経営者:編集長インタビュー

2017年

7月

04日

自販機網を生活者のインフラに変える 高松富也 ダイドーグループホールディングス社長

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── ダイドーと言えば缶コーヒーで有名です。

 

高松 当社は、祖父の高松富男が、戦後すぐに奈良県で置き薬の販売を始めたことが創業のきっかけです。1956年に大同薬品(現大同薬品工業)を設立後、医薬品の製造・販売を行ってきましたが、70年代に入って新規事業として飲料事業を開始、これが現在のダイドードリンコです。当時缶コーヒーが世の中に出始めた頃で、当社も初の缶コーヒー「ダイドーブレンド」を発売しました。現在まで続くロングセラー商品となっています。その後自販機で飲料の販売を開始して以降、自販機を中心に販路を広げてきました。

 

── ロングセラーの秘訣(ひけつ)は。

 

高松 ダイドーブレンドを開発した当時から、香料を使わず多種多様な豆を多く使用して、いかに本物の味わいを再現するかにこだわり続けてきました。常に焙煎(ばいせん)メーカーから情報を収集し、世界中から良い豆を買い付けています。

 

── 費用もかさむのでは。

 

高松 当社の強みとして、製造工場を持たないファブレス(外部の協力企業に委託)方式で長く運営していることがあります。設備投資に莫大(ばくだい)なコストをかけることがないため、製品開発と自販機の展開に経営資源を集中できるのです。

 

── 事業の柱を教えてください。

 

高松 当社の事業ポートフォリオは、売上高で国内飲料事業が75%、海外飲料事業が10%、医薬品の受託製造を行う大同薬品工業が5%、食品関連事業のたらみが10%となっており、国内飲料事業では約8割が自販機の売り上げです。

 足元では、当社の主力商品のボトル缶コーヒー「世界一のバリスタ」や、当社初の機能性表示食品「大人のカロリミット はとむぎブレンド茶」の売れ行きが好調で、2017年2~4月期の連結決算の売上高は、前年同期比1・9%増の389億円と堅調に推移しています。

 

── 海外展開は。

 

高松 海外飲料事業は、現在トルコ、マレーシア、ロシア、中国に展開しています。特に売り上げに貢献しているのは、昨年トルコの食品大手ユルドゥズ・ホールディングス(HD)から買収した飲料事業です。現状は、ユルドゥズHDの商品を基本に展開していますが、既に現地で販売する缶コーヒー開発も進めており、いずれは新商品を発売する予定です。

 

── 他の地域では。

 

高松 ロシアでも、日本から輸入した自販機を約600台展開していますが、現地での評判は良く、引き合いも強い。今後は、これらの海外事業を、いかにスピード感を持って拡大していけるかが勝負です。いずれは、海外飲料事業の比率を国内と同規模に引き上げていきたいです。

 

── 医薬品事業の状況は。

 

高松 大同薬品工業は、ドリンク剤の受託製造市場で6割のシェアを占める収益性の高い事業です。足元では、主に中国を中心としたアジア市場での美容ドリンクの受注が好調です。ドリンク剤市場は全体的に縮小傾向にありますが、今後もアジア市場での需要は底堅いことや、受注元の製薬メーカーは、基本的に製造部門を外部に委託する傾向が高いことから、現在稼働している奈良工場に加えて、新たに群馬県に新工場を建設することを決定しました。

 

 ◇IoT自販機を本格展開

 

── 昨年、キリンビバレッジと自販機事業で提携しました。狙いは。

 

高松 両社の主力商品をお互いの自販機網で相互販売し、販路を広げることでお客様との接点を増やし、自販機の収益向上や商品のブランド力を強化する狙いがあります。当社からは、「世界一のバリスタ」シリーズの2品を採用いただきました。

 また、自販機の設置に関しては、当社は地方に強いのですが、キリンさんは都市部が強い。その点を補う意味でも、キリンさんとは良い補完関係を構築できたと思います。

 

── 競争が激しい飲料業界で、今後どんな戦略がありますか。

 

高松 現在、国内に設置している約28万台の全国的な自販機網は、当社の最大の強みです。これを活用し、人々の生活インフラとなれるIoT(モノとモノのインターネット)自販機の展開を計画しています。

 

── 具体的には。

 

高松 例えば、自販機に通信機器を搭載し、個人のスマートフォン(スマホ)とつながることで、付近のお店の情報を受け取ったり、高齢者の見守りサービスなど自治体のお手伝いをすることもできます。既に、商品を購入した方のスマホにポイントを付与するサービスも開始しており、こうしたサービスが広がれば、自販機の価値向上につながり、当社独自の事業展開ができるはずです。現在は2万台程度ですが、将来的には15万台のIoT自販機を本格展開する予定です。

 

── 14年度に開始した5カ年の中期経営計画は今年で4年目です。進展は。

 

高松 中計では、四つのチャレンジを掲げました。(1)既存事業の成長(2)商品力強化(3)海外展開による市場拡大(4)新たな事業基盤の確立です。18年度までに売上高2000億円を目標としていますが、17年度の通期売上高の見通しは1755億円。目標達成には、M&Aによる新たな収益の柱の確立が不可欠です。

 イメージとしては、医薬品事業において、製品の製造に強みを持つ企業や、予防医薬の市場が拡大しているので、サプリメントなどの医薬品と食品の間の領域でも検討しています。

(構成=荒木宏香・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 30代前半は、自販機の開拓営業で現場を学び、30代後半で副社長に就任し、経営を見るようになりました。大阪と東京を週に2~3回往復する生活でしたが、仕事は楽しく、30代を通して良い経験ができました。

 

Q 「私を変えた本」は

A ビジネス書の『ビジョナリーカンパニー 2 飛躍の法則』(ジム・コリンズ著)です。折に触れて読み返す、指針のような本です。

 

Q 休日の過ごし方

A 2~3年前からランニングを始めました。週2回、1日10キロほど走ります。

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 ■人物略歴

 ◇たかまつ・とみや

 1976年奈良県生まれ。大阪星光学院高校、京都大学経済学部卒業。2001年、三洋電機入社。04年ダイドードリンコ入社。08年取締役、12年副社長を経て、14年から現職。

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事業内容:清涼飲料等の製造・販売

本社所在地:大阪市北区

設立:1975年1月

資本金:19億2400万円

従業員数:3602人(2017年1月時点、連結)

業績(16年度連結)

 売上高:1714億円

 営業利益:38億円

 

2017年

6月

20日

「生活を下支えする便利な存在に」 竹増貞信 ローソン社長 2017年6月20日号

◇生活を下支えする便利な存在に

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── コンビニエンスストアは年々進化しています。

 

竹増 かつてコンビニは「しょうゆが切れた」「マヨネーズがない」という場合の緊急購買の場でした。お客様も「少し高いけど、緊急だから仕方がないか」という気持ちがあったのでは。今は、毎日足を運んでくれるお客様も多く、夕方や夜間の来店も増えています。ローソンは日常で使っていただける店を目指し、卵や牛乳などの食品、調味料、日用品等の約90品目を、スーパーマーケットやドラッグストア等の市場動向に合わせて、価格を見直しています。

 

── 目指すべきコンビニの姿は。

 

竹増 コンビニでは、物販以外にも、公共料金支払いや、ATM(現金自動受払機)などを通じてとても大きな額のマネーが通過します。これは、金融を介してさまざまなサービスを提供できることを意味します。金融に限ったことではありません。ローソンでは、一部の地方自治体の住民票交付も手がけています。金融や行政も合わせることで「ローソンは便利だね、効率的だね」「ローソンにさえ寄れば何でもできる」と言われる店を目指します。そうすることで、生活を全て下支えするような存在になれるのではないでしょうか。

 

── 2017年度(18年2月期)の経営計画は。

 

竹増 連結営業利益は前年比52億円減の685億円と計画しています。前の期まで14年連続増益でしたが、減益計画となっています。これは、本業のコンビニエンス事業では60億円の増収を見込む一方で、(1)POS(販売時点情報管理)などのシステム更新(2)金融やヘルスケアなどの新規事業(3)業務提携先のセーブオン・スリーエフからの看板替え、などの成長分野への投資を積み増すからです。本業の商売力は弱めずに、将来の投資をしっかりする足場固めの期間と位置づけます。

 

── 新規事業のうち金融事業の進捗(しんちょく)は。

 

竹増 現在は銀行免許は持たずに、共同ATMを管理・運営しています。次のチャンレンジは、この基盤をベースに銀行免許を持った金融ビジネスに参入することです。現在、ローソンバンク設立準備株式会社を設置して、関係当局の許認可等を前提に、銀行の設立準備を進めています。

 

── 日販(1店当たりの1日当たり売上高)はセブン─イレブン65万円に対して、54万円にとどまります。

 

竹増 留意しなければいけないのは、都心のど真ん中にある店舗は、日販が高いが、家賃も高いことです。ただ、セブンさんの粗利益率は高い。見習わないといけません。

 

── 店舗数では「セブン─イレブン」「ユニー・ファミリーマート」に次いで3位です。17年度の出店計画は。

 

竹増 出店1400店、閉店500店を見込みます。出店1400店の内訳は、提携先の「スリーエフ」「セーブオン」店舗の看板替え400店▽通常出店1000店です。

 

── ずいぶん多いですね。

 

竹増 16年度の出店実績は1055店でしたから前年比増です。かつて、大量出店を試みてうまくいかなかったことがあります。しかし、今回は「前始末(まえしまつ)」をきちんとしており、過去の失敗とは違うという感触があります。加盟店やオーナーには本部から「スーパーバイザー」が派遣されて、在庫管理や接客などの経営指導に当たります。このスーパーバイザーを、数年前の採用段階からある程度の人数を採用して育ててきました。

 

 ◇商事と生産性を向上

 

── 今年2月に、三菱商事がローソンを完全子会社化しました。

 

竹増 完全子会社化のメリットを出すも出さないも僕らローソン次第です。消費の最前線に立つ僕らが「今の市場はこう動いています」と確信を持って、新たなビジネス提案をしなければなりません。その時点で初めて、いかに三菱商事グループの力を活用するかという段階になります。逆に三菱商事から「こんな原料、食品があるぞ」と言われても、ローソンの感性と合わないと、原料調達から製品出荷に至るまでの「サプライチェーン」は機能しないでしょう。僕が三菱商事に入社した頃の、出資先に対する果実の取り方とは違ってきています。

 

── それ以外でのメリットは?

 

竹増 黎明(れいめい)期のコンビニは、1店舗1オーナーが基本路線でした。しかし、今のローソンは1人で複数店を担う多店舗経営型を進めています。また、物流面の効率化も課題となっています。こうした経営面や物流面での問題に対して、三菱商事と共に無駄を排除して、店の生産性を高める対策を一緒になってやっていきたいです。

 

── 5月には玉塚元一・会長兼CEOが退任しました。

 

竹増 玉塚さんは退任を明らかにした会見で「(竹増社長に権限を集中する)1頭体制の方がスピード感があっていい」と言っていました。玉塚さんはある兆しを感じていたのではないでしょうか。それは「この案件は玉塚会長に報告しようか」「この案件は竹増社長に報告するか」「いや、この案件は二人共に報告しないと」という大企業的な2頭体制への兆しです。実際にはこのような状態には陥っていませんが、玉塚さんが感じていたのはその兆しではないでしょうか。玉塚さんは別の業界に行きましたが(IT会社「ハーツユナイテッド」社長に就任予定)、これからもローソンの兄貴分だと思い続けます。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 3年間、三菱商事から米国の豚肉処理・加工品製造会社へCEO(最高経営責任者)補佐として出向して日本や米国向けの豚肉の生産・販売を担当しました。また、「経営とは何か?」を学びました。食肉にも詳しいですよ。

 

Q 「私を変えた本」は

A 司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』です。

 

Q 休日の過ごし方

A 趣味の釣りをして、釣った魚を刺し身やイタリアンで調理して、家族に振る舞うのが楽しみです。

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 ■人物略歴

 ◇たけます・さだのぶ

 大阪府出身。大阪教育大附属高池田校舎、大阪大経済学部卒業。1993年、三菱商事入社。グループの米国豚肉処理・加工品製造会社や三菱商事社長秘書を経て、2014年ローソン副社長。16年6月から現職。47歳。

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事業内容:コンビニエンスストア

本社所在地:東京都品川区

設立:1975年4月

資本金:585億円(2017年2月時点)

従業員数:9403人(17年2月時点、連結)

業績(16年度連結)

 経常利益:730億円

 当期利益:364億円

 

2017年

6月

13日

経営者:編集長インタビュー 小澤二郎 かどや製油社長 2017年6月13日号

◇全社でごまのスペシャリストを目指す

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── かどや製油はどんな会社ですか。

 

小澤 江戸時代の安政5(1858)年に小豆島で創業して以来、ごま一筋でやってきました。小豆島ではそうめん作りが盛んですが、そうめんをなめらかにし、栄養価を高め保存しやすくするためにごま油が用いられてきたのです。当社ではごま油をはじめとして多様なごま製品を手がけており、本社は東京にありますが、製造や開発は今も小豆島工場で一貫して行っています

 

── 独特の容器と豊かな風味で強いブランド力があります。

 

小澤 「純正ごま油」は今年、販売から50周年を迎えます。当時の社長だった私の義父が米国に出張した際、家庭用のクッキングオイルが小瓶に詰められスーパーで販売されているのを見て、「これだ!」と製品化のヒントを得ました。しかし、日本でごま油は天ぷら用など高級品のイメージが強く、当社も業務用の製造・販売が中心でしたので、まずは「家庭用ごま油」という分野をゼロから開拓しなくてはいけませんでした。

 

── ごま油は家庭でなじみが薄かったのですか。

 

小澤 販売当初は、全社員が全国の酒屋や乾物屋などを回り、当社の製品の紹介とともに、ごま油自体を家庭料理で使ってもらうことに努力しました。天ぷらの店頭実演や風味を生かしたレシピの紹介など、まずは食卓や家庭への浸透を図ったのです。発売から3年ほど経て、当時のダイエーに製品が認められて全国の店舗に置いてもらうようになると、一気に人気が広がっていきました。今年は発売50周年ということで、同じく50周年目を迎えたタカラトミー社の「リカちゃん」人形とのコラボレーション事業など記念事業を展開していく方針です。

 

── 他社の製品との違いは。

 

小澤 当社の純正ごま油は原料がごま100%です。「ごま油」と一くくりにされがちですが、大豆や菜種などの食用油とミックスした「調合ごま油」もあります。製法技術へのこだわりでは煎り方や貯蔵方法で色や風味が変わってくることを生かし、定番の「金印」、十分に煎った風味の強い黒ごまから搾った「黒ごま油」、風味を抑えた生搾りの「純白ごま油」の3種類をラインアップして、料理の用途や好みで使い分けていただき好評です。

 

── 他にどんな製品に注力されていますか。

 

小澤 ごまの健康機能に重点を置いたカプセル製品が好調です。ごまはたんぱく質やカルシウム、ビタミン、ミネラルなどを豊富に含んでいて昔から体によい食べ物とされていました。30年ほど前、当社でもごまの成分を生かしたカプセル製品を開発し売り出したことがあったのですが、当時は浸透しませんでした。近年、大手メーカーの参入でごまに含まれている成分「セサミン」が注目されるようになり、私たちも改めて独自製法で事業化しました。お客様の健康に密接に関わる分野ですから、きめ細かい製品説明や販売を心がけていまして、専用の通販部門を新たに立ち上げました。

 

── 世代を超えてごま全体に人気が出ています。

 

小澤 いろいろなごまの楽しみ方を提案するため、当社は、ごまの風味を生かした「ラー油」やペースト状にした「ねりごま」などを販売しています。営業面でも新たな市場開拓を進めており、昨年度は純白ごま油に焦点を絞り、クッキングオイル市場で浸透させるため初めて交通広告など各種メディアを用いたPR活動を行いました。当社ウェブサイト上での純白ごま油を使った料理のレシピ紹介の充実などを図った結果好評で、今期の伸びにもつながると期待しています。

 

 ◇ごまへのこだわりを大切に

 

── 足元の業績はいかがですか。

 

小澤 ごま油は家庭用、業務用ともに好調で、2017年3月期の決算では売上高、販売数量ともに前期を上回りました。外食産業向けの売り上げが伸びており、特に600グラム製品の容器を丸型ペットボトルにリニューアルして好評です。ごま食品事業も、特に業務用が好調です。

 

── 業務用ではどんな製品がありますか。

 

小澤 風味づけや薬味としてインスタントラーメンからドレッシングまで食品メーカーの活用が幅広く、主にねりごま製品が人気です。食品ごま自体にも、例えばハンバーガーの丸パン(バンズ)や菓子パン向けなどでニーズがあります。

 

── 今後の事業展開は。

 

小澤 海外での需要の高まりに注目しています。これまで米国市場が好調で、最近は中国などアジア圏からの需要が高まっています。世界的な「ごま人気」は期待できる半面、経営の視点では課題があります。ごまの需要拡大に合わせ、競合企業の増加や原料確保競争が懸念されます。ごまは日本国内でほとんど生産されておらず、輸入が頼りですが、高品質な素材をいかに確保していくか、また為替の影響などの回避もトップとしての責任です。

 

── かどや製油の将来像は。

 

小澤 実直に、お客様への感謝を忘れない姿勢が大切です。長年のファンが多く親子2代でご愛用の声も頂きます。

 全社でこれからも大切にしたいことは、ごまへの徹底したこだわりです。小豆島の製造工場を中心に社員一人一人が「ごまのスペシャリストとしてトップ企業になること」を認識してもらいたい。

(構成=河井貴之・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 大学卒業後は三菱電機の名古屋にある製作所で勤務していましたが、30代で当時のかどや製油の親会社に入って石油販売を担当。休日返上で働いていました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『きけ わだつみのこえ』。学生時代に初めて読んだとき、中身のすごさにショックを受けました。

 

Q 休日の過ごし方

A ゴルフです。同年代の仲間がどんどん減っていき、最近は若い世代の人とプレーすることが増えましたが楽しいです。

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 ■人物略歴

 ◇おざわ・じろう

 1937年生まれ。灘高等学校、慶応義塾大学経済学部卒業。三菱電機での勤務を経て、小澤商店(現小澤物産)に入社。80年6月かどや製油取締役に就任、2003年に代表取締役社長。79歳。

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事業内容:ごま油、食品用ごま製品の製造・販売

本社所在地:東京都品川区

創業:1858年

資本金:21億6000万円

従業員数:284人(2017年3月31日現在)

業績(17年3月期)

 売上高:285億円

 営業利益:35億8200万円

2017年

6月

06日

「社会に貢献する価値を創り続ける」楢原誠慈 東洋紡社長

◇社会に貢献する価値を創り続ける

 

 ◇Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 東洋紡はどんな会社ですか。

 

楢原 「世の中に必要なものを何とか自分たちで創って役立てていこう」との思いを持って渋沢栄一が1882年に創設した紡績会社です。絹、綿、ウール、レーヨン、合成繊維を扱う中で培ってきた技術を応用して、現在はフィルムや機能樹脂、ヘルスケア分野の製品など多様な事業を展開しています。

 

── どのような技術を活用したのでしょうか。

 

楢原 合成繊維の加工技術は奥が深く、元々の「糸」や「繊維」を、薄く広げると「フィルム」になり、ストロー状に加工すれば「膜」になります。さらに樹脂自体の改質を進めて強度や耐熱性を強化したエンジニアリング・プラスチック製品も手がけています。

 

── フィルムはどのように使われているのですか。

 

楢原 食品包装用のフィルムで、当社は日本のトップシェアを有しています。菓子やインスタントラーメンの包装、ペットボトルのラベルが主力です。最近は生鮮野菜用の鮮度を保ちつつ水分で曇らない包装フィルムも需要が高まっています。「食品用」と一くくりにすると汎用(はんよう)的に見えますが、食品や商品の特徴や用途に応じて強度や耐久性、印字性などフィルムに求められる性質や機能はさまざまです。

 

── 高機能性が強みですね。

 

楢原 異なる分野ですが、高機能性という点では、液晶画面を見やすくするための偏光板用の保護フィルム製品も急成長中です。液晶テレビの中には何枚もフィルムが入っていて光源に近い部分には「TACフィルム」という高額で特殊なものが使われてきましたが、当社はポリエステルなど汎用的な素材を使いリーズナブルな価格と高機能化を両立した製品を開発・販売しています。ユーザーからも「素材革命だ」と高く評価され、2017年3月期の売り上げは前年比で2・2倍増でした。

 

── 膜技術ではどのような製品がありますか。

 

楢原 人工透析機で用いられる医療用の膜製品が世界でシェアを伸ばしています。また、当社独自に海水淡水化装置用の膜製品を手がけています。サウジアラビアを中心に中東地域でプラント向けに事業を展開しており、640万人分の淡水製造に貢献しています。現地製造の準備を進め、新技術の実証試験にも積極的に取り組んでいます。

 

── 紡績からの事業転換にはいつ頃から取り組んできたのですか。

 

楢原 紡績業の黄金期だった1950年に、当社は売上高で日本一を記録したこともありますが、その後は海外との競争が激しくなりました。そこで、60年代から紡績技術を活用した、新しい事業分野の研究開発や市場開拓を進めてきました。95年ぐらいまでは売上高の7割を衣料繊維が占め、その他の分野が3割という事業ポートフォリオでしたが、現在はフィルムや膜などの非繊維事業分野が7割、衣料繊維が3割程度と、逆転しています。

 

── 東洋紡といえば衣料繊維で日本を代表する大手メーカーというイメージがあります。

 

楢原 ポートフォリオに占める割合は下がりましたが、国内外で高付加価値化を進めて高い評価を得ています。例えばサウジアラビアでは、男性が全身にまとう真っ白な民族衣装「カンドゥーラ」用の高級トーブ布地のトップブランドメーカーとして当社の知名度は高く、製品も人気があります。

 

── 事業転換を成し遂げたポイントは何でしょうか。

 

楢原 創業の理念である「世の中にいかに役立つか」とは、逆に言えば「お役立ち競争」に勝てない製品や事業は成り立たないということです。時代的に変わらざるをえなかったという面もありますが、意図的に変わっていこうという我々自身の意志が一番重要だと思います。

 

 ◇エアバッグ繊維で世界展開

 

── 中期計画の進展はどうですか。

 

楢原 現計画は17年度が最終年度で、海外展開の加速と新分野の開拓を2本柱にしています。特に自動車のエアバッグに使う頑丈で特殊な織物や原糸の事業展開に注力しており、海外子会社の原糸メーカー「PHPファイバーズ」の生産力も生かして、17年度下期からはグローバルな拡販体制を強化します。

 

── 将来の成長分野は。

 

楢原 環境やヘルスケア分野の事業化に重点を置いており、海外市場からの注目も高いです。具体的な製品では、神経の再生を誘導する微細なチューブ素材「ナーブリッジ」の海外展開を18年から本格化する予定で、FDA(米食品医薬品局)の承認も取得しました。当社が独自に開発した酵素を応用した血糖値の診断薬も、海外市場での拡大が期待されています。もともとは、レーヨン工場の廃液のクリーン化のために開発した酵素を、全く異なる分野で活用しました。ほかにも、衣類に組み込んで心拍数など生体情報を計測できるフィルム状の素材などを実証実験中です。

 

── どんな会社を目指しますか。

 

楢原 経営の常道としては、高品質・高機能・リーズナブルなコストのバランスがとれた製品の提供を追求していきます。トップとしては従業員のやる気を正しい方向に発揮させなくてはいけないと思います。

 渋沢栄一が掲げた経営の理想は「論語とそろばんの両立」です。社会的な責任を果たしつつ持続的な成長も遂げていくという精神を、東洋紡のDNAとして大切にしていきます。

(構成=河井貴之・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 向こう見ずでへそ曲がりな社員でしたが、会社はそれ以上に柔軟で面白かったです。経理部門で消費税導入や会計ビッグバンに追われました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 山岡荘八の『徳川家康』。全26巻を5回以上読んでいます。

 

Q 休日の過ごし方

A ウオーキングやゴルフ。妻との買い物で、自分で運転するのも楽しみです。

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 ■人物略歴

 ◇ならはら・せいじ

 1956年生まれ。福岡県出身。ラサール高校、東京大学法学部卒業後、九州電力を経て88年東洋紡績(現東洋紡)入社。グループ経営管理部長、財務経理部長、取締役などを経て2014年4月に社長就任。16年6月に日本紡績協会会長就任。60歳。

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事業内容:フィルム・機能樹脂、産業マテリアル、ヘルスケア、衣料繊維分野などの製造・加工・販売

本社所在地:大阪市北区

創立:1882年5月3日

資本金:517億円

従業員数:連結9827人 単体3029人(2016年9月現在)

業績(17年3月期)

 売上高:3295億円

 営業利益:233億円

2017年

5月

30日

経営者:編集長インタビュー 新田信行 第一勧業信用組合理事長

◇「人物中心」の融資で創業と地方を支援

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どんな信用組合ですか。

 

新田 東京23区内に22の支店と四つの出張所があります。預金が3300億円に対して、貸金は2400億円で、預貸率は75%と高い水準です。地域に密着した金融機関です。年間300の地域のお祭りや盆踊りに私も含めて参加しています。そのため、土日の予定が全て埋まっています。お祭りに参加するため、ポップコーン製造機や綿あめ製造機を所有しています。「お祭り組合」と言ってよいかもしれません。

 

── 強い地域は。

 

新田 世田谷、練馬、杉並以外は全てカバーしています。対象エリアは飲食街や商店街などです。顧客は小規模事業主、個人事業主、業態は料亭、居酒屋、飲食店が結構あります。

 

── どのような事業をしているのですか。

 

新田 当組合の三つの基本方針の一つに、「人とコミュニティの金融」を掲げています。融資には三つのやり方があります。一つ目は決算書から財務分析をして格付けをする。二つ目は、ノンバンクや質屋のように担保を取る。三つ目が人を見て貸す、です。私たちは信用供与の源泉が格付けでもなく、担保でもなく、フェイストゥフェイスの人間関係がベースになっています。

 

── 何で評価しますか。

 

新田 人と事業を徹底的に見ます。他の金融機関からは、「格付けもせず、担保も取らずによく融資をしますね」と言われますが、私からすると、「社長に会わず、工場も見ないでどうやってお金を貸すのですか」ということです。信用組合のお金は組合員のものですからリスクは取れません。ひたすら汗をかいて、社長や工場や製品・サービスを見るしかありません。

 

── 融資例を教えてください。

 

新田 コミュニティローンが280くらいあります。例えば東京23区内にある六つの花街向けの「芸者さんローン」があります。また、「亀有商店街ローン」や「巣鴨町内会ローン」などもあります。特徴はそれぞれのローンに必ず固有名詞が付くことです。それぞれの商店街や町内会の組合長や会長が、当組合の出資者の代表である総代をしています。ある意味、会員制のクラブです。会員の紹介が無いと当組合には入れません。

 

── 不良債権になる恐れはありませんか。

 

新田 格付けは過去の決算書に基づきます。しかし、私たちが知りたいのは未来の業績です。だから、当組合と他の金融機関では与信判断が変わります。私が就任時に67%だった預貸率が75%まで上昇しているのは、他の金融機関で否決された貸し出しを実行しているためです。しかし、人をよく見ていますから、この4年間、当組合では不良債権がほとんど発生していません。芸者さんローンであれば、6人の芸者組合のトップが全部自分の配下の芸者のことを知っているわけです。

 

 ◇創業加速で支援

 

── 創業向けの融資は。

 

新田 背景には、日本の資金循環が非常に悪いことに対する危機感があります。お金を持っているのはシニアですが、お金を使いたいのは若者です。創業者ローンではまだ決算書も担保もない創業者に融資します。昨年1年間で150件、残高で10億円を実行しました。この件数は日本の金融機関でトップです。当組合の融資に並行して日本政策金融公庫も同額の融資を実行します。また、創業期は赤字になりますから、創業ファンドで出資もします。

 

── 資金面以外の支援は。

 

新田 創業者はアイデアは良くても、法律家、税理士、販売先などの事業ツールは持っていません。そこで、当組合がメンターとなりスポーツジムの「ライザップ」のように短期間で立ち上げを指導します。そのために昨年「東京アクセレータープログラム」を開催し、113件の応募に対して、最終的に9件を支援しました。

 その中の一つにお祭りで日本を元気にするベンチャーの「オマツリジャパン」があります。代表の加藤優子さんには私のネットワークでお祭りをしている町内会長を紹介して、1カ月で全てを回るようにアドバイスしました。

 

── 地方連携の取り組みは。

 

新田 「量から質」の金融を目指します。質とは付加価値のことですが、これは未来志向の連携の中でしか生まれません。だから、志を同じくする人には連携を呼び掛けています。東京税理士会や東京行政書士会、東京理科大学などです。地方は、北海道から岡山まで18の信用組合と連携しており、まもなく19に増えます。一生懸命地域を良くしよう、中小企業を支え、若者や女性を応援しようという志です。秋田県信用組合はドジョウの養殖やニンニクの栽培をするベンチャーを支援しましたが、これを手掛けているのは地元の若い建設業者です。地方創生と創業支援は切っても切れない関係にあります。

 

── 人材育成は。

 

新田 若手職員向けに相談員制度を創設しました。六つの分野で専門性を磨きます。制度導入から3年で、融資の目利きができる事業金融相談員は40人ほどとなりました。

 

── 足元の業績は。

 

新田 私が理事長に就任する前は経常利益は1億円台でしたが、平成27年度は12億円を超えました。不良債権の比率もこの4年間で10%から5%まで低下しました。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 1985年のプラザ合意後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)で海運業界を担当していたので、不良債権の処理で大変でした。

Q 「私を変えた本」は

A デール・カーネギーの『道は開ける』です。不良債権処理で追い込まれたときに読み、頑張ろうという気になりました。

Q 休日の過ごし方

A 仕事です。お祭りや花見で人に会い続けています。

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 ■人物略歴

 ◇にった・のぶゆき

 1956年生まれ。千葉県出身。千葉高校、一橋大学法学部卒業。1981年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。2011年みずほ銀行常務執行役員、13年第一勧業信用組合理事長に就任。60歳。

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事業内容:金融業

本店所在地:東京都新宿区

設立:1965年5月

出資金:113億円

役職員数:364人(2015年度末)

業績(2015年度)

 経常収益:67億円

 純利益:15億円

2017年

5月

23日

ライフプランナーが保険の「出口」までお付き合い 一谷昇一郎 プルデンシャル生命保険社長

◇ライフプランナーが保険の「出口」までお付き合い

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どんな生命保険会社ですか。

一谷 生命保険は目に見えないサービスを顧客に買ってもらうものです。私たちは、(1)どのような商品が良いのか顧客に基準をきちんと理解してもらい、(2)何が必要かを一緒に考え、(3)自らの意思で購入してもらっています。「入り口」である保険加入時はこの三つが一番大事です。

 また、保険が実際にサービスを提供するのは「出口」である支払時です。万が一、何かあった時に、保険金の受け取り手続きから、何千万円もの保険金が入った場合、そのお金をどう残りの生活に生かしていくのか、税金をどうやって払うのか。この出口の部分も含めてサービスを提供する必要があります。この入り口から出口までを担当するのが「ライフプランナー」です。

 

── ライフプランナーの役割について詳しく教えてください。

一谷 保険は長い期間にわたる高い買い物なので、自分の掛けたコストが、実際のリスクに見合っているのか。顧客は内容をよく理解しないで高い買い物をしていると、「対価として何をくれるのか」という気持ちになります。入り口と出口の間には「保全」活動があります。保険加入時から契約者とは長い付き合いができるので、顧客のさまざまな環境変化に応じて、提案ができます。

 例えば、20代、30代の若い時は高額の死亡保障、50代になれば介護保険に加入したり、あるいは死亡保障を少し減らして積み立てに回すなど。顧客の皆さんは、頭で理解できても、なかなか実行に移すことができません。それをライフプランナーが「見える化」します。顧客の生涯を通じて、ずっとサービスできる。それが我々の一番の強みです。

 

── ライフプランナーはどれくらいいるのですか。

一谷 3800人います。平均年齢は40歳を少し超えたくらいです。30歳前後で転職してくる人が多く、今50歳前後の人は当社で17~18年働いています。体を壊すなどのよほどの理由がない限り、あまり辞める人はいません。だから、顧客とともに年齢を重ねていくことができます。

 

── 現在、保険契約数は。

一谷 直近で349万件です。実際に加入している被保険者数は200万人を少し超えたところです。

 

── 契約者のアフターフォローは具体的にどのようにしているのですか。

一谷 契約者に1年から1年半の間隔で定期的に連絡をします。家族の状況や勤め先、収入などが変わっていないかを確認します。それによって、今の契約が十分に生活ニーズを満たしているのか、足りないようなら新たな提案をします。保険は時々見直した方がよいのです。このコミュニケーションが大事です。

 

 ◇採用にじっくり時間

 

