社員同士で共有できるような仕掛け作りも進めています。5月に滋賀県大津市で本格稼働したばかりの生産拠点には、建物中央部に吹き抜けの階段エリアを設け、業務部門やフロアの枠を超えて自然にコミュニケーションを取れるスペースを作りました。新しい価値を生み出したり、若手が先輩から技術を受け継いだりする場にしたいですね。また京都本社では毎月、東京支店では3カ月に1回程度、その時期に生まれた社員を集めて誕生会を開いています。私も毎回出席し、社員と直接顔を合わせています。

 

── 半導体部門については。

堀場 半導体や液晶パネルを作る際にシリコンウエハーに吹き付けるガスや液体の重さや量を高精度に制御する主力の「マスフローコントローラー」は、世界シェア55%です。景気サイクルに影響される部分もありますが、部品単体だけでなく、システムとして提供することで、顧客により大きく貢献したいです。

 

── 医療分野では2月に日本電子と提携しました。

堀場 血液検査装置と試薬の販売事業を展開しています。日本電子と提携したことで、同社製の生化学自動分析装置を堀場ブランドで展開できるようになりました。製品ラインアップの拡充を弾みに、世界の検体検査市場の7割を占めるといわれる欧米で事業拡大を目指します。

 

( Interviewer 金山隆一・本誌編集長、構成=池田正史・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 30歳目前に米国から帰国し、海外技術部長に就任。苦手な料理の多い韓国事業に携わりました。キムチやニンニクをおいしく感じられるようになったら、不思議なもので仕事もうまくいくようになりました。

Q 「私を変えた本」は

A 本ではありませんが、20代の頃、米国で受けた飛行機のパイロット免許試験です。悪天候もあって緊急着陸を余儀なくされましたが、合格。「失敗は財産」と評価する米国の懐の深さに触れました。

Q 休日の過ごし方

A ヨットやゴルフなど、アウトドアが中心です。

 

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 ■人物略歴

 ◇ほりば・あつし

 

 京都府出身。京都府立山城高校卒業。1971年3月に甲南大学理学部卒業後、渡米しオルソン・ホリバ社に入社。77年6月にカリフォルニア大学大学院工学部電子工学科修了後、帰国し、堀場製作所海外技術部長に就任。92年に現職。68歳。