2016年

9月

06日

第39回 福島後の未来をつくる:小西雅子 WWFジャパン気候変動・エネルギープロジェクトリーダー=2016年9月6日号

 ◇こにし・まさこ

 1958年兵庫県神戸市生まれ。ハーバード大学院・環境公共政策学修士課程修了。中部日本放送アナウンサーなどを経て2005年9月から現職。日本気象予報士会副会長。近著に『地球温暖化は解決できるのか』(岩波ジュニア新書)。

 ◇現状の送電インフラ活用で

 ◇全電源の50%再エネも可能

 

 未曽有の被害をもたらした東京電力福島第1原子力発電所事故は、筆舌に尽くしがたい災禍であったが、それをきっかけとして日本は再生可能エネルギー導入に本格的に取り組み、全量固定価格買い取り制度(FIT)の導入や、これまでなしえなかった既得権へ切り込んでの電力自由化や、地域間連系線の運用ルールの見直しなどが進みつつある。日本においても技術的にも経済的にも早期に再エネの大量導入が可能であることが明白になりつつある。

 ◇原発前提の出力制御

 

 再エネの導入が、欧州や米国、中国などの再エネ先進国に比べて遅れた日本では、いまだ時代遅れの主張が聞かれる時がある。


「出力不安定な再エネを導入すると停電のリスクが高まる」「再エネ導入は地域間連系線の増強や蓄電池の大量導入がない限り難しい」「再エネはコストが高い」など。その最たるものが再エネの電力系統への「接続可能量」、つまり送電線(送電系統)へ接続可能な電力の容量制限を指した言葉ではないか。

 実はこれは非常に翻訳が難しい言葉だ。なぜなら再エネ先進国ではそのような概念はないからだ。欧米では再エネは「不安定な電源」ではなく「変動する電源」と呼ばれており、その変動吸収の手法は数多くある。どの手法から選ぶか、という選択の問題で、再エネの系統接続に上限があるわけではない。

 日本で言う「接続可能量」とは、FIT導入後に急増した太陽光発電の接続申し込みに対して、2014年9月に九州電力などによる電力系統への接続を保留する問題が発生したことを受けて、経済産業省の審議会、系統ワーキンググループ(系統WG)で検討されたものだ。

 全国の10地域のうち、電力需要の大きい東京、中部、関西電力を除いた7電力会社地域に、系統に接続できる「接続可能量」が設けられた。

 この接続可能量を超えて申し込む事業者は、無制限・無補償の出力制御を受け入れなければならない。すでに九州、東北、北海道電力など再エネが増加している地域では、新たに系統接続を申し込む事業者にこのルールが適用されている。

 どのくらい出力制御が行われる見通しかも発表されており、15年11月に系統WGで示された見通しによると、たとえば九州電力管内に500万キロワットの太陽光発電が追加された場合には、発電量のうち46%分が出力制御される、と示されている。この見通しは2シグマ方式といって、太陽光、風力の各時間の出力を合成した値のうち、各月における最大値から2番目の値を基礎とした試算がベースになっている。

 一方、WWFジャパンでは14年9月に、再エネ事業者から九電の電力系統に接続を申し込んでいた当時の量1260万キロワットの再エネがすべて導入された場合の系統システムの定量的分析を、株式会社システム技術研究所に研究委託して発表した。

 これは系統WGで電力会社が採用した2シグマ方式よりさらに踏み込んで、13年度の実際の電力需要と、九州電力管内の気象データに基づく365日1時間ごとの太陽光、風力の発電電力量を8760時間にわたりシミュレーションしたものだ。実際に1260万キロワット導入された場合、どの時間帯に、どの程度の容量が余剰となるのかをシミュレーションし、既存の電力系統システムで導入可能かどうかを検証した。

 その結果、既存の九州・中国間の地域間連系線の運用容量が使える前提ならば、再エネの出力制御はほとんど必要ないことがわかった。

 この時に明白となったのは、再エネの発電量の抑制日数(時間数)と抑制量は、原発の有無で大きく変わることである。今回のWWF検証では、現実的な再稼働の可能性を考えて、川内原発のみを取り上げて、原発がある場合とない場合を想定してシミュレーションしたが、原発なしの場合には、抑制日数は、年間で25日(88時間)、地域間連系線の運用容量が利用できるなら抑制日数は同1日(1時間)のみとなった。原発ありの場合でも、地域間連系線の運用容量を利用できるなら、抑制日数は同16日(46時間)のみとなる。

 既存の連系線が日常的に活用されるならば、この規模の再エネが、現状のインフラのままで利用できることが確かめられたと言える。

 つまり「接続可能量」とは、物理的な制約というよりも、現実に即していない原発の稼働の想定や、本来活用できるはずの地域間連系線などの既存設備が何らかの理由で妨げられているなどの社会的な制約が問題であることが示唆された。

 

 ◇地域間連系線がカギ

 

 この九州電力管内の検証シナリオに先立って発表したWWF系統シナリオでは、全国9エリアにおける地域間連系線の必要容量を検証した。

 その結果、全国の電源構成のうち再エネの割合が発電電力量で50%となる場合でも、既存の地域間連系線で十分に間に合うことが示された(図)。まずは既存の地域間連系線を最大限活用して再エネ導入を図っていくことが、日本で最も早期に実現できる経済的なエネルギー対策であり、また有効な温暖化対策なのである。

 それには既存の地域間連系線の運用ルールの見直しが急務だ。日本の地域間連系線は実は欧州にもひけをとらない容量があるところが多いものの、今までは既存の大手電力が既得権として大部分を使ってきたため、新規の電力事業者は空きをなかなか手に入れることができず、他地域へ電気を送ることが難しかった。

 しかし、16年8月に全国規模で送電網を管理する電力広域的運営推進機関(広域機関)において、地域間連系線の利用ルールを見直して、発電コストの低い電源を優先的に流すことが可能となる仕組みに変えていく方向性が示された。詳細な検討はこれからだが、基本的に見直しされることが示されたのだ。

 コストの低い電源というと今の日本では石炭火力や原発を思い浮かべるかもしれないが、再エネ先進国では再エネはいったん建設されると燃料費がいらないために、時には市場の評価でマイナス価格となるほどのコストの安い電源とみなされている。再エネ電力は優先給電されることにはなっているが、遠くない将来には経済合理的な選択としても再エネが選ばれるだろう。

 実は先ほどの九州電力管内は、先進的な気象予測を使った出力予測システムに基づく需給調整が行われ、すでにかなりの再エネ電力が供給されるエリアとなっている。天気に左右される再エネは、逆に言えば気象予測を使った出力予測システムを使えば、太陽光や風力の発電出力が予測可能となって調整しやすくなるのだ。九州電力が7月21日に発表した「再エネの導入状況と至近の需給状況について」によれば、16年5月4日の午後1時には電力需要の66%が太陽光と風力で供給され、1日の電力量でも38%が再エネで占められた。こういった歩みを加速させて、全国的に早期の再エネの大量導入を果たしていくことが福島原発事故を経た私たち世代の責任ではないだろうか。

(了)