2016年

9月

13日

経営者:編集長インタビュー 長谷川敦弥 LITALICO社長 2016年9月13日号

◇障害があっても幸せな社会に

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

  LITALICO(以下、リタリコ)は、障害者の支援をビジネスとして実現する日本唯一の上場会社だ(2016年3月上場)。内閣府の『平成28年版 障害者白書』によると、日本にいる障害者は860万人。一方、障害者の労働者数は、36万6000人にとどまる。

リタリコは、障害者の就労や学習支援を通 して、この課題に取り組む。

── 障害者の支援事業を始めたきっかけは。
長谷川 学生時代に、障害者施設で働く脳性まひの若い女性に会ったことをきっかけに、障害があっても 幸せになれる社会をつくりたいと決めました。リタリコは、先代の社長が2005年12月に設立した会社です。彼が仙台市長選挙に出馬することになり、後任 として09年8月に私が社長に就任しました。当時は入社2年目でした。

── 入社2年目での社長抜てきに重圧は感じませんでしたか。
長谷川 元々、経営者になりたいと考えていたので、不安やプレッシャーはありませんでした。
 ただ、社長を引き継いだ当時は、毎月700万~800万円ほどの赤字がありました。そこで、売り上げを伸ばすために就労支援事業の拠点の拡大に力を入れました。10年8月時点は、全国で6拠点でしたが、半年後の11年3月には15拠点と倍増。翌12年3月には34拠点となり、現在は58拠点です。
── なぜ、株式会社の形態をとっているのですか。
長谷川 日本では、非営利団体よりも株式会社の方が、資金も人材も集まるからです。また、近江商人の「三方良し」のように、昔から会社が社会貢献を行う考え方があります。
── ビジネスモデルは。
長谷川 以前は、企業に障害者を紹介し、企業から人材紹介料をもらう事業モデルでした。しかし、これでは就職できるのは障害が軽度な一部の人だけです。障害者の雇用を増やす抜本的な解決になりません。
 そこで現在は、障害者に就労支援サービスを提供し、その料金の1割を利用者から、9割を国と自治体からもらっています。病院や介護施設と似たような形態です。実際には、利用者の大半は前年度の収入がないため、無料でサービスを受けています。サービス料は、1日約8500円からです。
── 就労支援の中身は。
長谷川 利用者は、約1年間でパソコンの使い方やコミュニケーションのとり方などを学んだり、企業で実習をしたりします。面接対策など就職活動の支援もします。また、障害者の中には、ようやく決まった就職先の環境に過剰に合わせすぎてしまう人が多いので、就職後も半年間のフォローアップを行います。
── どのような人が利用していますか。
長谷川 利用者のうち約6割が精神障害を持ち、約2割が発達障害を持っています。身体障害と知的障害を持つ人も、1割ずついます。
 昨年度は、月平均で約1800人が利用し、そのうち894人が就職しました。就職者数は、事業を開始した08年から累計で約4000人。

 ◇多様な人が働く環境を

── 行政による障害者の就労支援と違う点はどこですか。
長谷川 従来の障害者支援は、福祉施設の中で働く場を提供していました。1人30年、40年と長い期間施設で働くため、その分、社会福祉のコストがかかります。
 一方、リタリコのサービスは、社会に出て働くことを目的としています。就労支援の期間は費用がかかりますが、就職後は企業から給与をもらい、自立します。
 つまり、長期的に見れば、リタリコのサービスが拡大することで、社会保障費は減らすことができます。
 また、日本の人口が減少する中、生産性を高めるためには、多様な人材が働き、イノベーションを生み出すことが重要です。その点でも、障害者を含む多様な人材が働ける環境が大切だと思います。
── 環境を整えるため、他にどんな取り組みを。
長谷川 自閉症やアスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの発達障害を持つ子ども向けに教室を運営しています。集団生活を送るための練習をしたり、基礎学力をつけるための教育を受けます。料金は、週1回利用の場合で月額約2万円です。就労支援と同じく社会保障費から補助がでるケースと、100%自己負担のケースがあります。
 現在、70の拠点があり、約8000人が通っています。しかし、教室が満員のため、待機者が数千人います。それくらい切実なニーズがあるのです。
── 新たな事業の柱はありますか。
長谷川 プログラミングをしてゲームやロボットなどをつくる子ども向け教室を運営しています。この拠点はまだ五つですが、時流に乗っています。利用者の8割は、障害がない子どもです。
 元々は、発達障害の子どもの得意分野を伸ばす場を提供したいと始めました。彼らの中には、ITなど特定の分野に才能を持つ子がいます。学校ではうまく適応できない子も、リタリコの教室では活躍できます。
── 今後の目標は。
長谷川 障害者にとっての社会インフラになりたいです。障害があってもリタリコに出会ったら安心できる、そういう存在を目指しています。
(構成=金井暁子・編集部)

 ◇横顔

Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 入社2年目の24歳で社長に就任しました。就任直後は、とにかく忙しかったです。
Q 「私を変えた本」は
A 18、19歳の頃に読んだ『志高く 孫正義正伝』です。それまで、社会で活躍できる人は優等生だと思っていましたが、型破りな人間が活躍できるのだと感銘を受けました。
Q 休日の過ごし方
A 休日を含め毎日10キロ走っています。
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 ■人物略歴
 ◇はせがわ・あつみ
 1985年岐阜県出身。岐阜県立多治見高校卒業。2008年名古屋大学理学部を卒業後、同年LITALICO入社。09年8月より現職。31歳。
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事業内容:障害者の就労支援、障害児の教育支援
本社所在地:東京都目黒区
設立:2005年12月
資本金:3億2900万円
従業員数:1270人
業績(2015年度)
 売上高:72億6400万円
 営業利益:5億6200万円
 

(『週刊エコノミスト』2016年9月13日号<9月5日発売>4~5ページより転載)