── 実績を教えてください。

一谷 MDRT(Million Dollar Round Table)と呼ばれる国際的な保険営業の自己研さん組織があります。ここには卓越した専門家が加盟しています。当社は、1998年から19年連続で、国内生保の中で一番多く会員がいます。米市場調査会社のJDパワーの調査では、保険金請求の対応の満足度で2年連続1位です。保有保険件数は27期連続で増加しました。口コミも非常に大きい要素です。一人の担当から一家の担当、一家の担当から一族の担当になれると理想です。

 

── どのような採用と教育をしているのですか。

一谷 1年に600人近く採用します。当社は全国に営業所長が470人、支社長が120人います。総勢約600人のマネジャーで600人の指導や教育をしています。知識だけでなく、どのように顧客に信頼してもらい、自分をサービスの一環として受け入れてもらえるのか、というようなことです。

 

── 採用の際の基準は。

一谷 リクルート活動は会社の肝です。会社の価値観に合った人、基礎能力の高い人、人として間違いがない人をどれだけ社員として採用できるかが重要です。まだ前の会社に在籍している時点で、1回2時間を3回、計6時間掛けて、当社が何を目指しているのか、当社に来るとどんな可能性が広がるのか、講習をしています。この仕事を理解してもらい、その上でアプローチしてきた人を面接しています。この採用のプロセスが2カ月間あります。

 

── このマイナス金利時代にどのような運用をしているのですか。

一谷 終身保険をはじめとする長いお金を預かっています。だから、負債に資産をマッチさせた運用をしています。20~30年の国債や社債で運用しています。予定利率を下回らないようにしています。外貨建ての商品は米国の親会社の資産運用のノウハウを活用して、再保険に出しています。広告宣伝費は、ほとんど使っていません。

 

── 最近力を入れている商品やサービスは。

一谷 2015年の秋から生命保険信託を開始しました。両親が亡くなった場合、お子さんへの保険金を大切に預かるためです。過去には預かった保険金を親戚が借金の返済に使ってしまうケースがありました。そこで、亡くなった方の意思に沿った形で保険金が安全に使われる方法を考えたのです。この1年間で200件くらい新規で預かりました。一番多かったのは母子家庭の母親が自分に万が一があった場合を考えて、契約するケースです。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A まさに、営業所長としてリクルーター、トレーナーの毎日を過ごしていました。会社のビジネスモデルを熱く語り、来る日も来る日も良い人を探していました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 歴史小説が好きです。小村寿太郎を主人公にした吉村昭さんの『ポーツマスの旗』です。

 

Q 休日の過ごし方

A 朝ご飯に自分で作ったみそ汁を飲みながら、好きなジャズを聴いています。

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 ■人物略歴

 ◇いちたに・しょういちろう

 1958年生まれ。兵庫県出身。大阪教育大学付属高校、関西学院大学経済学部卒業。91年プルデンシャル生命保険入社。2008年執行役員、12年取締役執行役員専務、13年から現職。58歳。

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事業内容:生命保険業

本社所在地:東京都千代田区

設立:1987年10月

資本金:290億円

従業員数:5197人(2015年度末)

業績(2015年度)

 経常収益:8920億円

 当期純利益:107億円

2017年

5月

16日

経営者:編集長インタビュー 糸井重里 ほぼ日社長

◇「ほぼ街(まち)」を作りたい

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 コピーライターの糸井重里氏率いる「ほぼ日(にち)」が3月16日、東京証券取引所ジャスダック市場に上場した。コラムなどを集めたウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する同社の売上高は約38億円。サイトでの物販が好調で、1日1ページ、24時間枠で予定を書き込める「ほぼ日手帳」は毎年60万部以上を売り上げる。

 

── ほぼ日はどんな会社ですか。

 

糸井 「場」が作りたくてできた会社です。「ほぼ日刊イトイ新聞」のサイトを立ち上げた頃から、「ほぼ街(まち)」を作ろうと思っていました。RPG(ロールプレイングゲーム)の街のように、建物に入ったらお茶を飲める場所があるとか、そういう街です。

 

── 株式の上場も街を目指す通過点ですか。

 

糸井 上場によってオーソライズ(公認)されたと言えるかもしれません。マンションの住人のおばあさんが「上場おめでとうございます」「株買うわよ」とか声をかけてくれるんです。そういう会話は今までなかった。「ほぼ日は有名なのに、なんで上場したんですか」と言われるのですが、有名だけど有名じゃなかったんですよね。

 

 ◇ライバルはディズニー

 

── 何で稼いでいるのですか。

 

糸井 ほぼ日手帳の売り上げが7割です。「手帳で食っている会社」と言う人もいますが、その切り口で見てくださっても構わないと思います。自分たちが使いたいものを作ってきました。生意気な言い方をすれば、「いいに決まっているもの」を出しているのがよかったんだと思います。

 

── 売り上げの残り3割は。

 

糸井 モノの形をしたコンテンツ、例えばタオル、腹巻き、衣料などの販売です。これからは手帳以外の事業が伸びて、手帳の割合が相対的に下がってほしいと思っています。

「場」を作る仕事と言っても、場代を取っているわけではないので、小売業の分類に収まっています。でも、今後はどうなるかわかりません。

 

── 伸ばしたい事業は。

 

糸井 犬や猫の写真を投稿するアプリ「ドコノコ」を始めたり、地球儀を開発したりしています。

 3月24~26日には六本木ヒルズで「生活のたのしみ展」を開催しました。いいものを作ってるなという人たちのコンテンツを集めてお店にしたイベントです。イベントでありブランドでもあるというのは一種の発明だと思うので、どう伸びていくのか楽しみです。

 

── 最近は糸井さん自身の引退について言及しています。

 

糸井 先輩たちを見ていると、上手にリタイアした人もいるし、リーダーがいなくなってつまらなくなった会社もあります。僕らが若い頃に憧れだった広告の製作プロダクションは、今は代理店の下請けです。だから、自分たちがイニシアチブを持って仕事をしていくことが本当に大事だと思ってほぼ日を始めました。

 

── 上場する規模に会社が育った。

 

糸井 チームが育ち、応援してくれるサポーターも育ってきてくれました。これ、僕がいなくなった時になくなっちゃったらつまらないですよね。もっと面白くなってほしい。「ライバルはディズニー」と言っているのですが、ウォルト・ディズニーがいなくなってもディズニーとして機能している。そういうことがあり得るんじゃないかと思って、少しずつ準備をしています。

 

── 糸井さんがいなくなった後のほぼ日は。

 

糸井 ぜんぜん同じではないことはわかっています。ただ、僕がいなくなってもできる仕事をどんどん増やしていくのも僕の仕事です。この2年くらい一生懸命しているのは、僕をいなくさせるための仕事。それが僕の作品です。

 

── 上場で得た資金の使い道は。

 

糸井 人を雇うことに使います。内部の人が育つのにも必要です。イノベーションを生み出す人、無理かもしれないことを実行できるように工夫する人、そういう人が圧倒的に足りない。工場を建てるのと同じくらいの予算組みをして、人を取らなければいけない時代が来ていると思います。

 

── 投資家とどう向き合いますか。

 

糸井 僕らがどれだけできるか見ようじゃないかと、好意的にも、悪意を持っても言われます。もっと利益を上げて、株価を上げなさいと言う人もいます。でも、そんなに簡単な話じゃないと思う。

 僕がよく泊まる旅館のおばあちゃんは、「戦後に買った任天堂株を持っているから安泰だ」と言うんです。義理で買った花札メーカーの株が、今の任天堂の株になった。すごいことです。任天堂は「ラブテスター」(男女の相性を測る玩具)とか、タクシー会社とか、ダメだった時期も含めて、山あり谷ありで今みたいな会社になった。こういうやり方をすればうまくいくというのはないんです。

 

── 成功の方程式はない。

 

糸井 上場後は、事業の質や規模について、これまで以上に問われるようになりました。僕みたいなことを言っている人がダメになったら、後の人も寂しいでしょう。弱っちい動物なりに生き延びたとか、体が大きくなったとか、そういうことを多少は見せないと、つまんないですよね。

 

── 株価は気になりますか。

 

糸井 流れの中でどういう場所にいるのかは把握していますが、あまりとらわれないようにしています。僕が引退する時に株価が下がったら、僕の仕事が足りていなかったということでしょうね。

(構成=花谷美枝・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどうでしたか

 

A 一生懸命いい気になってました。いい気にさせてくれる人たちが現れる時期だったので。

 

Q 「私を変えた本」は

 

A 大学を中退した頃に出会った吉本隆明さんの『最後の親鸞』。ほぼ日で吉本さんの183講演の音源を無料公開したことは、僕の人生の年表に入れてほしい。今なら、株主総会でどう説明するか考えないといけない(笑)。

 

Q 休日の過ごし方

 

A 指圧や床屋に行きます。

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 ■人物略歴

 ◇いとい・しげさと

 群馬県出身。群馬県立前橋高校出身、法政大学文学部中退。コピーライター、作詞家、タレント、エッセイストとして活躍。1998年に「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設した。68歳。

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事業内容:ウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』の運営、商品の販売

本社所在地:東京都港区

創業:1979年12月

資本金:3億4705万円

従業員数:69人(2017年3月1日現在、契約社員含む)

業績(16年8月期)

 売上高:37億6750万円

 営業利益:4億9954万円

2017年

5月

09日

経営者:編集長インタビュー 炭井孝志 ケンコーマヨネーズ社長

◇業務用に特化 サラダ市場を創造、拡大

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 社名からは、マヨネーズ専門のメーカーを想起させます。

炭井 確かに当社は、町のお総菜屋さんにマヨネーズを供給したことに始まります。しかし、創業直後からマヨネーズを販売するだけではなく、マヨネーズを使ったメニュー提案をしていました。そして時代の流れとともに、新たな素材を見つけて商品を開発し、今は商品数3100超の業務用食品メーカーとなりました。 

 

── 売り上げの内訳は。

炭井 商品別ではサラダ・総菜類が4割、タマゴ類(卵焼き、タマゴサラダなど)が3割、マヨネーズ・ドレッシング類が2割です。

 

── どう商品群を広げたのですか。

炭井 マヨネーズの供給先からサラダ・総菜に関する相談を受ける中、自社で製品を開発するようになりました。たとえば、1970年代には、大手製パンメーカーから「総菜パンにはさむ具材として、長持ちするサラダが欲しい」と要請され、タマゴサラダやツナサラダを開発しました。また、大手ハンバーガーチェーン「マクドナルド」のハンバーガー用ソースも当社が製造しています。

 

── 他にはどんな商品がありますか。

炭井 最近では、コンビニエンスストアの弁当やスーパーの総菜用に、各種サラダやひじきや野菜の煮物、卵焼きなど幅広い食品を供給しています。今でこそ普及したゴボウサラダやパンプキンサラダは、当社が開発したものです。サラダを切り口にして、新たな素材を投入し新たな市場を創っていきます。

 

── 供給先はどこが多いのですか。

炭井 売上高ベースではコンビニが3割、外食産業が3割、スーパーなどの量販店が2割、製パンメーカー・町のパン屋と給食向けで2割です。

 

── なぜ業務用に専念するのですか。

炭井 小売店向けに家庭用商品を供給するのはもうからないからです。家庭用向けは、キユーピーや味の素など一大ブランドがあり、価格競争も激しいです。80~90年代、家庭用を手がけていた時期もありました。その時期は、会社を挙げて小売店に営業しました。そもそも、業務用と家庭用の販売方法は異なるにもかかわらず、 家庭用の売り方を知らないので、収益は真っ赤っか。しかも、人的資源を家庭用の営業に回したので、業務用への営業もおろそかになりました。私はずっと「会社の強みを生かせるのは業務用の世界だ」と思っていましたので、私が社長になった後の2003年に家庭用はやめました。私が社長を続ける限り、家庭用向けはしません。

 

── 供給先の要望も厳しいのでは。

炭井 供給先には鍛えられました。世界的なハンバーガーチェーン、日本を代表する製パンメーカー、最近ではコンビニなど常に厳しい品質、値段を求められてきました。おかげで、常に食品市場のトレンドを感じられるポジションにいられました。供給先の求めることを先読みした結果、当社の強みと言える多品種少量生産ができるライン運用を確立しました。

 

── 強みを持つ商品は。

炭井 タマゴ類です。タマゴの総菜メーカーは通常、養鶏場で割ったタマゴの「液卵」を調達します。液卵はコストが低いのですが、一度熱殺菌が必要なので風味が落ちます。これに対して当社の静岡県の工場では、殻付きタマゴを調達して工場で割って24時間以内に加工します。卵焼きの供給先にも「液卵より格段においしい」と評価されます。殻付きタマゴの調達費は高いのですが、熱殺菌を経ずに割ってすぐに調理できるラインを作り上げたことで、トータルコストは下げられます。

 

── 食品メーカーは、国内の人口減にあえいでいます。

炭井 日本人の胃袋は減っています。しかし、働く人が増えて中食(なかしょく)需要は増えています。また、ゴボウサラダのように今までにない素材の商品を提案することもできます。日本市場全体のパイは広がりませんが、自分たちの市場を広げることはできます。

 

 ◇工場も夕方退社目指す

 

── 3カ年の中期経営計画は今年度が最終年度です。

炭井 18年3月期の連結売上高750億円に向けて順調に推移しています。17年3月期も過去最高益を見込みますが、製品の需要に生産設備が足りていません。目標到達のためには、現在進めている工場の新増設がカギとなります。

 

── 工場の新増設とは?

炭井 19年3月までに総額150億円強を投じて、北海道と神奈川県にサラダ類・総菜類工場を新設し、静岡県の卵焼き工場と京都府のサラダ類工場を増設します。工場新増設には長時間労働を是正する狙いもあります。現在ほぼ24時間フル稼働ですが、長期的には、午前8時~午後5時の稼働でも需要に応えられる体制にしたいです。

 

── 製造業で午前8時~午後5時稼働は成り立つのですか?

炭井 周囲には「その稼働時間ではもうからない」と言われます。しかし、人手不足の時代にあっては工場の労働環境も変えなければなりません。私も法人向けの営業時代、午前8時に出社して、午後5時には退勤していました。朝一番から力の限り働く人が、夕方以降も働けるわけがないのは経験で分かります。今、工場だけではなく、事務部門や間接部門も含めた社内全体で、この時間内で効率よく働ける方法を模索しています。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 法人向けの営業担当でした。誰よりも早く書類を確認して、電話対応をし、外勤に出ており、それで十分でした。

 

Q 「私を変えた言葉」は

A 山本五十六の「男の修行」です。

 

Q 休日の過ごし方

A ウオーキングか、仕事がらみのゴルフです。昨年から四国八十八カ所巡りも始めました。逆ルートで香川県からスタートして、愛媛県まで到達しました。

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 ■人物略歴

 ◇すみい・たかし

 1953年生まれ。香川県出身。県立高松高校卒業。1978年東京水産大(現・東京海洋大)卒業後、ケンコーマヨネーズ入社。営業畑を皮切りに購買、生産部門を歩み、98年に管理部門部門長、99年に取締役。2000年から現職。

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事業内容:業務用食品

本店所在地:神戸市灘区

東京本社:東京都杉並区

設立:1958年3月

資本金:21億円

従業員数:2957人(連結)(2016年3月現在)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:669億円

 営業利益:34億円

2017年

4月

25日

経営者:編集長インタビュー 木村博紀 朝日生命保険社長

◇医療・介護保険でお客さまの「生きる」をサポート

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 朝日生命はどんな会社ですか。

木村 前身の帝国生命の創業が1888(明治21)年で、来年3月に創業130周年を迎える歴史のある会社です。現在は『一人ひとりの“生きる”を支える~「お客様大好き」企業。朝日生命~』を企業ビジョンに、今後の日本市場を想定して「シニア(高齢者)」「女性」「企業経営者」を三つの戦略マーケットと位置づけ、お客さまが生きていくためのサポートをする商品やサービスを提供しています。

 

── 他社にない強みや特徴は。

木村 成長市場の医療保険や介護保険など(生命保険、損害保険のどちらにも属さない)「第3分野」と呼ばれる保険商品に、同業他社に先駆けて取り組んできました。第3分野を本格展開したのは2003年です。同業他社と比べると、万一の時に備える「保障性商品」のウエートが高く、資産形成効果がある「貯蓄性商品」のウエートは低くなっています。その保障性商品の中でも、第3分野のウエートが高いのが特徴です。

 

── 三つの戦略マーケットを位置づけたのはなぜですか。

木村 日本の将来を想定すると、少子高齢化が進んでシニアのお客さまが増えます。また、働く女性も増えていくと考えたからです。実際にそういう時代になってきています。死亡保障という市場もお客さまにとって大切ではありますが、さまざまなリスクへの備えが非常に重要になるだろうと考え、第3分野に力を入れてきました。

 

── 現在の業績は。

木村 保障性商品の保有契約高(年換算保険料)は長年減少傾向でしたが、14年度に底打ちして反転しています。特に、主力の営業職員を通じた販売チャネルでは、介護保険やがん保険の新契約が好調で、目標としていた営業職員チャネルでの保有契約高反転目標を1年前倒しで16年3月に達成しました。

 

── それは好調ですね。

木村 約1万2000人の営業職員は、保険金の支払いに至るまでアフターフォローもしっかりできるのが強みで、有力な販売チャネルという認識は今も昔も変わりません。東日本大震災でも対面型の営業職員の存在が改めて評価されました。また、保険ショップなどの代理店チャネルも好調に推移しています。ここ数年は、超低金利下で基礎利益(保険関係の収支と運用関係の収支を足したもの)は横ばい基調ですが、保有契約高の純増のペースを上げ、基礎利益が反転するようなシナリオを描きたいと考えています。

 

 ◇認知症保険も発売

 

── どのような商品性が評価されたと考えますか。

木村 お客さまのニーズに沿った商品開発を進めてきたことでしょう。12年4月に介護保険「あんしん介護」を発売しましたが、商品の分かりやすさで業界では異例の「グッドデザイン賞」を受賞しました。保険金の支払い要件を公的介護保険の要介護認定と完全連動させたことで、商品の説明も簡素になりお客さまの理解も得やすくなったのです。昨年4月には認知症に特化した「あんしん介護 認知症保険」も発売しました。家族が認知症になって苦労される人も増えており、こちらも好評をいただいています。

 

── 02年には経営危機に直面しました。

木村 当時は01年の米同時多発テロで株価が下落し、保有する株式の評価損が増加してしまいました。そこで、株式など価格が変動しやすい資産の残高を圧縮し、市場環境の悪化に対する耐久力を付けること、第3分野を中心に保有契約高を増やし地道に収益力を高めることに取り組みました。これが現在の成果につながったと思っています。

 昨年8月には基金(株式会社の資本金に相当)の償却(返済)繰り延べも解消し、資本政策の柔軟性が向上します。今年1月には米ドル建ての永久劣後債を3・5億ドル(約400億円)発行しました。

 

── 運用部門の経験が長いですが、現在の金融環境にどう対処しますか。

木村 運用面では非常に厳しい状況です。ここ数年の日銀の金融緩和の結果、長期金利が非常に低い水準で推移しており、利回りの低い円建て債券を積極的に組み入れることは適当ではありません。為替ヘッジした外貨建て債券のほか、投資信託やヘッジファンドなど「オルタナティブ投資」を組み入れたりして、運用の高度化を進めています。リスクを取りすぎていないかは当然、チェックしています。超低金利が当分、続くことを前提に経営を考えていく必要がありますね。

 

── 他の生保では海外のM&A(企業の合併・買収)や業界再編も起きています。

木村 日本は総人口は減少しますが、シニアや働く女性、単身者は増えていくので、お客さまのニーズにはまだ拡大余地があり、自分たちで国内市場を開拓できると思っています。一方、海外市場は長期的な視点で考え、調査・研究をしていこうという段階です。再編はまったく考えていません。

 

── 4月に新社長に就任しました。

木村 創業130周年という節目の年に社長となります。将来にわたってお客さまに信頼され、社会に貢献できる会社、また従業員が明るく伸び伸びと仕事ができる会社を目指して経営していきたいですね。

(構成=桐山友一・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 1996年の保険業法の全面改正の前後に企画課に在籍していました。生・損保の相互参入など制度が大きく変わり、非常に勉強になりました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 童門冬二さんの『小説 上杉鷹山』です。粘り強く改革を進めるところなどが、ビジネスマンとして参考になります。

 

Q 休日の過ごし方

A スポーツジムに週1回以上、通い続けています。もう10年以上になりますね。多少疲れていても汗を流すと、疲れが取れたりリフレッシュできます。

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 ■人物略歴

 ◇きむら・ひろき

 1962年生まれ。和歌山県出身。和歌山県立桐蔭高校、慶応義塾大学経済学部卒業後、84年朝日生命保険入社。取締役執行役員資産運用部門長、取締役常務執行役員経営企画部主計部担当などを経て、2017年4月から現職。55歳。

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事業内容:生命保険業

本社所在地:東京都千代田区

設立:1947年7月

基金総額:2460億円(2016年3月末)

従業員数:1万6461人(2016年3月末)

業績(2016年3月期・単体)

 経常収益:6527億円

 経常利益:148億円 

2017年

4月

18日

経営者:編集長インタビュー 瀬戸健 RIZAPグループ社長

◇「人は変われる」を証明したい

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どんな会社ですか。

瀬戸 「人は変われる」という理念を信じてひた走っています。ジムのトレーナーひとりひとりに情熱が宿っている会社です。

── 前身の「健康コーポレーション」を設立して以来の歩みは。

瀬戸 豆乳クッキーで起業し、せっけんや美顔器に広げ、今の主力はパーソナルトレーニングジムです。変遷しているように見えるかもしれませんが、すべてがつながっています。

 原点にあるのは高校3年の時のことです。体重70キロ超の彼女と付き合い始め、一緒にがんばってやせよう、と走ったり、励ましたりしました。彼女は3カ月で25キロやせたのですが、どんどんきれいになり、内向的だったのが外向的に、散らかっていた部屋も整理整頓するようになりました。きれいになりすぎて浮気されて振られてしまったのですが(笑)、人って本当に変わるというインパクトが強烈でした。

 

── その経験が、どのように事業につながったのですか。

瀬戸 豆乳クッキーは、彼女がお菓子も食べず苦しそうにダイエットしていたことが念頭にありました。無理なくダイエットできる食品を作ろうと考えました。おからは水を含みやすいので少量で満腹になります。

 豆乳クッキーがヒットした後、美顔器の会社を買収すると、なぜ?と言われました。それは、手段を見ているからです。消費者の目的は美しくなって自分に自信を持つこと。クッキーや美顔器が欲しいわけではありません。

 ただ、一人でやるダイエットは挫折する人が多い。どうやったらやせられるかについては情報が氾濫していますが、分かっているのと、やり切れるかどうかは別です。やり切るために愛情を持って寄り添うサービスとして、パーソナルトレーニングジムのライザップが生まれました。

 

── テレビCMが印象的でした。

瀬戸 我々が何を提供する会社なのかを徹底的に追求しました。15秒のCMはライザップに通う前と後の姿のみ。トレーナーも、店舗も出てきません。結果を重視することを伝えました。

「結果が出なかったら全額返金」は我々が緊張感を持つためでもあります。トレーナーはお客様が通わなくなったり食べすぎたりした時に本気で向き合います。するとお客様が本当に変わり、“卒業”を迎える日にとてつもない感動があるから、次のお客様にまた「結果を出します」と言えるのです。

 

 ◇三日坊主市場は広い

 

── 海外展開は。

瀬戸 既に台湾、シンガポール、香港、上海にライザップの店舗を展開しています。

「三日坊主市場」は世界共通ですが、そこに解決策を提示する企業はほとんどありません。国内ではゴルフと英会話の事業を既に始めていて、好調です。ゴルフもスコアにコミットします。

 

── アパレルやインテリアなど、さまざまな業種を買収する意図は。

瀬戸 事業領域は「自己実現」です。経済が成熟し、欲求の段階が上がりました。なくても困らないけれど、自分に自信を持つために人はお金を投じます。あらゆる業種で商品やサービスの目的が変わってきています。かつて服は身を隠し、寒さをしのぐためのものでしたが、今は自分の存在を高めてくれるものです。

 ライザップで10キロ以上やせると過去の服が着られず、自分の外見に興味がなかった男性が服にお金を使うようになります。オーダーメードスーツが好調です。

 

── ジーンズメイトなど買収先は赤字企業ばかりで、「負ののれん」が利益をかさ上げしているとも指摘されています。

瀬戸 いいものを持っていながら、すべての力を発揮できず低迷している会社がたくさんあります。人が変われるように、会社も変われます。

「負ののれん」は会計基準に沿ったもので、すべてオープンにしています。M&A(合併・買収)による利益を除いた本業の利益も伸びています。負ののれんには、赤字がついてきます。黒字に転換できるかどうかが勝負です。

 

── 経営目標は。

瀬戸 事業を通じて世の中に影響を与えたいと思っています。「人が変われる」ことを証明して社会にインパクトをもたらすのは兆円単位の話。2021年3月期に売上高3000億円、営業利益350億円の目標はプロセスとして当たり前のことです。

 今、当社のCMを見て、ライザップに通うのではなく、自分でジムに通う人も増えている。CMはきっかけの提案でもあります。我々は低糖質食を勧めていますが、将来的には摂取カロリーに占める栄養素の割合が変わるでしょう。

 

── 人々が健康になれば、国の医療費も削減できそうです。

瀬戸 我々は会員7万人のデータをもとに、どうすればやせて健康的になれるのかを検証しています。ライザップはマンツーマンでフルスペックですが、コストを抑えた形でサービスを提供することもできます。

 その例として、静岡県牧之原市と提携し、高齢者向けの健康増進プログラムを始めました。プログラム前後の変化を分析します。今後、全国の自治体と進めていきます。我々は結果にコミットしますから、一般的な単価報酬ではなく、健康数値が改善したかなど結果に連動する成功報酬型を考えています。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 今も30代ですが、30代前半は人が遊んでいる時にも自己投資していました。本を猛烈に読みました。書かれたことに一つ、二つでもチャレンジすると、失敗を含めてフィードバックがあり、記憶が定着します。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『自助論』(サミュエル・スマイルズ)です。すべてを自分の責任として受けとめることを説いています。人のせいにした瞬間に成長のチャンスがなくなります。自分次第で変わると思った方がお得です。

 

Q 休日の過ごし方

A スキーなど社員のレジャーに参加したりしています。

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 ■人物略歴

 ◇せと・たけし

 福岡県出身。福岡県立北筑高校卒業、明治大学商学部中退。2003年に健康コーポレーション株式会社を設立、06年に札幌証券取引所アンビシャスに株式上場。16年に商号変更。38歳。

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事業内容:美容・健康、アパレル、住関連、エンターテインメント等

本社所在地:東京都新宿区

設立:2003年4月

資本金:14億円

従業員数:約4000人(連結、2017年3月)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:554億円

 営業利益:50億円

 

2017年

4月

11日

経営者:編集長インタビュー 小堀秀毅 旭化成社長

◇化学技術で多様な社会課題を解決

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 旭化成とはどのような会社ですか。

小堀 創業以来、産業構造の変化に立ち向かい、新事業に果敢に挑戦してきた企業です。現在の事業領域は、素材を扱うマテリアル、住宅、ヘルスケアの3分野です。この3分野を持つ化学会社は世界にも類がなく、ユニークな点と言えます。事業領域は広いですが、化学技術を基礎にしている点では共通しています。環境や健康などの社会課題を、化学技術で克服するという理念で事業を展開しています。

 

── 3事業の内容は。

小堀 マテリアル事業は大きく二つの領域に分けられます。一つはリチウムイオン電池材料のセパレーターや、自動車軽量化に役立つ部品用樹脂など、環境エネルギー関連素材です。もう一つはサランラップや繊維など生活関連です。住宅事業は、「へーベル」ブランドの戸建て住宅と集合住宅建築、それに断熱に優れた建材販売を手がけています。ヘルスケア分野は医薬品・医療機器双方を持つ珍しい業態です。医薬品では骨粗しょう症の薬で高いシェアを占めており、医療機器では心臓除細動器で高い成長率を遂げています。

 

── 祖業の繊維は世界的にも競争が激しいのでは。

小堀 当社の繊維事業は2000年代に選択と集中を進め、キャッシュフローを生み出せて、かつ独自性のある製品に絞りました。インドのサリーなどに使われるベンベルグ、紙おむつや美容パックに使われる不織布、エアバッグに使われるレオナ、機能性下着などに使われるスパンデックスの四つです。事業を絞り込み、用途を見つけたことで利益が伸びました。その結果、繊維事業の営業利益率は10%です。四つの製品とも元気な事業で、どこから増設しようかと悩むぐらいです。

 

── 電池用セパレーター事業も好調ですね。

小堀 セパレーターは世界トップのシェアを持ちます。当社は膜技術に強く、人工腎臓用の中空糸膜や水のろ過用膜も製造しています。その膜技術をセパレーターで展開し、スマートフォン市場の成長に伴い、供給能力も増強してきました。この結果、スマホやパソコンなど民生用電池では、圧倒的なシェアを取りました。これからは、電気自動車(EV)などのエコカー電池向けに取り組みます。2018年以降に世界的な自動車燃費規制が強化されるため、エコカー需要が増えることが予想され、手応えを感じています。

 

── 足元では、住宅事業が不調に見えます。

小堀 住宅事業の16年4~12月期の営業利益は前年度比12%減少しました。15年の横浜のマンションのくい打ち問題では関係者の皆様にご迷惑をお掛けしました。問題発覚直後に宣伝広告を自粛したため、集合住宅の受注は落ち込みました。しかし、昨年4月に宣伝広告を復活したところ、昨秋以降に受注も持ち直しました。「へーベル」ブランドの毀損(きそん)はなかったと考えています。

 

 ◇今後は自動車へ注力

 

── 社長就任と共に開始した中期経営計画の進捗(しんちょく)は。

小堀 中計では25年度のあるべき姿を描き、16~18年を実現のベース作りとなる3カ年に位置づけています。経営指標では、18年度の売上高を2兆2000億円、営業利益を1800億円としています。スタート時は、円高や中国経済減速など厳しい局面が予想されました。しかし、予想より円安方向に恵まれた。また、見立てが厳しかったからこそ、各事業部門が踏ん張り、販売数量増やコスト削減に取り組みました。この結果、1年目としては順調に進捗しています。

 

── 中計では、組織再編にも言及しています。狙いは。

小堀 当社での多角的な事業、多様な人材を結合して、新たな成長を遂げようと掲げています。たとえば、昨年4月、オートモーティブ事業推進室を発足させました。当社の自動車関連製品は、部品用プラスチック、タイヤ用ゴム、人工皮革をはじめとした成長の見込める製品が多くあります。従来、これらの製品を扱う部署は独立して顧客に接していました。しかし、今後はこれらの部門から社員を推進室に集めて、部門横断的にマーケティング戦略を立てていこうという狙いです。

 

── なぜ、自動車に注目するのですか。

小堀 自動車は、安全性、快適性、省エネの向上が求められており、今後も車体・内装とも変化が予想されます。それはビジネスチャンスを意味します。また、需要も安定しています。

 

── 事業領域が広い企業トップとして、気を付けている点は。

小堀 自分の事業さえ成績が良ければいいという人間の集まりでは、グループの総合力は発揮できません。個別事業にとって最適な戦略ではなく、全体にとって最適な戦略を取るという考えを組織内で共有しなければなりません。そのためには事業部門間のコミュニケーションが重要です。コミュニケーションも含めて、私は三つの「C」を大切にするよう社内に伝えています。

 

── 三つの「C」とは。

小堀 まずは法令順守(コンプライアンス)です。くい打ち問題でも厳しく問われました。次にコミュニケーション、そして挑戦(チャレンジ)です。挑戦とは、無理な目標をやみくもに掲げることではなく、変化へのチャレンジを意味します。これこそが旭化成の価値と言えます。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 化学部門から新規事業の半導体部門へ異動になりました。専門知識を高め、事業を軌道に乗せるためにもがき苦しみましたが、変化への対応の仕方を学びました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 会社の先輩から薦められたデール・カーネギー『人を動かす』。人を冷静に見ることを学び、その後ビジネス書を読むきっかけにもなりました。

 

Q 休日の過ごし方

A 気分転換と体力維持を兼ねてのジョギングです。

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 ■人物略歴

 ◇こぼり・ひでき

 1955年生まれ。石川県出身。同県立金沢二水高校、神戸大学経営学部卒業後、78年旭化成工業(現旭化成)入社。電子部品部材などを扱うエレクトロニクス部門を主に歩み、2014年、代表取締役専務執行役員。16年4月から現職。62歳。

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事業内容:総合化学メーカー

本社所在地:東京都千代田区

設立:1931年5月21日

資本金:1033億円

従業員数:3万2821人(連結、2016年3月現在)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:1兆9409億円

