2016年

8月

09日

経営者:編集長インタビュー 澤田道隆 花王社長 2016年8月9・16日合併号

◇「基盤研究が花王のDNA」

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 6期連続増収増益、26期連続の増配です。

澤田 当社は「絶えざる革新」を理念のベースとし、消費者のニーズの半歩先を見て、驚きや感動を与える付加価値の高い商品を提案してきました。提案して終わりではなく、そこから5年、10年かけて継続的に研究を重ね、繰り返し商品を改良し、受け入れられる商品作りをしてきたことが、業績好調の大きな要因です。

 例えば、ヘアケアシリーズ「メリット」は、40年以上続く商品です。最初はフケに特化したシャンプーとして発売しましたが、より高付加価値のものを突き詰めるうちに、地肌ケアもできる弱酸性シャンプーにシフトしました。研究・改良を重ね、現在は子供も使える「家族シャンプーメリット」に生まれ変わりました。

── 好調の要因は。

澤田 当社の単体の従業員数は6970人で、そのうちの約3分の1が研究員です。研究開発に年間約520億円、競合他社は大体売上高の2%台であるのに対し、当社は3・5%を費やしています。また、そのうちの半分を、身体の本質や泡などの物質を解明する基盤研究が占めており、これが成長のベースにあります。

── 具体的には。

澤田 例えば、特定保健用食品 (トクホ)の緑茶である「ヘルシア」は、もともと「エコナ」というトクホの油の研究から生まれた商品です。

 エコナの主成分で、脂肪を燃焼する働きを持つジアシルグリセロールという物質を研究する過程で、お茶に含まれるカテキンが、同様の働きをすることがわかりました。それなら飲料でも、脂肪を燃焼する商品を開発できるのではないかという発想から、ヘルシアの発売に至りました。

 一つの物質の発見から派生的な知見が得られ、その知見の蓄積があるからこそ、新製品を生み出すことができます。こうした基盤研究が、当社のDNAの一つとなっています。

── 足元の事業環境は。

澤田 事業分野でそれぞれ異なります。家庭用品、化粧品は、単月でみれば低迷している月もあるものの、2016年1~6月の市場伸長率は家庭用品が103%、化粧品が101%となり、市場はそんなに悪い環境ではありません。

 ケミカル事業は、中国を含めたアジアの建設・インフラ関連の需要の減少で伸びは鈍化しており、上向くのに時間がかかるでしょう。ただ、中国の過剰生産や新興国の成長は行き過ぎた面もあり、今後適正な水準へ調整されていくと思います。今は着々と準備を進め、いずれ景気が好転してきた時に、一気に成長できる状態にしておくことが大切です。

 

 ◇世界初のインクを開発

 

── ケミカル事業の取り組みにはどんなものがありますか。

澤田 ケミカル事業の柱は、界面化学技術です。特に、二つの物質が接する境界である「界面」に作用して性質を変化させる界面活性剤に強みがあります。

 例えばコンクリートは、水や砂などをセメントで固めて形成しますが、水が少ないと固まりやすくなる一方で流動しにくく、逆に水が多いと弱くなります。当社は、界面活性剤を生かし、水中に分散するのを防ぐコンクリート混和剤の開発に成功しました。この製品は、東日本大震災後の福島第1原子力発電所のメンテナンスにも役立ちました。

── 他分野にも応用できますか。

澤田 印刷技術の分野でも、世界初のフィルム印刷への水性インクジェット用顔料インクを開発しました。これまで、環境汚染につながる揮発性有機化合物を使用した油性インクが主に使われていました。これを水性にし、環境負荷を低減しながら、界面制御技術を使い、従来難しいとされてきた高品質なフィルム印刷ができるインクの開発に成功しました。今後これが普及すれば、印刷の世界は大きく変わる可能性があります。こうした日本発の技術や、研究の力を世界に示していきたいです。

── 今後の海外展開はどうしていきますか。

澤田 現在、海外は欧米、アジアで主に展開しています。全体の売上高比率は、日本が65%、海外が35%と日本が中心です。しかし、アジアの売上高は、10年前と比較すると3倍の規模に成長しており、今後は、ミャンマーやカンボジアなど、海外事業の主力地域のタイに近い拠点を利用して、まずはアジアの家庭用品の展開を加速していきたいと考えています。

 一方、ケミカル事業の売上高は65%を海外が占めています。今後は、家庭用品で過去に撤退したフィリピンに再挑戦するつもりです。

── カネボウとの共同研究棟が16年秋完成します。

澤田 カネボウと当社の化粧品ブランド「ソフィーナ」それぞれの研究の知見や技術を高度化するため神奈川県の小田原事業場敷地内に新たな研究棟の建設を進めています。これまでに研究、生産などの各部門の一体運営を進めており、販売部門は、16年1月に花王グループの国内販売などの子会社を統合した持ち株会社体制に移行しています。

 15年12月期の売上高構成では、四つの事業分野のうちビューティケア事業が41・3%、そのうちの多くを化粧品が占めています。15年にはソフィーナ、16年からはカネボウの大改革をスタートさせました。共同研究棟は、改革を象徴する建物になります。

(構成=荒木宏香・編集部) 

 

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A グループリーダーとして、和歌山工場で毎日必死になって素材開発の実験、研究を行っていました。

Q 「私を変えた本」は

A (本ではないが)大学院修士1年の頃、当時の当社の丸田芳郎社長との面談の際に聞いた「本質の追究が研究の基本」が私を変えた言葉です。

Q 休日の過ごし方

A 3通りあります。時間がある時は和歌山に帰り、孫と過ごします。二つ目は生活者の購買行動を知るため、お店を回ります。もう一つは、オペラなどの感性を刺激される場所に行くようにしています。

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■人物略歴

 ◇さわだ・みちたか

 大阪府出身。桃山学院高等学校卒業。大阪大学大学院工学研究科プロセス工学専攻修士課程修了後、花王石鹸株式会社(現花王)入社。取締役執行役員などを経て、2012年より現職。60歳。

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事業内容:家庭用品、化粧品、工業用製品の開発、製造、販売

本社所在地:東京都中央区

設立:1887年6月

資本金:854億円

従業員数:3万3026人

業績(2015年12月期・連結)

 売上高:1兆4718億円

 営業利益:1644億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年8月9・16日号<8月1日発売>4~5ページより転載)

この号の掲載号

定価:720円(税込)

発売日:2016年8月1日

週刊エコノミスト 2016年8月9・16日合併号

 

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