2016年

7月

12日

編集長インタビュー 辻孝夫 JVCケンウッド社長 2016年7月12日特大号

 ◇音響、通信、映像の技術を医療にも生かす

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── カーナビや車内音響などの車載事業に大きく舵(かじ)を切っています。

辻 現在、売上高の47%を占めています。2008年に日本ビクターとケンウッドが統合した時の二十数%から増えて続けています。20年度には60%にする計画で、基本的に想定通りの動きになっています。

 

── どう拡大させるのですか。

辻 例えば、国内の新車市場は、年間500万台くらいの規模です。そのうちの約6割がOEM(相手先ブランドによる受託生産)、つまり、工場から車が出荷される時にカーナビやステレオ機器などが搭載されています。残りの4割、約200万台弱が各販売店(ディーラー)でお客様が選べるディーラーオプションです。

 当社はディーラーオプションの市場で急速にシェアを拡大させています。15年9月にホンダとも契約し、昨年の下半期からディーラー向けに出荷し始めています。社名は公表できませんが、他にも大手2社と契約し、今年夏ごろから出荷予定です。

 

── デンソーが3%の大株主です。御社のカーナビがトヨタの車に純正で入ることはありますか。

辻 そこまで単純な話ではありません。当社は市販というアフターマーケットでは強いですが、一足飛びに純正を受注できるわけではありません。将来は純正で稼ぐ計画ですが、その前に(市販と純正の間に当たる)ディーラーオプションの仕事があり、これを増やすことが重要です。

 

── 車向けで伸びている製品は。

辻 カーナビ以外では、運転中の映像を記録する「ドライブレコーダー」です。日本市場は、昨年が100万台弱で、今年は150万台くらいになると言われます。当社は一昨年の夏に最後発で参入しました。当社製品は現在、4機種ですが、有名価格サイトの人気ランキングでは、市場に出回る120機種のなかでいずれも上位です。

 他社の製品は1万円以下が多いなか、当社のドライブレコーダーは数万円と安くはありません。車線から大きく外れたり、前方の車に接近し過ぎたりすると警報が鳴るなどの先進運転支援システム(ADAS)機能が優れており、当社のノウハウが生きています。

 

── 自動運転の戦略は。

辻 自動運転とADASを分けて考えています。自動運転は、要素技術を自動車メーカーに適切に提供することはあるでしょうが、我々が先頭に立って開発できる立場にはありません。

 一方、ADASは、特に「デジタルコックピット」、つまり次世代の運転席に注目しています。コックピットのデジタル化は、航空機で最初に標準化され、今は高速鉄道にも採用されています。それがいよいよ車の世界にも採用され始めています。

 その重要な要素を占めるのが、フロントガラス面に道案内などの情報を表示する「ヘッドアップディスプレー(HUD)」です。これからどんどん採用されると見ています。当社は英マクラーレンと、HUDを含めたデジタルコックピットを共同製作し、1月に米ラスベガスで開催された家電見本市「CES」で発表しました。

 

── 差別化要因は。

辻 遅延の少なさです。車の後方を見るカメラで映像を撮って、画像を圧縮して通信で送り、画面(ディスプレー)に映し出すまで遅延が起こります。例えば、高速道路で時速100キロ出すと秒速は27メートル。つまり、遅延が1秒でも起こると27メートルも異なる映像が映し出されることになります。当社の技術は他社より優れており、3・3ミリ秒にまで遅延を縮めています。

 

 ◇「尖った技術」を応用する

 

── 今の御社の強みをひと言で言うと何でしょうか。

辻 音響、通信、映像の三つの領域に強みを持っています。さまざまな経験や知見に基づく埋もれた技術があります。そういうものを新たな発想や新たな領域で活用できれば、まだまだ成長の余地があります。尖(とが)ったソリューション(解決法)を世に出していきたい。

 

── 「尖った」とは。

辻 例えば、血液などにあるエクソソーム(たんぱく質の一種)の診断機器を、3月から医療用検査機器大手のシスメックスと共同開発しています。これでがんの早期発見につながるかもしれません。この診断機器は、ブルーレイディスクの技術を応用しており、50~100ナノメートルのエクソソームを正確に数えることができるようになっています。知っている限りでは、我々の技術が進んでいます。

 また、自閉症など発達障害の早期発見につながる補助装置の開発も進めています。これは、カメラと画像解析の技術を応用し、子供の視線を検出し、分析します。すでに関西や九州などの自治体が18カ月健診で採用しています。日本医療研究開発機構(AMED)からも補助金をもらい、開発を続けています。このほか、頭外定位という技術を使い、音が前方から聞こえる高級ヘッドホンも市販に向けて開発中です。

 

── 進む道は見えてきましたか。

辻 当社は経営再建の時期を終え、“社会復帰”するところです。これから売り上げが減ることはないでしょう。あとはイノベーション(技術革新)。想像力と技術力を掛け合わせたのがイノベーションなので、結局、想像力をどこまで働かせられるかが重要です。想像力があれば、今の技術でほとんどのことが解決するはずです。

(構成=谷口健・編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日商岩井(現・双日)時代、33歳で米国に赴任し、電機関連の輸出入に関わっていました。ちょうど日本経済もバブルに向かう時で、日本を背負う感覚でやっていました。

Q 「私を変えた本」は

A トム・クランシーの『レッド・オクトーバーを追え』です。私が米国にいた時に初めて著者が出したのがこの本。彼の本はほとんど読みました。

Q 休日の過ごし方

A 朝、コーヒーショップで新聞を読んで、その後ジョギングやテニスをします。ゴルフは月に2、3回します。

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 ■人物略歴

 ◇つじ・たかお

 大阪府立北野高校、大阪大学卒。1973年、日商岩井入社。2013年、JVCケンウッド社外取締役。14年、社長兼最高執行責任者(COO)。16年6月、社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。66歳。

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事業内容:車載製品、業務用無線機器などの製造・販売

本社所在地:横浜市神奈川区

設立:2008年10月

資本金:100億円

従業員数:1万7884人

業績(2015年度)

 売上高:2922億円

 営業利益:42億円