 営業利益:1652億円

2017年

4月

04日

経営者:編集長インタビュー 森川桂造 コスモエネルギーホールディングス社長

◇上流・下流のバランスで競争力強化

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 石油元売り業界の再編が進む中、2月21日にキグナス石油(東京都中央区)の株式2割を取得する資本業務提携契約の締結を発表した。2020年ごろからキグナスの給油所約500カ所にガソリンなどを供給する。

 

2017年

3月

28日

経営者:編集長インタビュー 楠雄治 楽天証券社長

◇iDeCo(イデコ)とラップ口座を投資の入り口に

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どのような顧客層が多いですか。

楠 口座数は220万を突破しています。そのうち数万人がデイトレーダー(ほぼ毎日取引する利用者)で、大半は週に数回などたまに取引をする層です。預かり資産は4兆円を超え、国内インターネット専業の証券会社のなかでは2位です。

 

── 楽天証券の強みは。

楠 当社の利益基盤となっているデイトレーダー向けだけでなく、積み立てなど長期的に資産構築したい人向けも含め、ほぼ全ての顧客層にサービスを提供していることです。

 最近は、スマートフォン向けアプリで取引する利用者が増えています。FX(外国為替証拠金取引)では約71%、先物・オプション取引では約60%、日本株は約41%にまで上昇しています。FXのスマホ率が高いのは、比較的若い人が多く、株式の取引は年齢層が少し高いためです。

 

 ネット証券業界は、楽天証券の他、業界1位のSBI証券、松井証券、カブドットコム証券、マネックス証券が主要5社だ。業界2位の楽天証券は、1999年創業のDLJディレクトSFG証券が前身。その後、楽天が2003年に子会社化。04年に名称を楽天証券に変えた。

 

── 楽天市場や楽天トラベルなどの「楽天会員」をどう生かしますか。

楠 楽天証券の口座数は現在220万ある一方で、楽天会員は1億1000万人を超えています。例えば、節税効果も高い個人年金である個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」は、投資を積極的に行っていない一般層の開拓に役立つと考えています。60歳まで毎月5000~2万3000円まで(会社員の場合)積み立てられる制度なので、特に30代、40代を中心に働きかけていきます。

 また、16年7月に、おまかせの資産運用サービス(ラップ口座)「楽ラップ」を始めています。投資金額は10万円からで手数料は年間1%未満、利用者数はすでに1万人を超えています。楽ラップの特徴は、世界最大級の運用助言機関の米マーサー社のサービスを使っている点です。アルゴリズム(機械)で運用せず、世の中の動きを見ながら先読みをして投資判断をしています。例えば、トランプ大統領誕生後、債券にウエートを置いていた一般的なラップ口座サービスは悪影響を受けましたが、楽ラップは株式にウエートを置いていたため好影響を受けました。

 

── 楽天銀行との連携は。

楠 楽天グループの各サービスのお客様にも新規の口座開設を呼びかけていますが、楽天銀行から流れてくる人が一番多いです。楽天銀行は現在、577万の口座、約1・8兆円の預金残高を持っています。銀行と証券の口座をシームレス(つなぎ目なし)に連携することで、銀行口座に入金すれば、そのまま投資資金になるような口座間の連携サービスを提供しています。

 例えば、楽天証券はATMカードを発行していません。ただ、楽天銀行の口座を持つ人がコンビニで楽天銀行の口座におカネを入れれば、投資で必要な時にこれを使えるようにするサービスも提供しています。反対に、楽天証券の口座に現金ができれば、そのまま自動的に楽天銀行に移動できるサービスもあります。

 

── その他の利用者開拓は。

楠 約600人の独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)と契約しています。当社と契約するIFAには元証券営業マンも多く、中には自分の顧客を抱えている人もいます。彼らには当社のサービスを紹介してもらうので、私どもの販売代理店のような位置付けです。

 IFA経由で獲得した口座数は1万6000まで伸び、その預かり資産は2000億円を超えました。彼らは独立系なので、所属する証券会社の都合で営業しないことが差別化要因です。

 

 ◇香港とマレーシアへ

 

── 「フィンテック(金融と技術の融合)」分野の取り組みは。

楠 楽天グループとしては、フィンテック技術を持つ欧米企業などに対して15年11月から100億円規模の投資をしているところです。私もこのファンドの投資判断をする委員なので、フィンテックの最新情報は入ってきます。楽天証券のサービスをいかに充実させるか、競争力のあるものにするか、便利にするかを念頭に、自社で開発できるものはするし、ベンチャー企業などから取り込むこともしていきます。

 フィンテックを実際に活用することも意識しています。16年8月には、分散型台帳を実現する画期的な技術として注目される「ブロックチェーン」を使った本人確認システムを、ソラミツ(東京・港区)というベンチャー企業と共同開発を開始しました。高いセキュリティーのシステムを構築していきます。

 

── 海外戦略はどうですか。

楠 FXでは香港と豪州シドニーに拠点を置いています。香港が中国本土の顧客の窓口となり、豪州で口座を開設するためです。豪州ではレバレッジ(少ない資金でも大きな取引ができる仕組み)の規制がないため、例えば、100倍とか200倍のレバレッジも可能です。これで中国市場の開拓を狙います。

 また、マレーシアにも進出します。現地の証券大手ケナンガと、5対5の出資比率でネット証券会社「楽天トレード」を作りました。この合弁会社を作るために、政府との交渉など2年かかりました。まもなくサービスを開始します。

(構成=谷口健・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 31歳で米国に留学し、帰国後はコンサルティング会社に入りました。36歳で前身のネット証券立ち上げに参画しました。

 

Q 「私を変えた本」は

A もともとはシステムエンジニアでしたので、チャールズ・ワイズマンの『戦略的情報システム』には影響を受けました。

 

Q 休日の過ごし方

A 海外出張も多いですが、フィットネスクラブで汗を流したり、月に1回はゴルフもします。

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 ■人物略歴

 ◇くすのき・ゆうじ

 広島市立基町高校、広島大学卒業。1996年、米国でMBA取得後、ATカーニー入社。99年、DLJディレクトSFG証券(現・楽天証券)入社。2006年4月に楽天証券COO、同年10月に社長就任。54歳。

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事業内容:インターネット専業の証券会社

本社所在地:東京都世田谷区

設立:1999年3月

資本金:75億円

従業員数:340人(2016年9月)

業績(16年3月期)

 売上高:550億円

 営業利益:246億円

2017年

3月

21日

経営者:編集長インタビュー 江尻義久 ハニーズホールディングス社長

◇「価値あるものを安く」日中両国で婦人服店展開

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── どんな会社ですか。

江尻 カジュアル着からお出かけ着まで婦人服を10~50代の幅広い層を対象に展開しています。製造から小売りまで一貫して手がける「製造小売り(SPA)」と呼ぶ手法を用いていますので、トレンドを素早く捉え、顧客のニーズにタイムリーに応えることができる点が強みです。

 

── 3月1日に持ち株会社制に移行しました。

江尻 国内市場の縮小が見込まれ、価格競争が激しくなるなど将来の不確実性が高まっています。また当社の事業分野も広がりました。

 そこで、持ち株会社の傘下にそれぞれの事業に特化した子会社を置くことで、各子会社が担当事業に専念できるようにしました。グループ全体の経営効率化が狙いです。

 

── 足元の販売状況は。

江尻 衣服に対する消費者の優先順位が下がり、アパレル業界全体が苦戦しています。その逆風の下でも、当社は16年4月から17年2月まで11カ月連続で顧客数が増えました。

 ネットを通じた販売も好調です。すでに展開するアマゾンのほか、スタートトゥデイが運営するファッション通販サイト「ゾゾタウン」でも3月から展開を始めました。ただ、ネット通販の売り上げの伸びは大きいものの、当社の売上高全体の2~3%にすぎません。業界では一般的に、ネット通販の割合は7%程度と言われますので、まだまだです。

 

 ハニーズの2017年第2四半期(16年6~11月)の売上高は前年同期比7・6%減の269億6200万円だった一方、当期純利益は同15・4%増の4億円だった。

 

── 1978年に前身の有限会社エジリを設立したきっかけは。

江尻 もともと家業の帽子専門店がいずれ立ち行かなくなると考え、より需要の見込める婦人服を手がけることに決めました。

 当初は80年代に全盛だった「DCブランド」の一つ、「ハニーハウス」のフランチャイズチェーン店として、仙台市などいわき市外に展開先を広げていきました。おしゃれと評判でしたが少々値段が高かったため、思うように売れない時期もありました。品ぞろえを徐々に広げるなどした結果、販売も軌道に乗り、92年には設立時に掲げた「設立15年後に100店舗」を達成しました。

 

── 順調ですね。

江尻 ところが翌93年にバブル崩壊の影響に襲われました。個人消費が伸び悩み、当社の売れ行きも落ちました。そこで展開先を広げ、商品価格を下げると同時に、従来の駅前中心から郊外店に重点を移しました。93~2000年の7年で当時130店のうち主に駅前店など110店を閉店する一方、郊外を中心に120店を開店したほどです。

 

── 商品価格をどう引き下げたのですか。

江尻 98年に一大ブームになった1900円で買えるユニクロのフリースを見て、生産体制を中国にシフトすることに決めました。本格的に生産を始めたのは01年からです。

 中国は生産だけでなく、市場の大きさも魅力です。そこで06年に上海に1号店をオープンしました。

 ただ、中国店はいまだに収益モデルを確立できていません。足元では日本と同様、郊外型店舗への移行期にあります。加えて、不動産価格が高騰し、店舗運営コストが高どまりしています。今17年5月期は50店を出店すると同時に、不採算店舗を70店撤退する予定です。中国の直営店舗は16年11月末時点で461店です。様子見の状態です。

 生産面でも、人件費が当初の2倍超の1人当たり月額7万円に上がりました。中国から日本への輸入には関税も10%上乗せされます。そこで東南アジア諸国連合(ASEAN)の比重を徐々に高めています。

 

 ◇進出決断の日

 

── ASEANの生産体制は。

江尻 ミャンマーで12年に現地子会社を設立し、工場を稼働しました。すでに二つの工場を運営し、計約4000人が勤務しています。生産量は年600万着に上りますが、日本の販売量の2割程度にすぎません。

 ASEANではこのほか、バングラデシュやベトナム、インドネシアなど現地企業への委託生産も行っており、生産量が当社全体の生産量の3分の2を占めるまでになりました。

 

── ミャンマーの民政移管は11年3月でしたから、早い段階での進出ですね。

江尻 実は、ミャンマーの工業団地側と工場設置の調印を交わした翌日の11年3月11日に東日本大震災が起きました。現地側からも社内からも進出の見送りムードが高まりましたが、進出に必要な2億5000万円の送金をすぐに決めました。震災によって当社の物流機能も止まり、生活物資が不足するなど、大変でした。しかし、ミャンマー進出は5年、10年の長期的な視点に立って決めたこと。実行するべきだと決断しました。

 

── 決断は正しかったですか。

江尻 生産体制の構築には時間がかかりましたが、現在は1着当たりの平均販売価格が日本国内で生地の生産や縫製を行っていた80年代当時の約4900円から、約1400円まで下がりました。にもかかわらず、当時に比べ顧客数が増えましたので、粗利率は58%に上ります。当社は「価値あるものを安く」がモットーです。強さを再び取り戻すための準備がようやく整ったと思っています。

(構成=池田正史・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 20代に遊んだ分、30代は一心不乱に仕事をしました。休んだのは元日だけ、ということもあるほど仕事一筋でした。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『商業経営の精神と技術』をはじめ、流通専門誌『商業界』が主催する故・渥美俊一先生の勉強会で読んだ本が今でも血肉になっています。「利益は顧客のためにある」という言葉が印象に残っています。

 

Q 休日の過ごし方

A 土曜日はゴルフ、日曜日は囲碁をして過ごします。ゴルフはシングルで、囲碁は5段です。

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 ■人物略歴

 ◇えじり・よしひさ

 1946年生まれ。福島県出身。福島県立磐城高校卒業。69年早稲田大学卒業後、家業のエジリ帽子店入社。78年に有限会社エジリ(現・ハニーズホールディングス)を設立し、専務に就任。86年のハニーズへの社名変更と同時に現職。70歳。

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事業内容:衣料・服飾雑貨事業

本社所在地:福島県いわき市

設立:1978年6月1日

資本金:35億6600万円

従業員数:連結7103人(2016年11月末現在)

業績(16年5月期・連結)

 売上高:582億2500万円

 営業利益:28億2100万円

2017年

3月

14日

経営者:編集長インタビュー 新芝宏之 岡三証券グループ社長

◇「対面」「ネット」「地域」で強い証券会社に

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 会社の強みは。

新芝 2023年に創業100周年を迎える「伝統」と、ネット証券で創業10年の岡三オンライン証券という「革新」的な部分を併せ持っていることです。岡三証券グループは、対面販売を行う証券会社としては国内大手5社に次いで6番目、ネット証券としても7番目の規模です。対面とネットの両方で上位に名を連ねているのは、当社だけです。

 

── 市場環境をどう見ますか。

新芝 現在は「インセキュア」、つまり非常に不安定な時代に入っています。各国で格差が問題になり、資本主義の存在意義も問われています。背景にはデジタルプラットフォームなどIT(情報技術)の進展によるグローバリゼーションの大きな波があるでしょう。つまり、企業や個人が国を超えて活動する時代になり、これまで経験したことのない変化が起きているのです。

 そうした不安定で先の読めない時代なので、社員には「投資アドバイスのプロになれ」と言っています。

 

 持ち株会社の岡三証券グループの下に、対面販売とコンサルティングビジネスの中核企業の岡三証券、ネット専業の岡三オンライン証券のほか、岡三にいがた証券、三晃証券、三縁証券などの地域証券、海外拠点の岡三国際、資産運用に特化した岡三アセットマネジメントなど10社を擁する。さらに業務資本提携先の証券ジャパン、丸国証券も合わせた多角的なビジネス展開は、日本の証券業界の中でも独自の存在だ。

 

── 4月から新しい中期経営計画が始まります。

新芝 持ち株会社の岡三証券グループとしては、より長期的な目標として、グループ全体でROE(株主資本利益率)10%を安定的に達成できる体制を目指します。

 また、現在のグループ全体の顧客口座数は68万口座、預かり資産は4・5兆円ですが、創業100周年に向けて23年4月までに「100万口座」「預かり資産10兆円」を目標に掲げています。ただ、数字を追うのではなく、あくまで顧客本位の結果として数字を達成することが理想です。「目的」と「手段」を逆転させないよう、社員に心がけさせています。

 

── 今年、岡三オンライン証券を子会社化した狙いは。

新芝 ネット証券は1990年末ごろに各社がいっせいに創業したのに対し、2006年創業の岡三オンライン証券は最も後発の方でした。しかしながらプロの個人投資家に評価され、売買高でネット証券の上位に食い込みました。半面、一般消費者をうまくとりこめず、規模感が出ないことが課題でした。裾野を広げるためには、資金的・人的に経営資源を投入した経営強化が必要と判断し、この改革を進めるために完全子会社化しました。また、株取引をネットで行う人が年々増え続ける中、岡三証券グループが100年を超えて生き残るためには、ネット証券というパーツは不可欠になります。

 

 ◇iDeCoに期待

 

── 対面販売はどうですか。

新芝 対面にはネットにない強みがあります。ネット証券は本屋に例えればネット通販サイトのようなものです。欲しい商品はすぐに買える半面、派生商品や関連ジャンルの広がりを知ることに限界もあります。その点、対面は街の本屋さんのようなもので、欲しい商品以外も目に飛び込んできます。販売員が幅広く商品を説明してくれるので、自分に合った商品選びが可能です。中核の岡三証券や地域証券では、対面の強みを生かした販売を行っていきます。

 

── 個人型確定拠出年金(iDeCo)にも力を入れていますね。

新芝 対面証券では運営管理手数料を業界最安に設定しています。iDeCoは国が普及を後押ししており、優遇税制もあって加入者の増加が期待できます。ここでも対面販売が生きます。まだiDeCoを知らない顧客に、来店時に紹介すれば、「セレンディピティ」、つまり「予想外の発見」を与えることもできます。

 

── 海外戦略は。

新芝 香港に拠点を置く子会社の岡三国際のほか、海外の証券会社7社と提携しています。また、ロンドン、ニューヨーク、上海の3カ所にリサーチセンターも設けています。各拠点のネットワークにより海外マーケットの最新情報を随時収集します。

 

── 今後の経営戦略は。

新芝 「多様性」を重視した戦略を取っていきます。「バイオダイバーシティー(生物多様性)」という言葉があります。一本の木よりも林、林よりも森の方が生命力が強く自然に繁殖していきます。つまり、多様な形態を抱えていた方が強いのです。

 これは証券業界にも当てはまります。証券業務に加え資産運用や市場調査を行う会社があれば相乗効果が出ます。この点、当社グループでは、子会社の岡三アセットマネジメントに約170人の資産運用部隊がいます。岡三証券内には市場調査部隊のアナリスト約80人、商品設計部隊が約150人いて、傘下の地域証券会社が個別に対応できない業務を補っています。一方で各地域証券は、中央部隊の成果を、それぞれが特化している地域で生かします。

 これからの証券業界は中央集権と地方分権の両方の強みを生かすことが生き残りのカギになると見ています。そのためにも多様性を確保することが重要だと考えます。

(構成=大堀達也・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 米国への留学を終え、業界アナリストとして復帰しました。その後、経営改革プロジェクトに携わりました。1998年に当社の加藤精一元会長が日本証券業協会会長に就いた時、秘書として出向しました。山一証券破綻など激動の時代に業界全体を見る仕事ができたことが大きな経験になりました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 「バリュー投資の父」ベンジャミン・グレアムとその弟子デビッド・ドッドの共著『証券分析』です。

 

Q 休日の過ごし方

A ジョギングを楽しんでいます。

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 ■人物略歴

 ◇しんしば・ひろゆき

 1958年生まれ。東京都立小松川高校、早稲田大学商学部卒業後、81年岡三証券グループ入社。98年日本証券業協会に出向し会長秘書。2001年取締役。常務執行役員、専務執行役員などを経て、14年4月社長就任。岡三オンライン証券会長も兼務。

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事業内容:証券ビジネスを中核とした投資・金融サービス業

本社所在地:東京都中央区

創業:1923年

資本金:185億8900万円(連結、2016年3月)

従業員数:3536人(連結、16年9月)

業績(16年3月期・連結)

 営業収益:829億2700万円

 経常利益:173億9600万円

2017年

3月

07日

経営者:編集長インタビュー 尾賀真城 サッポロホールディングス社長

◇もう一度、ビール回帰へ

 

 ◇Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 貴社の強みは。

尾賀 サッポロラガービールのラベルには、「JAPAN'S OLDEST BRAND(日本で一番歴史あるブランド)」とあります。作り方から追求し、原材料の麦やホップを独自に品種改良して作るなど、創業時からこだわりと責任を持ち続けています。

 2003年に持ち株会社体制となり、酒類、食品・飲料、外食、不動産の4本柱で事業を展開してきました。「黒ラベル」「エビス」や、老舗ビアホールを運営する「サッポロライオン」、グループで運営する商業施設「恵比寿ガーデンプレイス」(東京・渋谷)などがわれわれの財産です。

 

 1876年に政府の開拓使が北海道札幌市に前身である日本初のビール醸造所「開拓使麦酒醸造所」を設立した。そこで作られた「札幌ビール」が社名の由来だ。ビールのラベルに描かれている星マークは、北海道開拓使の記章でもある北極星を表す。

 

── 業績は。

尾賀 16年12月期の連結決算は、売上高が前期比1・5%増の5418億円、純利益が同55%増の94億円でした。17年12月期も増収増益の見通しです。苦しい時代もありましたが、いろいろとやってきた成果が表れつつあると思います。祖業のビールは、黒ラベルやエビスなどの販売が伸びています。ここ2年ほど、ビールに焦点を当ててやってきたことが成果に結びつきました。

 新たに投資してチャレンジしてきた事業も少しずつ育っています。11年にポッカコーポレーション、16年にみそを製造・販売する宮坂醸造を買収しました。06年のカナダのスリーマンビール買収は一つの転機になりました。スリーマン社はこの10年で販売高1・5倍、営業利益2・8倍と順調に推移しています。

 また、焼酎や洋酒の分野に参入しました。ラムブランド「バカルディ」などを有するバカルディジャパンと提携することで、扱う洋酒の種類が増えました。お客様に総合的にお酒を提供することができるようになったことが大きいです。

 

── 業績寄与の不動産事業は。

尾賀 札幌、恵比寿、銀座など立地のよいところに賃貸オフィスや商業施設を保有しており、賃料収入など安定した収益が上げられる事業なので、きちんとやっていきたいです。

 

── そのほかの海外事業は。

尾賀 サッポロUSAの販売量も伸びています。米国ではサッポロがアジアのビールメーカーで最も売れています。アジアでは、べトナムに工場を作って5年が経過しました。需要が高い業務用ビールに注力し、黒字化することが一つの課題です。

 

── 力を入れている食の分野は。

尾賀 ポッカの代名詞でもあるレモンは飲料のフレーバーとして使われることが多いです。「レモンでできることはポッカが全部やる」ということを追求していきたいと思います。例えば、産地の違いがどう製品に表れるかなど、掘り下げることができていない部分もあると思います。

 

── M&A(合併・買収)戦略は。

尾賀 分野に限らず、互いに価値を高められる相手ならば、可能性はいろいろあります。これからの時代はあらゆる角度から事業を考えていかなければなりません。

 

 ◇支持される商品を

 

── ビールに回帰する理由は。

尾賀 発泡酒、新ジャンルを初めて作ったのはサッポロです。開発した1990年代半ばから00年代前半はデフレで、物の低価格化が進んでおり、なるべく手に取ってもらえるように、いろいろな商品を作りました。

 その結果、他社を含めて競争となり、本来われわれが持っているブランド価値が希薄になったと感じました。お客様が求めることを考えた時、もう一度、ビールだと思いました。

 

── 消費者のニーズをどう分析していますか。

尾賀 酒類が多様化する中で、お客様にとってビールの位置づけが変わってきました。30年前は「どこに行ってもビール」でしたが、今では乾杯後の2杯目からは他のお酒、多くても3杯は飲まないのが現状です。

 ですから、提供の仕方や商品開発を工夫する必要があります。例えば、ゆっくり嗜(たしな)むビールなど、2杯目に飲んでもらえるようなビールを開発しなければなりません。シーンに合わせた選択肢が増えるとビールの幅も広がっていくと思います。

 

── ビール系飲料で4位のシェアをどのように伸ばしていきますか。

尾賀 シェアを高めればすぐに利益に結びつくとは限りません。今よりも当然上を目指しますが、シェアはお客様に選ばれた結果だと思っています。現場が絶対に負けないという意識を持ち、お客様の嗜好(しこう)を捉えていかなければなりません。

 

── 今後の目標は。

尾賀 20年に売上高6400億円、営業利益340億円という目標を掲げています。営業利益は300億円を上回ったことがないので、達成すれば初となります。ビール、飲料、食品などでそれぞれ何をするか考え、数字につなげていきたいです。

 サッポログループは「個性輝くブランドカンパニー」を目指しています。各事業が輝き、ビール会社なので基本的に楽しい、味のある会社にしたいといった思いがあります。

 それにはどうしていけばよいか。例えば、プレミアムビールといえばエビスしかない、北海道に行ったら絶対に「サッポロクラシック」だというように、圧倒的に支持され、「いいね」と言ってもらえるものを作る会社にしていきたいと思います。

(構成=丸山仁見・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A バブル絶頂期で池袋エリアを担当していました。毎日、深夜に帰宅するくらい営業に奔走していました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 司馬遼太郎の『坂の上の雲』『竜馬がゆく』です。明治時代の群像劇をわくわくしながら読みました。

 

Q 休日の過ごし方

A 時間があれば妻と旅行に出かけています。

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 ■人物略歴

 ◇おが・まさき

 1958年生まれ。東京都出身。国学院久我山高校卒業。82年慶応義塾大学卒業後、サッポロビール(現サッポロホールディングス〈HD〉)入社。主に営業・マーケティング部門を歩む。2009年サッポロビール執行役員、13年同社社長、HD取締役兼グループ執行役員などを経て、17年1月HD社長に就任。58歳。

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事業内容:酒類、食品・飲料、外食、不動産

本社所在地:東京都渋谷区

設立:1949年9月1日(1876年9月創業)

資本金:538億8600万円

従業員数:連結7858人(2016年12月末現在)

業績(16年12月期・連結)

 売上高:5418億4700万円

 営業利益:202億6700万円

2017年

2月

28日

経営者:編集長インタビュー 丸山寿 日立化成社長

◇高機能材料ベースに1兆円企業へ

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 日立化成はどんな会社ですか。

丸山 1912年に日立製作所がモーター用の絶縁ワニス(電気の流れを遮る樹脂)を作ったのが当社の始まりで、62年に分離独立しました。一言で言えば、樹脂を混ぜたり、貼ったり、塗ったり、ひっぱったりして材料を作っている会社です。

 

── どんな製品がありますか。

丸山 例えば、当社が世界シェア約5割を持つ「ディスプレー用回路接続フィルム」という製品があります。絶縁性の樹脂の中に電気を通す粒が入ったセロハンテープのような材料で、スマートフォンで使われています。粒を通じて縦方向に電気を通し、横には逃がさない特性があるため、複数の電極を一括して取り付けることができます。

 そういった材料を、その時々の成長市場に提供してきました。現在の主力は半導体や液晶などの機能材料と、自動車部品や電池などの先端部品・システムで、利益率が高いのは前者、売り上げが安定しているのが後者です。

 

 日立化成は1月25日発表の第3四半期決算で通期の業績見通しを上方修正し、最終利益の見通しを従来の前年同期比9・1%減の350億円から、同2・6%増の395億円に引き上げた。2年連続の最高益更新が視野に入る。

 

 ◇電池が業績押し上げ

 

── 業績好調の原動力は。

丸山 スマホ向け材料と電池部門の成長、原価低減の推進です。中国のスマートフォン、中でも高級スマホ向けの利益率が高い材料の売り上げが順調に伸びています。

 

── 電池市場は。

丸山 電池事業は大きく二つ。一つはリチウムイオン電池用の負極材です。世界トップのシェアを持っています。リチウムイオン電池の需要拡大により調子がいいです。もう一つは自動車用と定置用の蓄電池です。

 

── 蓄電池はどう伸ばしますか。

丸山 業務用定置型蓄電池に強い新神戸電機を完全子会社化・吸収合併し、海外展開に強い台湾神戸電池を完全子会社化しました。この2社はもともと当社のグループ会社です。自主独立の方針で別会社として事業展開してきましたが、現在はニーズが多岐にわたり、事業展開のスピードも加速しています。一緒になり、総合力を発揮しようという方向にこの10年くらいで変わってきました。

 また2017年2月にイタリアの自動車部品メーカー、フィアム社から自動車・産業用の鉛蓄電池事業を買収しました。

 

── 半導体市場での取り組みは。

丸山 半導体製造の後工程でIC(集積回路)チップと回路基板を接着させる「ダイボンディングフィルム」で世界シェア4割を押さえています。半導体はIoT(モノのインターネット)の進展で需要がさらに伸びると期待しています。

 ただし、半導体の世界は非常に動きが速いです。これまでは当社が直接商品を納めるお客様の要望に素早く応えることを重視してきました。しかし、そのお客様が業界の負け組になれば、当社も一緒に沈みます。力を持っている企業を見極め、直接そこに聞きにいく。どんな機能を求めているのか、半導体部品メーカーなど直接のお客様だけでなくその先のお客様と一緒に考えていかなければ生き残れません。

 

── トランプ新大統領の誕生で世界経済の先行きは不透明感を増しています。

丸山 当社もメキシコに工場があるので、気にならないといえばウソになります。しかし、最終的にユーザーにとってどんな価値があるかを見逃さないことが大切です。

 当社は欧州に製造・開発の拠点がありませんでした。伊フィアム社の電池事業の買収は、悲願だった欧州進出の足がかりになるものです。フィアム社を橋頭堡(きょうとうほ)に、自動車や半導体材料につなげていきたいです。

 

 ◇営業利益率2桁へ

 

── 中期経営計画は。

丸山 25年度に売上高1兆円、営業利益率14%超の企業になるという将来像をまず描きました。そして18年度までの3年で営業利益率11%を目指します。野心的な数字ですが、材料技術を基盤に、付加価値の高い製品を持つ当社ならば、十分に達成できると考えています。

 ただし、戦い方は変えなければなりません。成長市場が少なくなる中ではシェアを取っていくしかありません。自前主義を捨てて、他社の技術を使う、M&A(合併・買収)で外部の力を取り込むなどのオープンイノベーションにも取り組んでいます。茨城県つくば市の「オープン・ラボ」という当社の施設に、半導体製造の後工程の機械をそろえ、お客様が材料を持ち寄り装置メーカーなどと一緒に試行錯誤する場として活用していただいています。

 

── 今後の注力分野は。

丸山 ライフサイエンス分野です。再生医療用細胞の開発・受託製造施設を横浜に新設します。米PCT社から導入した技術を使ってがん治療のための細胞培養の受託事業を18年度に始めます。早期に黒字化する見通しです。情報通信、環境・エネルギー、自動車に次ぐ四つ目の柱にするには10年かかると思いますが、やっていきます。

(構成=花谷美枝・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 法務部門にいました。私は契約書を書いていれば幸せな人間。要望を聞きながら契約書を作成するのは本当に面白いです。

 

Q 「私を変えた本」は

A ビジネスではクレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』。小説ならば北杜夫の『楡家の人びと』。

 

Q 休日の過ごし方

A 泳いで、走って、本を読んでいます。

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 ■人物略歴

 ◇まるやま・ひさし

 1961年生まれ。長野県立飯田高校、一橋大学法学部卒業後、83年日立化成入社。社長室広報・IR担当部長、自動車部品事業部副事業部長、執行役常務などを経て、2016年4月社長就任。55歳。

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事業内容:機能材料、先端部品・システムの製造販売

本社所在地:東京都千代田区

設立:1962年10月10日

資本金:155億円

従業員数:連結1万9117人、単体6209人(2016年3月現在)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:5465億円

 営業利益:530億円

 

2017年

2月

21日

経営者:編集長インタビュー 宮下直人 総合車両製作所社長

◇ステンレス車両の先駆けとして進化させる

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 会社の成り立ちから教えてください。

宮下 当社は、2012年にJR東日本が東急車輛製造を買い取って設立し、14年JR東日本新津車両製作所の車両事業を経営統合、新津事業所(新潟県)としました。JR東日本は鉄道の国内需要が人口減少で縮小するなかグローバルな展開を目指し、車両製造を第4の柱に位置づけました。

 鉄道事業が背景にあるので、例えば海外に進出する時、メンテナンスや運行、駅ナカまでパッケージとして展開することができます。その意味で社名に「総合」とつけています。

 

 ◇車両のシステム端末化

 

── 強みは何ですか。

 

宮下 東急車輛は日本で初めてステンレス製車両を製造した会社です。約60年前に、当時の社長がブラジルでアメリカ製のステンレス車両をみて、「これだ」と製造を指示しました。ステンレスはさびないので清掃が楽になり、塗り替えも不要です。美観性にすぐれ、重さも今はアルミ車両並みになっています。JR東日本は通勤車両をステンレスに替えてきました。

 いま一番力を入れているのが、オールステンレスの通勤車両「サスティナ」です。ブランディングすると同時に共通プラットフォームにより製造コストを下げています。

 鉄道車両は顧客の鉄道会社のニーズに合わせてカスタマイズするため、少量生産でコストがかかります。一方で安さも求められ、収益が出にくいのがジレンマでした。ボディーの部品や電装品はこれまで顧客ごとにバラバラのため発注単位が小さかったのですが、どこまで共通して仕入れ規模を大きくできるか取り組んでいます。

 

── 鉄道会社傘下である利点は何ですか。

 

宮下 鉄道会社にとって保守のコストダウンは必須です。線路や架線の画像を走りながら撮る車両を開発しました。山手線に投入されているE235系です。車両のトラブルを把握して地上に送ることもできます。

 従来は例えば月に1度線路を点検し、限度値を超えていれば取り換えていましたが、日々撮影するビッグデータを分析すれば、取り換え頻度を下げることができます。

 鉄道車両はシステムの端末になりつつあります。地上の管理システムと車両との連携は、事業者とともに開発した方がかゆいところに手が届く機能になります。

 

 ◇輸出の勉強代

 

── この5年間のチャレンジは、何ですか。

 

宮下 東急車輛時代に赤字のため中断した新幹線の製造を再開しました。それが北陸新幹線E7系です。72両を納入しました。高速車両は技術力を維持するために必要です。採算はまだ厳しいですが、新幹線は社員にとって特有の求心力があります。

 輸出も円高で採算が見合わず04年に中断していましたが、再開しました。第1号が昨年8月に開業したタイの都市鉄道パープルラインです。海外向け「サスティナ」を63両納入しました。

 

── 輸出の手応えは。

 

