2016年

6月

14日

【三菱に喝! Part1 不正の深層】商事と日産 蜜月か 2016年6月14日号

三菱商事の垣内威彦社長(右)
三菱商事の垣内威彦社長(右)

◇自動車事業のテコ入れへ

 

花谷美枝(編集部)

 

「よかったと思う」

 三菱自動車が日産自動車の傘下で再建を目指すことが決まり、三菱商事の垣内威彦社長は安堵の表情を浮かべた。

 グループ御三家の中で、三菱商事は三菱自と事業面での結びつきが最も強い。2000年代初め、経営危機に陥った三菱自にヒトとカネをつぎ込み、立て直しに奮闘してきた。それだけに社内では、再度の不正発覚に落胆の声が大きい。

 その一方で、三菱商事は前期に創業以来初の赤字に転落。最強商社といわれる三菱商事が首位から最下位に陥落するという屈辱的な決算となり、追加の金融支援の余裕はない。そうした中での日産の資本参加は、「三菱商事にとっては渡りに船だった」(証券アナリスト)との見方がある。

 日産は、環境対応車など次世代自動車の開発で三菱自と連携を進める意向を示している。三菱商事が切り込むことができなかった開発現場や技術者集団に乗り込み、不祥事を繰り返す三菱自の体質をたたき直すとの期待も三菱商事側にはあるようだ。

 日産にとっても三菱自との資本提携は、チャンスだ。三菱自への資本参加により、次世代自動車の開発などで三菱自と連携を深められる。さらに日産が期待するのが、これまで攻めあぐねてきた東南アジア市場での販売の足がかりを得ることだ。

 三菱自は海外での売上比率が全体の8割を占める。その海外販売網を築いたのは、三菱商事の営業力だ。事実、東南アジアでの販売で三菱自は強い。三菱商事と三菱自の拠点でもあるインドネシアにおける三菱自の新車販売台数シェアは11・1%。対する日産は5・4%にとどまる(乗用車・商用車合計の数値。インドネシア自動車製造業者協会調べ)。

 

 ◇三菱自の海外営業部隊

 

 三菱商事で自動車事業を担う機械グループの15年度の連結純利益は622億円である。これは、同社の非資源分野で2番目に大きい数字だ。資源価格の低迷が続く中、自動車事業の存在感は以前にも増して強まっている。

 機械グループの自動車関連は、三菱自と三菱ふそうトラック・バス関連を扱う自動車事業本部と、いすゞ自動車を扱ういすゞ事業本部から成る。

 三菱商事のインドネシアでの三菱自関連事業の歴史は古い。始まりは1970年、三菱自が三菱重工業から分離独立したのとほぼ同時期に、三菱商事はインドネシアに現地資本と合弁で販売会社クラマユダ・ティガ・ベルリアン(KTB)を設立した。

 KTBを皮切りに、部品などの「川上」から、車両生産・組み立ての「川中」、販売の「川下」に至る広範囲のサプライチェーンを構築した。生産関連では組み立て、エンジンプレス部品生産、生産がある。また自動車販売金融など販売やIT関連などもある。

 この川上から川下までを押さえる体制こそ、三菱商事の自動車事業の強みといわれている。これはタイで展開するいすゞ関連の事業にも共通する特徴だ。

 通常、商社の海外自動車事業は商品の売買を仲介するトレーディングと川下の販売会社までにとどまることが多い。一方、三菱商事が収益性の高い川上・川中を押さえることができたのは、経営不振に陥ったいすゞ、三菱自を支援する形で事業展開してきたことが大きい。

 三菱商事主導で事業基盤を築いてきたことは、インドネシアでの中核企業KTBの資本構成からもわかる。持ち分比率は三菱商事40%(オランダの100%子会社経由)、現地パートナーのクラマユダ40%、三菱ふそうトラック・バス18%で、三菱自は2%にとどまっている。現在、総額約600億円を投じて西ジャワ州で建設を進める新工場にも、三菱商事は40%出資している。

 このインドネシアでの展開を基盤として、三菱商事は三菱自関連事業の拠点を東南アジア、ロシア、欧州、南米に広げている。三菱自を扱う自動車事業本部の人員は、16年3月末時点で本店134人、拠点8人、出向者84人、社内出向・語学研修・休職19人の合計245人。嘱託・業務委託・派遣を加えると総勢297人の体制で、三菱自の事実上の海外営業部隊といっても過言ではない。

三菱自動車の自動車関連事業の持ち分損益の推移

 ◇インドネシア事業失速

 

 三菱商事の自動車関連事業会社の15年度の持ち分利益は579億円。内訳は公開されていないが、タイ・いすゞの事業が大半を占め、残りを三菱自と三菱ふそうトラック・バスが稼ぐと見られている。

 現在、三菱商事が公開しているインドネシア・三菱自関連会社の持ち分利益は、中核企業のKTBのみだ。KTBの持ち分利益は10年度は64億円、11年度には48億円に達していたが、15年度の持ち分利益は6億円で、前年の14億円から大きく減少した。インドネシア経済の低迷、選挙を控えた買い控えなどが影響したと見られている。

 市況が低迷する中でも、利益は非開示ながら自動車の販売金融は、毎年50億円前後の利益を確保する「ドル箱」だとの見方もある。三菱自の車両を購入する顧客に三菱商事が出資する販売金融会社が融資をつける。自動車販売を側面から支援すると同時に、顧客情報を握る商売でもあり、三菱商事は情報の面でも三菱自の事業に大きく食い込んでいる。

 

 ◇垣内vsゴーン

 

 海外、特に東南アジアでの販売テコ入れを目指す日産と、非資源事業の中核である自動車事業の拡大に期待する三菱商事の思惑は一見すると一致する。

 だが、徹底的な合理化を進めることで日産を立て直したカルロス・ゴーン社長が、三菱商事にこれまでどおりの条件で三菱自との商売を許すかどうか、疑問視する声もある。………

 

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この記事の掲載号

定価:620円(税込)

発売日:2016年6月6日

週刊エコノミスト 2016年6月14日号

 

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