2016年

7月

05日

ワシントンDC 2016年7月5日特大号

異端の戦略で予備選を勝ち抜いたが・・・ Bloomberg 週刊エコノミスト
異端の戦略で予備選を勝ち抜いたが・・・ Bloomberg

 ◇無党派層はトランプ嫌い

 ◇本選に向け戦略転換できるか

 

今村 卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 

 米大統領選で共和党の指名獲得を確実にしたドナルド・トランプ氏が、予備選向けから本選向けへの戦略転換に一向に踏み切らないことへの懸念が共和党内に広がってきた。

 共和党の候補者選びでは、反主流派の支持獲得を優先する異端の戦略が当たった。同氏の、▽不法移民を止めメキシコ国境に壁を建設▽中国やメキシコから雇用を奪還▽イスラム教徒の入国禁止──といった「公約」と「米国を再び偉大にする」というスローガンも、従来なら荒唐無稽(むけい)と党内で切り捨てられていたが、今は違う。トランプ氏の発言は、経済苦境やテロ不安にあえぐ労働者階級の心を掴(つか)んだ。その結果、トランプ氏は同党の予備選・党員集会を通じて史上最高の1330万票を獲得、誰もが予想できなかった完勝を遂げた。

 とはいえ、今年の共和党の予備選・党員集会の投票率は約15%に過ぎない。本選での勝利には、予備選の5倍に当たる6500万票程度の得票が必要と言われる。トランプ氏は反主流派の支持を軸に指名獲得を確実にした異例の候補だ。予備選での強さを単純に本選に結びつけることはできないだろう。

 トランプ氏には「歴史的な不人気」という深刻な弱点がある。本選の有権者全般を対象にした最新の世論調査では、トランプ氏が嫌いな有権者が70%弱に達している。無党派層による嫌われ具合では、トランプ氏がクリントン氏を大きく上回っている。

 しかも同調査では、共和党内ならトランプ氏の支持基盤となっている白人の労働者階級、中高年以上でもトランプ氏の人気は高くない。さらに、本選のカギを握るヒスパニックや女性は、嫌う人が8割前後で、極度の「トランプ嫌い」だ。

 トランプ氏は、予備選向けの戦略の転換が急務だ。白人の労働者階級を優先する戦略を見直し、挙党態勢を確立して無党派層の支持拡大を目指することが必要だろう。特にヒスパニックや女性の支持を目指す努力が欠かせない。

 

 ◇自説は曲げない

 

 しかし、現実のトランプ氏は本選も同じ戦略が通用するはずとの確信を持っているようだ。

 最近も、自身の不動産投資講座「トランプ大学」の授業料返還訴訟を担当するメキシコ系米国人の判事に人種差別発言を含む中傷を浴びせた。民主党はもちろん共和党指導部や主流派からも非難されて渋々撤回。6月12日にフロリダ州オーランドで銃乱射事件が発生すると、直ちにイスラム教徒入国禁止の持論の正当性を唱え、翌日にはテロの歴史がある地域からの移民禁止を訴えた。同氏の悲劇の政治利用を避けるどころか、事件当日からツイッターに「私の主張が正しかったことを祝福してくれて感謝する」と記すほどの態度には、党派を超えて大統領に不適格との非難が浴びせられた。しかし、トランプ氏は主張を撤回することなく、共和党指導部は対応に苦慮している。

 トランプ氏には、白人からの圧倒的支持があれば本選は乗り切れるとの読みもありそうだ。だが、甘すぎる予想や予備選戦略への固執は、支持率低下をもたらしている。トランプ氏を諌(いさ)められる側近も不在だ。

 選挙戦の舞台が本選に移ってから1カ月近くがたっても予備選向けの選挙運動を続けるトランプ氏をみると、転換の可能性は遠のきつつあるようにも思える。それを容認できるはずがない共和党指導部や上下両院の議員が7月の全国党大会に向けてどのような行動に出るのか。党大会前に思わぬ混乱が生じる可能性もあり、注目を続ける必要がある。(了)

 

 (『週刊エコノミスト』2016年7月5日号<6月27日発売>64ページより転載)

この記事の掲載号

定価:670円(税込)

発売日:2016年6月27日

週刊エコノミスト 2016年7月5日特大号

 

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