宮下 途中で何度もくじけそうになりましたが、完成にこぎつけたことは自信につながりました。欧州基準に合わせるため、設計を何度もやり直しました。

 一番大変だったのは計5万ページに及ぶ文書作成です。設計思想から細かく書かなければなりません。日本流では何から何まで文書に書かなくても良い製品はできると考えます。設計費が通常の倍かかりました。高い勉強代を払いました。

 

── 高くついた勉強代をどう生かしますか。

 

宮下 いい案件を探しています。東南アジアが一番のマーケットでしょう。欧州も広いですから、大メーカーの手が回らないニッチな案件を狙います。

 ただし、日本のやり方を認知させていかなければなりません。欧州規格に合わせるのではなく、日本の規格を打ち出すべきです。

 

 ◇ハイブリッド世界一

 

── 技術面で新たな取り組みは、ありますか。

 

宮下 サスティナのハイブリッド車両ですね。海外で特に注目を浴びています。ディーゼル発電機と蓄電池を積んで非電化区間を走ります。ハイブリッド車両は環境に優しく、初期の設備投資や保守のコストが下がります。

 既に29両が営業運転しています。当社が世界で一番多くハイブリッド車両を作っているメーカーではないでしょうか。蓄電池を積み、架線のあるところではパンタグラフから電気をとるタイプの車両もあります。

 

── 今後の経営目標はどんなものですか。

 

宮下 13年に、10年後は売上高1000億円という目標を掲げました。16年3月期は430億円で目標はまだ高いところにあります。海外比率を4割まで高めていきます。

 社内の課題としては、製造や設計など部門の壁を越えて、一体感をどう作るかです。ただ、モノ作りは、自分たちの仕事が目に見える形となり、社員のプライドやモチベーションにつながるのがいいところですね。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A JR東日本で車両の故障や事故を担当していたら、「事故対応が得意だから」と広報に。非常に鍛えられました。上司には「軸足をJR内部ではなく、外に置け」と教えられました。JR以外の民鉄がお客様である今に生きています。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『失敗学のすすめ』(畑村洋太郎著)です。日本人はメンツを守るために失敗を水に流そうとするので同じ轍(てつ)を踏みがちです。失敗を分析し、繰り返さないことが大事だと教えてくれました。

 

Q 休日の過ごし方

A ゴルフですね。

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 ■人物略歴

 ◇みやした・なおと

 東京都出身。都立西高校卒業、東京大学大学院機械工学専攻修了。1979年国鉄入社。JR東日本安全対策部長、常務取締役を経て、2012年4月より現職。63歳。

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事業内容:鉄道車両製造

本社所在地:横浜市金沢区

設立:2012年4月

資本金:31億円

従業員数:1112人(2016年4月現在)

業績(2016年3月期)

 売上高:430億円

 営業利益:マイナス11.9億円

2017年

2月

14日

経営者:編集長インタビュー 辻庸介 マネーフォワード社長

◇家計と企業のおカネをダイエット

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 金融とIT(情報技術)の融合である「フィンテック」を使ったベンチャー企業として注目されています。現在の事業は。

辻 主に二つあります。一つは、個人がスマートフォンで使う自動家計簿・資産管理アプリ「マネーフォワード」で、登録ユーザー数は1月に450万人を超えました。

 もう一つが、中小企業や個人事業主向けの「MFクラウド」で、会計や確定申告、経費などをインターネット上で管理するサービスです。この利用者数は、50万ユーザー(法人や個人事業主)を突破しています。

 

 

── 家計簿アプリの強みは。

辻 約2600社の金融機関やクレジットカード会社の情報と連携して、「電気代」や「交際費」など自動でデータを仕分けし、家計の見える化をします。レシートなどをスマホのカメラで撮って、支出内容を自動認識する機能もあります。家計簿を自動で作れるので、支出しすぎている項目や、1年前と比べて資産がどう推移したかなどを楽に確認できるようになります。

 このアプリを使って、月1万1000円以上の収益改善(節約)効果があったという調査もあります。体重を毎日記録するダイエット法「レコーディングダイエット」にも似ていて、おカネを意識することで、おカネの使い方が変わってきます。

 

── どこで収益化しますか。

辻 家計簿アプリでは、三つあります。一つ目が有料版です。月額500円払うと、1年以上前のデータを見られたり、11件以上の口座と連携したりできます。月間平均2万円以上の収支改善につながったというアンケート結果も出ています。

 二つ目は広告モデルで、アプリ内に出る広告を主に金融機関から出していただいています。三つ目は、「マネフォワード・フォー・○○銀行」という形で、銀行と連携した家計簿アプリを提供し、提携企業から利用料をいただいています。今は、住信SBIネット銀行、静岡銀行など8行と提携しています。

 

── 法人向けの「MFクラウド」の料金体系は。

辻 例えば、会計事務所や中小企業、個人事業主など向けに提供する会計サービスは、月額1980円からです。個人事業主向けの確定申告サービスは月額800円、経費サービスは、従業員1人当たり月額500円というようなイメージです。

 

── 最終的に目指す姿は。

辻 おカネのモヤモヤを取っ払って、おカネについて悩まない世界を追求したいです。今は使ったおカネの把握を自動化するところまでは来たので、将来は、投資や保険、子供の養育資金をどうするかなど、現状把握から将来のおカネに関するサービスへと発展させていきたいです。

 

 ◇ロボアドや融資にも

 

 設立は2012年5月。辻社長がソニーやマネックス証券時代に働いた元同僚や友人6人が集まった。いずれも「金融とITが好きなメンバー」(辻社長)。今は、ジャフコやマネックスベンチャーズなど企業の出資を集め、社員数は230人まで拡大している。

 

── 起業当時から家計簿アプリを出していたのですか。

辻 いえ、当初は構想だけで、アプリを出したのは設立から半年後の12年12月です。ビジネスモデルも考えずに始めましたが、13年7月に有料版を開始したところ、契約者が出てきて「このサービスは将来性がありそうだ」となりました。そして、13年11月には、法人向けの「MFクラウド」を開始し、キャッシュフローが出てきたのが15年ごろからです。

 

── 家計簿アプリはなぜ成功したのでしょうか。

辻 よく働いたこともあると思います(笑)。それは半分冗談ですが、当時はスマホが普及するなかで、スマホに特化した家計簿サービスはありませんでした。それと、成功させる“必殺技”はなくて、利用者の話をひたすら聞いて、新機能や使い勝手などすぐに対応しました。

 それが口コミで広がり、アプリ配信サイトでのレビュー(評価)が良くなりました。14~16年まで3年連続でグーグルの「グーグルプレイ・ベストアプリ」にも選ばれ、ユーザー数もまた増えていきました。開発陣を社内で抱えているので、開発スピードはかなり速いと思います。

 

── 銀行などの口座情報をスマホのアプリに出すことが心配な利用者もいます。

辻 当社の信頼の要はセキュリティーです。金融機関出身者が経営陣に多いので、お預かりしたデータは暗号化して厳重に保管して、金融機関並みのセキュリティーをしています。許諾なしに外部に出すことはありえない。そういうことをすると、我々のサービスが終わってしまいます。当社は行動指針を作っていて、「利用者視点」「技術主導」「公平」の三つを掲げています。

 

── 今後の展開は。

辻 当社は15年12月に、投資を自動で指南するロボットアドバイザー(ロボアド)を展開する「お金のデザイン」(東京都港区)に出資しました。資産運用などでどう連携するかも考えています。

 また、融資の新しい与信モデルも構築しています。すでに、法人や個人事業主向けの融資審査をGMOペイメントゲートウェイと始めています。今は9行と話しており、融資でも新しいおカネの流れを作っていきたいです。そして、海外にもアジア諸国から積極的に展開していきます。

(構成=谷口健・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 2009~11年に米国へ留学しましたが、英語が苦手だったのでかなり苦労しました。帰国後、36歳で起業しました。

 

Q 「私を変えた本」は

A インテル元CEOのアンドリュー・グローブさんの『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』。柳井正さんの『経営者になるためのノート』。あとは、藤田田さんの本も好きです。

 

Q 休日の過ごし方

A 休みが取れる日は、テニスをしたり、本を読んだり、子供と遊んだりしています。

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 ■人物略歴

 ◇つじ・ようすけ

 1976年大阪府生まれ。甲陽学院高校(兵庫県)卒、京都大学農学部卒。2011年米ペンシルベニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー、マネックス証券を経て、12年マネーフォワード設立。40歳。

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事業内容:家計簿アプリ、会計ソフトなどのITサービス運営

本社所在地:東京都港区

設立:2012年5月

資本金:22億9000万円

累計資金調達額:約48億円

従業員数:230人

 

業績 売上高:非公開

2017年

2月

07日

経営者:編集長インタビュー 大前孝太郎 城北信用金庫理事長

◇地域創生とコミュニケーションのプロ目指す

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 城北信金はどのような金融機関ですか。

大前 若い人にチャンスがある、仕事をさせる会社です。進取の気性に富み、自分で進んで仕事をしたい人には、私が直接判断し、どんどん挑戦してもらっています。

 

── 金融業界についてどのような見方ですか。

大前 私は20年来、国内に銀行が多すぎると考える「オーバーバンキング」論者です。そのため、従来の銀行業務だけでは先行きは厳しく、金融以外のサービスを作り上げ、金融と非金融の2本柱で進んでいかないといけないと考えています。

 

── 例えば、どのような取り組みですか。

大前 一つが、昨年7月に創設した「Johoku Athlete Club」です。オリンピックを目指す7人の女子アスリートとマネジャー2人の計9人を職員として採用しています。顧客の中には、スポーツに非常に関心のある経営者や、一般でもシンパシーを感じてくれる顧客がおり、「ぜひ取引をしたい」と言ってくださいます。金利を引き下げなくても、お付き合いできる状態をなるべく作りたいと思います。

 

── なぜ、スポーツなのですか。

大前 スポーツは、経済・社会・教育的にも非常に重要な分野であり、コンテンツであると考えています。実は北区赤羽は日本オリンピック委員会の強化施設があるアマチュアスポーツのメッカです。女子バレーのスター選手が毎晩食事に来るなど、地域との接点があります。私は文部科学省に対して、アスリートのセカンドキャリアをどうするのか、企業も応分の支援をすべきだと提案していました。そこで、率先して採用したのが、クラブの始まりです。

 

── アスリート職員は、どのような仕事をしているのですか。

大前 銀行業務をしてもらうわけではありません。彼女たちには背負ってきた人生があるし、普通の人には得難い経験をしています。そこで、例えば小学校の総合学習の時間に子供たちに実技を教えたりしています。これはある種のタレント育成、プロダクション業務です。私にとって大事なのは金融そのものではなく、その機能を活用して地域を活性化することです。コンテンツは地域に資するものなら、何でも良いと考えます。

 

── 信用金庫の顧客をどのように取り込むのですか。

大前 2015年4月にポータルサイト「NACORD(ナコード)」を立ち上げました。サイバーエージェントと連携したクラウドファンディング(インターネットを活用した資金調達)機能や、マーケティング支援機能があります。中小企業のプロモーションは誰がやるのか、という問題意識からスタートしました。中小企業はものづくりは得意ですが、売るのは得手ではありません。そこで、一番身近な我々が、広告代理店的なノウハウを積んで、BtoC(企業対個人)向け商品であれば、顧客に届くような仕組みを作りました。

 

 ◇地元企業をプロデュース

 

── 具体的には、どのようなものですか。

大前 「NACORD」の特徴は、資金調達だけでなく、商品購入の場でもあることです。

 例えば、新しいレストランを開業する時に、当金庫のライターが経営者に取材し、美しい写真を撮影して、ポータルサイト上でプロデュースする。そこで、ディナー券などを販売します。台東区根岸にある老舗の洋食屋さんでは、レトルトパックのハヤシライスやローストビーフを販売し、2日間で250万円の売り上げがありました。サービスの利用は無償です。草履やげたを製造する会社なども含め、今、30社くらいが利用しています。

 

── 内閣府の官僚を経験するなど、自身の経歴もユニークです。

大前 内閣府時代に福井県鯖江市で、地元眼鏡フレーム産業の振興を手掛けました。日本の眼鏡フレームの大半は鯖江で製造し、産業集積度では他の自治体に比べて恵まれています。

 しかし、シャネル、ルイ・ヴィトンなどの欧米ブランドのOEM(受託生産)中心でやってきたので、自身のブランド力はありません。そうした中、中国企業の台頭で、どんどんOEMの仕事を奪われていきました。そこで、私は事業をいろいろと仕掛けました。

 代表例で言えば、若者向けのブランドに鯖江でファッション眼鏡を作ってもらい、ファッションショー「東京ガールズコレクション」で、鯖江製であることを公表して、ショーを行いました。モデルが身につけている眼鏡を売るのですが、1日で5000個が完売しました。まさにこの時の経験が、「NACORD」などのビジネスプロモーションの仕事につながっています。

 

── 信用金庫の常識を変えたいと。

大前 いろんな形でコミュニケーションを展開していきますが、「信用金庫」にはこだわりたいと思います。信用金庫は、地域に密着し、エンドユーザーに深く関われるコミュニケーションのプロです。最近は、北区の区長から、観光協会の立ち上げを依頼されています。12年から荒川河川敷の花火大会の実行委員長をやっていますし、今後は、都内で一番大きな音楽フェスティバルを仕掛けようかとも思っています。皆さんがよく知っているアーティストを呼ぶかもしれません。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 小渕政権時代に内閣官房で、金融危機対応に追われていました。どっぷり、政策の中につかり、エキサイティングでした。

 

Q 「私を変えた本」は

A 中学の時に読んだ山崎正和さんの『藝術・変身・遊戯』が、私の何かを変えました。芸術の何たるか、という話が新鮮でした。

 

Q 休日の過ごし方

A 音楽が好きなので楽曲制作をしています。エレキギターを弾きながらフュージョン系の作品です。

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 ■人物略歴

 ◇おおまえ・こうたろう

 東京都出身。東京都開成高校、慶応義塾大学卒業。1987年住友銀行(現三井住友銀行)入行。98年内閣官房特別調査員、2001年内閣府参事官補佐、09年城北信用金庫常務理事を経て、15年6月より現職。52歳。

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事業内容:金融業

本部所在地:東京都北区

設立:1921年5月

出資金:302億円(2016年3月期)

従業員数:1988人

業績(2016年3月期)

 経常収益:393億円

 業務純益:82億円

2017年

1月

31日

経営者:編集長インタビュー 八郷隆弘 ホンダ社長

◇世界6極体制を進化させる

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 中国事業が好調です。

八郷 中国企業との合弁会社2社のラインアップを見直した成果が出ています。

 

従来は、グローバルモデルの車種を2社に割り振って販売していました。例えば、「アコード」は広汽ホンダ、「シビック」は東風ホンダが販売していましたが、私が中国生産統括責任者になった時、同じプラットフォーム(クルマの基本構成部分)で二つの車種を作り分け、効率よくラインアップを構成しようと改革を進めてきました。

 

広汽ホンダが日本で人気の小型SUV(スポーツタイプ多目的車)の「ヴェゼル」を販売し、東風ホンダもデザインを少し変えた「XR─V」を販売して人気を得ています。共有部品をまとめて買うことで生産コストを下げ、安定的に120万台を生産できる体制ができてきました。

 

 中国事業の好調は過去の教訓が生きている。2000年代、世界販売は米国頼みで「一本足打法に近かった」(八郷社長)。12年秋、販売の倍増を目指し、世界6極(日本、中国、アジア大洋州、北米、南米、欧州)で開発・生産・販売を一貫して行う「グローバル6極体制」を打ち出した。だが、各拠点の開発現場の負担が増えた結果、人気車種「フィット」のリコール問題も起きた。そこで、グローバル車の開発を強化、それを軸に地域モデルを派生させる改革を行う。その成果が世界各地でヒットした新型シビックだ。

 

── ようやく6極体制がうまく回り始めているように見えます。

八郷 地域専用車とグローバル車へのテコ入れが実を結びつつあります。6極体制の強化の結果、地域専用車は、中国ではSUV、北米ではライトトラック、日本では軽自動車と、地域の需要に合ったクルマが作れるようになりました。

 一方、グローバル車はプラットフォームやデザインを一新しました。特にシビックは前のモデルの評判がよくなかったため、世界展開できるようモデルチェンジを早めました。

 

── 今後の世界戦略は。

八郷 地域専用車を強化すると、グローバル車の派生モデルが増えるため部品数が多くなります。地域専用車の間で共有する部分を増やすなど効率化を進めます。また、グローバルの生産能力555万台に対し販売が498万台とギャップがあります。これを縮小するため、生産に余剰感がある日本と英国から米国への輸出を増やすなど、6極で連携を強化しています。これが奏功して、米国の販売は堅調です。

 ただ、16年は英国の欧州連合(EU)離脱問題や米大統領選でのトランプ氏勝利などもあり不透明感が高まっています。環境の変化を見極めて効率向上を図っていきたいです。

 

── 16年度の業績見通しは。

八郷 下期は想定為替レートを1ドル=100円にしています。新興国通貨の影響でマイナスの部分もありますが、ドル・円だけで見れば1円円安になると営業利益は年間120億円改善します。業績は上振れを見込んでいます。

 

 ◇グーグルと自動運転で提携

 

── 環境規制や自動運転という大きな変革の波にどう対応しますか。

八郷 ホンダは「二つのゼロ」を目標に掲げています。すなわち、地球環境にやさしいゼロエミッション(排ガスを全く出さない)車、交通事故ゼロを実現する自動運転です。

 ゼロエミッション車は、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などの手法がありますが、電動化の方向を見据えて開発を進めます。

 

 一方、自動運転は、まず渋滞時や夜間の走行でドライバーの負担を軽減する運転支援から始めます。

 その先の完全自動運転は、人工知能(AI)が重要になります。AIのハードではなく、クルマをどう制御するかといったソフトの部分は、自動車メーカーとしての経験が生きるので内製化する価値があります。このためソフトエンジニアの教育にも力を入れていきます。

 

── 他社との提携やM&A(合併・買収)は。

八郷 ウィンウィンの関係が築けるなら前向きに考えたいです。これまでも技術の進展に応じて電子制御やバッテリーで優れた技術を持つ企業と提携してきました。今後はAIなど自動運転に必要な技術を持つサプライヤーと付き合っていかなければなりません。16年12月にはグーグルの子会社で自動運転開発を専門とする「Waymo(ウェイモ)」と提携しました。自動車業界は課題が多いので、必要であれば他のメーカーとの協業も考えます。

 

── 自動車以外の分野は。

八郷 15年に事業化した自家用飛行機「ホンダジェット」は長い目で大事に育てていきたいです。また、ロボット事業は、歩行補助の医療用ロボの取り組みを拡大させます。

 F1レースは、16年度の成績は苦戦したものの、着実に前進しています。勝たなくてはやる意味がないので、17年度は表彰台に立てるレベルに持っていきたいです。

 

── 大企業であるホンダを、今後どう指揮していきますか。

八郷 ホンダはモビリティーの楽しさを知る現場の人間を中心にモノづくりをしてきた会社です。人々の生活に役立つと同時に、操る喜びがあるクルマを実現するという思いを社員が共有することが大切です。

 自動運転を極めてもホンダらしいクルマができるとは思いません。クルマ離れが進む中、クルマの楽しみをどう作り上げるか、若い社員に考えさせたいです。

(構成=大堀達也・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 本田技術研究所で2代目CR―Vや米国向けオデッセイの開発に当たっていました。開発が楽しくて仕方ありませんでした。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『孫子に経営を読む』(伊丹敬之著)は経営の勉強になるので、今も読み返しています。

 

Q 休日の過ごし方

A 気分転換のためにクルマやバイクでドライブに出かけます。

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 ■人物略歴

 ◇はちごう・たかひろ

 1959年生まれ。神奈川県立相模原高校、武蔵工業大学(現東京都市大学)卒業後、82年ホンダ入社。中国生産統括責任者、常務執行役員、専務執行役員などを経て、2015年6月社長就任。57歳。

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事業内容:四輪車、二輪車の生産・販売、金融サービス事業

本社所在地:東京都港区

設立:1948年9月

資本金:860億円(2016年3月末現在)

従業員数:連結20万8399人、単体2万2399人(16年3月末現在)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:14兆6011億円

 営業利益:5033億円

 

 

2017年

1月

24日

経営者:編集長インタビュー 来島達夫 JR西日本社長

◇「山陰・山陽の魅力を豪華列車で発信します」

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 2015年春に北陸新幹線が金沢まで開業しました。人の流れはどう変わりましたか。

来島 初年度は東京からのお客様が予想の2倍を超え、3倍に増えました。北陸が注目され、関西から北陸への特急利用客も増えています。

 今は北陸新幹線の上越妙高から金沢までが当社の運行ですが、敦賀、そして大阪まで延伸される予定です。新幹線は保有する鉄道建設・運輸施設整備支援機構に貸付料を30年間にわたって収入から返済していくスキームで、営業努力により利用が想定を上回った分は当社の収益になります。北陸と関西、さらに山陰、山陽との交流を促進していきます。東京と大阪がつながれば東海道新幹線の代替軸にもなります。

 

── 今年6月17日には豪華寝台列車「瑞風(みずかぜ)」が走り出します。

来島 鉄道の旅の魅力を訴えるために打ち出しました。基本は1泊2日で京都・大阪と下関の間を山陰経由あるいは山陽経由で片道運行します。料金はロイヤルツインで1人当たり27万円です。2泊3日で一周するコースもあります。

 山陰、山陽の自然や歴史、食材を味わっていただきたい。立ち寄りの観光地では新たに見どころを発掘してもらっています。沿線の工芸品を車内の随所に取り入れています。沿線の魅力を発信し、瑞風以外でも訪れる機会につなげていきます。

 

── 一生に一度は乗ってみたい。

来島 より気軽に長距離の列車の旅を楽しみたいというニーズに応えるための検討も始めています。

 

── 海外展開は。

来島 国内で打つべき手はまだありますが、私たちの経験を海外で生かす道も模索してきました。15年12月にブラジルの都市鉄道事業に、出資の形で参画しました。技術協力の要素を含んでいます。ブラジルはバスとマイカーが中心で、公共交通としての鉄道は需要があります。まずはブラジルですが、今後、各国の事情を見ながら考えていきます。

 

 ◇安全を根幹に

 

── 社長就任まで4年間、福知山線列車事故ご被害者対応本部長を務めました。その経験をどう生かしますか。

来島 安全性向上は経営の根幹だと認識しています。ご遺族の方々、けがをされた方々の思いに向き合い、私自身が取り組まねばという覚悟です。乗客死傷事故ゼロを基本に据え、昨今はホームや踏切の事故を減らす指標を掲げて取り組んでいます。

 

── 事故から10年以上たつなかで、風化を防ぐ手立ては。

来島 事故後に入社した社員が1万人を超えました。事故の悲惨さを語り継ぐことはもとより、教育訓練によって技能を向上させることを意識しています。研修センター内には事故について学ぶ鉄道安全考動館があります。全社員、グループ会社も含めて事故の教訓を共有しています。

 

── 18年3月までの5年間の中期経営計画は、2年目で収益目標を達成し、計画を上方修正しました。

来島 国内需要増のほか、インバウンド(外国人旅行客)の伸びが大きく、鉄道業を中心に収益が伸びました。財務指標のみならず、安全面や事業創造の目標達成に向けて、着実に進めていきます。

 

── 次の経営計画の方向性は。

来島 当社は発足から30年がたちます。この先の30年を意識して、グループ全体が向かえるような、ありたい姿を明確にしたうえで、一定の期間の数値目標や事業戦略として組み立てたい。人口減や高齢化、過疎化がいっそう進み、厳しい環境ではありますが、成長の可能性は持っていると思っています。

 

── 鉄道とは別の事業も拡大しています。

来島 収益基盤を持続的に確たるものとする必要があります。流通、不動産を中心とした生活関連のサービス事業を重視するとともに新たな事業開拓にもチャレンジしています。

 流通では、駅ナカやホーム上の店舗をセブン─イレブンに転換し、売り上げは1・5倍近く伸びました。不動産ではエリア外にも展開して収益を底上げするため、関東で物件を持つ三菱重工業の不動産子会社に70%出資することを決めました。ホテル事業では、既存のホテルブランドとは別に、ハイクラスの宿泊特化型ホテルを大阪・梅田に建設中です。

 16年3月期の連結売り上げは鉄道業とそれ以外の比率が64対36でした。22年度には6対4まで鉄道業以外の比率を高めたいと考えています。

 

── 16年12月にベンチャーキャピタルを立ち上げました。狙いは。

来島 出資そのものが目的ではありません。技術進化が激しくなるなかで、当社の事業に生かせる技術やノウハウを開拓できればと考えています。スピーディーに動いて成果を共有するため新会社を設立しました。

 

── 鉄道以外の比重が増すなか、グループの全体像をどう描きますか。

来島 鉄道を軸にすることは変わりません。流通や不動産、ホテル事業は鉄道と親和性があります。鉄道をコアに連携する業態の集合体です。

 西日本に住む企業グループとして、地域と一緒に生きていきます。当社だけがもうかればいいというものではありません。地域があって、当社があります。西日本エリアが活性化するために、瑞風はじめ当社がお役に立てることがあると思っています。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A JR発足とともに30代がスタートしました。人事部勤労課の副長の立場で労働組合との窓口を3年間務めました。労使関係のルールがないなか試行錯誤でトラブルもありましたが、経験として大きかったと思います。

Q 「私を変えた本」は

A 城山三郎さんの『少しだけ、無理をして生きる』です。自然体では自分の力が伸びない。少しストレッチした目標のもとで常に自分を高めていくという趣旨の章が好きです。

Q 休日の過ごし方

A 最近はジョギングで汗を流しています。

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 ■人物略歴

 ◇きじま・たつお

 山口県出身。下関西高校、九州大学法学部卒、1978年国鉄入社。JR西日本広報室長、人事部長等を経て、2016年6月より現職。62歳。

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事業内容:運輸、流通、不動産業

本社所在地:大阪市北区

設立:1987年4月

資本金:1000億円

従業員数:4万7456人(連結)

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:1兆4513億円

 営業利益:1815億円

2017年

1月

17日

経営者:編集長インタビュー 荻野調 財産ネット社長

◇金融投資を民主化したい

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 創業の動機を教えてください。

荻野 財産ネットはフィンテックのベンチャーですが、当社の考えるフィンテックとは「ファイナンス」と「ネットビジネス」の融合です。

 その視点で、大手銀行のネットバンキングなどを見ると、振り込み画面にしても一昔前の作りです。

 一方、アマゾンなどネット通販サイトは非常に使いやすくできています。アマゾンは客単価が数千円、粗利が1割程度、実益は数%でビジネスを回しています。客単価が数千円で回るネットビジネスのノウハウを、株式投資などで数十万円がやり取りされる金融で展開すれば、大きな利益が出せると考え創業しました。

 

 ◇株価動向の予測精度は80%

 

── ターゲット層は。

荻野 資産が3000万円から1億円の人たちです。日本に1000万世帯あり、金融資産は合計500兆円という最大のボリュームゾーンになっています。ただ、富裕層は黙っていても金融機関が寄ってくるので資産ポートフォリオを組めるのに対し、ボリュームゾーンの人々は資産を増やすために株式やFX(外国為替証拠金取引)を始めるのが一般的です。ところが、知識がなく損失を出すケースが多いのです。富裕層との間に情報格差があります。

 また、株や投資信託を買いに証券会社や銀行に行っても、他社の商品を比較検討できない上に、個人情報の提供が必要で、気軽に買えません。実際、証券会社の口座数は2300万ありますが、その多くは使われていません。

 そこで、資産を増やすための方法や有用な情報を提供し、匿名でも簡単に金融商品を比較検討できるサービスを作ることで、金融商品の敷居を低くしたいです。

 

── 具体的なサービスは。

荻野 株価・為替予報サイトの「兜予報」です。スマートフォン向けアプリケーションを含め実際に使っているアクティブユーザー数は月に3万~5万人います。

 兜予報は経済ニュースの相場への影響を可視化します。株では上場企業3000社を対象にしていますが、ニュースが株価に織り込まれるまで1時間程度かかる中小型株が中心です。機関投資家ではなくデイトレーダーに勝算がある時価総額100億~1000億円の銘柄です。

 株価の予測精度はおよそ80%に達します。その秘訣(ひけつ)は大きく二つあります。一つは、メディアや企業が発信する多数の情報のうち、株価に影響のあるもののみを抽出する、当社独自のキュレーション(情報選択)のノウハウです。ニュースの99%は株価に影響がありませんが、残り1%未満に株価を動かす情報があります。これはデイトレーダーが欲しがる情報と言えます。

 もう一つは、抽出した情報が株価にプラスとマイナスのどちらに影響するかを投票するアナリストの存在です。当社専属と外部の約20人の経験豊富なアナリストが集まると、80%以上の確率で株価の方向性を予想できるようになります。人とシステムの強みを融合したサービスです。

 

── どう収益に結びつけますか。

荻野 兜予報では、予測を提供するだけでなく、すぐに証券会社サイトに移動して実際に売買できる仕組みになっています。ユーザーが移動した時点で当社に手数料が入ります。その意味ではネット証券とは競合でなく、共存関係が築けます。

 日本にいる30万~50万人のアクティブトレーダーのうちデイトレーダーは5万人です。少なく見えますが、彼らがネット証券の7~8割の売り上げを占めています。ネット証券は大手5社で3000億円規模なので、デイトレーダーだけで2000億円の売り上げを生んでいます。仮に1万人のデイトレーダーが兜予報ユーザーになれば、中堅証券会社並みの400億円市場で課金ビジネスができることになります。

 

── 「兜予報」の他には。

荻野 2016年夏にサービスを開始した「資産の窓口」です。中流層をターゲットに長期的な資産運用を支援します。匿名性を重視し、年収、年齢、金融資産、ローン残高、株・FXでの収入、不動産の6項目を入力するだけで家計のバランスシートや貸借対照表を割り出し、そこから資産ポートフォリオの将来予測を立てます。

 資産の窓口は、トレーディングをする時間のない人や、兜予報ユーザーの受け皿にもなります。資産の窓口で投資信託の運用が選択肢に挙がったら、そこで各社の商品を比較検討できます。ユーザーが投信会社のサイトに移動したら当社に手数料が入ります。

 

── 検討中のサービスは。

荻野 兜予報のノウハウにより、株価に影響を与えるニュースが出てから、株価に織り込まれるまでのタイミングが高い精度で予測できるようになりました。これはヘッジファンドが最も欲しい情報の一つです。これを「株価織り込み時間予測エンジン」として商品化し、キュレーションによって無駄な情報を除いたデータとともにヘッジファンドに提供するサービスを開発中です。

 

── 今後の経営目標は。

荻野 17年度に単月黒字化を目指します。当社のサービスが利用されるようになれば、これまで情報を持っていた富裕層しか恩恵を受けられなかった金融商品で、日本の大半を占める中流層も資産を増やすことができるようになります。「金融投資の民主化」を実現したいです。

(構成=大堀達也・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A ソニーで数多くの新規ビジネスの立ち上げに携わった後、IT企業では一転、事業の撤退・整理を経験しました。ビジネスの「生き死に」を見たことは大きな経験です。

 

Q 「私を変えた本」は

A 小学生の時に図書館の本をほとんど読破しましたが、多くの本は古代の大哲学者から近代の作家までパターン化されていると悟りました。今は技術書しか読んでいません。

 

Q 休日の過ごし方

A 子供と一緒に料理を作るのが楽しみです。

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 ■人物略歴

 ◇おぎの・しらべ

 1973年生まれ。早稲田大学高等学院、東京大学卒業後、ハーバード大学で修士号取得。98年タイタス・コミュニケーションズ入社。ソニー、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、グリーを経て2015年に財産ネットを設立し社長に就任。

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事業内容:金融情報サービスの提供

本社所在地:東京都港区

設立:2015年3月

従業員数:25人

兜予報の月間アクティブユーザー数:3万~5万人

 

2017年

1月

10日

経営者:編集長インタビュー 磯崎功典 キリンホールディングス社長

◇ビール通じて地域活性化の一助に

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── キリンと言えば日本で知らない人はいないビールのブランドです。

磯崎 当社はビールの製造販売からスタートしましたが、目指しているのは事業を通して世の中の社会課題を解決することです。

 

たとえば、今年、ビールの主力ブランド「一番搾り」では47都道府県ごとに、ラベルや風味を変えた商品を発売しました。ビールを通して、忘れかけた古里やゆかりの地を思い出してもらい、地域の活性化に役立てたいのです。全国9工場で、47の商品を製造しています。工程上、手間もかかります。しかし、「面倒くさい、嫌だ」と言っていては、成熟市場では生き残れません。かつては、全国一律の製法で同じ商品を提供することに価値がありました。しかし、今はお客様は商品に個性を求めています。

 

── 他の取り組みは?

