2016年

7月

12日

ワシントンDC 2016年7月12日特大号

金融機関が破綻しても25万ドルの預金は保護される  Bloomberg
金融機関が破綻しても25万ドルの預金は保護される  Bloomberg

◇金融機関の迅速な破綻処理

◇信用不安の連鎖を防止する

 

安井真紀

(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)

 

 世界各国が資源価格の低迷や景況感の悪化に苦しむ中、米国経済は比較的堅調とされている。しかし、米国の金融機関は、昨年は8件、今年はこれまでに3件破綻している。金融機関の破綻と聞くと、預金の取り付け騒ぎや信用不安の連鎖を思い起こす。だが、米国では通常、金曜日の夕方に金融機関の破綻が公表され、業務停止を経て、翌日の土曜日には看板を掛け替えて営業再開となる。それを可能にしているのが、連邦預金保険公社(FDIC)の迅速な破綻処理だ。

 破綻処理プロセスは、通貨監督庁(OCC)や連邦準備制度理事会(FRB)等の監督当局が、検査等を通じて金融機関の経営悪化を感知して早期是正措置を通知することから始まる。直ちにFDICの破綻処理チームが、金融機関に乗り込み、取締役会で破綻処理手順を説明、債権の詳細リストなど各種データを入手する。資産や負債を評価し、時間的制約、地域競争力、詐欺・横領などの不正の可能性等を分析して、複数の破綻処理方法の中から最もコストの小さいものを選ぶ。多くのケースでは、他の健全な金融機関を受け皿金融機関に資産負債を承継させる「資産負債承継方式」が取られる。FDICが管財人となり、預金者に預金保険で保護される預金(付保預金)を払い戻し、残存資産を清算して金融機関を閉鎖する「ペイオフ方式」もある。

 

 特徴的なのは、破綻公表前に、秘密裏に破綻処理プロセスを進めることだ。先に説明した一般的な資産負債承継方式の場合、受け皿金融機関は破綻公表前に非公開入札で決まる。FDICは、日ごろから金融機関の破綻処理に関心を持つ銀行等にネットワークを張り巡らす。実際に破綻事案が発生すると、営業地域、資産規模、監督当局の評価等から、受け皿金融機関の入札者候補を絞り込む。破綻金融機関の情報は、暗号の使用や守秘義務契約の締結によって厳格に管理される。落札者の決定の際は、監督当局の了解も取り付ける。金融機関の破綻が公表されるのはその後。早期是正措置通知から破綻公表まで、90日以内が原則だ。

 

 ◇FDICに広範な裁量

 

 FDICは、世界大恐慌で9000近くの銀行が業務停止・破綻に陥った後の1933年に設立された。預金保険で保護される預金額は、当初の預金者1人当たり2500ドルから現在の25万ドルまで徐々に引き上げられた。この間、金融機関の破綻によって付保預金を失った預金者は一人もいない。

 80年代後半から90年代前半の貯蓄貸付組合(S&L)危機では、6年間に747件のS&Lを破綻処理。2008年のリーマン・ショックを契機としたサブプライムローンの不良債権問題に関しては、6年間に489件の金融機関を処理した。米国議会は、FDICに広範な裁量を与え、その活動を保護している。裁判所がFDICの破綻処理を差し止める命令を出すことも禁じられている。

 ひとたび、金融機関が重大な資本不足や支払い不能状態に陥り、自力再建が難しいと監督当局が判断したら、資産価値が劣化する前に、FDIC所属の弁護士ら数百人規模の破綻処理のプロが受け皿金融機関を探し、できるだけ高く買い取ってもらう。付保預金が保護されれば、取り付け騒ぎも発生しない。預金保険基金を大幅に取り崩さなければ、金融機関に課す預金保険料率も法外に高くならない。金融機関の破綻がドミノ式に信用不安を引き起こさないためには、何より金融システムに対する国民の信頼が大事なのである。