2016年

7月

04日

特集:FinTech最前線!2016年7月5日特大号

 

 ◇審査部と駅前店は不要!? 業界を激変させる新潮流

 

谷口 健/藤沢 壮 (編集部)

 

 2015年に始まった「フィンテック旋風」が、金融業界内を吹き荒れている。

 5月13日、みずほフィナンシャルグループ(FG)の佐藤康博社長は、フィンテックについて「お勉強はもう終わり」とし、「なるべく早く事業化できるプロジェクトを複数持つのが重要」と決算会見で宣言した。新中期経営計画にもフィンテックを盛り込み、フィンテック推進に大きく舵(かじ)を切った。

 フィンテック(FinTech)は、金融(Finance)とテクノロジー(Technology)を融合させた言葉。個人や法人にとっては、金融サービスが自由に、安価に、便利に使えるようになることを意味し、金融機関にとっては人工知能(AI)や新技術の「ブロックチェーン」などによるシステムや会社組織の効率化を意味する。

 すでに、決済や融資、送金、投資などの分野では、Eコマース企業や流通系企業、インターネット専業銀行など金融以外の業界からの参入が相次いでいる。新興の非金融企業が、既存の金融機関のビジネスを「破壊(ディスラプト)」することもありうるため、フィンテックは「金融革命」とも言われる。

 ある銀行持ち株会社の役員はこう危機感を示す。「例えば、米国や中国のフィンテック企業は『店舗ゼロ、人件費ゼロ、貸し倒れはほとんどなし』という状況で小口金融をしている。審査部さえ必要ない。これに高コスト体質の銀行が勝てるわけがない」。

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 こうしたなか、大手金融機関各社はさまざまなプロジェクトを始動させている。

 特に注目が集まるのはブロックチェーンだ。この技術は、従来の取引記録の台帳のあり方を大きく変える潜在力を持つ。現在の台帳は、大型コンピューターが集中管理する形だが、ブロックチェーンは複数の拠点にあるコンピューターなど分散型で台帳を管理できるようになるシステムで、劇的なコスト削減が期待されている。その潜在力を示したのが、今や世界中で取引されている仮想通貨ビットコインだ。ビットコインは、誰でも見られるオープン型の分散型台帳(ブロックチェーン)を使って「金銭的価値」を作り上げた。

 ビットコインの中核技術であるブロックチェーンを応用しようと、国内の銀行も取り組みを活発化させている()。

銀行窓口のあり方も大きく変わりそうだ Bloomberg 週刊エコノミスト
銀行窓口のあり方も大きく変わりそうだ Bloomberg

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、米シリコンバレーのチェーン社や、イスラエルのゼロビルバンクなど、ブロックチェーン技術を持つベンチャー企業とも手を組んで実証実験を行う。そのなかで一つの構想が、MUFGが発行者となる仮想通貨「MUFGコイン(仮称)」だ。ビットコインと違い法定通貨(日本円)と同じ比率(1MUFGコイン=1円)となる予定で、現状は「一般向けに公開できるか未定」(同行関係者)だが、電子マネーのように決済や送金などにも使えるかどうか実験を続ける。みずほFGも「行内で同様の実験をしている」(同行のフィンテック担当者)。

 こうしたメガバンクの動きの背景には、「全銀ネットや日銀ネットを介さない決済の仕組みを作ることで、銀行が支払う手数料を減らしたいのでは」(ブロックチェーン企業社長)との見方もある。

 

 ◇金融庁も兜町も沸く

 金融当局もフィンテックを後押しする。

 金融庁はフィンテック系ベンチャー企業の育成のため、庁内の意識改革を図っている。「金融『規制』庁ではなく、金融『育成』庁になれと、上から号令がかかっている」(金融庁官僚)。15年12月にはベンチャー企業が気軽に相談などができる窓口「フィンテックサポートデスク」を設置した。

 また銀行法の改正も行われた。銀行や銀行持ち株会社が出資する場合、従来は銀行5%、銀行持ち株会社15%の範囲内に抑えられていたが、フィンテック企業などへ出資する場合、金融庁の認可を前提に、この制限を超えた出資を可能にする。施行は1年以内だが、すでに銀行は出資拡大を視野に、フィンテック企業との提携を積極的に進めている(図)。