磯崎 健康面での取り組みもやっています。プリン体や糖質をカットした発泡酒などを発売しています。また、グループには医薬・バイオ企業「協和発酵キリン」もあり、パーキンソン病や乾癬(かんせん)向けの薬も開発販売しています。

 

── 事業別のポートフォリオは。

磯崎 営業利益で見ると、飲料・ビール・ワインなどの国内事業、ビールが中心の海外事業、医薬・バイオの3分野でそれぞれ3分の1ずつです。

 

── 2016年から3カ年の中期経営計画の初年度です。手応えは。

磯崎 中計では三つの課題を指摘しました。(1)ビール事業の収益基盤強化、(2)国内飲料・ブラジル事業など低収益事業の再生・再編、(3)医薬・バイオケミカル事業の飛躍的成長です。まずビール事業に言及しているのは、当社の元々のDNAだからです。ビール事業が盤石でないと次の手も打てません。国内をはじめ、ブラジル、豪州、フィリピン、ミャンマーなどで展開しています。

 

── 国内のビール事業の現状は。

磯崎 国内ビール消費は1994年をピークに下がり続けており、成熟市場と言えます。どこに市場があるのか、どこに市場を創るか、を考えるのが重要です。14年からはクラフトビールにも力を入れており、製品販売や飲食店運営で市場を創っています。今年10月には米国・ニューヨーク州でクラフトビールを製造する「ブルックリン・ブルワリー」との資本業務提携も公表しました。

 

── クラフトビールの魅力は。

磯崎 これまでは日本人はビールと言えば、琥珀(こはく)色の苦いタイプばかりでした。このため、若者は「ビールは苦い」と言って離れていきました。しかし、クラフトビールは製法上、ラズベリーやチョコレートなど今までなかった風味を付けることも可能です。私もキリン醸造のパクチー風味クラフトビールを飲みました。話題の素材・パクチーの風味が濃く、お勧めです。若い人は、多少高くても、こうした個性あるビールを飲んでくれます。日本では、クラフトビール消費量は、ビール類全体の1%しか占めませんがいずれは3~5%に持っていきたいです。

 

 ◇ブラジル事業は急回復

 

── 海外ビール事業では、ブラジルキリン社が不振で、15年の最終赤字の元凶となりました。

磯崎 ブラジル事業は急速な勢いで回復しています。私が15年3月に社長に就任して最初に訪問した国がブラジルです。当時のCEO(最高経営責任者)と話して「何も市場を分かっていない」と感じ、後任を外部から招きました。現CEOは市場を熟知しています。製品ラインアップは大きく変えていませんが、売り上げが伸びました。CEOが、お客様を見て何をすればいいのかを考えるという当たり前のことを、非凡なレベルで実行したからです。

 

── 国内飲料会社「キリンビバレッジ」の状況は。

磯崎 国内飲料は過当競争で、過去には営業利益率1・5%(15年実績)と厳しい状況でした。しかし、生茶のリニューアルなどが奏功して今年は5%近いところまで行きそうです。しかし、海外の飲料メーカーは10%です。5%に満足せず、さらに収益性を上げていきたいです。ただ、その目標を達成するには自社の努力だけでは困難です。他社との提携などでコストシナジーを発揮せねばなりません。コカコーラと提携も協議しており、もう一段高い収益性を目指します。

 

── 世界市場では、首位のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)が、2位のSABミラー(英国)を買収し大きな変革が起きています。海外戦略は。

磯崎 豪州は日本同様、成熟市場なのでクラフトビールの割合を増やしていきます。ミャンマーやフィリピンでは、市場の主流となっている、標準的な価格で消費も多い商品の魅力を訴えつつ、高付加価値路線のプレミアム商品も投入していきたいです。

 

── 経営で気を付けていることは。

磯崎 若手社員がおっかなびっくりになっています。何をするにもリスクはつきものです。失敗したら怒るのではなく「もういっぺんやってみろ」と言えるのがリーダーです。今年、社長直轄の事業創造部を創設しました。キリンらしくない、未来を変える事業アイデアを考えるのが仕事です。部長は、かつて缶チューハイ「氷結」の開発にもかかわった45歳の女性で、グループでも若手の部門長です。成果は楽しみですが、私が干渉してはダメで、遠くから見守ります。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代のころはどんなビジネスマンでしたか

A 米国留学をしました。言葉が通じず苦しいこともありましたが、見るもの、聞くもの全てが新しく、行ってよかったです。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン)。

 

Q 休日の過ごし方

A 出身地の神奈川県小田原市にミカン畑を所有しており、毎週とは言えないまでも、せん定や草取りをしています。今年も40本から2トンを収穫しました。

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 ■人物略歴

 ◇いそざき・よしのり

 神奈川県出身。小田原高校、慶応義塾大経済学部卒業。1977年キリンビール入社。キリンホテル開発、フィリピン・サンミゲル社出向などを経て2008年経営企画部長、10年常務取締役、12年、キリンビール社長。15年3月から現職。63歳。

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事業内容:飲料、食料、医薬品

本社所在地:東京都中野区

設立:1907(明治40)年2月 ※2007年7月に持ち株会社化に伴い商号変更

資本金:1020億円

従業員数:3万9888人

業績(15年12月期:連結)

 売上高:2兆1969億円

 営業利益:1247億円

2016年

12月

27日

経営者:編集長インタビュー 山本明弘 広島市信用組合理事長

◇融資こそ地方創生のロマン

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 投信や生命保険は一切販売せず、預金と融資に特化して業績を伸ばしている金融機関が広島にある。純利益28億円は県内の上場企業47社と比較しても14番目だ。

 

── 広島市信用組合とは一言でいうとどんな金融機関ですか。

山本 中小零細企業に特化した相談しやすい金融機関、リスクテークをする金融機関です。他者に負けないスピードがあります。

 

── スピードとは。

山本 基本的に融資の決済は3日で判断します。支店長と得意先係は毎日融資先を歩き、会社の技術力、成長性、経営者の人間性まで見て、財務状況を常に頭に入れています。この日ごろの活動があればおのずと答えは早くなるのです。

 

── 大口融資となれば本店の決済も必要では。

山本 私は毎朝5時20分に出社し、34支店の支店長日誌すべてに目を通します。6時45分から約1時間の役員会議を開き、融資先を含め、あらゆる情報を共有します。パートを含め職員445人すべての顔が見える。だから即決できるのです。

 

── なぜ融資に特化できるのか。

山本 投信や生命保険を一切販売していないからです。それをやれば職員が説明のために準備や余計な時間が取られる。しかも投信はお客様に損をさせることもある。だから投信や保険は一切販売しないのです。

 もう一つは不良債権をバルクセール(まとめ売り)で徹底的に処理してきました。これをやったおかげで職員は不良債権処理の後ろ向きの仕事に時間が割かれることがない。

 

── バルクセールの実績は。

山本 2001年以来、件数にして2550件、累計で560億円の不良債権を処理してきました。お客様とじっくり話し合って進めたため、トラブルはゼロです。この結果、問題企業の2割弱が再生しました。

 

── 不良債権は激減しましたか。

山本 現在の不良債権比率は2・64%。全国比較でも良好な数値ですが2年前から少し増えました。というのも従来7000万円以上の赤字・繰り越し欠損・債務超過の融資先の査定を今期から4000万円に下げました。基準を厳しくして引当金を積んでおけば、どんな金融危機が来ても対応できるという判断です。

 

 9年前から法人と大口融資先を対象に財務状況などを載せたディスクロージャー誌を職員が手分けして配布するローラー作戦を開始した。その数は1万5000軒。地元では「シシンヨー」の愛称で呼ばれ、この対面の活動が「投信も保険も売らないから安心」と新たな預金の獲得につながるという。

 

── リスクを取る金融機関とは。

山本 取引して2年以上が経過した法人に、最高2000万円までの事業性融資をカードローンで提供しています。金利は9・5%ですが、担保は求めません。もう一つは住宅ローン。年収が300万円前後の人でも人間をよく見て25~30年、1500万~2500万円の住宅ローンを提供しています。金利は2・5~3・5%。多少金利が高くても「家が持てた」と喜んできちょうめんに返済していただけます。

 

 ◇格付けは全国で3位

 

── 今期の業績見通しは。

山本 本業の利益を示すコア業務純益は83億5000万円、当期純利益は29億5000万円で、いずれも過去最高を見込んでいます。

 

── 財務状況は。

山本 自己資本比率は今期末で10・15%を達成する見込みで全国265の信用金庫、153の信用組合の中で3位となるシングルA(日本格付研究所)の格付けです。当組合は社債を発行していませんが、この強固な財務体質で顧客が安心し、大口の預金獲得も可能となるのです。

 

── しかし信組の融資対象は従業員300人以下か資本金3億円以下の事業者に限定されています。

山本 だからこそまだまだ取引していないお客様がたくさんいるのです。地域の金融機関はいま再編や分野統合、異業種連携が活発ですが、それ自体が目的になり、握手をして終わりということになりかねない。

 

 大事なのはその後の経営です。当組合は3年前、広島大学と提携しているバイオ医薬ベンチャーに1億円の融資をしました。この会社が大手製薬会社と提携し、上場も視野に入りました。過去には現在上場している信販会社や大手流通企業に融資してきた実績もあります。誰も振り向きもしない赤字の会社を独自の眼力で見つけ将来にかける。それこそが地域の創生につながる融資のロマンではないでしょうか。

 

── 収益はどう還元しますか。

山本 現在も支店のリニューアルを続け、お客様の利便性を図っています。懸賞金付きの定期預金で預金総額に対し0・3%程度の利益還元もしています。この「ハッピードリーム定期」の残高は2000億円になりました。10月には新入職員の初任給を1万6000円アップしました。地域、法人、預金者、組合員、そして職員に利益を還元するのが我々の役目です。

 

── 課題は何ですか。

山本 人材育成、それしかない。私の後任を含め、職員全員を融資大好き人間に育てていくこと。もう一つは女性の登用です。すでに28人の支店長代理が女性で、42人の女性係長もいます。育児休暇後の復帰率は100%。これも続けていきたい。

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 35歳で支店長になり、融資のことで絶えず本部の審査部と大げんかしていました。担保がなくても「私が確かめたから大丈夫だ」と日々、格闘していました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 本ではないですが、新人の頃、得意先係で経験した挫折からの教訓「お金は貸すものではなく、使っていただくもの」という顧客目線の経営哲学です。

 

Q 休日の過ごし方

A 土曜日は半日だけ仕事をします。日曜は完全休養して、ドライブに行ったり、妻と小旅行しています。

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 ■人物略歴

 ◇やまもと・あきひろ

 山口県出身。県立宇部高校、専修大学経済学部卒業。1968年広島市信用組合入組。2001年専務理事、04年副理事長を経て、05年6月より現職。71歳。

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事業内容:信用組合

本社所在地:広島県広島市

設立:1952年

出資金:185億円(2016年9月30日現在)

職員数:414人(16年9月30日現在)

業績(16年3月期)

 コア業務純益:82億7300万円

 当期純利益:28億6600万円

2016年

12月

20日

経営者:編集長インタビュー 辻範明 長谷工コーポレーション社長

◇大手がやりたがらない分野にこそ存在意義

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 「マンションのことならわかるんだ」というCMが印象的です。

辻 マンション造りの企画、開発、設計、建設、販売、管理とすべてに携わっています。ゼネコンは主に工事までですが、管理を担うことで、住み心地や間取りの使い勝手のよさといった顧客からの評価を直接聞くことができる。それを次に生かして、より安心、安全で快適なマンションを提供しています。

 

── マンションに特化しています。

辻 当社施工の第1号マンションは1968年着工です。当時マンション価格は高く、ごく一部のお金持ちしか買えませんでした。価格を抑え、品質は高い一般向けを普及させようと取り組んできた結果、「民間の日本住宅公団(現都市再生機構〈UR〉)」という評価をいただくまでになりました。施工数は累計59万戸、全国のマンション戸数の1割に当たり、国内最多です。

 

── 受注も多いそうですね。

辻 今期の受注は、大手不動産会社を中心に約2万3000戸の見通しです。

 実はCMについて、株主から「大手デベロッパーのようにかっこいいものを」と指摘を受けました。しかし当社は請け負う側なので、大手のブランドイメージを超えることが狙いではありません。建設会社として、真面目にやっているということを伝えたかった。出演しているボクシングの元世界チャンピオンの内藤大助は、以前私の直属の部下でした。ほかの出演者もほぼ全員が社員です。製作費を抑えるという理由が大きかったのですが(笑)、結果的に社員のやる気にもつながりました。

 

── 低価格と安定した品質で「マンションのユニクロ」とも呼ばれています。

辻 建設の現場を担う協力会社のおかげです。当社は設計から施工まで行っており、工事のやり方が常に一定です。そのため当社の手法に慣れた会社と長く付き合うことができ、結果的にコストを抑えることができます。また、現在当社が施工中のマンションは約3万9000戸あり、うち半分は今年度に竣工(しゅんこう)します。常に2年先まで見据えて仕事ができるので、腕のいい職人を確保しておけるのです。そのサイクルによって、どこにも負けない品質を保っているという自負があります。

 

 バブル期にデベロッパー路線で多額の負債を抱え、倒産危機に陥った。金融機関の支援を受けて経営再建に取り組み、2007年3月期に過去最高の連結経常利益630億円を計上したものの、リーマン・ショックで再び資金繰りが悪化するなど多難続きだった。

 

── 苦しい時期を乗り越え、3期連続の増収増益です。

辻 繰り返しになりますが、協力会社との信頼関係のおかげで、コストを抑えて再建に取り組むことができました。16年3月期は売上高7873億円、経常利益673億円でした。今期の計画はそれぞれ8000億円、840億円です。既築物件の管理、修繕の「ストック市場」に力を入れていますが、経常利益の大部分が新規建設の「フロー」によるもので、そこが課題です。来年2月11日に創業80周年を迎えるため、社員一丸となって過去最高の売り上げを目指しています。

 

── 好調の要因は。

辻 東京五輪やアベノミクスの影響で、大手ゼネコンが公共事業や民間の高層ビル事業にシフトし、大規模マンションを手がけられる会社が減ったことが大きい。関東圏のシェアをみると、今年4~9月の供給数1万6737戸のうち、当社の施工数は6419戸と38・4%を占めています。1棟100戸以上の大規模物件では、シェア55%です。マンション専業として、力をつけてきたことが生きていると思います。

 

 ◇ストック事業も柱に

 

── 超高齢社会に入り、マンションの空室問題も深刻化しています。新しい社会状況にどう対応しますか。

辻 ストック市場が鍵になります。また、国が「空き家の有効活用」を打ち出しており、リフォーム需要が見込めます。

 建て替えにも積極的に取り組んでいきたい。建て替えは基本的に区分所有者の全住民の合意が必要で、取り付けるのに10年かかることも珍しくありません。手間がかかり、デベロッパーは手をつけたがらない。当社はこれまで、33棟の建て替え実績があり、国内トップです。

 そのほか、現在首都圏、近畿圏を中心に41カ所、約2500戸を展開している介護マンション事業にさらに力を入れていきます。

 

── 他業種から参画して成功が見込めますか。

辻 簡単に事業として成立するとは思っていません。しかし、介護は日本にとって喫緊の課題です。国を挙げてもっと真剣に考えるべきです。施設を造って運営し、失敗も経験としながら、10年後には国に提言できるような企業を目指したい。

 マンションは完璧で当たり前ということもあり、顧客からのクレームが絶えません。オフィスビルなどと比べて利益率も低く、専業の会社が育ってきませんでした。そんな中、当社は大手がやりたがらないことに取り組んで、存続してきた企業です。他社と同じことをやるだけでは、「長谷工」という会社は存在意義がないと思っています。その思いで、介護も必ず事業の柱に育てます。

(構成=酒井雅浩・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 30代半ばで京都支店の支店長を任され、部下が200人いました。種をまいた飛び込み営業が次々に結果につながり、寝ずに酒を飲んでも数字が出て、「天下無敵」とうぬぼれていた時代です(笑)。

 

Q 「私を変えた本」は

A 本ではないのですが、組合活動に携わり、膝を突き合わせて人と向き合うことの大切さを学んだことです。

 

Q 休日の過ごし方

A ゴルフです。取引先がほとんどなので、休みとは言えません。純粋な休みは年に片手(5日)もありませんが、妻の買い物に付き合っています。

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 ■人物略歴

 ◇つじ・のりあき

 岡山県出身。金光学園高校、関西大学法学部卒業。1975年長谷川工務店(現・長谷工コーポレーション)入社。99年取締役、2010年代表取締役副社長、長谷工アネシス代表取締役社長などを経て、14年4月より現職。63歳。

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事業内容:マンション建設

本社所在地:東京都港区

設立:1946年8月

資本金:575億円(2016年9月30日現在)

従業員数:2380人(16年9月30日現在)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:7873億円

 営業利益:687億円

2016年

12月

13日

経営者:編集長インタビュー 長門正貢 日本郵政社長 2016年12月13日号

◇地方自治体と同じ感度で地域のニーズに応える

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 日本郵政の2016年9月中間連結決算は最終(当期)利益が前年同期比3割減でした。

長門 前年同期には(子会社の)日本郵便で保有株式の売却による特別利益があったことなどを勘案し、もともと厳しい営業計画を立てていました。その意味では順調という評価ですが、日本郵政グループの経営課題が凝縮して現れた決算でもあります。

 

減益要因は大きく三つ。一つ目は、上場に伴って日本郵政が保有するゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式11%を売却し、日本郵政に帰属する純利益がその分、減少したことです。

 

ゆうちょ、かんぽの株式は今後も売却するので、この減少分をどう補っていくかが課題です。二つ目は、日銀が16年1月に導入を決めたマイナス金利政策の影響で、ゆうちょ、かんぽの運用益が下がっています。三つ目は日本郵便の業績が落ちていること。株式売却の特別利益がなくなったほか、(15年5月に買収した豪物流事業の)トール・ホールディングスが期待通りの業績を上げられていません。

 

── どう対処していきますか。

長門 一つはゆうちょ、かんぽの運用の深掘り(収益力の強化)です。ゆうちょの保有資産は他の銀行に比べても内容が良く、まだリスクを取ることが可能です。そこで、未公開株ファンドやヘッジファンド、不動産というオルタナティブ(代替)資産への投資も始めました。こうしたオルタナティブ投資を含め、サテライト・ポートフォリオ(社債、外国証券、株式など)の残高は16年9月末現在ですでに64兆円と、中期経営計画(15~17年度)の最終年度の目標60兆円をクリアしています。

 

── リスク管理も重要ですね。

長門 ゆうちょの運用部門では15年、元ゴールドマン・サックス証券副社長の佐護勝紀氏を副社長とするなど、積極的に専門人材を外部から採用する一方、16年1月には「リスク管理部門」を新設し、担当の専務を置くなどしてリスク管理も強化しています。かんぽはゆうちょほど運用の切迫度は高くないため、取り組みはゆっくりですが、方向性はゆうちょと同様です。こうした手をすでに打っているので、いずれ収益は底上げされるでしょう。

 

 官民挙げた15年11月の上場時、日本郵政、ゆうちょ、かんぽとも売り出し価格を大幅に上回る初値を記録し、市場は大きく盛り上がった。しかし、16年に入って世界経済への懸念が広がると、一転して下落基調に。着実な株価上昇に対する株主の期待は高い。

 

 ◇タンス預金を動かした

 

── 3社の上場で初めて株を買った個人も多いと聞きます。

長門 郵便局には145年の歴史があり、141年前からは貯金も集め出しました。かんぽは16年10月、100周年を迎えています。こうした歴史に親しみを覚えていただき、中にはまさにタンス預金となっていた聖徳太子の旧1万円札で、株を買った人もいたと聞きます。郵便局は全国津々浦々に2万4105局(16年9月末)あり、ゆうちょ、かんぽは国内最大の銀行、保険会社です。郵政民営化は一大国家プロジェクトで、非常に国民から期待されている仕事だと感じます。

 

── 手数料収入確保も課題です。

長門 ゆうちょでは、三井住友信託銀行などと合弁で設立した運用会社「JP投信」が16年2月、投資信託の新商品の販売をスタートしました。誰にでも分かりやすく損をしにくい商品を開発したのですが、そのうち1商品はマイナス金利の影響で販売をあきらめました。ただ、国内全体の投信残高は落ちている中で、ゆうちょでは1兆1628億円(16年9月末)へと増えています。

 

市場環境の悪化もあり簡単に投信の残高は伸びませんが、16年は準備期間と位置づけています。お客様にまずは投信口座を開いてもらおうと、営業現場に口座開設のインセンティブをつけることも始めました。また、10月からは、ATM(現金自動受払機)の口座間送金を4回目以降から有料としましたが、できるだけお客様にご迷惑をおかけしない範囲で手数料収入を増やしていきたいと考えています。

 

── トールはどう立て直しますか。

長門 天然資源の豊富な豪州で、資源価格の下落がトールの業績にも影響しています。しかし、日本国内の市場では収益機会が減っており、成長するアジア太平洋地域で勝負していかなければならず、トールの買収はそのために打った手の一つです。(日本郵政の提携先の)イオンが扱う豪州のタスマニアビーフを日本に輸送する際にトールを使ってもらうなど、収益向上や経費節減の取り組みを現に始めており、業績立て直しに向けて行動で示していきたいですね。

 

── グループ43万人の従業員にどのような意識改革を訴えますか。

長門 カスタマー、コミュニティー、カンパニーという「3C」のための意識を浸透させたいと思っています。お客様はやっぱり神様で、顧客のニーズがあるところに仕事があります。また、郵便局は地域に根ざしており、地方自治体と同じような感度で地域のニーズを捉え、それに応えていくことも大切です。さらに、企業として競争力がなければ評価もされません。数字に厳しく、事業の選択と集中を通していい業績を求めていきます。皆が同じ方向を向いて進むため、3Cを言い続けるつもりです。

(構成=桐山友一・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 米南部ヒューストンで、資源関係の顧客開拓のため興銀の事務所を立ち上げました。その後、中国で初のプロジェクトファイナンス案件を担当し、涙が出るほど楽しかったです。

Q 「私を変えた本」は

A 『アメリカにおける秋山真之』(島田謹二著)です。『ニュー・エンペラー 毛沢東とトウ小平の中国』(ソールズベリー著)は読み物として絶品です。

Q 休日の過ごし方

A 土曜午前はジム、午後は老人ホームに入った母と散歩。日曜はひたすら雑誌や新聞を読んでいます。

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 ■人物略歴

 ◇ながと・まさつぐ

 東京都出身。学習院高等科、一橋大学社会学部卒業。1972年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。みずほコーポレート銀行常務執行役員、富士重工業副社長、シティバンク銀行会長などを経て、2015年5月にゆうちょ銀行社長。16年4月から現職。68歳。

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事業内容:日本郵政グループの経営戦略策定

本社所在地:東京都千代田区

設立:2006年

資本金:3兆5000億円

従業員数(常勤):25万876人(16年3月末現在・連結)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:14兆2575億円

 営業利益:9662億円

 

2016年

12月

06日

経営者:編集長インタビュー 呉文精 ルネサスエレクトロニクス社長 2016年12月6日号

◇買収で自動運転やIoT分野を強化

 

◇Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 半導体業界におけるルネサスの特徴は。

 半導体の中でも、人間の頭脳に相当する「マイコン」を中心に設計・製造する日本で唯一の会社です。三菱電機、日立製作所、NECの三つの会社の半導体部門が一緒になってできました。半導体を含めた日本の電機業界は、製品のデジタル化が進むなかで、新興国の追い上げに苦戦しているところが多い。当社は、積極的にマーケティングして、特定の分野で付加価値のある製品を作っていきたいと考えています。

 

── 米半導体のインターシルを買収しました。

 シナジー(相乗効果)は非常に明確です。我々は汎用(はんよう)のマイコンに強い。彼らは電圧制御用の半導体やアナログ信号をデジタル信号に変換するミックスシグナル半導体に強い。車が自動運転になると、どんどん電力を消費します。だから、省電力、低発熱で車を制御する電圧制御用の半導体の存在が低燃費につながります。

 

また、ミックスシグナルについては、現実の世界をマイコンが判断するためには、レーダーやカメラ、圧力センサーなどからのアナログ情報をデジタルに転換し、マイコンで演算後、再び、アクチュエーター(駆動装置)にアナログ情報として戻す必要があります。買収で当社はその両方を手に入れました。

 

── 2011年の東日本大震災時は、工場の被災で、世界の自動車生産に影響を及ぼしました。

 ご迷惑をお掛けしましたが、それだけ当社が必要とされていることの表れだとも思います。自動車用のマイコンでは世界トップシェアですが、実は売り上げや利益は自動車向け以外からの方が多い。例えば、プリンターやエアコン、冷蔵庫用のMCU(メモリー制御装置)でも世界トップシェアです。難しいことをする頭脳部分なので、他社の半導体では簡単には置き換えできません。この教訓を受け、今年の熊本の震災では熊本工場が被災しましたが、5年前と比べはるかに早く復旧しました。

 

── 製品のポートフォリオは、今後、どのようにしていく考えですか。

 当社の売り上げは、分野別では自動車向けが全体のほぼ5割弱を占めます。残りは産業機器やオフィス機器向けです。しかし、特にどちらに比重を置いていくか考えていません。自動車は主要顧客がはっきりしており、戦略や技術は明確です。ただ、自動運転などの分野は、自動車メーカーと共同開発してから量産に至るまで費用が先行し、収益化するのに時間がかかります。一方でプリンター向けなどのビジネスは、今日の収益につながります。そのバランスを考えながら経営する必要があります。

 

だから、モノをインターネットにつなげる「IoT」、白物家電、オフィス機器、通信基地局などの産業向けは積極的にやっていこうと思います。携帯電話やゲーム機向けなどの浮き沈みが激しいところは撤退の方向です。

 

 ◇人工知能をチップに

 

── 自動運転やIoTへの具体的な対応は。

 両方とも非常に面白いと思いますが、ある意味、太平洋にこぎ出すような話で、片っ端から手がけるわけにはいきません。自動運転は、車単体ではなく、車同士、あるいは車と街が通信していくようになると、規格の標準化が非常に大事になってきます。日本はここが得意でないので、「ガラパゴス」にならないよう、注意しながらやっていきたいと思います。

 

IoTで今注力しているのは、ユーザーの近くにサーバーを分散し、通信遅延を短縮する「エッジコンピューティング」や人工知能をチップに埋め込む「エンベデットAI(人工知能)」の分野。例えば工場の機械で異常な振動が出て、すぐに止めないといけない場合、いちいち、クラウドのサーバーまで戻り、命令を受けていたら、間に合いません。だから、チップの中にAIの膨大なデータを埋め込む。そうすると、指先に頭脳があることになり、末端だけで物事を判断できます。今後、こうした分野に力を入れようと思います。

 

── 今後の買収の計画は。

 まずは、インターシルの買収後の統合をしっかりとやり遂げます。今後の買収については、IoT、製造業の高度化を目指す「インダストリー4・0」、自動運転がキーワードになります。無線・通信の分野、あと暗号化などのセキュリティー技術は面白い。将来的には、エクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)を視野に入れながら、次の買収を考えていきたいです。

 

── 成功する経営のコツは。

 本社の大きな戦略、意思決定のプロセスや基準を明確に示すことです。右なら右と決めたら、そちらの方向で自信を持って進む。やると決めたら優勝を狙うことです。また、グローバル経営に踏み出すのですから、海外の人の立場を理解できないとうまくいきません。

 

── 産業革新機構が筆頭株主です。出口戦略については。

 産業革新機構が保有する当社株について、コメントする立場にはありません。ただ、私から革新機構に申し上げたいのは、ルネサスはマイコンという半導体の頭脳部分を持っている唯一の日本企業と言うことです。こういう産業を日本に残せるかどうかは、重要です。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日本興業銀行(現みずほ銀行)のニューヨーク支店にいました。帰国後は興銀証券で、グローバル債券の引き受けや資源開発のプロジェクトファイナンスを担当しました。

 

Q 「私を変えた本」は

A ジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』です。データに基づいているので、学んだことが多いです。

 

Q 休日の過ごし方

A あるようでありません。今の仕事が非常にチャレンジングなので…。

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 ■人物略歴

 ◇くれ・ぶんせい

 東京都出身。神奈川県栄光学園、東京大学法学部卒業。1979年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年GEフリートサービス社長、08年カルソニックカンセイ社長、13年日本電産副社長を経て、16年6月より現職。60歳。

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事業内容:半導体の設計・製造

本社所在地:東京都江東区

設立:2002年11月

資本金:100億円

従業員数:1万9160人

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:6933億円

 営業利益:1038億円

2016年

11月

29日

経営者:編集長インタビュー 落合寛司 西武信用金庫理事長 2016年11月29日特大号

落合 寛司 西武信用金庫理事長

 

◇「雨の日に傘貸す」協同組織金融機関目指す

 

Interviewer 金山 隆一(本誌編集長)

── 西武信金はどのような金融機関ですか。

落合 「利用者保護」が基本理念である協同組織金融機関の働きを最大限に追求した、コンサルティング機能を持つ金融機関です。顧客の課題を徹底的に解決します。

 

── なぜ、「コンサル」なんですか。

落合 日本は今、二つの大きな変革期にあります。まず、世界経済の主役が先進国から新興国に変わりました。二つめは少子高齢化です。このような変革期は、これをチャンスにできる企業と、ピンチにする企業がはっきりと分かれます。だから、コンサルが必要です。 

── 具体的にはどのように課題解決を支援しているのですか。

落合 例えば、中小企業の半分が海外進出で失敗しています。そこで、当金庫は、ベトナムの工業団地に出資をしています。団地には、進出した中小企業へのコンサル機能があり、材料の購入や現地社員の採用などについてアドバイスします。また、人材のマッチングもしています。一例を挙げると、中小企業にベトナム人の留学生を紹介し、3年間徹底的に教育したうえでベトナムに社長候補として送り込んでもらいます。

 

── 国内向けは。

落合 取引先を紹介するビジネスマッチングが一番多いです。年間6500件紹介しています。企業が一番欲しいのは売り上げです。だから、紹介すると、多くの顧客は元気になります。また、変革期ですから、企業はビジネスモデルを変える必要があるので、その支援をしています。ただ、経営者には、「自分で変えないでください」と話しています。

 

── なぜですか。

落合 会社を良くしようと一生懸命努力した結果が、今ですから。だから、第三者の専門家に見てもらうのです。当金庫は、東京大学や中小企業診断協会など外部の組織と連携し、3万人のネットワークがあります。ゴルフのフォームと同様、欠点や長所は第三者が一番よく分かります。

 

── 不動産賃貸向けの融資も前年比17%増と大きく伸びています。

落合 地域を活性化するためです。これから、不動産は「持たざる」時代に入ると考えています。少子高齢化で東京などの一部都市を除いて、日本の不動産価格は下がるでしょう。不動産は賃貸が中心になる。だから、遊休不動産を持っている人に、賃貸物件用の貸し出しをしています。

 これは、資産管理対策にもなります。日本の相続税率は世界最高の55%です。何もしなければ、保有不動産の半分以上が税金に消えます。だから、例えば、八百屋の店舗の上に賃貸物件を作ってもらいます。家賃が入れば、本業も強化できます。

 

◇「ブティック」目指した

 

── 業績はどうですか。

落合 2016年3月期は、貸出金が1232億円増えましたが、今年

度は1600億円伸びそうです。預貸率は昨年度は76%ですが、今年度は現時点で78%。なぜなら、顧客が元気だからです。元気になれば食欲が出るように、企業もお金が必要になります。不良債権も減ります。昨年度の不良債権比率は1・74%と、業界平均の6%の3分の1以下です。前期の当期利益は74億円ですが、日本で初めて正常債権に42億円の引当金を積んだので、それを除くと、実質的に110億円強になります。

 

── 正常債権になぜ、引当金を積んだのですか。

落合 顧客を潰さないためです。リーマン・ショックのような大きな経済変動が訪れると、中小企業はすぐ赤字になります。債務超過になると「破綻懸念先」に分類され、貸し出しが実行できなくなる。ですが、あらかじめ、引当金を計上していれば、いざというときにお金が貸せる。要は「雨の日に傘を貸す」真の協同組織金融機関を目指すための体制を作っているのです。

 

── なぜ、ほかの金融機関はまねができないのですか。

落合 我々は「百貨店」ではなく、「ブティック」を目指しました。メガバンクが一番不得意なのは、顧客の戸別訪問など、手間がかかることです。しかし、非効率な戸別訪問もコンサルにより付加価値を高めると「効率」に変わります。ただ、そうは言っても、これを運営する従業員が元気でないと、実現できないので、人事制度を改革しました。

 

── それは、いつからですか。

落合 私が理事長に就任した2010年以降です。徹底的に個人の潜在能力を生かす体制にしました。まず、年齢による定年を無くしました。60歳を過ぎても、昇進や昇格は今までと全く同じで、自分が能力の限界を感じるまで勤められます。中途採用も年齢の制限はありません。これまで採用した人の最高齢は70歳です。他の金融機関で肩たたきにあった55歳くらいの人も結構入庫しています。今、どんどん出店しているので、この人たちは1〜2年で支店長になります。また、新人も支店長のポストを目指して立候補し、社内の試験に合格すると、いきなり支店長になれます。

