2016年

7月

05日

商社の深層30:目立つ官僚OB取締

◇経産省とのパイプに期待か

 

種市房子(編集部)

 

 6月21日に東京都内で行われた三井物産株主総会。株主が、社外取締役の武藤敏郎氏(元財務省事務次官、日銀副総裁)を指名して「FRBと日銀の今後の政策運営は」と質問する場面があった。武藤氏に限らず、いま商社の取締役には官僚OBが目立つ。今年も新たな官僚OB取締役が誕生した。村木厚子・元厚生労働省事務次官は伊藤忠商事社外取締役に就任した。

 住友商事では、経済産業省事務次官を務めた後、6月まで商工組合中央金庫(商工中金)社長を務めた杉山秀二氏が社外取締役に就任した。住友商事は選任理由を「広範な知識と豊富な経験を有して、高い識見と能力を兼ね備えている」と説明している。ただ、杉山氏の同社社外取締役就任には、経産省・商社側の事情も垣間見える。

 杉山氏が6月まで3年間務めた商工中金社長は、経産省事務次官の“指定席”だ。後任には、杉山氏の4代後に次官を務めた安達健祐氏が就任する。経産省に限らず中央官庁は、若い官僚に幹部ポストを与えて士気を維持することが必要だ。そのためには、シニア官僚に外部の独立行政法人や関係企業の役員ポストを用意して、退官してもらわなければならない。再就職先を確保して人事を回すのも、経産省人事部局の立派な仕事なのだ。後進に商工中金社長を譲ってもらうため、経産省が杉山氏に特等席として用意したのが住友商事の社外取締役というのが経産省内の定説だ。

 一方、住友商事に限らず大手商社は経産省OBの受け入れには積極的だ。これは、経産省が所管する独立行政法人・日本貿易保険(NEXI=ネクシィ)とのパイプを密にするという意味合いが大きい。同法人が取り扱う貿易保険は、海外での資源開発や大型投資で損失が出た場合に一定額を補償する。ただ、保険が適用されるか、保険金をいくら出すのかは同法人の審査が深くかかわる。経産省官僚は「商社幹部が、NEXIや我々に保険適用の依頼に来るのは珍しくない」と証言する。OBの天下り先を確保したい経産省と、貿易保険業務で“意思疎通”を密にしたい商社との利害は一致している。

 

 ◇お試し期間も

 

 ただ、経産省に限らず、近年はいきなり常勤取締役として天下りすることは少なくなった。

 これは、監視が厳しい株主が増える中、取締役会での意思決定の責任を問われて株主代表訴訟のリスクを抱えることになるからだ。お試し期間を働き、戦力として認められれば常勤取締役に昇任するケースが多い。たとえば住友商事取締役の藤田昌宏氏(元経産省貿易経済協力局長)は、2010年に執行役員として入社し、14年に取締役に昇任した。この間、事業部門長補佐として民間のビジネスを学んだ。

 商社にとっても、ビジネスマンとしての能力が未知数の官僚OBをいきなり常勤取締役に引き立てるリスクを負いたくない。NEXIとのパイプを確保しながらも、最初から重要ポストは与えない商社のしたたかさが垣間見える。

  ◇  ◇

 27日発売号の本誌本欄で、「丸紅代表取締役を務めた髙原一郎氏(元エネ庁長官)は今年6月、入社後3年で退職した」とあるのは間違いです。お詫びして訂正します。髙原氏は代表取締役を退いたものの、6月以降も常務執行役員として同社に在籍しています。