2016年

9月

20日

【特集:シン・円高】マイナス金利の円安効果は限定的 ドル・円の鍵は日米の長期金利差=武田紀久子

黒田日銀総裁はマイナス金利を深掘りするか Bloomberg 週刊エコノミスト
黒田日銀総裁はマイナス金利を深掘りするか Bloomberg

 マイナス金利による円安効果は、今はあまり期待できないのが実情だ。むしろ、年間80兆円の国債購入額を「柔軟化」することによる長期金利の動向が重要だ。

 

 武田紀久子(国際通貨研究所上席研究員)

 

 黒田日銀が2013年4月以降進めてきた量的・質的金融緩和(QQE)、そして、16年2月に導入したマイナス金利について、「政策効果の総括的な検証を行う」ことが予告された9月20~21日の日銀金融政策決定会合への関心は極めて高い。

 一般論として考えれば、検証には「現行政策の目的と手段は適切か」のそもそも論から、「波及経路と副作用は何か」の費用対効果、そして、それらを踏まえ、物価目標2%が未達の状況下で「追加的な政策対応はどうなるのか」までさまざまな観点がある。いずれにしても、日銀が、現在の金融政策が持続可能であるという道筋を改めて示し、その意向を広く共有させるための検証となることが期待される。

 ドル・円相場との関連で重要なのは、最近のドル・円相場の最大の特徴が、日本国債と米国債の10年物の利回り格差との相関が極めて高くなっている点である。特に、今年4月以降は、ドル・円相場と日米10年債利回り格差はほぼ連動して推移しており、6月以降はその傾向が一層強まっている(図)。これを前提とすれば、9月の日銀金融政策決定会合直後のドル・円相場の動きは、長期金利の反応次第ということになる。

 なぜ長期金利なのか。短期的な為替相場の動きは、まさにケインズの言う「美人投票」であり、コンセンサス(共通認識)となった変動要因によって決定される。つまり、短期的な相場変動に対して常に有効な決定理論は存在せず、「今は要因として何がコンセンサスなのか」「その要因の賞味期限切れがいつ来て、次のテーマは何になるか」が短期相場予想の要諦となる。

 為替と金利差の関係では従来、政策金利動向をより反映するとされる2年債の格差で判断されることが多かった。しかし、短期国債利回りの多くがマイナスへ下落するなか、現在は日米長期金利の格差が、コンセンサス化している「美人」の基準ということになる。

 

 ◇三つの「柔軟化」

 

 ドル・円相場は年初来、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ方針が慎重になったこと、中国経済不安や原油価格下落、英国の欧州連合(EU)離脱などを背景としたリスク回避傾向、日本の経常収支黒字の大幅改善など、複数の円高要因に囲まれながらじわじわと円高が進行してきた。つまり、教科書的には通貨安要因であるマイナス金利政策導入とは逆行する形で、それ以外の要因で、ドル・円相場は高止まりを余儀なくされている。

 8月恒例の米ジャクソンホールでの会議でイエレンFRB議長がタカ派(利上げ早期推進派)にシフトしたと解釈する向きもいるが、「経済指標次第」で慎重に金融政策の正常化を進めるFRBの方針に変化がないことを再確認したにすぎない。当初年4回程度とされた利上げペースが年内1回へと大きく慎重化してしまった事実にさして変化はなく、しばらくは、日米長期金利差を主たるドライバーとした推移が続く可能性が高そうだ。

 日銀の「検証」については「柔軟化」をキーワードに、大きく三つの案が取りざたされてきた。1点目は、「金融政策運営の柔軟化」で、国債購入を修正すること。2点目は、「政策枠組みの柔軟化」で、物価2%を2年で達成するという目標を修正し、達成時期を「なるべく早期に」などにすること。そして、3点目が、日銀と市場との間の「コミュニケーションの柔軟化」で、主に市場の想定外を狙うサプライズ型政策の修正である。

 特に市場参加者が意識したのは1点目である。14年10月の追加緩和で30兆円増額した年間80兆円ペースの国債購入の持続可能性への懸念は強い。

 年間80兆円ペースの国債購入は、新規国債発行額の2倍以上であり、取引における日銀の存在が大きくなりすぎたことで、市場機能へ悪影響を及ぼしている。また、国際通貨基金(IMF)などが、17年中にも購入そのものに技術的な限界が来る可能性があるとも指摘している。

 そもそもマネタリーベース(流通する現金+金融機関の日銀当座預金)を増やすことを目的とする国債購入とマイナス金利政策の組み合わせは.....

 (『週刊エコノミスト』2016年9月20日特大号<9月12日発売>22~23ページより転載)

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定価:670円(税込み)

発売日:2016年9月12日