 

── ITを活用した金融サービスの「フィンテック」の取り組みは。

落合 決済サービスを提供するベンチャー企業の「コイニー」(東京・渋谷区)と業務提携しました。スマホでクレジットカード決済ができるので、これを、地域の商店街に導入しようと考えています。2020年に東京でオリンピックがあるのですから、商店街に免税店があってもよいはずです。

 

◇横 顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 金融業に必要なコンサル業務を職場内や顧客に提供する仕組み作りに努力していました。

Q 「私を変えた本」は

A 本ではないですが、小学校の時、同級生の女の子の死をきっかけに、二度と無い今を真剣に生きようと考えました。「前向きな心」が大好きな言葉です。

Q 休日の過ごし方

A ガーデニングをしています。面倒を見ればすぐに結果が出るのが好きです。

(構成=稲留正英・編集部)

 

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 ■人物略歴

おちあい かんじ

神奈川県出身。神奈川県立津久井高校、亜細亜大学卒業。1973年西武信用金庫入庫。2002年常勤理事、05年専務理事を経て、10年6月より現職。66歳。

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事業内容: 金融業

本店所在地:東京都中野区

設立: 1969年6月

資本金:1173億円(2016年3月期・連結)

従業員数:1192人(9月30日時点)

業績(2015年度)

 経常収益:317億円

 

 当期利益:74億円

2016年

11月

22日

経営者:編集長インタビュー 新野良介 ユーザベース社長 2016年11月22日号

新野良介 ユーザベース社長 

 

◇ビジネス情報プラットフォームの世界標準目指す

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── ユーザベースはどんな会社ですか。

新野 日本発のビジネス情報のプラットフォームとして、世界に通用するものを作り出すことが目標です。

 

インターネットの普及に伴い、一般ユーザー向け情報プラットフォームは、グーグルなどの検索エンジンからフェイスブックなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)へと劇的に変わりました。

 

一方でビジネス情報に目を転じると、使いやすいものが少ない。例えば、世界企業の中での時価総額ランキング一つとっても調べるのは大変な作業です。業界における企業の位置づけなど重要な情報なのに収集が難しいというストレスを、技術革新によって解決したいのです。

 

── ユーザベースが考えるビジネス情報とはどのようなものですか。

新野 株価や為替、企業の合併・買収(M&A)といったものだけではありません。例えば、ある企業へのインタビュー記事を読んだことがきっかけで志望する学生がいます。そうした自分の人生で下す決断に影響を与えるような経済情報です。

 

2002年に大手商社に入り食品部門を担当していた新野氏は、プレゼン向け資料の作成に膨大な時間がかかることを疑問視、ユーザー側に立った情報プラットフォームの必要性を感じていた。外資系証券会社に転職後、梅田優祐氏(現ユーザベース共同経営者)と意気投合し、08年、数人の仲間とマンションの一室でユーザベースを立ち上げた。翌09年には「SPEEDA」(スピーダ)の提供を開始。創業8年目の今年10月21日には東証マザーズに上場を果たす。

 

── 主力の情報プラットフォームの内容を教えてください。

新野 法人向けのスピーダと、子会社が運営する一般向けニュースサイト「NewsPicks」(ニューズピックス)の二つです。法人向けと一般向けの両方のプラットフォームを持つことが当社の強みです。

スピーダが提供する情報は、(1)世界200カ国以上、上場・非上場合わせ約380万社の企業情報、(2)550のカテゴリに分類した業界情報、(3)企業のM&A情報の3種類です。各社がどんな戦略を取っているかといった情報を集約して表示します。株式トレーダーに特化したデータベースのような狭い範囲の経済情報でなく、より広い範囲を対象とした基礎リサーチのツールとして顧客に認知されています。

一方、ニューズピックスの特徴は「ソーシャル」、つまり一方的なニュース配信でなく利用者も情報を発信できる点です。一人一人が発信者になれるのがネットの強み。例えば、利用者の意見それ一つでは影響力は小さいですが、それに同意や反対意見を加えることで、世論が形成されていくこともあります。

 

── 配信するビジネス情報はどう集めていますか。また、差別化は。

新野 スピーダは経済データを配信している国内外の約50の企業と提携しています。情報を提供してもらうと同時に、相手が持つ情報のマネタイズ支援も行います。加えて、自社独自のコンテンツも作っています。ニューズピックスも自前の記者がいます。

既存の法人向けサービスを見ると、データ量で勝負しているものが多く、一般向けのさまざまなプラットフォームほど使い勝手がよくないと感じていました。そこで「ユーザビリティー」(利用者の使いやすさ)に価値を転換し、ほとんどの情報はスピーダで取れるという「ワンストップ」を目指しました。

スピーダは企業情報の地図のようなもので、例えば、ある国のある業界を知りたいとき、企業のデータやニュースのほか、さらに深い情報を得たいときに、誰にアクセスすればいいかといった情報も提供します。

 

◇アジアでトップを目指す

 

── 売り上げ構成は。

新野 16年12月期は、およそ30億円の売り上げを見込んでいます。うち20億円がスピーダ、10億円がニューズピックスという内訳です。スピーダの加入ID数は国内外で約1400。売り上げの9割は国内で、残り1割が海外です。業種別に見ると一般企業が35%、銀行、証券会社、コンサルティング会社といった、プロフェッショナルファームが65%です。

 

ニューズピックスの収益源は主に三つあります。一つ目は現在、約2万人の会員がいる月額1500円の有料サービスで、これが3分の1を占めます。二つ目は企業のブランド広告、三つ目はニューズピックスを使った求人サービスです。

 

── 海外展開を含め、今後の戦略を教えてください。

新野 スピーダにとって最大の市場は、経済規模が圧倒的に大きい米国だと考えています。ただ、競合するプレーヤーも多く競争も激しいので際立った力が必要です。

現在、アジア市場でシェアを伸ばせているのは、日本のビジネス情報でナンバーワンという位置づけを取れたことが大きいと思います。スピーダの試用版への海外からの問い合わせでは、香港、シンガポールに次いで多いのが米国です。つまり、アジア情報でナンバーワンになることが米国に進出する際の最大の差別化要因になります。まずはアジア市場を押さえることが、次の展開につながると考えています。

(構成=大堀達也・編集部)

 

◇横顔

 

Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 30歳までに起業することが目標だったので商社に入り、起業がしやすい小さい商材を扱う生活産業分野で経験を積みました。

Q 「私を変えた本」は

A リカルド・セムラー著『セムラーイズム』、ケネス・クラーク著『ザ・ヌード』、共和政ローマ期の政治家カエサルの自伝『ガリア戦記』です。

Q 休日の過ごし方

A ジムに通っています。

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 ■人物略歴

 ◇にいの・りょうすけ

 1977年生まれ。暁星国際高校、慶応義塾大学卒業後、2002年三井物産入社。UBS証券を経て08年にユーザベースを設立し、共同経営者に就任。

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事業内容:ビジネス情報プラットフォームの運営

本社所在地:東京都渋谷区

設立:2008年

資本金:23億300万円

従業員数:178人(8月31日時点、ニューズピックス含む)

業績(2015年12月期・連結)

 売上高:19億1500万円

2016年

11月

15日

経営者:編集長インタビュー 大野直竹 大和ハウス工業社長 2016年11月15日号

◇「戸建ての心」で顧客と長い付き合いをする

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 現在の主力事業は何ですか。

 

大野 もともとは戸建てを中心に出発しましたが、今では、賃貸住宅・商業施設・事業施設の建設・運営をするコア3事業が連結売上高の6割以上を占めるようになりました。しかし、「戸建ての心」は忘れていません。戸建ての特性は、「顧客の夢を我々が預かる」こと。建物の完成後も、何十年も顧客とお付き合いします。この「戸建ての心」を持って、賃貸住宅・商業施設・事業施設を展開しています。

── どのように「戸建ての心」を生かしているのですか。

大野 たとえば、賃貸住宅はどんなに大きなものでも2~3年で完成します。しかし、オーナーは住宅を貸して家賃収入を得ることが目的ですから、我々の役割は建物の完成で終わるわけではありません。オーナーには賃貸事業がうまくいくかが最大の関心事です。そのため、たとえば、入居者からアンケートをとって、どのように建物を評価しているかを検証しながら次の商品開発に生かしています。これは戸建てメーカーでなければなかなかできない発想です。

 

── オーナーにはどう対応していますか。

大野 当社はオーナー会を作って、建物の完成後も経営がうまくいっているかをチェックします。仮に部屋が空いてしまった場合は、募集を掛け、空き部屋がゼロになるまでお付き合いします。オーナー会は全国に2万人の会員がいますが、時々「大和ハウスほど面倒見が良い会社はない」と言ってくれます。我々としては大変うれしい言葉です。

 

── 商業施設はどのような経緯で始めたのですか。

大野 今から40年ほど前、創業者の石橋信夫が、自動車社会の到来で消費者が車で商業施設に行って買い物をする時代になることを予想し、事業をスタートしました。最初は土地を購入して建物を造るやり方でしたが、それでは創業間もない企業は資金負担できません。そこで、道路沿いに土地を持っている地主と、店を持ちたいテナントを仲介する仲人の役をしていきました。我々が地主から建物の建設を請け負い、テナントには毎月の賃料を払ってもらう。地主は自分の土地を売ることなく、資産として運用できます。

 

── どんな会社がテナントですか。

大野 有名なところでは、「ユニクロ」のファーストリテイリングの郊外店舗の8割は当社が手がけています。紳士服の青山商事やコンビニエンスストア、ドラッグストアと非常に多くの顧客がいます。「とにかく長いお付き合いをする」ことが基本です。

 

── テレビコマーシャルで「物流施設の大和ハウス」というイメージも定着しています。

大野 物流施設などが主体の、新たな手法を用いた事業施設は15年前から開始しました。食材を加工できる食品物流倉庫やeコマースで即日配送に対応する物流倉庫と、倉庫の役割はどんどんと変化しています。当社の強みは、相場より少し低い賃料を提供しながら、テナントと長期契約を結んでいることです。テナントの8割は長期です。我々のやり方が正しいと思ったのは、2008年のリーマン・ショックの時。圧倒的な業界ナンバーワンの外資系企業が経営破綻しました。しかし、当社のテナントは長期契約でしかも優良企業ばかりなので影響は最小限でした。

 

 ◇売り上げ目標は前倒しで

 

── リーマン・ショック前の営業利益は900億円弱でしたが、16年3月期は2400億円強です。

大野 商業施設、事業施設などは時代を先取りしていたと思っています。私は営業本部副本部長、本部長を経て社長になりましたが、就任する1年前から、事業拡大へ手応えを感じていました。まず、地方での営業をかなり重視しました。関連事業も賃貸住宅・商業施設・事業施設のコア3事業を助けるような形で伸びてきました。人事もさまざまなことを考え手を打っています。

 

── 18年度を最終年度とする中期経営計画が始まりました。

大野 消費税率の10%への引き上げを前提に計画を組んだので、今では、少し保守的な目標ではないかと思います。政府・日銀の低金利政策も追い風となり、18年度の目標売上高3兆7000億円は、前倒しで達成したいです。コア3事業とその周辺事業で伸ばしていきます。たとえば、当社の建設した賃貸住宅を管理している大和リビングは、インターネット配信などの付帯ビジネスによって売り上げを伸ばすことができます。

 

── 米住宅会社スタンレー・マーチンの買収を発表しました。海外展開はどうですか。

大野 最終年度に2000億円を目指しています。国内での人員配置で手いっぱいで、海外への人材の供給が足りないなか、がんばってもらっています。今までは中国の分譲マンション開発が中心でしたが、これからは米国での賃貸住宅事業や、東南アジアでの事業用のレンタル工場やレンタル倉庫などを伸ばしていきたいと考えています。

 

── 社内でのコミュニケーションをどのようにとっているのですか。

大野 私は営業本部の副本部長と本部長を合わせて7年ほど務めました。当社には全部で80以上の支店がありますが、そのほとんどの支店長とはツーカーの間柄です。だから、何か問題があった時は、コミュニケーションが電話1本で可能です。支店に出かけると、社員たちと酒を酌み交わします。とにかく、現場の声を聞くことがものすごく大事です。これは、「戸建ての心」を持つこととも通じます。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

Q 社長業とは

A 世の中をしっかり見ながら明確な考えを持ち、自分自身に収れんしていく存在です。

Q 「私を変えた本」は

A 司馬遼太郎の『坂の上の雲』。『ノルウェイの森』の村上春樹も好きです。

Q 休日の過ごし方

A 映画や野球、芝居を見たりと、できるだけストレスのかからない過ごし方をしています。

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 ■人物略歴

 ◇おおの・なおたけ

 愛知県出身。愛知県東海高校、慶応義塾大学卒業。1971年大和ハウス工業入社。2000年取締役、07年副社長を経て、11年4月より現職。68歳。

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事業内容:戸建て・賃貸住宅、商業・事業施設の建設・運営

本社所在地:大阪市北区

創業:1955年

資本金:1617億円

従業員数:3万9736人(2016年6月末現在・連結)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:3兆1929億円

 営業利益:2431億円

 

 

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2016年

11月

08日

経営者:編集長インタビュー 福田三千男 アダストリア会長兼最高経営責任者(CEO) 2016年11月8日号

◇「カジュアル衣料のR&Dを強化」

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 アダストリアは、グローバルワークやローリーズファームなど、17のカジュアル衣料ブランドを、国内外に約1300店舗展開している。売上高は、2000年上場時の100億円から、16年2月期通期は2000億円と、低迷する小売業界で急成長を遂げている。

 

── 創業は1953年と、長い歴史があります。

福田 当社は、父が創業した「福田屋洋服店」で紳士服販売から始め、これまで環境の変化に応じて、メンズカジュアル、ジーンズカジュアル、ファッションカジュアルチェーンへとビジネスモデルを変えてきました。規模が拡大するにつれ、競合との差別化や店舗運営など、現在まで苦難の連続でした。現在の市場に進出したのは、92年にローリーズファームの展開を開始してからです。

 

── ローリーズファームの展開でも苦戦しましたか。

福田 最初は全く売れず、大苦戦しました。単品のヒット作を狙った商品作りをしていたため、お客様へのコーディネート提案などが難しく、なかなか大きな売り上げにつながらなかった。ブランドのストーリーがなかったことがその原因でした。

 

── どう打開しましたか。

福田 当時、一番売れ行きが良かった福岡店で、流行に敏感な社員を集めて「何が着たいか」徹底的に追求しました。パンツの丈の長さから幅まで細かくこだわり、そうして生まれたオリジナルジーンズは、あっという間に15万本以上を売り上げる大ヒット商品となりました。

 この経験から、「ストアブランド(小売業者独自のブランド)」の重要性に気付きました。「お客様に勧められるもの」「自分が着たいもの」を理念に商品を企画し、ローリーズファームを当社独自のストアブランドとして育てていきました。

 

 ◇誇り持てる商品作る

 

── 14年2月期までに純利益は5期連続で減少していました。

福田 当社はこれまで、企画・生産などの商品作りを全て外部の業者に委託して、仕入れた商品を販売する受託生産(OEM)供給体制でやってきました。しかし、株価が何十倍になった頃から、競合他社が次々とまねをしてOEMに移行し始めたのです。同じような商品が出回り、市場は同質化して価格競争となってしまいました。

 

── どうしましたか。

福田 10年に、一部のブランドや商品を企画から生産、販売まで一貫して自社で行う製造小売り(SPA)体制に仕組みを変える「チェンジ宣言」を行いました。13年には、取引先の一つで、生産機能を持つ「ナチュラルナイン」と、雑貨の小売りに強い「トリニティアーツ」を買収。同年、それまでの「ポイント」から、これらの会社を「アダストリアホールディングス(HD)」として経営統合し、競合と差別化できるよう、それぞれの機能を連携させ、商品力強化に取り組みました。

 ただ、それまで企画・生産を業者に頼りきりだったため、すぐにはうまくいかず、作っても売れない時期もあり、それまでにたまった不良在庫を処分したことで、14年は最終赤字となってしまいました。

 

── その後は。

福田 現在の自社生産比率は4割まで上昇し、一連の改革効果が実を結び、16年2月期にV字回復しました。社員にとっても、お客様から反響を頂き、自信を持って商品を勧められることはうれしいことです。一番重要なのは、社員が誇りを持って売れる商品があるかどうかですから。

 

── 15年に、HD体制を解消して1社に統合したのはなぜですか。

福田 商品力を高めるためには、企画・生産・販売、各機能の一体感が不可欠でした。それぞれの企業文化を尊重してHD体制としましたが、やはり各機能が垂直に連携しなければうまくいかないと思いました。「利益」も「お客様」も、立場によって見方も意味も異なります。皆が一つの目標を持ち、言葉を一つにすることが必要でした。

 

── 次の3カ年に向けた目標は。

福田 18年2月期までの中期経営計画目標である営業利益148億円は、初年度に達成しました。次の3カ年では、既存事業の年率成長率を5%以上とすることを目標にしています。具体的な数値目標はあえて設定していません。人間は大体、達成できそうな数字を言いますし、目標数値よりも1~2割増しで達成できてしまうものです。大きく成長するために、17年はできそうもないことを考えなければなりません。また、SPA体制も更に強化していきます。この仕組みなくして成長はありません。

 

── 海外展開は。

福田 既に海外進出はしていますが、現在、「なぜ進出するのか」という「意味」が不透明です。意味をしっかりと理解せず、「なんとなく」進出すれば必ず失敗します。過去、シンガポールに進出した時は大失敗しました。まさしく攻める「意味」が欠けていた。現在、この部分を深く追求しているところです。

 

── 通期の見通しは。

福田 17年2月期通期は、純利益予想を上方修正し、過去最高益を更新する見通しです。9月から、デザイナーやパタンナーなどのマネジメント人材を集結させ、商品企画や情報収集、発信機能の強化を行う研究開発(R&D)室を新設しました。今後は、R&D室の向上など、成長事業のための投資に力を入れていく予定です。

(構成=荒木宏香・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A ポイントを始めた頃で、一番苦しかった時期です。失敗の連続で、毎日お金の心配をしていました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 片平秀貴著『パワー・ブランドの本質―企業とステークホルダーを結合させる「第五の経営資源」』です。消費者のことを知り、理解しなければ、物も作れないのだということを学びました。

 

Q 休日の過ごし方

A 大体本を読むか、クラシック音楽を聴いています。

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 ■人物略歴

 ◇ふくだ・みちお

 茨城県出身。茨城県立水戸第一高校、同志社大学商学部卒業後、1969年紳士服メーカーに入社。71年、家業の福田屋洋服店に入社し、93年に社長就任。15年6月から現職。70歳。

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事業内容:衣料品・雑貨等の企画・製造・販売

本社所在地:東京都千代田区

設立:1953年

資本金:26億6000万円

従業員数:4686人

業績(2016年2月期・連結)

 売上高:2000億3800万円

 営業利益:160億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年11月8日号<10月31日発売>4~5ページより転載)

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2016年

11月

01日

経営者:編集長インタビュー ハロルド・メイ タカラトミー社長 2016年11月1日号

 ◇0歳から100歳まで楽しめるおもちゃを作る

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 有力商品は何ですか。

メイ 長く売れ続けている定番のおもちゃが、発売から46年たったトミカ、57年のプラレール、来年50年のリカちゃんです。グローバルに通用する定番として、車がロボットに変形するトランスフォーマー、ベーゴマが進化したベイブレードがあります。子供の本能に訴える定番商品が多いのが強みです。

── 少子化は逆風では。

メイ 日本で子供だけを相手にしていればそうです。消費者は誰かを考えなければなりません。おもちゃの定義を変えようとしています。

 今までは、おもちゃといえば遊ぶものでした。でも役に立つもの、集めたくなるものも立派なおもちゃです。0歳から100歳までが楽しめる商品を作っていきます。

 例えば、生卵を混ぜるクッキングトイです。フライパンで焼くと分厚いオムレツができます。使うのは主婦でしょう。ロボットの「オハナス」はスマートフォンなどを介してネットにつながり、高齢者の話し相手になります。

── 海外展開は。

メイ 今、売り上げの海外比率は4割です。日本の玩具市場は世界の6%に過ぎませんから海外比率の理想は9割ですが、当面の目標は国内と半々です。日本の高い品質と技術、発想力をぶつけていきたい。

 トミカで約500の安全チェックポイントがあるほど品質を気にしています。ポケモンなど二次元のアニメを三次元のおもちゃにするのは難しいのですが、そのまま再現できる技術があります。そして、例えばガチャの「自由すぎる女神」シリーズなど、いい意味でバカバカしいものを考えられる発想力です。

 世界各国で人口動態も購買力も違います。どの商品を、どの地域に、いつから販売するかが重要です。例えば、あるアジア向けのトミカは日本と材質を替え、値段を下げています。

 

 ◇第4の創業

 

── 創業家出身の前社長に最高執行責任者として招かれました。

メイ 入社前に調べると、タカラトミーは「商品は良いけれど商売は下手」と評されていました。マーケティング力を高めようと考えました。

 世の中は大きく変化しています。皆がデジタル機器を持つなかで、当社は商品も売り方も100%アナログです。アナログにデジタルの要素を付け加えていくことが大事です。

 これまで会社のホームページがある程度でしたが、ネット販売を始めました。PRでもツイッターや動画のユーチューブを使い始めました。

── デジタルを加えた商品とは。

メイ ベイブレードの新商品は、コマを回して遊んだ記録をスマートフォンのアプリを通じて管理したり、全国の値と比べたりできます。

── 改革を担っているのですね。

メイ 当社が大きく変わろうとするのは初めてではありません。30年ごとに3回、変貌を遂げてきました。

 92年前の創業時はブリキのおもちゃを職人が手作りしていました。プラスチックで大量生産するようになったのが第2の創業です。第3の創業でアニメはじめマスメディアと連動するようになりました。今、第4の創業がデジタルとグローバル化です。今後30年の道を描いています。

── 改革の要は。

メイ 商品改革に加え、社員の意識改革、それに構造改革です。

 社員の意識改革のキーワードは、0歳から100歳を対象に考える「エージレス」、日本だけを見ず、ネーミングをはじめ世界で売れるように設計する「ボーダーレス」、商品は発売して終わりではなく、進化を続ける「エンドレス」の三つです。

 構造改革は意思決定を早める目的です。部署と階層が多いため、アイデアが平社員から社長まで届くのに時間がかかり、丸くなってしまっていました。ヒットするような尖(とが)った商品が生まれないのです。部と課を20%減らし、階層を減らしました。

── 改革の手応えは。

メイ 改革が全部まとまった成功例がリカちゃんです。知名度は高いのですが、子供が人形で遊ぶ年齢が下がり、売り上げは減っていました。

 そこで、空想の世界のお姫様のような人形ではなく、大人でも欲しくなる商品として、街を歩いていてもおかしくないような髪形や服装の「リカビジューシリーズ」を6月に発売しました。ビジューとはフランス語で宝石です。また、リカちゃんのツイッターを作り、各地を旅した様子や、服やバッグのことをツイートしました。タレントとしてデビューさせたのです。化粧品の広告キャラクターにもなりました。リカちゃんの売り上げは50%伸びています。

 リカちゃんでできるなら、定番の商品全部でできるはずです。単に商品を売ろうとするのではなく、ブランドとして展開すべきです。

── 日本語が堪能ですが、日本で各社の経験を重ねて思うことは。

メイ 日本企業では社員が自分で判断しようとせず、上司に判断を求めます。外資系では決めて報告します。変化が早いなか、社員が即時に独自で判断できなければなりません。

 残念なのは、日本企業に野心がなくなったことです。最近「日本はこんなにすごい」というテレビ番組が多いですが、常に先を行かなければいずれ追いつかれます。コストでは勝てませんから、あとは発想力とブランドだと思います。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日本リーバ(現ユニリーバ)で日本でのリプトン紅茶の販売をすべて任され、やりがいがありました。ワンマンだったかもしれません。

Q 「私を変えた本」は

A 歴史が好きです。学べるものがたくさんあります。社長は、決断も責任も1人で寂しいものですが、歴史の本を読むと古今、トップは皆同じなのだと思います。

Q 休日の過ごし方

A 山でサバイバルキャンプをします。持っていくのはナイフとトイレットペーパー、それにお酒だけ。自分で寝場所を作り、食料を探します。

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 ■人物略歴

 ◇H.G.Meij

 オランダ出身。米ニューヨーク大院修了。1987年ハイネケン・ジャパン入社。日本リーバ、サンスター、日本コカ・コーラ副社長を経て、2014年4月タカラトミー最高執行責任者、15年6月より現職。52歳。

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事業内容:玩具・雑貨等の企画・製造・販売

本社所在地:東京都葛飾区

設立:1953年1月

資本金:34億5953万円

従業員数:2042人(16年3月末現在・連結)

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:1630億円

 営業利益:26億円

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2016年

10月

18日

経営者:編集長インタビュー 出澤剛 LINE社長 2016年10月18日号

◇LINEで何でもできる世界をつくる

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

── 今年7月に上場を果たしました。
出澤 2011年6月にスマートフォン向けコミュニケーションアプリ(メッセンジャー)の「LINE」を提供し始めて5年がたち、成長戦略、収益性、組織力の三つに自信がついたところで上場しました。

日本には6200万人の利用者がおり、LINEはインフラ化しつつある自負があります。上場することで、会社の透明性が増し、より安心して利用してもらいたいと思っています。

── 米国の「ワッツアップ」や中国の「ウィーチャット」など他のメッセンジャーとの違いは。
出澤 米国のメッセンジャーは、コミュニケーションに特化し、他の機能をなるべくそぎ落としています。一方、LINEは、メッセージのやりとりを中心として、ゲームをしたり音楽が聴けたりする多機能型サービスを展開しています。
 海外でも事業展開をしていますが、各国のニーズをくみ取り、現地で使いやすい形にしています。たとえば、LINEを使ってタクシーを呼ぶ配車サービスは、バイクが多いインドネシアではバイクが中心です。渋滞が激しいタイでは、ランチを届けてほしいというニーズがあったので、LINEから宅配サービスを頼めます。
── 日本でLINEアプリがヒットした秘訣(ひけつ)は。
出澤 スマートフォンに特化したメッセンジャーのニーズがあり、いち早く対応できたからだと思います。パソコンを使ったインターネットサービスを振り返った時、最初に掲示板などコミュニケーションサービスがはやりました。スマホでも同じことが起こるだろうと考え、10年秋くらいから集中的にサービスを開発しました。
── 収益構造は。
出澤 広告、ゲーム、LINE上でのチャットで利用できるステッカー(スタンプ)の3本柱です。15年はゲームの収益が最も大きかったのですが、16年4~6月期で、広告の収益が一番になりました。
── 広告収益が伸びた理由は。
出澤 今年6月から本格展開したタイムラインへの広告掲載が好調だからです。これまでは、企業がLINEに公式アカウントをつくって、そのフォロワーに商品情報などを送っていました。しかし、このモデルでは、まず利用者が企業アカウントを能動的にフォローしてくれないと情報を届けることはできません。
 一方、タイムラインはLINE利用者全員が見るページなので、より多くの利用者に広告を見てもらえます。さらに、利用者の性別と年齢から、広告効果が高そうな属性の人のタイムラインにだけ広告を出すこともできます。
── 上場による調達資金の用途は。
出澤 LINEを通じて何でもできる世界、「スマートポータル」の実現に向けた投資をします。スマホで最も利用されているアプリは世界共通で、メッセンジャーです。利用者は、使い慣れているメッセンジャーをポータル(入り口)として、タクシーを呼んだり、ニュースを読んだりしたいのです。
── 他にスマートポータルでできることとは。
出澤 例えば、日本でコールセンターのサービスをLINEに置き換えようという動きが出ています。旅行代理店や不動産会社、銀行などへの問い合わせがチャットでできれば、電車の中など場所を選ぶ必要もなくなります。
 企業にとっても、LINEは画面を複数立ち上げれば同時並行で対応できるので、1対1の電話応対よりも1人が処理できる件数が増えます。ホームページのアドレスや画像を送ることができますし、LINEでのやりとりをそのままログ(記録)として引き継ぎ作業に使えます。
 LINEを導入したコールセンターの事業者が求人を出したところ、通常より5倍の応募がきました。働く側も電話よりLINEで問い合わせられる方が良いようです。

 ◇決済事業に期待

── 海外展開は。
出澤 現在は、日本、台湾、タイ、インドネシアの4カ国に事業を集中しています。メッセンジャーの利用者は多くの人とコミュニケーションを取りたいので、利用者数が多いメッセンジャーを選びます。そして、ある国で特定のメッセンジャーがトップシェアを握ると、それをひっくり返すのは難しいです。投資の効率性を考え、現在はこの4カ国に事業を集中させています。
── 今後の成長の核は。
出澤 決済事業がこれから大きくなっていくと思います。14年12月から「LINE Pay」というモバイル送金・決済サービスを行っています。LINE Pay口座にクレジットカードの登録や銀行口座などからチャージすることで、Eコマース(電子商取引)での決済やLINEの有料コンテンツの購入に利用できます。LINE Pay口座間での送金は無料で、友人同士で飲み会の清算をしたり、仕送りをしたりできます。
 今年3月からは、JCBと提携し、「LINE Pay カード」というデビットカードを発行しはじめました。国内外のJCB加盟店で利用できます。100円ごとに2ポイントと、2%のLINEポイントが付くので、一度使った人はメリットを感じて使い続けてくれます。カードの発行数、取扱高ともに伸びています。
(構成=金井暁子・編集部)

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 33歳の時にライブドア事件が起き、その後、社長に就任しました。事件後もネット事業のコアメンバーは残っており、皆、再建に燃えていました。その後NHNジャパンの取締役になり、濃い30代でした。
Q 「私を変えた本」は
A 司馬遼太郎の『国盗り物語』。中学生の時に読んで、歴史が好きになりました。
Q 休日の過ごし方
A 土曜日は妻が仕事をしているので、0歳と3歳の娘を公園に連れて行ったりしています。
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 ■人物略歴
 ◇いでざわ・たけし
 長野県出身。長野県野沢北高校、早稲田大学卒業。2001年ライブドアの前身オン・ザ・エッヂに入社。07年ライブドア社長、12年同社を買収したNHNジャパン(現在LINE)取締役。15年4月より現職。43歳。
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事業内容:コミュニケーションアプリ「LINE」、ポータルサイト「Livedoor」などを運営
本社所在地:東京都渋谷区
設立:2000年9月
資本金:125億円
従業員数:1114人(単体)
業績(2015年12月期・連結)
 売上収益:1206億円
 営業利益:-95億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月18日号<10月11日発売>4~5ページより転載)

2016年

10月

11日

経営者:編集長インタビュー 平岡昭良 日本ユニシス社長 2016年10月11日特大号

◇社会問題をITシステムで解決する

 

── 2017年3月期は増収増益の計画です。好調な事業は。

平岡 コンビニなどで売っているプリペイドカード向けのIT(情報技術)システムです。アマゾンやアップル、グーグル、任天堂、DeNAなどのサービスで使うプリペイドカードは現在、約100種類あり、その約5割は、当社が提供するカードの発行元と販売元をつなぐ仕組み(プラットフォーム)で動いています。プリペイドカード市場は、米国では10兆円規模になり、まだ統計がない日本でもインターネットで買い物する市場が拡大するなかで伸びていくとみています。

── そのビジネスモデルは。

平岡 プリペイドカード事業が好調なのは、カードが普及すればするほど、当社の手数料収入が上がるビジネスモデルにできたのが大きいです。つまり、普及しなければ赤字プロジェクトになるため、お客様と同じ方向を向くことができます。

 これまで、当社の売り上げはプロジェクトの工程に対して、それに取り組む人の数で計算していました。ただし、当社の売り上げが上がると、お客様にとっては投資額が上がってしまいます。これからは、お客様の初期費用は少なく、当社のシステムを利用して手数料をいただくような、ウィンウィンの関係を作っていきます。

 

 日本ユニシスは、18年に創業60周年を迎える。主な事業は、銀行ATM(現金自動受払機)、電力会社向けの顧客情報管理や料金計算のシステム、航空・鉄道乗車券の予約・購入など、社会基盤の根幹を支えるITシステムだ。さまざまなメーカーの製品を最適に組み合わせて提供するため、機器のメーカーにこだわらない「ベンダーフリー」が強みだ。顧客層は大きく、金融、製造・流通、公共サービスの三つに分かれる。

 

── 既存のビジネスはどうか。

平岡 顧客の要望に応じて、ITを使ったサービスやシステムを提供する従来の事業は、足元も好調です。どの業界でもITが経営の武器になることは共通しており、IT需要は増えています。

