2016年

7月

12日

【英国EU離脱の衝撃】連合王国の危機 2016年7月12日特大号

 

◇スコットランドなど独立機運

◇四つの「国」の複雑な事情

 

石野なつみ

(住友商事グローバルリサーチシニアアナリスト)

 

 

 英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票で離脱派が多数を占めたことで、英国自身も国家分裂の危機に直面している。英国はイングランド、ウェールズ、北アイルランド、スコットランドの四つの「国」で構成される連合王国だが、国民投票では北アイルランド、スコットランドでは残留派が多数と地域差が浮き彫りになった。北アイルランド、スコットランドでは、連合王国からの分離を求める動きが加速し、混乱に拍車をかける可能性が高まっている。

 国民投票では、イングランド、ウェールズではEU離脱派が多数となったが、北アイルランドとスコットランドでは残留派が過半数を占める対照的な結果となった。こうした結果を受け、シン・フェイン党(北アイルランド)のキアニー幹事長は6月24日、アイルランド統一への意欲を表明し、「英国からの分離とアイルランド統一を問う国民投票の実施が民主的に見て絶対に不可欠」との立場を明らかにしている。

 また、スコットランド自治政府のスタージョン首相も6月25日、「我々はEUからの離脱を望まない」と述べ、英国からの独立を求める住民投票の実施に向けた手続きを進めるほか、EU側とスコットランドの現在の立場の維持に向けて交渉する考えを示した。北アイルランド、スコットランドではEU離脱への懸念が強く、このまま英政府がEU離脱の交渉を進めた場合、さらなる住民投票に発展する可能性は高い。

 

 ◇国境管理への不安

 

 北アイルランドの問題は、宗教差別に端を発するため根が深い。1960年代から活発化した少数派のカトリック系住民によるアイルランド統一運動がそれだ。22年にアイルランド自由国(当時)が英国から独立した際、北アイルランドは英国に残ることを選択した。アイルランドがカトリック系住民が多数を占めるのに対し、北アイルランドへはスコットランドから大量のプロテスタントが移民として流入し、プロテスタント系住民が6割を超すまでになったためだ。

 しかし、少数派となったカトリック系が、アイルランドとの統一を求める運動を活発化する。60年代末にはアイルランド統一を掲げるシン・フェイン党の武装組織「アイルランド共和軍」(IRA)が武装闘争を開始。84年には英南東部の都市ブライトンで、保守党大会に出席していたサッチャー首相(当時)を標的にホテルを爆破。92、93年にはロンドンの金融街シティーでのビル爆破など、英国各地で激しいテロ活動を繰り広げた。シティーにほとんどゴミ箱が設置されていないのはこの頃の名残だ。………