2016年

6月

28日

ワシントンDC 2016年6月28日号

◇性的少数者巡りトイレ論争が過熱

 

堂ノ脇伸

(米州住友商事会社ワシントン事務所長)

 

 米連邦最高裁は昨年6月、同性婚が憲法上の権利と認める判決を下し、一部の州でこれを禁じていることは違憲であるとの見解を示した。就任以来一貫してリベラルな政策を推し進めてきたオバマ政権にとっては象徴的な判決であり、またLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)と呼ばれる性的少数者にとっても朗報であった。ただ、一部の州では引き続きLGBTの権利を巡ってさまざまな難しい論争が続いている。

 その典型的な例が、今話題となっているノースカロライナ州の州法である「HB2(House Bill 2)法」を巡る論争である。共和党のマクローリー州知事によって3月に署名、発効した同法は、出生証明書と同じ性別の公衆トイレや更衣室の使用を義務づけている。加えて傘下の自治体が同法に反する法令を設けることを禁じている。同法がLGBTに対して差別的だとして、撤廃を求める大きな反対運動を生み、全米規模での論争にまで発展している。同法に対してはバンク・オブ・アメリカやアメリカン航空、コカ・コーラ、グーグル、AT&Tといった名だたる企業が反対を示している。また、オンライン決済大手のペイパルなどは同法の発効を受けて、同州で計画していた国際業務センターの設立を見直す意向を示している。他にもロック歌手のブルース・スプリングスティーン氏が法の発効に抗議してコンサートを中止した。

 同州では伝統的な価値観を重視し宗教保守派を多く擁する共和党が州議会で多数派を占めている。同法については、例えば男性がトランスジェンダーを装って女性トイレや更衣室に入り、性的暴行を犯す可能性があるとして、依然撤廃に反対している。5月9日にはオバマ政権が同法は違憲であるとしてノースカロライナ州を提訴、同州出身のリンチ米司法長官も「これは単にトイレに関する以上の問題である」として「米国は違いや多様性を受け入れる寛容な心を思い出さねばならない」とコメントをしている。

 

◇全国規模の争点に

 

 その後5月13日にはオバマ政権が全米の学校に対し、性による差別を禁じた教育改正法第9編(タイトル9)を引用して、トランスジェンダーの生徒には自らが認識する性に応じたトイレを使用させるようにとの指針を通達した。ところが、今度は共和党を支持基盤とする11の州が猛反発して、「連邦政府は強権的に大規模な社会実験をしようとしているが、これは民主的プロセスを愚弄(ぐろう)し、プライバシーの権利や子供を保護する常識的な方針をないがしろにしている」と主張。指針の無効を訴える訴訟を起こす事態に発展し、今やトイレを巡る問題は全国規模での訴訟合戦となっている。

 一般市民の受け止め方はどうか。ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCニュースが共同で行った世論調査によれば「トランスジェンダーは本人の認識する性のトイレを使用するべきだ」との回答が40%に達した一方、「身体の性と一致しないトイレの使用を法的に禁じるべきだ(つまりHB2法と同じ内容)」と回答した人も31%いた。

 大統領選に立候補しているドナルド・トランプ氏は、「州が解決すべき問題だ」として連邦政府の介入をけん制しつつ、自らはこの問題には深入りしない態度を示している。一方でかねてよりLGBTの人権保護を主張してきたヒラリー・クリントン氏はオバマ政権の指針を支持している。トイレを巡る論争は大統領選の行方にも影響を及ぼしかねないものの、最適な解はなかなか見いだせそうにない状況だ。