ただし、従来の事業では、生産性を上げて70%の力で取り組もうとしています。そのために、開発の速度を速めたり、協力会社との協業比率を増やしたりして、原価構造を変えています。

── 生産性を上げた分は。

平岡 将来のために使います。当社はこれまで、電力やATMなど止まると大きな問題になる社会システムを手がけてきたので、プロジェクトが失敗しないように、堅く堅くリスクを評価していくのが企業文化でしたが、今はイノベーション(技術革新)を起こすことが必要です。

 一つの取り組みとして、私が常務時代の11年に私塾を始めました。「今の仕事をしながら、何かおもしろいことをしようよ」と呼びかけました。1期が3カ月間で7期まで続き、その卒業生が約200人います。この私塾から、タクシー配車システムや保育園の支援システムなどのアイデアが生まれました。また、今広がっている電気自動車向けの充電ネットワークシステムも私塾の卒業生が取り組んでいます。この私塾は好評で、社員が独自に新事業を企画する「裏・私塾」まで生まれました。これは驚きでした。社内が「こんなこともしていいんだ」という雰囲気になっています。

── 新規事業は。

平岡 医療分野で、地域医療における情報連携を支えるシステムに取り組んでいます。医者、薬局、介護施設などの間で医療情報を共有する仕組みを、第1弾として新潟県・佐渡島で始めています。また、今年4月にスタートした電力の自由化では、新規参入者向けに、契約の受け付けから顧客向けの請求紹介までさまざまな段階がある共通システムを提供しています。

 

◇マンションの電力に強み

 

── 電力自由化以外のエネルギー分野は。

平岡 当社はマンション全体でエネルギー管理・節電を支援する「マンション・エネルギー・マネジメント・サービス(MEMS)」のシステムで7割近くのシェアを持っています。このMEMSを導入する専門業者向けのシステムを提供しています。今は、個別で電力会社と契約している人が多いですが、マンションごとで契約すれば電気代は安くなります。今後、新築マンションはほとんどこれに変わるとみられています。

── リオ五輪では、御社所属のバドミントン選手が活躍しました。

平岡 現地に行き全試合観戦しました。金メダルを取った女子ダブルスの高橋礼華選手と松友美佐紀選手の「タカマツペア」は、決勝の終盤で1点取られるとマッチポイントという場面でも、リスクを恐れずにコートの端を狙い続けました。経営としても、あきらめない姿勢だけでなく、リスクを取って攻めに出たことを見習わないといけません。

 私は社員に向けて、「成功のKPI(評価指標)は失敗の数」として「失敗から学ぼうよ」と呼びかけています。百発百中で失敗を許さない文化から、失敗を許容できるように会社を変革していきます。

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長) 構成=谷口健(編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A システム畑から営業畑に変わり、金融や製造業、流通など一通りの業種を経験しました。その時に学んだのが、金融機関に金融の話を持っていっても勝てないので、異業種の取り組みを紹介することです。

Q 最近買ったものは

A 「ダブル」という車輪付きのロボットです。大人の背の高さくらいの棒の先端にiPadが付いていて、WiFiを通じて遠隔操作できます。専務時代に一度、私の代わりに役員会に出ました(笑)。

Q 休日の過ごし方

A 3連休の時はオープンカーでドライブします。

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■人物略歴

◇ひらおか・あきよし

石川県出身。金沢大学附属高校、早稲田大学理工学部を卒業後、1980年4月、日本ユニバック(現・日本ユニシス)入社。2002年6月、執行役員。常務、専務を経て、16年4月に社長就任。60歳。

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事業内容:ITシステム、ITソリューションサービス

本社所在地:東京都江東区

設立:1958年3月

資本金:54億円(単体)

従業員数:4241人(単体)、8103人(連結)

業績(2015年度)

売上高:2780億円

営業利益:125億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月11日特大号<10月3日発売>4~5ページより転載)

2016年

10月

04日

経営者:編集長インタビュー 高谷康久 イー・ガーディアン社長 2016年10月4日特大号

高谷康久 イー・ガーディアン社長

◇ネットサービスの守護神になる

 

 イー・ガーディアンは、SNSの投稿監視などを行うネットサービスのセキュリティー会社。9月16日に東証マザーズから東証第1部に市場変更した。

── 売上高が2010年9月期の13億円から15年9月期に30億円と倍増しています。急成長の理由は何ですか。

高谷 インターネット関連の市場が急拡大しているからです。ブログやSNSが普及し、それに伴ってネット関連のトラブルが増えました。ネットサービスは、24時間365日動いていますから、それを個別企業で運用・監視するのは大変です。ブログやSNSのプラットフォーム(基盤)を提供する会社の代わりに、そのサービスを監視しています。

── どのように監視しますか。

高谷 ブログやSNSの投稿、EC(電子商取引)サイトにおける商品のレビューや口コミで誹謗(ひぼう)中傷や児童ポルノ画像がないか、ECサイトで違法な薬物や模造品が売買されていないかなどを監視しています。

 システムによるテキストと画像の解析と、人間の目視確認を行っています。システムは、画像を認識するAI(人工知能)を東大と共同開発し、業界で初めて導入しました。

── ネット監視事業を始めたきっかけは。

高谷 私は、以前、京セラで携帯電話のコンテンツ事業を担当していました。当時は、ドコモの「iモード」や、KDDIの「ezweb」といったインターネットサービスの黎明(れいめい)期。ネットサービスが拡大するのに伴って、ネットに関連する事故・事件も起き始めていました。

 今後インターネットサービスにおけるセキュリティー会社が必要になると思いました。イー・ガーディアンという社名には、「インターネットの守護神」になるという思いを込めています。

── 投稿監視の他には、どんな事業をしていますか。

高谷 ECサイトやソーシャルゲームなどに掲載されるネット広告に、違法な誇大広告がないかを確認しています。

 最近増えているのが、ソーシャルゲームの問い合わせ対応の代行です。電話やメール、チャットによる問い合わせの対応を多言語で24時間行います。「課金したのにアイテムが買えない」「ゲーム中に嫌がらせをしてくるユーザーがいる」など問い合わせは多いです。

── 顧客数は。

高谷 700社を超えます。国内だけでなく、中国、タイ、フィリピンにも提携しているサポートセンターがあります。

── 御社の強みは。

高谷 グループ全体で、多岐にわたるセキュリティーサービスを提供できることです。たとえば、15年に買収したベンチャー企業のHASHコンサルティングは、Webアプリのセキュリティーホール(安全面での穴)を見つける会社です。また、14年に会社分割して設立したトラネルは、ゲームのバグ(プログラムの誤り)を見つけます。

 ゲームの開発段階でトラネルがバグを発見し、リリース後にイー・ガーディアンが問い合わせ対応をするなど、グループ間の連携で成長スピードを加速していきます。

 

◇今期も2桁成長

 

── 業績見通しは。

高谷 16年9月期は、売上高、営業利益ともに前期比で2桁成長の見込みです。市場が拡大しているので、2桁成長は最低限だと思っています。

 

 イー・ガーディアンは、今年4月に設立されたブロックチェーン推進協会に発起メンバーとして参画している。ブロックチェーンは、複数のコンピューターが分散して管理する台帳で、金融機関などが注目している。

 

── ブロックチェーンに取り組む理由は。

高谷 改ざんがしづらく、システム構築のコストが小さいブロックチェーンは、今後あらゆるECサイトやシェアリングサービスのプラットフォームになると考えています。

 そこで、第三者によるセキュリティーチェックが必要となります。たとえ、ブロックチェーン自体が安全だとしても、その仕組みを使ったサイトやサービスが安全とは限りません。

 サービス開始前にセキュリティーホールがないか検証する必要があるのです。具体的な取り組みはこれからですが、ツールを使ったセキュリティー診断やハッカーを装った攻撃テストなどが考えられます。

── 他にも新しい技術が次々と登場していますが、対応は。

高谷 顧客であるゲーム会社で活用される新技術について、プログラムに誤りがないか、サービスに問題がないか検証していきます。

  VR(仮想現実)、AR(拡張現実)の対策専門チームを社内に発足しました。ゲーム世代である若いメンバーが中心となって、取り組んでいます。

── 今後の目標は。

高谷 安心・安全のシンボルになりたいです。建物にセコムのマークがあると安心しますよね。同じようにWebサイトにイー・ガーディアンが監視中、またはチェック済みというマークがあれば、ユーザーに安心して使ってもらえるようなブランドになりたいです。

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長) 構成=金井暁子(編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 36歳の時に、会社を立ち上げました。当時は売り上げが少なく、「地獄の30代」と言うくらいしんどかった。でも、30代に苦労すると、次の10年が大きく変わります。

Q 「私を変えた本」は

A 稲盛和夫さんの『心を高める、経営を伸ばす』です。何のために働くのか、生きるのか人生哲学が明確に書かれていて、これを読んでジョンソン・エンド・ジョンソンから京セラに転職しました。

Q 休日の過ごし方

A 土曜日に日本拳法という武道塾を主宰しています。

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■人物略歴

たかたに・やすひさ 大阪府出身。大阪府立摂津高校卒業。関西学院大学法学部を卒業。1995年に京セラ入社。仕事で関わりのあったホットポットからコンテンツ監視事業を譲渡され、2005年にイー・ガーディアンとして分社化、06年社長就任。48歳。

 

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事業内容:ブログ、SNSの投稿監視。オンラインゲームのカスタマーサポート。

本社所在地:東京都港区

設立:1998年5月

資本金:3億4000万円

従業員数:723人(グループ)

業績(2015年度連結)

 売上高:30億1800万円

 営業利益:3億2800万円

 

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>4~5ページより転載)

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2016年

9月

27日

経営者:編集長インタビュー 張店(デビッド・チャン) BTCボックス社長 2016年9月27日号

◇「仮想通貨IPO」の時代が来る

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

  日本円でビットコインを購入・売却するための取引所を運営する。月間の取引規模は62万9416BTC(BTCはビットコインの単位)、約440億円(7月)。

 

── ビットコインが活況ですね。

 張 理由の一つは、日本の国会で5月末に仮想通貨の悪用を防ぐための規制を定めた改正資金決済法が可決されたことです。法整備が進み仮想通貨に対するイメージが良くなりました。

  もう一つは、4年に1度、新たな通貨の供給量が半減するという、ビットコイン特有の仕組みの影響です。通貨価値を担保するための半減期が7月にあり、それを見越して6月に価格が2倍に急騰しました。

 

  さらに、ビットコインの基盤技術である「ブロックチェーン」の応用技術開発に大手金融機関が乗り出したこともあります。ブロックチェーンとはインターネット上の巨大な台帳で、世界中のビットコインのユーザーによって共有され、新たな取引が行われる度に取引記録が書き加えられる仕組みです。

── 取引所を作った理由は。

 張 2013年ごろ、世界中で取引されるようになったビットコインに通貨の未来を感じ、興味を持ったのがきっかけです。

  しかし、当時は日本でビットコインを買いたくても、日本の仮想通貨取引所は対応が遅く、また、海外の取引所から買う場合は、英文の身分証などを用意する必要があり、入手手続きに時間がかかりました。

  そこで、もっといいサービスを提供できる取引所を自分で作ろうと考え、14年3月にBTCボックスを創業しました。取引所に口座開設の申し込みをしたら、翌週にはビットコインを入手できるサービスを日本で初めて作りました。

── サービスの内容は。

 張 現在、ビットコイン含め三つの仮想通貨と日本円の交換の場を提供しています。ユーザーは口座を作れば、仮想通貨と円の取引が自由にできます。

── 収益源を教えてください。

 張 一つ目は、ビットコインと円の取引手数料ですが、現在は、国内取引所間で競争が激化しているため、2年前から各社ゼロに設定しています。ただ、こうした状況は健全とは言えません。

  二つ目は、ユーザーがBTCボックスの口座にある日本円を、自分の銀行口座に出金する際にかかる0・5%の手数料です。

  三つ目は、ビットコインの短期売買で利ザヤを抜くといった、いわゆる信用取引をしたいユーザーにビットコインを貸し出す際の手数料です。最低利率は0・1%で、貸出量に応じて大きくなります。あくまで一時的な貸し出しで、長期的なサービスは考えていません。

── 他社と比べて強みは。

 張 他の取引所は、システム関係で何らかの不具合を起こして取引を停止した経験がありますが、BTCボックスは、取引所の開設以来、サーバーがダウンするといった事故を一度も起こしていません。理由の一つは、取引システムが強固なことです。システムの構築は外注せず、すべて内製しています。それを可能にする技術スタッフがいます。

 

◇ブロックチェーン2.0

 

── 9月から始めた新サービスはどのようなものですか。

 張 日本円を介さずに仮想通貨同士を直接売買する取引所「BTCボックス・ドットコム」を開設しました。取り扱うのはビットコインとイーサリアムの通貨ペアです。

  イーサリアムは、昨年夏に仮想通貨市場に登場した比較的新しい仮想通貨です。そのブロックチェーンを構成する各ブロックには、ビットコインなどに比べてより大きな情報を記録できるため、決済のほかさまざまな用途に活用できます。これまでの通貨目的の技術が「ブロックチェーン1・0」と呼ばれるのに対し、「スマートコントラクト」という電子契約が可能になるイーサリアムは「ブロックチェーン2・0」と呼ばれ注目されています。

── 具体的に何ができますか。

 張 契約情報を盛り込むことができるので、期日までに指定の口座にこれだけ入金するということをあらかじめ書き込めば、期日に自動的に支払いが実行されます。証券や不動産の取引に使えます。今、大手銀行などが開発中の技術は、すべてブロックチェーン2・0で、いわゆる「フィンテック」(ITを活用した金融技術)の一つです。

  現在、仮想通貨は利殖目的で買われることが多いですが、投機目的ではなく、仮想通貨同士の売買を仲介することで、ブロックチェーン2・0の活用領域を広げることがBTCボックス・ドットコムの目的です。8月には技術者派遣業の夢真ホールディングスと資本業務提携しました。フィンテック領域でブロックチェーン技術者の育成・派遣を行う新事業を立ち上げるのが目的です。

── 今後の目標は。

 張 株式新規公開(IPO)のように、イーサリアムのような有望な仮想通貨を新規公開する「ICO」(イニシャル・コイン・オファリング)が目標です。ICOした通貨を使った新たなサービス創出のプロジェクトへ出資を募る役割も担いたいです。また、大手金融機関が提供するアプリケーション開発を受注できれば、新たな収益源になります。

 (構成=大堀達也・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日本の電機メーカーでアップルの製品の共同開発に携わっていました。

Q 「私を変えた本」は

A 米ペイパル共同創業者エリック・ジャクソンの『The PayPal Wars』です。ペイパルとイーベイの競争は、仮想通貨取引所の競争に似ていて、目標設定や決断の参考になります。

Q 休日の過ごし方

A 2歳の息子と公園に行ったり、読書や映画鑑賞をしたりすることが多いです。

 

■人物略歴

◇デビッド・チャン

 中国山東省出身。2004年遼寧省大連開発区第8高校卒業、08年瀋陽工業大学卒業後に来日し、日本の電機メーカーに入社。14年3月に独立し、BTCボックスを設立。31歳。

 

◇BTCボックス

事業内容:仮想通貨と日本円の取引所運営

本社所在地:東京都中央区

設立:2014年3月

従業員数:13人

月間仮想通貨取扱高(ビットコイン):約440億円(16年7月実績)

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2016年

9月

20日

経営者:編集長インタビュー 山本良一 J.フロントリテイリング社長 2016年9月20日特大号

 ◇時代に合った新たな百貨店へ転換

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 来年で統合から10年がたちます。振り返っていかがですか。

山本 2007年に大丸と松坂屋ホールディングス(HD)が経営統合し、持ち株会社として発足した当初から、百貨店を中核とした小売業のリーディングカンパニーを目指すという明確なビジョンを持ち、事業展開を行ってきました。12年にパルコを子会社化したり、通販大手の千趣会と資本提携を結ぶなど、マルチリテイラーとして、目標イメージに近い会社へ変化しています。

── 一番苦労したことは。

山本 統合して、まずは同じような子会社を1業種1社に統一していくことから始めました。最後に大丸と松坂屋の統合に着手しましたが、人事制度や給与体系、情報システムなどの統一はもちろん、社員がどの店舗でも同じように仕事ができるよう、業務の進め方なども作り変えなければならず、その作業にとても苦労しました。最終的な完了までには2年半ほどかかりました。

── 訪日外国人観光客による「爆買い」の影響は。

山本 16年2月期連結決算の免税売り上げは、前年比2・2倍増の338億円と、過去最高となりました。しかし、円高や中国経済の低迷に加え、中国の関税の大幅な引き上げで、16年3~5月期の免税売り上げは前年比25%減少しました。

とはいえ、16年3~5月期の客数は前年比0・5%減と、ほぼ減っていません。当社に来店される訪日外国人観光客の約10%がリピーターであることなどから、客数は増加するとみています。今後は爆買いをあてにするのではなく、訪日外国人観光客のニーズをしっかりと捉えたビジネス展開を行っていくことが重要だと思います。

── 消費全体ではどうですか。

山本 富裕層の消費は比較的安定しているものの、消費全体は足踏みしています。特に、中間層の購買意欲が薄れてきており、当社の中級価格帯の婦人衣料品などの売れ行きは厳しい状況が続いています。今後はどれだけ中間層を獲得していけるかが課題です。

── 課題に向けた取り組みは。

山本 多くの人は、通勤経路や居住地などで生活行動範囲が決まり、買い物の場所もおのずとその範囲の中で決まります。そうしてできた「脳内ショッピングマップ」の一つに追加されるためには、来店するきっかけを作り、認知してもらい、行動範囲や習慣を変えてでも来店していただけるような仕掛けが必要です。そのために、売り場構成を常に変化させ、これまでの百貨店のイメージとは少し違うテナントも誘致することで、新しい客層の掘り起こしに取り組んでいます。

── 具体的には。

山本 松坂屋名古屋店では、婦人服と住生活用品の売り場を圧縮し、そこに従来の百貨店にはないカテゴリーだったヨドバシカメラを誘致したり、手の届きやすい価格帯のブランドを充実させたりして、お客様のニーズや時代に対応した商品のカテゴリーや、ブランドの入れ替えを行っています。

 

◇オムニチャネル強化

 

── 15年には千趣会と資本提携しました。

山本 電子商取引(EC)サイトとカタログを中心とした販売チャネルを持つ千趣会は、ECサイトからの受注が80%で、そのうち40%をスマートフォン(スマホ)が占めています。スマホの普及で販売チャネルが多様化するなか、ウェブに対応した通販ビジネスの知見や、商品の受注、調達、配送といった物流システムの充実度は、当社にはない強みです。

── どんな展開がありますか。

山本 現在、千趣会との共同開発で、モデルの黒田知永子さん監修のファッションブランド「Kcarat(ケイカラット)」を、千趣会のカタログや両社のECサイト、大丸6店舗で展開しています。オリジナルブランドの開発・販売は、店頭のみの展開では販売量が限られるため、その分価格が高くならざるを得ません。今回、千趣会の販売チャネルも活用することで、ある程度の販売量が見込め、中間層にも手の届く価格帯にできました。

 また、千趣会のオリジナルブランド開発の知見も活用し、百貨店とECサイト両方の顧客ニーズを取り入れた商品開発を行いました。実店舗を持っていない千趣会にとっても、相互補完し合える資本提携ができたと思います。

── 松坂屋銀座店跡地を再開発しているそうですね。

山本 現在、17年4月の開業を目指し、売り場面積4万6000平方メートル、約240のテナントを誘致する、銀座エリア最大級の複合施設の建設を進めています。銀座という土地の性質上、世界中から訪れるお客様に楽しんで頂けるワールドクラスクオリティの商業施設を目指し、お決まりの百貨店の形にはこだわらない店作りをしていきます。「松坂屋」の屋号も使いません。

── 松坂屋上野店の建て替えは。

山本 17年秋の開業を目指し、パルコや映画館、オフィスが一体となった、地上23階建ての複合ビルを建設中です。当社は14年から、店舗を核に地域とともに成長するビジネスモデル「アーバンドミナント戦略」を推進しています。既に進行中の上野・御徒町地区の再開発を同時に進め、上野の街全体を活性化させ、百貨店を中心としながら成長を促していけるビジネスモデルの構築を目指していきます。

(構成=荒木宏香・編集部)

 

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A その頃は大丸梅田店開業のための新店準備室にいました。その時が、店作りにおけるノウハウや考え方、百貨店とは何かを一番学んだ時期でした。

Q 「私を変えた本」は

A稲盛和夫編『地球文明の危機(環境編)』、『同(倫理編)』です。現代文明と地球環境の危機に警鐘を鳴らす内容に、現代人の生き方について考えさせられ、感銘を受けました。

Q 休日の過ごし方

A 全国の店舗を見て回ることが多いです。松坂屋上野店にはよく行きます。

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■人物略歴

 ◇やまもと・りょういち

神奈川県出身。横浜市立桜丘高等学校卒業。1973年明治大学商学部卒業後、大丸に入社。2007年にJ.フロントリテイリングの取締役、10年に大丸松坂屋百貨店の代表取締役社長を経て、13年J.フロントリテイリング代表取締役社長に就任。65歳。

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 ◇J.フロントリテイリング

事業内容:百貨店・パルコ事業のほか、卸売事業、クレジット事業などを運営

本社所在地:東京都中央区

設立:2007年9月3日

資本金:300億円

従業員数:7277人(連結、2016年2月29日現在)

業績(2016年2月期・連結)

売上高:1兆1635億円

営業利益:480億円

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2016年

9月

13日

経営者:編集長インタビュー 長谷川敦弥 LITALICO社長 2016年9月13日号

◇障害があっても幸せな社会に

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

  LITALICO(以下、リタリコ)は、障害者の支援をビジネスとして実現する日本唯一の上場会社だ(2016年3月上場)。内閣府の『平成28年版 障害者白書』によると、日本にいる障害者は860万人。一方、障害者の労働者数は、36万6000人にとどまる。

リタリコは、障害者の就労や学習支援を通 して、この課題に取り組む。

── 障害者の支援事業を始めたきっかけは。
長谷川 学生時代に、障害者施設で働く脳性まひの若い女性に会ったことをきっかけに、障害があっても 幸せになれる社会をつくりたいと決めました。リタリコは、先代の社長が2005年12月に設立した会社です。彼が仙台市長選挙に出馬することになり、後任 として09年8月に私が社長に就任しました。当時は入社2年目でした。

── 入社2年目での社長抜てきに重圧は感じませんでしたか。
長谷川 元々、経営者になりたいと考えていたので、不安やプレッシャーはありませんでした。
 ただ、社長を引き継いだ当時は、毎月700万~800万円ほどの赤字がありました。そこで、売り上げを伸ばすために就労支援事業の拠点の拡大に力を入れました。10年8月時点は、全国で6拠点でしたが、半年後の11年3月には15拠点と倍増。翌12年3月には34拠点となり、現在は58拠点です。
── なぜ、株式会社の形態をとっているのですか。
長谷川 日本では、非営利団体よりも株式会社の方が、資金も人材も集まるからです。また、近江商人の「三方良し」のように、昔から会社が社会貢献を行う考え方があります。
── ビジネスモデルは。
長谷川 以前は、企業に障害者を紹介し、企業から人材紹介料をもらう事業モデルでした。しかし、これでは就職できるのは障害が軽度な一部の人だけです。障害者の雇用を増やす抜本的な解決になりません。
 そこで現在は、障害者に就労支援サービスを提供し、その料金の1割を利用者から、9割を国と自治体からもらっています。病院や介護施設と似たような形態です。実際には、利用者の大半は前年度の収入がないため、無料でサービスを受けています。サービス料は、1日約8500円からです。
── 就労支援の中身は。
長谷川 利用者は、約1年間でパソコンの使い方やコミュニケーションのとり方などを学んだり、企業で実習をしたりします。面接対策など就職活動の支援もします。また、障害者の中には、ようやく決まった就職先の環境に過剰に合わせすぎてしまう人が多いので、就職後も半年間のフォローアップを行います。
── どのような人が利用していますか。
長谷川 利用者のうち約6割が精神障害を持ち、約2割が発達障害を持っています。身体障害と知的障害を持つ人も、1割ずついます。
 昨年度は、月平均で約1800人が利用し、そのうち894人が就職しました。就職者数は、事業を開始した08年から累計で約4000人。

 ◇多様な人が働く環境を

── 行政による障害者の就労支援と違う点はどこですか。
長谷川 従来の障害者支援は、福祉施設の中で働く場を提供していました。1人30年、40年と長い期間施設で働くため、その分、社会福祉のコストがかかります。
 一方、リタリコのサービスは、社会に出て働くことを目的としています。就労支援の期間は費用がかかりますが、就職後は企業から給与をもらい、自立します。
 つまり、長期的に見れば、リタリコのサービスが拡大することで、社会保障費は減らすことができます。
 また、日本の人口が減少する中、生産性を高めるためには、多様な人材が働き、イノベーションを生み出すことが重要です。その点でも、障害者を含む多様な人材が働ける環境が大切だと思います。
── 環境を整えるため、他にどんな取り組みを。
長谷川 自閉症やアスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの発達障害を持つ子ども向けに教室を運営しています。集団生活を送るための練習をしたり、基礎学力をつけるための教育を受けます。料金は、週1回利用の場合で月額約2万円です。就労支援と同じく社会保障費から補助がでるケースと、100%自己負担のケースがあります。
 現在、70の拠点があり、約8000人が通っています。しかし、教室が満員のため、待機者が数千人います。それくらい切実なニーズがあるのです。
── 新たな事業の柱はありますか。
長谷川 プログラミングをしてゲームやロボットなどをつくる子ども向け教室を運営しています。この拠点はまだ五つですが、時流に乗っています。利用者の8割は、障害がない子どもです。
 元々は、発達障害の子どもの得意分野を伸ばす場を提供したいと始めました。彼らの中には、ITなど特定の分野に才能を持つ子がいます。学校ではうまく適応できない子も、リタリコの教室では活躍できます。
── 今後の目標は。
長谷川 障害者にとっての社会インフラになりたいです。障害があってもリタリコに出会ったら安心できる、そういう存在を目指しています。
(構成=金井暁子・編集部)

 ◇横顔

Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 入社2年目の24歳で社長に就任しました。就任直後は、とにかく忙しかったです。
Q 「私を変えた本」は
A 18、19歳の頃に読んだ『志高く 孫正義正伝』です。それまで、社会で活躍できる人は優等生だと思っていましたが、型破りな人間が活躍できるのだと感銘を受けました。
Q 休日の過ごし方
A 休日を含め毎日10キロ走っています。
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 ■人物略歴
 ◇はせがわ・あつみ
 1985年岐阜県出身。岐阜県立多治見高校卒業。2008年名古屋大学理学部を卒業後、同年LITALICO入社。09年8月より現職。31歳。
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事業内容:障害者の就労支援、障害児の教育支援
本社所在地:東京都目黒区
設立:2005年12月
資本金:3億2900万円
従業員数:1270人
業績(2015年度)
 売上高:72億6400万円
 営業利益:5億6200万円
 

(『週刊エコノミスト』2016年9月13日号<9月5日発売>4~5ページより転載)

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2016年

9月

06日

経営者 編集長インタビュー  越智仁 三菱ケミカルホールディングス社長

◆化学3社統合を機に、総合力強化

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 三菱ケミカルホールディングス(HD)は、石油化学事業(石化)の三菱化成と三菱油化が合併した三菱化学が原点の総合化学メーカー。2005年のHD設立以降、M&A(合併・買収)で事業を拡大。石化のほか、三菱樹脂や三菱レイヨンの樹脂製品、田辺三菱製薬の医薬品、大陽日酸の産業ガスなど多様な事業を展開している。

 

── 足元で伸びている事業は。

越智 コーティング材など自動車の部材が安定して伸びています。電機業界向けでも、フラットパネルディスプレーに使うポリエステルフィルムなどが堅調です。医薬品では、自社製品を海外の会社に委託したロイヤルティー収入で年間数百億円を得ています。15年度は、糖尿病治療薬「インヴォカナ」や多発性硬化症治療剤「ジレニア」が伸びました。

── 他の分野はどうですか。

越智 合成樹脂では、アクリル樹脂原料「MMA」が、世界で約40%のシェアがあります。エタンガスから作る他社にない低コストの製造法のため、競争力がある製品です。これも自動車や、欧米の住宅でコーティング材として重宝されています。また、アクリル樹脂の「PMMA」は、発光ダイオード(LED)の材料としてメーカーに提供しています。

 

 ◇石化再編にめど

 

 石油化学事業では、エチレンプラントの削減などの事業再編を進めている。16年は、採算が悪化した合成繊維原料「PTA」事業で中国・インドから撤退する。

 

── 石化の構造改革の状況は。

越智 11年度から15年度までの中期経営計画で事業を再編し、構造改革は一段落した状態です。伝統ある事業なので抵抗感はありましたが、ポリエチレンなどで収益性の低い事業を縮小してきました。この3年で4基あったエチレンプラントは2基を停止しました。現在、プラントの稼働率は100%を超えており、低コストの運営を実現しています。

── 現状の収益力の評価は。

越智 まだ不十分です。現在、約4兆円の売り上げですが、営業利益は2800億円です。16年度から5年間の中計では、20年度で3800億円の営業利益を目指しています。

── 収益力をどう高めますか。

越智 海外展開と新事業の2軸で進めます。海外売上比率で当社は43%程度で、米化学大手デュポンなどより低い水準です。中国経済が減速した14年度以降、世界的に低成長の状況ですが、拡大している海外市場を取り込むことは欠かせません。炭素繊維やプラスチック製品、医薬品など、高性能で競争力のある商品を拡大していきます。MMAでも、サウジアラビアに新たなプラントを作り、17年に稼働する予定です。

── グローバル化の体制は。

越智 今後、200以上ある海外拠点のうち、地域ごとの統括拠点を設立し、現地市場の把握や地域間の連携を強化していきます。従来の日本主導ではなく、現地の主体性を尊重する方針です。グループで約6万9000人の従業員のうち、約2万4000人いる海外人材の活性化にもつながると考えています。

── 新事業で期待する分野は。

越智 電機産業向けの製品は、次世代の事業と位置づけ、将来の収益拡大に向けて改善しています。その一つが、LEDに使う「窒化ガリウム」の基板です。LEDの輝度が高くなり、光を遠くまで飛ばせるので、自動車のヘッドライトには欠かせません。有機太陽電池の部材も、フレキシブルに形状を変えられ、軽いものに改善していきます。

── 大陽日酸を14年に買収しました。

越智 同社は収益が安定しており、16年度で四百数十億円の営業利益を見込んでいます。また、産業ガスは社会インフラなので、さまざまな製品や顧客とのつながりが期待できます。実際、三菱レイヨンが医療用で提供している炭酸泉(二酸化炭素が溶け込んだお湯)では、大陽日酸の炭酸ガスを使います。三菱化学が作る窒化ガリウム基板の生産設備も大陽日酸の製品です。

── 17年4月に、三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンの3社が統合し、三菱ケミカルが発足します。統合に伴う改革は。

越智 統合する3社で4万人の従業員がいますから、各事業部門に権限を委譲し、スピード感のある経営を促します。3社で60の事業部門を10に再編し、統合会社を含むグループ全体で技術や販売チャンネルを共有、グループの総合力強化を図ります。

── 統合に向けた課題は。

越智 これまでは、グループに数ある事業会社や事業部門が単独で動き、研究開発の知見や販売チャンネルなどを十分に共有していませんでした。例えば、自動車用製品を欧州で販売する際、現地の販売チャンネルに強みがある三菱樹脂と連携すれば、さらに拡大できるはずです。

── M&Aの方針は。

越智 今後、グループ内で連携を進めて新たなニーズを探るようになれば、既存の事業から少し離れたニーズも見えてきます。その際、自社にない経営資源は、他社との提携やM&Aで取り入れます。単なる規模拡大ではなく、グループとしての事業ポートフォリオ(構成割合)の観点でシビアに見定めていきます。

(構成=藤沢壮・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 1970~80年代だったので、オイルショックで石化が大変な時期でした。アンモニア製造の課長代理として、作業効率改善や要員削減といった現場の合理化に取り組んでいました。

Q 「私を変えた本」は

A 2000年ごろ、製造畑だった私が初めて事業部長になったときに読んだ『マネジメント』(ピーター・ドラッカー)です。

Q 休日の過ごし方

A 妻と買い物に行くことと、スポーツクラブに通っています。

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 ■人物略歴

 ◇おち・ひとし

 愛媛県立西条高校卒、京都大学大学院卒。1977年三菱化成工業(現三菱化学)入社、2009年三菱ケミカルホールディングス取締役執行役員経営戦略室長を経て、15年6月社長就任。63歳。

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事業内容:三菱系の総合化学持ち株会社。傘下に石油化学、合成樹脂、医薬品などの製造・販売会社を持つ

本社所在地:東京都千代田区

設立:2005年10月3日

資本金:500億円

従業員数:6万8988人(連結、2016年3月31日現在)

