2016年

9月

20日

経営者:編集長インタビュー 山本良一 J.フロントリテイリング社長 2016年9月20日特大号

 ◇時代に合った新たな百貨店へ転換

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 来年で統合から10年がたちます。振り返っていかがですか。

山本 2007年に大丸と松坂屋ホールディングス(HD)が経営統合し、持ち株会社として発足した当初から、百貨店を中核とした小売業のリーディングカンパニーを目指すという明確なビジョンを持ち、事業展開を行ってきました。12年にパルコを子会社化したり、通販大手の千趣会と資本提携を結ぶなど、マルチリテイラーとして、目標イメージに近い会社へ変化しています。

── 一番苦労したことは。

山本 統合して、まずは同じような子会社を1業種1社に統一していくことから始めました。最後に大丸と松坂屋の統合に着手しましたが、人事制度や給与体系、情報システムなどの統一はもちろん、社員がどの店舗でも同じように仕事ができるよう、業務の進め方なども作り変えなければならず、その作業にとても苦労しました。最終的な完了までには2年半ほどかかりました。

── 訪日外国人観光客による「爆買い」の影響は。

山本 16年2月期連結決算の免税売り上げは、前年比2・2倍増の338億円と、過去最高となりました。しかし、円高や中国経済の低迷に加え、中国の関税の大幅な引き上げで、16年3~5月期の免税売り上げは前年比25%減少しました。

とはいえ、16年3~5月期の客数は前年比0・5%減と、ほぼ減っていません。当社に来店される訪日外国人観光客の約10%がリピーターであることなどから、客数は増加するとみています。今後は爆買いをあてにするのではなく、訪日外国人観光客のニーズをしっかりと捉えたビジネス展開を行っていくことが重要だと思います。

── 消費全体ではどうですか。

山本 富裕層の消費は比較的安定しているものの、消費全体は足踏みしています。特に、中間層の購買意欲が薄れてきており、当社の中級価格帯の婦人衣料品などの売れ行きは厳しい状況が続いています。今後はどれだけ中間層を獲得していけるかが課題です。

── 課題に向けた取り組みは。

山本 多くの人は、通勤経路や居住地などで生活行動範囲が決まり、買い物の場所もおのずとその範囲の中で決まります。そうしてできた「脳内ショッピングマップ」の一つに追加されるためには、来店するきっかけを作り、認知してもらい、行動範囲や習慣を変えてでも来店していただけるような仕掛けが必要です。そのために、売り場構成を常に変化させ、これまでの百貨店のイメージとは少し違うテナントも誘致することで、新しい客層の掘り起こしに取り組んでいます。

── 具体的には。

山本 松坂屋名古屋店では、婦人服と住生活用品の売り場を圧縮し、そこに従来の百貨店にはないカテゴリーだったヨドバシカメラを誘致したり、手の届きやすい価格帯のブランドを充実させたりして、お客様のニーズや時代に対応した商品のカテゴリーや、ブランドの入れ替えを行っています。

 

◇オムニチャネル強化

 

── 15年には千趣会と資本提携しました。

山本 電子商取引(EC)サイトとカタログを中心とした販売チャネルを持つ千趣会は、ECサイトからの受注が80%で、そのうち40%をスマートフォン(スマホ)が占めています。スマホの普及で販売チャネルが多様化するなか、ウェブに対応した通販ビジネスの知見や、商品の受注、調達、配送といった物流システムの充実度は、当社にはない強みです。

── どんな展開がありますか。

山本 現在、千趣会との共同開発で、モデルの黒田知永子さん監修のファッションブランド「Kcarat(ケイカラット)」を、千趣会のカタログや両社のECサイト、大丸6店舗で展開しています。オリジナルブランドの開発・販売は、店頭のみの展開では販売量が限られるため、その分価格が高くならざるを得ません。今回、千趣会の販売チャネルも活用することで、ある程度の販売量が見込め、中間層にも手の届く価格帯にできました。

 また、千趣会のオリジナルブランド開発の知見も活用し、百貨店とECサイト両方の顧客ニーズを取り入れた商品開発を行いました。実店舗を持っていない千趣会にとっても、相互補完し合える資本提携ができたと思います。

── 松坂屋銀座店跡地を再開発しているそうですね。

山本 現在、17年4月の開業を目指し、売り場面積4万6000平方メートル、約240のテナントを誘致する、銀座エリア最大級の複合施設の建設を進めています。銀座という土地の性質上、世界中から訪れるお客様に楽しんで頂けるワールドクラスクオリティの商業施設を目指し、お決まりの百貨店の形にはこだわらない店作りをしていきます。「松坂屋」の屋号も使いません。

── 松坂屋上野店の建て替えは。

山本 17年秋の開業を目指し、パルコや映画館、オフィスが一体となった、地上23階建ての複合ビルを建設中です。当社は14年から、店舗を核に地域とともに成長するビジネスモデル「アーバンドミナント戦略」を推進しています。既に進行中の上野・御徒町地区の再開発を同時に進め、上野の街全体を活性化させ、百貨店を中心としながら成長を促していけるビジネスモデルの構築を目指していきます。

(構成=荒木宏香・編集部)

 

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A その頃は大丸梅田店開業のための新店準備室にいました。その時が、店作りにおけるノウハウや考え方、百貨店とは何かを一番学んだ時期でした。

Q 「私を変えた本」は

A稲盛和夫編『地球文明の危機(環境編)』、『同(倫理編)』です。現代文明と地球環境の危機に警鐘を鳴らす内容に、現代人の生き方について考えさせられ、感銘を受けました。

Q 休日の過ごし方

A 全国の店舗を見て回ることが多いです。松坂屋上野店にはよく行きます。

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■人物略歴

 ◇やまもと・りょういち

神奈川県出身。横浜市立桜丘高等学校卒業。1973年明治大学商学部卒業後、大丸に入社。2007年にJ.フロントリテイリングの取締役、10年に大丸松坂屋百貨店の代表取締役社長を経て、13年J.フロントリテイリング代表取締役社長に就任。65歳。

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 ◇J.フロントリテイリング

事業内容:百貨店・パルコ事業のほか、卸売事業、クレジット事業などを運営

本社所在地:東京都中央区

設立:2007年9月3日

資本金:300億円

従業員数:7277人(連結、2016年2月29日現在)

業績(2016年2月期・連結)

売上高:1兆1635億円

営業利益:480億円

 (『週刊エコノミスト』2016年9月20日特大号<9月12日発売>4~5ページより転載)

この記事の掲載号

定価:670円(税込み)

発売日:2016年9月12日