2016年

8月

05日

経営者:編集長インタビュー 市川秀夫 昭和電工社長 2016年8月2日号

◇先端化学でリチウムイオン電池材料に商機

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 昭和初期に設立された総合化学メーカー「昭和電工」は、時代に合わせて、事業を転換してきた。現在はどのような事業が稼ぎ頭なのか。

 

── 御社はどのような会社か。

市川 約100年前、国内化学産業が近代化する以前は、日本は多くの素材を海外からの輸入に頼らざるを得なかった。そこで創業者の森矗昶(もりのぶてる)らが「化学素材を国産化する」という信念の下、築き上げた事業が当社の源流だ。その後、時代に合わせて事業転換を繰り返しながら領域を拡大してきた。例えば、当社の祖業の一つがアルミニウム製錬事業だが、製造する過程で原料を溶解する電炉が必要だ。そこで、電炉の熱源となる黒鉛電極事業を始めた。黒鉛は、導電性が高く、高熱にも耐えられる素材だ。現在は国内にアルミニウム製錬事業は残っていないが、黒鉛電極はスクラップ鉄の溶解に不可欠な材料として世界的に展開する事業となっている。現在は石油化学、化学品、無機(黒鉛電極など)、アルミニウム、エレクトロニクス(ハードディスクなど)の五つの大きなセグメントで展開している。

── 足元の経営環境は。

市川 2016年12月期は360億円の営業利益を予想しており、必達目標だ。ハードディスク事業ではサーバー向け需要が拡大している。しかし、パソコン向けの需要減をカバーしきれていない。一方、原油安と旺盛な中国での需要に支えられている石油化学が好調だ。新たな成長事業としては、リチウムイオン電池(LIB(リブ))材料に期待している。

── リチウムイオン電池材料事業とは。

市川 負極材、電池の持ちを長くする正負極の強化材、電池包装材が当社の主要商材であり、国内外の電池メーカーに供給している。特に人造黒鉛を使った負極材が好調だ。黒鉛電極で培ってきたノウハウが新たな用途開発につながっている。また、従来のリチウムイオン電池は筒形・角形が中心だったが、最近はEV(電気自動車)など大型向けにも袋状のパウチ形が増えている。パウチ形は電池の薄型化に加え形状の自由度も格段に上がるからだ。

 当社は、そのパウチ形電池向けに、アルミと樹脂の複合フィルムを包装材料として開発し、この2年ほどの間に急速に売り上げを伸ばしている。リチウムイオン電池は日本メーカーが先行していたが、最近は中国や韓国の競合メーカーがシェアを拡大しつつある。せめて材料は日本メーカーが海外品に対する優位性を持った製品を供給し続けないと、産業が丸ごと海外に流出してしまうという危機感がある。その意味でも、化学技術を駆使した先端材料の開発は我々の使命だと考え、取り組んでいる。

 

 ◇EV向け伸びる

 

── なぜ販売量が伸びているのか。

市川 EV市場が伸びているからだ。これまでは、スマホやパソコン用など小型リチウムイオン電池向けの需要が主流だった。しかし、EV用の大型リチウムイオン電池に使用される材料の使用量は圧倒的に大きい。特に中国では環境規制の観点からEVの普及を政策として進めており、ドイツなど欧州市場でも大型リチウムイオン電池需要が拡大している。当社のリチウムイオン電池材料の売上高は、今年、自動車用などの大型電池向けが小型電池向けを上回ることになりそうだ。

── リチウムイオン電池の市場をどう見るか。

市川 リチウムイオン電池材料の世界市場は、現在は年間1兆円強だが2020年には2兆円近くまで伸びる。当社も18年には、年間売上高300億~500億円の事業に育てていきたい。ただ、有望市場だけに、中国では新しい電池メーカーの参入ブームとなっている。「需要が増えている」と調子に乗って設備投資を急激に増やすのは事業リスクを抱えることになりかねない。中国市場全体の見極めと同時に、個々の企業の動向を見極めることが、今後当社の事業展開にとって極めて重要な要素になる。単に「いいモノ」を作るだけでなく、事業モデル全体の設計がより重要になってくる。

── 石油化学の状況は。

市川 しばらくは強気だ。国内のエチレン生産能力は15基あったエチレンプラントがこの3年間で3基休止し、年産610万トンまで減少した。海外では、特に中国では人口増加と生活レベルの向上によりエチレン需要は拡大している。輸入需要も強く、それが東アジア全体のエチレン需給バランスを逼迫(ひっぱく)させ、エチレン市況は高止まりしている。このように原料安と旺盛な需要でエチレンはしばらく高稼働と安定した利益が期待できる。しかし、この状態はあと2年程度しか続かないと見ている。米国では、17年以降安価なシェールオイルを使ったエチレンプラントが稼働を開始する。また、現在のような高いスプレッド(原料と製品の価格差)が続けば、中国でも新たな石油化学の新増設が計画され、遅くとも19年以降には稼働を開始するだろう。それまでに、当社石油化学の製造拠点である大分コンビナートに、エチレン由来の製品製造など関係事業を集積してよりバランスの良い、競争力のある事業拠点として強化していく。

(構成=種市房子・編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 人事や石化事業再編を担当した。変革の中にあって、ひたすら働いた。

Q 最近買ったもの

A 5月にベトナム工場視察に行った際に、英国の帆船模型(長さ110センチ)を買った。ベトナム人の器用さがうかがえる良品だ。

Q 休日の過ごし方

A 最近はDIY(業者に頼らず自身で行う大工仕事)に凝っている。料理も好きで、専用のパンで作るパエリアはお勧め。

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■人物略歴

◇いちかわ・ひでお

長野県立長野県須坂高校、慶応義塾大学法学部卒。1975年、昭和電工入社。主に経営企画畑を歩み、2010年取締役兼常務執行役員、11年1月、社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。64歳。

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事業内容:総合化学メーカー

本社所在地:東京都港区

設立:1939年

資本金:1405億円

従業員数:1万561人(連結)

業績(2015年度)

売上高:7809億円

営業利益:336億円