2016年

10月

04日

【人口でみる世界経済】『デフレの正体』を世界に 2016年10月4日特大号

1964年山口県徳山市(現周南市)生まれ。東京大学法学部卒業。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。94年米コロンビア大学MBA。著書に『実測!ニッポンの地域力』『里山資本主義』など。

◇日本・中国・シンガポール・米国の人口動態から読む世界経済の行方

 

藻谷浩介(日本総合研究所主席研究員)

 

 2010年に出版した『デフレの正体』では、日本経済の長期的な停滞の根本原因が、現役世代の数の減少にあるということを指摘した。

 日本の生産年齢人口(15歳から64歳までの人口、在日外国人を含む)は、1995年の約8700万人をピークに、2015年までに1000万人以上、12%も減少している。これに伴って、住宅、車、家電製品、多くの食品など、主として現役世代を顧客とする商品の需要数量が減少した。ところが供給数量の方は、生産の機械化・自動化の進展で、幾ら労働者数が減少しても減らない。企業の多くも、人口構造による構造的な需要数量減少を「不景気による循環的なもの」と勘違いし、生産数量の調整や高齢者市場へのシフトなどへの対策を怠った。その結果が、これら商品分野での供給過剰による価格低下である。金融現象としてのデフレではなく、ミクロ経済学的な値崩れが起きたのだ。

 


 このような人口要因での消費減退には、金融緩和はもちろん、「技術革新による生産性向上」といった空念仏も効かない。効くのは、増える一方の高齢者の需要を開拓しその利益を若者の賃上げに回すこと、女性就労の促進、外国人移民ではなく観光客の国内での消費増加、の三つだというのが、『デフレの正体』の結論だった。これに対しては、「デフレは金融現象であり、金融緩和によって克服できる」と唱えるリフレ論者から大きな反発が起きたが、そのリフレ論者の主張のままに行ったここ数年の異次元の金融緩和は、ご存じの通り個人消費を一切拡大させていない。他方で筆者の指摘した三つの政策は、結局安倍晋三政権が推進するところとなっている。現実がようやく同書の内容に追い付いてきたわけだ。

 ところで、日本で1990年代半ばから始まった生産年齢人口減少は、その後20年程度遅れて、東アジア各地や欧州でも始まっている。日本の教訓を踏まえれば、これから世界経済で何が起きるのか、蓋然(がいぜん)性の高い予測ができる。以下、お示ししていきたい。

 

◇高齢者の絶対数で見る

 

 人口の話となると必ず出てくるのが、高齢化率(総人口に占める65歳以上の比率)の比較だ。しかしこの数字は誤解を招きやすい。同じ高齢化率上昇でも、高齢者の絶対数が増えている場合と、現役世代の数が減っている場合とでは、帰結も対処策もまるで異なる。また高齢化率は低いけれども高齢者数の増加は急速に進んでいる国と、高齢化率は高いがもう高齢者数はあまり増えていない国では、前者の方が医療福祉予算の増加ペースを速めねばならない。人口を論じるには、高齢化率より先に年齢別に絶対数の増減を見ること、すなわち人口を5歳刻みに分け、それぞれの人数をわかりやすく棒グラフにするというシンプルな手法が有効だ。

 1990年、2015年、2040年の日本の人口構成を、国勢調査人口と国立社会保障・人口問題研究所の予測を基に見てみよう(28ページ図)。出生者数と生産年齢人口が減り高齢者が増えていく様子が、一目瞭然でわかる。人数の多い団塊世代と団塊ジュニア世代の加齢は、あたかも2波の津波が進んでいくようだ。団塊世代が90歳、団塊ジュニアが65歳を超える2040年の高齢化状況は、過疎地では既に現実のものとなっているが、今の首都圏民には想像できないだろう。しかし2040年には、団塊ジュニアの4割が集中する首都圏においてこそ、高齢者の最後の急増が起きるのである。

日本の過疎地でも収益を出す企業しか生き残れない
日本の過疎地でも収益を出す企業しか生き残れない

 外国に関しても同じグラフが作成できる。国連人口部のホームページからは、全世界各国の1950~2100年の人口推計・予測(それぞれの国に居住する外国人人口を含む)が、エクセルでダウンロードできるのでたいへん便利だ。日本と同じく1990年、2015年、2040年を比較するだけで、経済発展を遂げた国は大なり小なり日本と同様に、現役世代減少・高齢者急増の道を歩んでいることがわかる。

 特に日本と似た動きをしているのが中国だ。日本と同様に二つのピーク世代があり、日本におよそ20年遅れて、同じような道をたどっている。1990年の日本と2015年の中国を比較すると、このことがよくわかるだろう。

 1990年の日本には、40代前半(団塊世代)と10代後半(団塊ジュニア世代)の二つの「山」があった。これに対し2015年の中国では、40代後半(文革で下放された若者たちが生んだ世代)と20代後半(その子供の世代)が二つの山を作っている。団塊親子では25年の年齢差が、やや早婚の中国では20年の年齢差となっているが、いずれにせよこの塊が加齢し高齢者となっていくことで、中国でも高齢者の急増と現役世代の減少が不可避に生じる。

「中国は最近一人っ子政策を廃止したので、今後の高齢化ペースは弱まる」と誤解している人がいるかもしれない。高齢化を高齢化率だけで見ていると陥る事実誤認だ。

 第一に今後の中国では、上記の二つの山の世代の加齢により、子供の増減とはまったく無関係に高齢者の激増が生じる。2015年現在の65歳以上人口は1億3000万人とちょうど日本の総人口と同じだが、これが2040年には3億4000万人まで増える。世界史上圧倒的に最大規模の、かつ余りに急速な高齢者増加だ。

 第二に、一人っ子政策はそれほど徹底しておらず、従ってその撤廃にも言われるほどの出生増加効果はない。この国連推計は“隠し子”も計算に入れた実態を示しているが、2015年の数字では、生産年齢人口4人に対して、14歳以下が1人。これは日本の自治体でいえば出生率が2を超える地域の水準である。ちなみに出生率が1・1の東京都では、この比率は6対1だ。出生率は政策よりも経済水準に連動するのであり、中国よりも先に経済発展した華人居住地域である香港、台湾、シンガポールなどの出生率が軒並み東京都並みであることを考えれば、中国の子供の数は一人っ子政策撤廃にもかかわらず、むしろ今後さらに減っていく可能性が高い。国連の予測数字もそのようになっている。

 25年後、2040年の中国では、生産年齢人口は現在の10億人から13%減って8億7000万人、高齢化率は25%となる。日本の過去25年間とまさに酷似した動きだ。産業が過剰供給体制を改めず、値崩れも辞さずに価格競争に走るという体質も、日中には似通うものがある。ということは日本で起きたのと同じ「長期デフレ」、その正体は供給数量過剰による値崩れが多くの分野で年々深刻化することで、それに対して金融緩和や公共投資といった的外れの政策が打たれ続け、政府財政が悪化していくのではないだろうか。

 

◇移民では解決しない

 

 このような人口成熟は、移民導入を進めれば防げるのだろうか………

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>27~31ページより転載)

 

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週刊エコノミスト 2016年10月4日特大号

 

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