 日銀は4月に決済機構局内にフィンテックセンターを立ち上げ、金融機関ではない企業とも積極的に情報交換し始めている。岩下直行フィンテックセンター長は「金融機関だけが関与するネットワークの外側に、ビットコインを含め別のネットワークが生まれている。金融機関のネットワークだけで金融システムを維持できないこともあるかもしれないため、フィンテックをしっかり研究する必要がある」と語る。

 フィンテックの技術開発熱が高まるなか、不動産業者も動き始めている。三菱地所は、電通、電通国際情報サービス(ISID)と共同で、2月に東京・丸の内にフィンテック企業が共同で使うオフィス「フィノラボ」を設立。東京銀行協会ビルのワンフロアを改装して、ブロックチェーン技術のカレンシーポート、オンライン融資のクラウドクレジットなどの29社が入居する。静岡銀行や農林中央金庫、マネックスベンチャーズもスポンサーとして参加し、フィンテック系ベンチャー企業の育成と発掘に投資をする。フィノラボには、「シンガポールや豪州、フランスなど国外の当局や政府系機関も視察に来る」(三菱地所担当者)ようになっている。

 一方、証券の中心街としてにぎわった東京・日本橋兜町でも、フィンテック企業を誘致する構想が進む。東京証券取引所の建物を所有する平和不動産が主導し、東京証券取引所を中心とする地域約10万平方メートルを開発する。平和不動産役員は「(フィンテックで)この地域の再開発をしていく」と意気込む。

 

 ◇人員削減が目的?

 フィンテックの本当の目的は、金融機関が自社の従業員を減らすためではないかともささやかれている。

 MUFGは、総合職を今後10年で3500人減らすとしている。定年による自然減を中心とする削減計画だが、MUFGの平野信行社長は、「フィンテックの活用でドラスティック(劇的)に経費・要員の削減を図っていく方向性も強く意識していく」(5月の決算会見)とする。

 また、みずほFGの佐藤社長は、フィンテック活用が進めば、「10年後には、駅前の一番良い立地に銀行の拠点がある風景はガラッと変わる可能性もある」と本誌のインタビューで語っている。

 フィンテックの取り組みで世界を牽引(けんいん)する米国では、すでに商業銀行の雇用数は大きく下落している。リーマン・ショック前のピークの136万人から足元で126万人まで減っている。

「JPモルガンは最近、グローバルな採用募集を出したが、従来型の投資銀行業務とリサーチで計123人を募集したのに対し、IT業務は2000人以上だった」(米国みずほ証券の石原哲夫USマクロストラテジスト)。既に米株売買高の6~7割は自動取引(アルゴリズム取引)とされるなか、電子化と電子取引を強化して、営業部隊をほぼゼロにした投資銀行もあると報道されている。

 ムーディーズ・アナリティックス・ジャパンの水野裕二シニア・ディレクターは、「銀行が手をこまねいていると、リテール(個人など小口顧客)分野を新参者の非金融機関やベンチャー企業に奪われかねない。これは銀行にとっては大きなリスクだ」と語る。「銀行経営にとって、ホールセール(大口顧客)だけに顧客が集中すると、経済危機に対して脆弱(ぜいじゃく)になる。大口顧客は危機時に、おカネの逃げ足が速いからだ」(水野氏)。

 日銀の岩下氏も「過去にはITブームも電子マネーブームもあった。今回のフィンテックもいつか熱が冷めるかもしれないが、残る技術・企業は必ず出る。ブームの結果として次の変化の種になる」と強調する。

 金融機関はこれまでにも膨大なシステム投資を続け、金融はコンピューターの発展とともに便利になってきた。ただデジタル技術のさらなる進歩により、フィンテックはこれまでのシステム投資とは次元の異なる世界に金融を導くものと言える。顧客の利便性追求に応え、経営効率化のためにも各社はフィンテックを避けて通れない時代になっている。(了)

 

 (『週刊エコノミスト』2016年7月5日号<6月27日発売>18~21ページより転載) 

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定価:670円(税込)

発売日:2016年6月27日

週刊エコノミスト 2016年7月5日特大号

 

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