2016年

9月

13日

【中国 ゾンビと政争】「権力継承」プロセス書き換えか 2016年9月13日号

◇幹部の定年制見直しの可能性

 

加茂具樹

(慶応義塾大学教授)

 

 今の中国は、政治の季節の真っただ中にある。10月には第18期共産党中央委員会第6回総会(六中全会)、来年秋には党大会が開催され、習近平国家主席(党総書記)の後継者となり得る候補者が見えてくる。この「権力の継承」のプロセスに関して、中国政治は過去40年近く、一つの制度を継承してきた。

 この制度が守られてきたのは、1980年代から始まる改革開放路線下の政治エリートたちの間に、後継者の選定を含めた人事制度を巡って一つのコンセンサスがあるからだ。それは「文化大革命の再演を防ぐ」ことである。
 中国共産党は、この文化大革命を「指導者が誤って発動し、反党集団に利用され、党と国家各民族に大きな災難である内乱」と評価している。この「指導者」は毛沢東である。その再演を防ぐため、中国政治は、個人の指導者への過度な権力集中を防ぐための制度化に腐心してきた。
 例えば、中国の国家機関の幹部である国家主席、首相、副総理、全国人民代表大会常務委員長(国会議長に相当)などについては、その任期制限(2期10年)を憲法(82年制定)に明記している。また明文化はされていないが、中国共産党の最高意思決定機関である政治局常務委員については、定年と任期の制限を設けているとされる。政治局常務委員への就任は67歳まで、総書記は2期10年までという制限だ。
 この制度によれば、現在の政治局常務委員7人のうち、習主席と李克強首相を除く5人は、来年秋の党大会を機に定年引退することになる。現政権もこれまでと同様、厳格にこの制度を守って政治局常務委員の世代交代を進めていくだろうと観測されてきた。しかし今、習主席はこの定年という「権力の継承」プロセスに関する制度を書き換えようとしているのではないかという見方が広がっている。

 

◇見当たらない王氏の後継

 

 7月26日付の『人民日報』は、共産党中央政治局会議が、10月に開催する六中全会で「新しい情勢下の党内の政治生活に関する若干の準則」(「新しい準則」)の制定を議題とすることを決定したと報じた。
 中国共産党は80年2月の中央委員会総会で、「文化大革命の再演を防ぐ」というコンセンサスを「党内の政治生活に関する若干の準則」(「準則」)として確認した。同準則の中で提起された政治原則の一つが「集団指導体制の堅持と、個人専制の反対」であった。
 習主席は、36年前の党内のコンセンサスを踏まえて練り上げられた制度は古くなったとして、現在の情勢に即した新しいものに書き換えようとしているというわけだ。「準則」の何を書き改めようとしているのか、その具体的な中身は明らかではない。しかし、「書き換え」に注目が集まるのは、それができれば定年という「権力の継承」プロセスに関する制度に手をつけることも可能と見ることができるからだ。
 来年の党大会で定年を迎える5人の政治局常務委員のうちの1人に、党中央規律検査委員会書記として汚職摘発の指揮を執ってきた王岐山氏がいる。「反腐敗闘争」は習主席の政治的威信の根源の一つでもあり、王氏に代わってそうした重要任務の陣頭指揮を執れる次期常務委員候補は見当たらない。だから、習主席は定年の慣習を破って王氏を常務委員に残すのではないかという見方がある。……

 

(『週刊エコノミスト』2016年9月13日号<9月5日発売>24~25ページより転載)