2016年

11月

01日

【ミニ特集:欧米銀の闇】「米銀の優等生」ウェルズ・ファーゴの5300人が関与した「架空取引」

辞任に追い込まれたウェルズ・ファーゴのスタンプCEO Bloomberg
辞任に追い込まれたウェルズ・ファーゴのスタンプCEO Bloomberg

 ◇欧米有力銀行の蹉跌

 ◇お手本の堕落

 

小田切尚登(経済アナリスト)

 

「米銀行界の優等生」の背任行為──リテールバンキング(個人営業)に定評があり、堅実な経営で全米でお手本と高い評価を得ていたウェルズ・ファーゴの信用が地に落ちた。5年間に及ぶ行員の架空取引によって、300人が解雇されるという前代未聞の不祥事が9月、明らかになった。

 経営トップは過去の報酬返上だけでなく、司直の手によって裁かれる可能性が浮上。米国で、銀行経営陣に対して、罰則を強化する動きが加速しそうだ。

 

 ◇5300人が不正に関与

 

 ウェルズ・ファーゴは、資産規模で米国4位の大手銀行である。リテールバンキングに強く、預金額で第2位、住宅ローンではトップだ。同行は2008年のリーマン・ショックをうまく乗り切り、安定した業績を上げてきた。これをもたらしたのが、クロスセルである。

 クロスセルとは、同じ顧客にいくつもの金融商品を販売すること。例えば普通預金を持つ顧客に対して、小切手口座、クレジットカード、住宅ローン、401k(確定拠出年金)といったサービスを勧める。ゼロ金利時代となり、銀行が預金や貸し出しのビジネスで収益を伸ばしていくことが困難となり、また、デリバティブ(金融派生商品)のようなビジネスもリーマン・ショック以降、難しい状況となった。こうした環境下でも収益を高められる手段として、米銀行界でクロスセルを強化するようになった。

 ウェルズ・ファーゴは、クロスセルで最も成功している銀行として称賛を受けてきた。同行は各顧客への金融商品提供数の平均を03年の4・03から16年第2四半期(4~6月)までに6・27に増やした。同行には7000万の顧客がいるので、新たに約1億5000万の金融商品の販売があったという計算になる。株価は11年9月上旬に20ドル台半ばだったのが、15年夏には60ドルに近づくまで上昇した。

 ところが、こうした高い評価や業績の裏側で不正が行われていた。同行の従業員が顧客に断りなく数多くの架空の取引を繰り返していたのだ。この不正が始まったのは11年で、今までに架空の預金口座150万とクレジットカード56万5000口座が開設されたという。全米で300人の従業員が解雇されたが.....

 (『週刊エコノミスト』2016年11月1日号<10月24日発売>76~77ページより一部を転載)

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