2016年

7月

12日

【英国EU離脱の衝撃】「ポンド危機」再来? 2016年7月12日特大号

 

◇歴史的な通貨急落劇を展開

◇脆弱な世界2位の経常赤字国

 

武田紀久子

(国際通貨研究所上席研究員)

 

 英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱派の勝利が確実となった6月24日以降、通貨ポンド相場が急落している。24日のポンド下落率は、1日としては「暗黒の水曜日」として記憶される1992年9月の「ポンド危機」当時を上回り、72年の変動相場制移行後で最大を記録した。EU離脱派の勝利という衝撃に加え、英国は金額ベースで世界2位の経常赤字国という国際収支上の脆弱(ぜいじゃく)性を抱えており、ポンド相場はこの先、相当期間にわたって下落圧力にさらされた状態が続く可能性が高い。

 

◇海図なき「政治危機」

 

 ポンド・ドル相場は6月24日、一時1ポンド=1・3236ドルと、85年9月以来の安値を更新し、前日比10%近くもの急落劇を演じた。週をまたいだ28日には1ポンド=1・31ドル台へとさらにポンド安が進行している。英ポンド相場はこれまでも幾度かの急落局面に直面しているが、それはいずれも何らかの経済的ショックによって引き起こされた「金融危機」であった。しかし、今回は「政治危機」による急落であり、質の異なるショックが市場の混乱に拍車をかけている。

 今回のポンド下落ともっとも比較されやすいのが92年のポンド危機であろう。英国は当時、「欧州為替相場メカニズム」(ERM)で英ポンド相場を一定の変動幅に抑えていたが、米著名投資家のジョージ・ソロス氏をはじめとする投機筋がポンド相場は経済の実勢より高く評価されているとして激しくポンドを売り浴びせた。ポンドを買い支える英イングランド銀行(中央銀行)と激しい攻防を繰り広げたが、結局ポンド相場は大幅下落し、ERMからの離脱を余儀なくされた。

 当時の英国では、景気後退にもかかわらず、ERMを維持するために利上げすら余儀なくされ、失業率の上昇などに悩まされていた。もっとも、ポンドの大幅下落後は英国の輸出競争力が高まり、輸出の伸びなどを通じて英経済は回復に向かっていく皮肉な結果となった。

 しかし、今回はドイツ、フランスと並ぶ欧州3大大国の一つである英国が、民意を反映してEUを離脱するという海図なき「政治危機」であり、具体的な離脱プロセスも判然としない中で、金融市場が一番嫌う不確実性ばかりが増している。こうした「政治危機」の発生によって、「英ポンド資産はすべて割高(=より安価な水準へ調整が必要)」という投資家判断が浸透しており、そのダメージを真っ先に被っているのが目下のポンド相場である。………