2016年

12月

06日

特集:すごいバイオ薬 2016年12月6日号

Bloomberg
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◇オプジーボに続け! がん治療に高まる期待

 

◇有望な技術<1>抗体医薬からペプチドへ

 

画期的な新薬と言われる、がん免疫治療薬「オプジーボ」──。この薬は、ヒトが体内に持つ免疫細胞を活性化して、がん細胞を消滅させることを目指す「がん免疫療法」の一種であり、外科手術、放射線療法、化学療法(いわゆる抗がん剤治療)に次ぐ「第4の治療法」と期待されている。その一方で、患者1人当たり年間約3500万円という高額な薬価が問題視され、来年2月に半額になることが急きょ決まった。

 

そうしたなかで進んでいるのが、より安価で、より製造が簡単な、新しいがん免疫治療薬の開発である。

 

その先頭集団にいるのが東京大学発のバイオ医薬品ベンチャー、ペプチドリームだ。同社は、特殊なペプチド(小さなたんぱく質)を作る独自技術を持ち、現在、スイスのノバルティスや英アストラゼネカ、米アムジェンなど国内外の製薬大手と創薬を進めている。

 

なかでも、2010年10月から共同研究開発を進めている米製薬大手ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS)との新薬開発は、今年6月に臨床試験(治験)の第1相試験(フェーズ1)に入った。

 

両社の提携内容は明らかにされていないが、オプジーボと同様の「免疫チェックポイント阻害剤」の仕組みを特殊なペプチドで置き換える新薬開発を進めているとみられる。こうした「ペプチド医薬」の利点は、オプジーボのように分子量が大きく(高分子で)、構造が複雑な抗体医薬とは異なり、分子量がより小さく(中分子で)構造もより単純な点である(図)。両社の臨床試験がうまくいけば、20年前後に承認され、世の中に出回る可能性もある。

◇ワクチンでがん退治

 

ペプチドに注目するバイオ医薬品企業は他にもある。特に、「がんペプチドワクチン」と呼ばれる新薬には、各社が積極的に取り組んでいる。

 

がんペプチドワクチンとは、まずがん細胞の表面に、免疫細胞にとって分かりやすい目印になるペプチドを見つけ出す。そして、そのペプチドを人工的に合成して、がん患者の体内に注入する。すると、体内の免疫細胞が、注入されたペプチドを外敵(異物)だと勘違いし、リンパ球(キラーT細胞)を大量に作り出し、そのリンパ球ががん細胞を攻撃するメカニズムだ。

 

がんペプチドワクチンは、オプジーボなどの「免疫チェックポイント阻害剤」と同じ、がん免疫治療薬の一つである。両者の違いは、免疫チェックポイント阻害剤が、がん細胞がかけている免疫のブレーキを解除することによって、免疫力を高めてがんを攻撃する一方で、がんペプチドワクチンは患者自身の免疫にがんを認識させて、攻撃するように指示をする。つまり、前者は免疫のブレーキに、後者はアクセルに働きかける方法と言える。

 

15年10月に上場したグリーンペプタイドは、このがんペプチドワクチンの製品化を目指している。現在最も進んでいる開発は、国内で行う前立腺がんを対象とするワクチンだ。

 

この前立腺がん薬の開発でグリーンペプタイドは、富士フイルムから開発協力金を得ながら、この臨床試験を進める。13年5月に臨床試験の最終段階となるフェーズ3に入り、15年6月にはフェーズ3の中間解析で試験継続が決まった。現在は、「経過を見守っているところで、上市(市販)の予定時期は非公開」(グリーンペプタイド広報担当者)としている。

 

バイオ医薬品ベンチャーのオンコセラピー・サイエンスもこの分野に積極的だ。食道がんを対象とした臨床試験を塩野義製薬と進めており、15年2月にフェーズ3に入った。20年以降の上市を目指す。他にも、頭頸部がん(喉頭がん、舌がん、甲状腺がんなど)を対象とした塩野義との臨床試験がフェーズ2に入っている。

◇有望な技術<2>ウイルス、遺伝子を利用

 

「ウイルス療法」は、がん細胞だけに感染し、がん細胞内で増殖してがんを破壊するウイルスを使う治療法だ。

 

もともとがん細胞は、正常な細胞に比べてウイルスに対する防御力が弱いとされる。従来はウイルスの動きを思うように制御できなかったが、ウイルスの遺伝子を改変し、がん細胞に対する攻撃力を高めるとともに、正常な細胞に対して機能しないように工夫したウイルスを作れるようになりつつある。

 

第一三共と東京大学医科学研究所の藤堂具紀教授が共同で治療法の開発を進めるがん治療用ウイルス製剤「G47Δ(デルタ)」は、遺伝子を組み換えた単純ヘルペスウイルスを用いる。大人の8割が感染経験のあるとされる口唇ヘルペスの原因となるウイルスだ。

 

藤堂教授の医学専門誌への寄稿によると、東大による第1~2相試験(非治験)の結果、「再発膠芽腫(こうがしゅ)(悪性脳腫瘍の一種)が(患部撮影)画像上縮小したり、比較的高い割合での長期生存が見られたりするなど、既存治療では通常経験しないような良好な経過も観察された」という。膠芽腫と診断されると平均余命は通常1年程度。手術後に再発した場合は今まで有効な治療法がなかった。

 

タカラバイオの腫瘍溶解性ウイルス「HF10」は、18年度の商用化に向けて現在、悪性黒色腫(皮膚がんの一種)を対象にBMSの免疫治療薬「ヤーボイ」との併用による第2相の臨床試験を実施中だ。

 

「承認されれば創薬会社に脱皮できる」(エース経済研究所アナリストグループの池野智彦部長)。同社のこれまでの稼ぎ頭は研究用試薬や医食品事業だった。HF10の承認は、同社にとっても成長のステップとなる。

 

タカラバイオが研究を進める「CAR(キメラ抗原受容体)─T細胞」は、日本では初めてとなるがん治療法だ。がん細胞に特有の抗原に反応するCAR遺伝子を人工的に作り出し、これを患者の血液から採取した免疫細胞(T細胞)に組み込む。

 

がん細胞は成長したり治療したりするうちにヒトの免疫機能を回避する能力を身につける。CAR遺伝子を組み込んだ免疫細胞は、がん細胞の表面にある抗原に反応する。そのため、CAR遺伝子を組み込んだ免疫細胞を体内に戻すと、免疫ががんへの攻撃を再開する仕組みだ。

 

タカラバイオは20年度の商業化を目指して来年3月までに血液がんが対象の臨床試験を始める計画だ。

 

ただ一般的に、同じ抗原を持つ正常な細胞にくっついて正常な組織を傷つけてしまったり、目印となる抗原がまだ見つかっていない固形がんなど血液がん以外のがんへの効果が十分ではないといった指摘もある。(有望な技術<3>へ続く)

 

(谷口健、池田正史・編集部)

特集「すごいバイオ薬」記事一覧

 

有望な技術1:抗体医薬からペプチドへ がん治療に高まる期待 ■谷口 健/池田 正史

有望な技術2:ウイルス、遺伝子を利用

有望な技術3:脳への〝運び屋〟を開発

有望な技術4:日本の技術生かせる「核酸医薬」 ■岩田 俊幸

コラム バイオ関連株は上昇

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週刊エコノミスト2016年12月6日号

定価:620円

発売日:2016年11月28日

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