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:3兆8230億円

 営業利益:2800億円

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2016年

8月

30日

経営者:編集長インタビュー 津谷正明 ブリヂストン会長兼CEO 2016年8月30日特大号

◇技術、サービス組み合わせ解決型ビジネス

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── タイヤの世界シェア1位(売上高ベース)の日本企業ですね。

津谷 一口にタイヤと言っても、用途は広いです。自転車、二輪、自動車の他、航空機や鉱山掘削トラクター用のタイヤも製造しています。大型で、耐性も必要とされるこれらの特殊なタイヤは、新興国のタイヤメーカーにはない技術を持つからこそできます。当社は、大型航空機(座席数100程度)向け新品タイヤで、世界シェア4割(自社推計)を占めており、トップの座を仏ミシュラン社と争っています。

── 手がけるのはタイヤのみですか。
津谷 タイヤに限らず、建物の免震ゴム、工場設備の配管用ホース、鉱石輸送用のコンベヤーベルトなど、ゴムを使った製品も作っています。また、製造だけにとどまらずに、サービスも提供しています。たとえば、航空会社向けのビジネスでは、一度新品タイヤを提供しておしまいではありません。飛行日程の合間に、空気圧や溝の深さを定期的に検査します。安全上、必要とあらば、タイヤの表面のゴム(トレッド)を削り、新しいゴムと張り替える「リトレッド」もします。
── もはやメーカーの概念ではありませんね。
津谷 昨年10月に発表した中期経営計画では「商品単体からソリューション(課題解決)へ」というスローガンを立てて、さまざまなビジネスモデルを確立しています。ソリューションとは、新品タイヤの供給▽タイヤ以外のゴム製品供給▽維持管理▽その他のサービス、を組み合わせて顧客の課題を解決するビジネスモデルです。従来は、新品タイヤを売る→古くなれば新たなタイヤを売る、というビジネスでした。しかし、今やタイヤにかかわるあらゆる技術を駆使したソリューションを提供しています。
── ビジネス領域が広がりますね。
津谷 鉱山会社には、車両用のタイヤ、コンベヤーベルト、設備用のホースを一括して売り始めました。従来は、これらの商品を別々に供給していました。今はワンストップ体制に改め、価格交渉などの手間も省力化できます。また、運送会社向けに、新品タイヤの供給、空気圧などの管理、24時間体制でタイヤ交換をできるサービスを組み合わせて提供しています。「車両を、休みなくいかに効率的に稼働させるか」という運送会社の経営課題に取り組むサービスと言えます。
── 世界シェア1位をミシュランと激しく競り合っています。世界一の座をつかむカギは。
津谷 タイヤ業界は、規模の経済がはたらきます。このため、製造・販売・サービス拠点の網を世界に張り巡らせるグローバル化が必要です。1988年に米タイヤ製造・卸売り会社「ファイアストン」を買収したのもグローバル化を進めるためでした。当時の売上高は6200億円なのに対して買収額は3300億円。賭けでした。しかし、経営者が「将来のためには必要な買収だ」と判断したのです。当社にとっては第二の創業です。ただ、当初は同社の設備老朽化や技術力不足で高性能のタイヤが製造できないことなど、問題もありました。「この買収はうまくいかないかも」と不安になった時期もありました。老朽化設備更新などのために同社に増資するなど、高い授業料は払いました。しかし振り返ると、グローバル企業として必要な経験でした。
── 規模拡大以外に重要なことは。
津谷 技術力も必要です。当社は、原料のゴムをゲノム段階から研究していますし、彦根工場でAI(人工知能)を使って製造自動化を進めています。ただ、拠点網と技術力があっても、それで良しとはしません。車向けも航空機向けも、より軽くより安全なタイヤが求められます。難しい技術が必要だから当社の存在意義があります。大きな変革の前に、先を読んで、競争力を付けようという気概が必要です。

 ◇買収断念褒められた

 昨年、米タイヤ販売大手「ペップ・ボーイズ」の買収を表明した。しかし、「もの言う株主」として知られる投資家のカール・アイカーン氏が対抗して買収を表明し、買収合戦に発展。その結果、ペップ・ボーイズの買収を断念した。

── 買収断念をどう振り返りますか。
津谷 6月に、米国で機関投資家と対話しました。その際「あの買収は降りて正解だったね」と褒められました。当社は、事業の一環としてペップ社の買収を計画しました。しかし、アイカーン氏による買収提案は別の意図があったのではないでしょうか。アイカーン氏が買収価格を数度引き上げたことで、「深追いはしない方がいい」と判断しました。
── 一方で、6月にはフランスの販売会社「スピーディ社」を買収しました。狙いは。
津谷 フランスでは、当社グループの店舗は300しかない上に、ミシュラン社の影響力が大きい国です。買収によってグループの店舗は800店にまで増加します。しかも、これらの店舗は、収益は高いが、新規ならば出店が難しい街中の店舗が中心です。当社の欧州の売り上げは全売上高の1割と小さいので、今回の買収で欧州の売り上げを伸ばしたいです。

(構成=種市房子・編集部)

◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 生意気でした。ファイアストン買収の戦略立案に事務局としてかかわり、経営陣と議論もしました。一部から反発もありましたが「若い時は生意気でなければ」という上司の言葉に助けられました。
Q 「私を変えた本」は
A マックス・ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』。こういう考え方があるのだ、すごいな、と感じました。
Q 休日の過ごし方
A 掃除とお使い。妻と一緒のことも、単独でやることも。健康のためにやらせてもらっています(笑)。
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■人物略歴
◇つや・まさあき
東京都出身。都立青山高、一橋大卒業、シカゴ大経営大学院修了。1976年ブリヂストン入社。主に国際渉外畑を歩み、2012年代表取締役CEOに就任(この年に社長職廃止)。13年から会長職兼務。64歳。
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事業内容:タイヤ製造・販売
本社所在地:東京都中央区
設立:1931年
資本金:1263億円
従業員数:14万4303人(連結)
業績(2015年度連結)
 売上高:3兆7902億円
 営業利益:5172億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年8月30日特大号<8月22日発売>4~5ページより転載)

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2016年

8月

23日

経営者:編集長インタビュー 境 正博 ジャパンミート社長 2016年8月23日号

◇「M&Aで成長する肉のプロフェッショナル」

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

ジャパンミートは、茨城県に本社を構え、関東で「生鮮館」や「肉のハナマサ」などのスーパーを展開する。1978年に食肉卸業として創業して以来、肉のプロとして事業追求してきた。またM&A(合併・買収)を通じて事業拡大し、今年4月に東証2部に上場を果たした。

 

── 上場を決めた理由は。

 M&Aなどで売上高1000億円が見えてきて、今後の成長戦略として上場を決めました。2013年に買収をした花正の運営する「肉のハナマサ」の体制も整ってきたので、更に攻めの経営に出ました。

 上場で集まった約40億円は、東京本部ビルと茨城県の新加工物流センターの拠点づくりに使います。

── 現在、いくつの店舗がありますか。

 肉を中心とし、主に関東でスーパーマーケットを76店舗、外食店を15店舗運営しています。

 スーパーマーケットは、出店場所と店舗の大きさによって、四つに分かれます。大型商業施設内にテナントとして出店する「生鮮館」、ロードサイドに単独で店舗を構える「卸売市場」、北関東の地域に密着したスーパー「パワーマート」。そして、東京23区内を中心に出店する業務用食品を扱う「肉のハナマサ」です。

 最も店舗数が多いのは、肉のハナマサで49店舗。花正の買収前は、生鮮館を中心に成長してきました。 外食事業は、14店舗ある「焼肉や漫遊亭」が中心です。

── 足元の業績は。

 2016年7月期の予想は、売上高958億円、営業利益43億2400万円です。見込みどおり、順調に進捗しています。営業利益率は4・5%と、高い水準にあります。

── 肉のハナマサを持つ強みは。

 都内を中心とした49店の店舗網があることです。例えば、銀座、赤坂、麻布など新規に出店することが難しい土地に、ハナマサは既に店舗を持っています。

また、ハナマサは業務用の大きいサイズの商品を売る点で、コンビニやミニスーパーとは異なる独自性があります。業務用商品を売っていますが、ハナマサに来るお客様の7割は、業者ではなく一般家庭の人です。

 消費者は昔に比べ、業務用の大型商品を買うことに抵抗が少なくなりました。また冷蔵庫の性能が向上したため、まとめ買いをした後、小分けにして冷蔵庫で保存することができるようになりました。ハナマサの売り上げに占める生鮮食料品の構成比は60%に上り、コンビニなどと比べると圧倒的に高いです。

── 他社に勝ち抜くコツは何ですか。

 「売れ筋売価発想」です。つまり、お客様が最も欲しいものを、買ってもらえる値段で並べます。

 たとえば、お客様が最も買う肉は、ブランド肉ではなく、豚のひき肉や細切れ、鶏の胸肉などです。それら売れ筋商品を多く陳列しました。花正を買収後、肉のハナマサにも、この「売れ筋売価発想」を取り入れるようアドバイスしました。

── 肉へのこだわりは。

 ジャパンミートは、祖父が1945年に丸八肉店という精肉店を創業したのが始まりです。小売店に肉を卸しており、78年には食肉卸企業のジャパンミートを設立しました。 その後、肉の小売店をやらないかと言われ、肉の仕入れから加工、販売までを全て自社で行うようになりました。それまで、他社のために行っていた肉の加工を、ジャパンミートのために行うようになったのです。83年に小売りの1号店を開設し、93年からはホームセンター「ジョイフル本田」内に出店しました。

 ホームセンター内には、さまざまな食品専門店が入っていて、それらをその後、ジャパンミートがM&Aしました。だから、ジャパンミートはプロの集団だと思っています。

── M&Aで苦労はありませんでしたか。

 買収先とは、良好な関係を築けています。M&Aの目的は他社を征服することではなく、自社を成長させることです。買収後も各社の特徴や良さを残し、ジャパンミートの肉が売れるように、各々の専門業を頑張ってもらいます。

 特に、花正は、同じ肉屋としてDNAの型がジャパンミートと合うんです。

── 外食事業は好調ですか。

 焼き肉を中心に展開しています。焼き肉は、牛、豚、鶏の部位ごとに、また内臓まで含めて提供できるので、精肉の強みを最も発揮できます。客単価は約2200円ですが、5000円分食べた満足感を与えます。

── 今後の出店計画は。

 生鮮館や卸売市場も、人口の多い東京23区内に出店していきます。これまで拠点は茨城の本社でしたが、東京に本部を構えたことで、重心を東京に移すことができるようになりました。

 ここ最近は、肉のハナマサを手に入れたこともあり、出店ペースはスーパーと外食店を合わせて年間4店舗でした。しかし、今後は出店ペースを上げていきます。

── 今後の目標は。

 お客様目線の「売れ筋売価発想」で、ブレずにやっていきます。数値目標としては、営業利益率4・5%という水準を維持します。

 また、M&Aの手法も有効活用していきたいです。

(構成=金井暁子・編集部)

 

 ◇横 顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 食品部部長と営業本部長を経て、34歳で社長になりました。会社の売り上げが右肩上がりの時代で、がむしゃらに商売をしていました。

Q 「私を変えた本」は

A 本はありませんが、仕事の現場でさまざまな言葉を聞き、商売を学んできました。

Q 休日の過ごし方

A 家族と過ごしたり、ゴルフの練習をしたりしています。

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■人物紹介

 ◇さかい まさひろ

茨城県出身。1996年東京商科学院専門学校卒業後、食肉企業のダイリキに入社。99年に同社を退職し、ジャパンミートに入社。2009年から代表取締役社長(現任)。40歳。

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事業内容: 精肉・一般食品などの小売り

本社所在地:茨城県小美玉市

設立: 1978年8月

資本金:22億2950万円

従業員数:4897人(グループ)

業績(2015年度・連結)

 売上高:915億円

 

 営業利益:34億7600万円

(『週刊エコノミスト』2016年8月23日号<8月16日発売>4~5ページより転載)

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2016年

8月

09日

経営者:編集長インタビュー 澤田道隆 花王社長 2016年8月9・16日合併号

◇「基盤研究が花王のDNA」

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 6期連続増収増益、26期連続の増配です。

澤田 当社は「絶えざる革新」を理念のベースとし、消費者のニーズの半歩先を見て、驚きや感動を与える付加価値の高い商品を提案してきました。提案して終わりではなく、そこから5年、10年かけて継続的に研究を重ね、繰り返し商品を改良し、受け入れられる商品作りをしてきたことが、業績好調の大きな要因です。

 例えば、ヘアケアシリーズ「メリット」は、40年以上続く商品です。最初はフケに特化したシャンプーとして発売しましたが、より高付加価値のものを突き詰めるうちに、地肌ケアもできる弱酸性シャンプーにシフトしました。研究・改良を重ね、現在は子供も使える「家族シャンプーメリット」に生まれ変わりました。

── 好調の要因は。

澤田 当社の単体の従業員数は6970人で、そのうちの約3分の1が研究員です。研究開発に年間約520億円、競合他社は大体売上高の2%台であるのに対し、当社は3・5%を費やしています。また、そのうちの半分を、身体の本質や泡などの物質を解明する基盤研究が占めており、これが成長のベースにあります。

── 具体的には。

澤田 例えば、特定保健用食品 (トクホ)の緑茶である「ヘルシア」は、もともと「エコナ」というトクホの油の研究から生まれた商品です。

 エコナの主成分で、脂肪を燃焼する働きを持つジアシルグリセロールという物質を研究する過程で、お茶に含まれるカテキンが、同様の働きをすることがわかりました。それなら飲料でも、脂肪を燃焼する商品を開発できるのではないかという発想から、ヘルシアの発売に至りました。

 一つの物質の発見から派生的な知見が得られ、その知見の蓄積があるからこそ、新製品を生み出すことができます。こうした基盤研究が、当社のDNAの一つとなっています。

── 足元の事業環境は。

澤田 事業分野でそれぞれ異なります。家庭用品、化粧品は、単月でみれば低迷している月もあるものの、2016年1~6月の市場伸長率は家庭用品が103%、化粧品が101%となり、市場はそんなに悪い環境ではありません。

 ケミカル事業は、中国を含めたアジアの建設・インフラ関連の需要の減少で伸びは鈍化しており、上向くのに時間がかかるでしょう。ただ、中国の過剰生産や新興国の成長は行き過ぎた面もあり、今後適正な水準へ調整されていくと思います。今は着々と準備を進め、いずれ景気が好転してきた時に、一気に成長できる状態にしておくことが大切です。

 

 ◇世界初のインクを開発

 

── ケミカル事業の取り組みにはどんなものがありますか。

澤田 ケミカル事業の柱は、界面化学技術です。特に、二つの物質が接する境界である「界面」に作用して性質を変化させる界面活性剤に強みがあります。

 例えばコンクリートは、水や砂などをセメントで固めて形成しますが、水が少ないと固まりやすくなる一方で流動しにくく、逆に水が多いと弱くなります。当社は、界面活性剤を生かし、水中に分散するのを防ぐコンクリート混和剤の開発に成功しました。この製品は、東日本大震災後の福島第1原子力発電所のメンテナンスにも役立ちました。

── 他分野にも応用できますか。

澤田 印刷技術の分野でも、世界初のフィルム印刷への水性インクジェット用顔料インクを開発しました。これまで、環境汚染につながる揮発性有機化合物を使用した油性インクが主に使われていました。これを水性にし、環境負荷を低減しながら、界面制御技術を使い、従来難しいとされてきた高品質なフィルム印刷ができるインクの開発に成功しました。今後これが普及すれば、印刷の世界は大きく変わる可能性があります。こうした日本発の技術や、研究の力を世界に示していきたいです。

── 今後の海外展開はどうしていきますか。

澤田 現在、海外は欧米、アジアで主に展開しています。全体の売上高比率は、日本が65%、海外が35%と日本が中心です。しかし、アジアの売上高は、10年前と比較すると3倍の規模に成長しており、今後は、ミャンマーやカンボジアなど、海外事業の主力地域のタイに近い拠点を利用して、まずはアジアの家庭用品の展開を加速していきたいと考えています。

 一方、ケミカル事業の売上高は65%を海外が占めています。今後は、家庭用品で過去に撤退したフィリピンに再挑戦するつもりです。

── カネボウとの共同研究棟が16年秋完成します。

澤田 カネボウと当社の化粧品ブランド「ソフィーナ」それぞれの研究の知見や技術を高度化するため神奈川県の小田原事業場敷地内に新たな研究棟の建設を進めています。これまでに研究、生産などの各部門の一体運営を進めており、販売部門は、16年1月に花王グループの国内販売などの子会社を統合した持ち株会社体制に移行しています。

 15年12月期の売上高構成では、四つの事業分野のうちビューティケア事業が41・3%、そのうちの多くを化粧品が占めています。15年にはソフィーナ、16年からはカネボウの大改革をスタートさせました。共同研究棟は、改革を象徴する建物になります。

(構成=荒木宏香・編集部) 

 

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A グループリーダーとして、和歌山工場で毎日必死になって素材開発の実験、研究を行っていました。

Q 「私を変えた本」は

A (本ではないが)大学院修士1年の頃、当時の当社の丸田芳郎社長との面談の際に聞いた「本質の追究が研究の基本」が私を変えた言葉です。

Q 休日の過ごし方

A 3通りあります。時間がある時は和歌山に帰り、孫と過ごします。二つ目は生活者の購買行動を知るため、お店を回ります。もう一つは、オペラなどの感性を刺激される場所に行くようにしています。

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■人物略歴

 ◇さわだ・みちたか

 大阪府出身。桃山学院高等学校卒業。大阪大学大学院工学研究科プロセス工学専攻修士課程修了後、花王石鹸株式会社(現花王)入社。取締役執行役員などを経て、2012年より現職。60歳。

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事業内容:家庭用品、化粧品、工業用製品の開発、製造、販売

本社所在地:東京都中央区

設立:1887年6月

資本金:854億円

従業員数:3万3026人

業績(2015年12月期・連結)

 売上高:1兆4718億円

 営業利益:1644億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年8月9・16日号<8月1日発売>4~5ページより転載)

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2016年

8月

05日

経営者:編集長インタビュー 市川秀夫 昭和電工社長 2016年8月2日号

◇先端化学でリチウムイオン電池材料に商機

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 昭和初期に設立された総合化学メーカー「昭和電工」は、時代に合わせて、事業を転換してきた。現在はどのような事業が稼ぎ頭なのか。

 

── 御社はどのような会社か。

市川 約100年前、国内化学産業が近代化する以前は、日本は多くの素材を海外からの輸入に頼らざるを得なかった。そこで創業者の森矗昶(もりのぶてる)らが「化学素材を国産化する」という信念の下、築き上げた事業が当社の源流だ。その後、時代に合わせて事業転換を繰り返しながら領域を拡大してきた。例えば、当社の祖業の一つがアルミニウム製錬事業だが、製造する過程で原料を溶解する電炉が必要だ。そこで、電炉の熱源となる黒鉛電極事業を始めた。黒鉛は、導電性が高く、高熱にも耐えられる素材だ。現在は国内にアルミニウム製錬事業は残っていないが、黒鉛電極はスクラップ鉄の溶解に不可欠な材料として世界的に展開する事業となっている。現在は石油化学、化学品、無機(黒鉛電極など)、アルミニウム、エレクトロニクス(ハードディスクなど)の五つの大きなセグメントで展開している。

── 足元の経営環境は。

市川 2016年12月期は360億円の営業利益を予想しており、必達目標だ。ハードディスク事業ではサーバー向け需要が拡大している。しかし、パソコン向けの需要減をカバーしきれていない。一方、原油安と旺盛な中国での需要に支えられている石油化学が好調だ。新たな成長事業としては、リチウムイオン電池(LIB(リブ))材料に期待している。

── リチウムイオン電池材料事業とは。

市川 負極材、電池の持ちを長くする正負極の強化材、電池包装材が当社の主要商材であり、国内外の電池メーカーに供給している。特に人造黒鉛を使った負極材が好調だ。黒鉛電極で培ってきたノウハウが新たな用途開発につながっている。また、従来のリチウムイオン電池は筒形・角形が中心だったが、最近はEV(電気自動車)など大型向けにも袋状のパウチ形が増えている。パウチ形は電池の薄型化に加え形状の自由度も格段に上がるからだ。

 当社は、そのパウチ形電池向けに、アルミと樹脂の複合フィルムを包装材料として開発し、この2年ほどの間に急速に売り上げを伸ばしている。リチウムイオン電池は日本メーカーが先行していたが、最近は中国や韓国の競合メーカーがシェアを拡大しつつある。せめて材料は日本メーカーが海外品に対する優位性を持った製品を供給し続けないと、産業が丸ごと海外に流出してしまうという危機感がある。その意味でも、化学技術を駆使した先端材料の開発は我々の使命だと考え、取り組んでいる。

 

 ◇EV向け伸びる

 

── なぜ販売量が伸びているのか。

市川 EV市場が伸びているからだ。これまでは、スマホやパソコン用など小型リチウムイオン電池向けの需要が主流だった。しかし、EV用の大型リチウムイオン電池に使用される材料の使用量は圧倒的に大きい。特に中国では環境規制の観点からEVの普及を政策として進めており、ドイツなど欧州市場でも大型リチウムイオン電池需要が拡大している。当社のリチウムイオン電池材料の売上高は、今年、自動車用などの大型電池向けが小型電池向けを上回ることになりそうだ。

── リチウムイオン電池の市場をどう見るか。

市川 リチウムイオン電池材料の世界市場は、現在は年間1兆円強だが2020年には2兆円近くまで伸びる。当社も18年には、年間売上高300億~500億円の事業に育てていきたい。ただ、有望市場だけに、中国では新しい電池メーカーの参入ブームとなっている。「需要が増えている」と調子に乗って設備投資を急激に増やすのは事業リスクを抱えることになりかねない。中国市場全体の見極めと同時に、個々の企業の動向を見極めることが、今後当社の事業展開にとって極めて重要な要素になる。単に「いいモノ」を作るだけでなく、事業モデル全体の設計がより重要になってくる。

── 石油化学の状況は。

市川 しばらくは強気だ。国内のエチレン生産能力は15基あったエチレンプラントがこの3年間で3基休止し、年産610万トンまで減少した。海外では、特に中国では人口増加と生活レベルの向上によりエチレン需要は拡大している。輸入需要も強く、それが東アジア全体のエチレン需給バランスを逼迫(ひっぱく)させ、エチレン市況は高止まりしている。このように原料安と旺盛な需要でエチレンはしばらく高稼働と安定した利益が期待できる。しかし、この状態はあと2年程度しか続かないと見ている。米国では、17年以降安価なシェールオイルを使ったエチレンプラントが稼働を開始する。また、現在のような高いスプレッド(原料と製品の価格差)が続けば、中国でも新たな石油化学の新増設が計画され、遅くとも19年以降には稼働を開始するだろう。それまでに、当社石油化学の製造拠点である大分コンビナートに、エチレン由来の製品製造など関係事業を集積してよりバランスの良い、競争力のある事業拠点として強化していく。

(構成=種市房子・編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 人事や石化事業再編を担当した。変革の中にあって、ひたすら働いた。

Q 最近買ったもの

A 5月にベトナム工場視察に行った際に、英国の帆船模型(長さ110センチ)を買った。ベトナム人の器用さがうかがえる良品だ。

Q 休日の過ごし方

A 最近はDIY(業者に頼らず自身で行う大工仕事)に凝っている。料理も好きで、専用のパンで作るパエリアはお勧め。

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■人物略歴

◇いちかわ・ひでお

長野県立長野県須坂高校、慶応義塾大学法学部卒。1975年、昭和電工入社。主に経営企画畑を歩み、2010年取締役兼常務執行役員、11年1月、社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。64歳。

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事業内容:総合化学メーカー

本社所在地:東京都港区

設立:1939年

資本金:1405億円

従業員数:1万561人(連結)

業績(2015年度)

売上高:7809億円

営業利益:336億円

2016年

7月

26日

2016年7月26日号 仲尾功一 タカラバイオ社長

 

◇「コツコツ続けた遺伝子治療が実用化へ」

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 宝酒造の一事業部門から発展した会社ですね。

仲尾 宝酒造はビール事業から1967年に撤退しました。残った発酵技術者という資産を生かし、新たなビジネスを模索しました。当初は発酵技術を使った医薬品原料を作って他社に納めたりしましたが、当社が主導権を握れるビジネスを作ろうと始めたのが遺伝子工学を中心としたバイオテクノロジー事業です。

 79年に売り出した研究用試薬が、現在も主力製品です。大学や病院、研究機関向けに販売しています。初年度の製品は7品目でしたが、今では7000品目に上り、国内のバイオ試薬分野ではトップシェアです。2016年3月期の研究用試薬の海外の売り上げは74%を占めます。

── どう拡大してきたのですか。

仲尾 93年に中国・大連市に工場を設立し、今、研究用試薬の9割を生産しています。市場としても中国は拡大しており、当社がシェア1位です。

 02年に「タカラバイオ」として分社化した後、05年に研究用試薬の老舗、米クロンテック社を買収しました。バイオ研究の中心地であるアメリカで、当社が得意ではない分野を手掛ける同社の買収は大きかった。欧米に販路を持ち、技術・販路両面でシナジー効果がありました。

 14年には幹細胞生物学の先端研究に取り組むスウェーデンのセラーティス社を買収しました。今、バイオ研究は遺伝子から細胞へと広がっていますが、当社は遺伝子に長(た)け、細胞に強いのがセラーティス社です。バイオの世界ではM&A(合併・買収)が活発で、技術のシナジー効果が望める提携は日常茶飯事です。

── 今後の事業展開は。

仲尾 現在の主力は、遺伝子・細胞を扱う技術をもとにした研究支援で、その技術をそのまま用いる治療法を開発しています。90年代に開発した、体の外で細胞に遺伝子を効率よく導入する技術をベースに、コツコツと続けてきました。

 一つは、体外遺伝子治療です。ヒトの細胞を取り出し、目的の遺伝子を導入して患者に投与します。現在、開発しているのは、がん患者から採った血から、がん細胞を攻撃する免疫をつかさどるリンパ球を取り出して、がんを攻撃する命令を出す遺伝子を入れ、体内に戻す治療です。遺伝子の種類で、si─TCR遺伝子治療、CAR遺伝子治療があります。

── iPS細胞(人工多能性幹細胞)よりすごい技術なのでは。

仲尾 山中伸弥先生は、体から取り出した細胞に特定の遺伝子を入れると、どんな細胞にも分化できるiPS細胞となることを発見し、iPS細胞を利用した網膜や臓器の再生が研究されています。

 体外遺伝子治療も、体から細胞を取り出して遺伝子を入れ、患者に投与する点は同じですが、がん細胞を攻撃する免疫力を再生します。臓器ではなく体の機能の再生です。

── 遺伝子治療はほかの形もあるのですか。

仲尾 もう一つ開発しているのは、腫瘍溶解性ウイルスHF10です。がん患部に注入すると、がん細胞の中だけで増え、がん細胞を破壊します。正常細胞には影響しません。アメリカで臨床試験がフェーズ2まで進んでいます。メラノーマ(悪性黒色腫)患者の皮膚の腫瘍が消えたばかりでなく、転移した内臓のがんも、直接このウイルスを打ち込んでいないのに小さくなった症例がありました。

── 実用化の目標は。

仲尾 腫瘍溶解性ウイルスHF10は18年度、si─TCR遺伝子治療、CAR遺伝子治療は20年度です。それぞれの治療法は複数の疾患を対象に開発していますが、プロジェクトの選択と集中の方針をこの春に打ち出しました。最初の実用化を目指す疾患については、日本で再生医療製品の条件・期限付き早期承認制度を利用して自社単独で行い、他の疾患では他社と提携します。いろいろな社と提携の話をしています。

 

 ◇最先端の細胞加工施設

 

── 実用化に向けて、どのような手を打っていますか。

仲尾 14年に新しい開発・製造拠点の遺伝子・細胞プロセッシングセンターが稼働しました。施設の目的の半分は、開発中の遺伝子治療薬の製造や細胞加工ですが、今は収益源として、細胞加工や遺伝子検査の受託サービスを行っています。

 14年に施行された再生医療関連法では、医療機関だけでなく、企業が細胞加工をビジネスとしてできるようになりました。当社は法律整備の前から設計を進め、施行と同時に届け出ました。再生医療の関連施設で細胞と遺伝子、両方を扱う企業は日本で当社だけです。

 昨年受託した遺伝子検査は10万サンプルを超え、間違いなく日本一でしょう。一般の人が口の中の粘膜をもとに体質を調べる検査や、腸内フローラの検査も請け負っています。

── ほかに特色ある事業は。

仲尾 キノコ事業ですね。ビール事業撤退後に発酵技術を生かせる分野を探すなかで、医薬品の酵母とよく似た微生物がキノコの菌だったのです。基本特許は既に切れていますが、実はブナシメジは当社が人工栽培法を開発しました。今はより付加価値の高いハタケシメジやホンシメジを生産しています。

 昨年、分社化後に初めてキノコ事業が黒字化しました。バイオ支援事業に次ぐ第2の収益源に育て、両事業の収益をもとに遺伝子治療の開発を進めたいと考えています。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 中国にバイオ工場を設立する分野横断のプロジェクトに加わっていました。当時のビジネススタイルは“領空侵犯”。周りには嫌われたかもしれません。

Q 「私を変えた本」は

A 大学時代に『利己的な遺伝子』で知られるリチャード・ドーキンスの『生物=生存機械論』に出会いました。関心が当初の食糧問題から遺伝子工学に向かい、その延長線に今があります。

Q 休日の過ごし方

A 健康法としてのゴルフです。スコアは聞かないでください(笑)。

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 ■人物略歴

 ◇なかお・こういち

 京都市出身。洛星高校(京都市北区)、京都大学農学部卒、1985年宝酒造(現・宝ホールディングス)入社。2002年タカラバイオ取締役、09年5月より現職。宝ホールディングス取締役を兼任。54歳。

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事業内容:バイオ産業支援、遺伝子医療、医食品バイオ

本社所在地:滋賀県草津市

設立:2002年4月

資本金:149億円

従業員数:1273人(2016年3月31日現在)

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:297億円

 営業利益:26億円

2016年

7月

19日

経営者:編集長インタビュー 大橋徹二 コマツ社長 2016年7月19日号

大橋徹二 コマツ社長

◇「断トツ」の建機サービスを作り上げる

 

 コマツは、油圧ショベルやブルドーザーなど建設機械で国内1位、グローバルでは米キャタピラーに次ぐ2位。ほぼ全世界で事業を展開しているため、「世界経済の景気敏感株」とも言われる。

 2016年度の業績見通しは、新興国経済の減速を受けて、売上高が15年度比9・2%減の1兆6850億円、営業利益は同28・1%減の1500億円とする。

── 現状の世界経済をどう認識していますか。

大橋 今は、世界のマネーが新興国から先進国へ、特に米国に向かっているという認識です。

 建設機械の世界需要を見ると、02年ごろまでは、先進国が6~7割を占めていましたが、03年ごろから新興国ブームが始まり、6割が新興国の需要となりました。リーマン・ショック後には、新興国が7割を占める時もありました。当社の地域別売上高も、14年度は日・米・欧が46%で新興国が54%でしたが、15年度は日米欧が52%で新興国が48%となり、先進国と新興国がひっくり返りました。

 先進国の景気循環は、10年周期とも7年周期とも言われます。今は中国などの新興国の成長鈍化に注目が集まっていますが、新興国もいずれ先進国のような景気循環的な動きをしていくのだと思います。

── 中国経済の行方はどう見ますか。

大橋 目の前の状況が厳しいのは間違いありませんが、悲観はしていません。確かに、石炭やセメント、鉄鋼など、過剰生産状態の産業があるのは事実ですが、すべての会社が同じ事業をしているわけでなく、それぞれで中身はかなり異なります。この違いをしっかり見極めないといけません。

 中国は人口13億人の大国で、今後もそれは変わりません。リーマン・ショック後の政府による4兆元対策で急激に成長した反動で今は落ちています。ただ、今後もインフラや製造業での雇用は必要で、どこかでリバウンド(再成長)すると思っています。

── GPS(全地球測位システム)やセンサーによって車両の稼働状況がリアルタイムで把握できる管理システム「コムトラックス」も、その判断に生かされていますか。

大橋 例えば、04年には、中国政府の政策で建設機械の新車販売が急激に減った時期がありました。ただ、コムトラックスのデータでは、現場での稼働が続いており、実需は減っていませんでした。今も、中国経済のすべてが悪くないというのは確認できています。

── 今年4月には、18年度までの新しい中期経営計画が始まりました。何に注力しますか。

大橋 他社より競争力のある「ダントツ(断トツ)」の商品やサービスを提供し、さらに、お客様の課題解決を提案する「ダントツ」のソリューション(解決法)も提供していきます。我々にとっては、「コマツと付き合っていると仕事がうまくいく」とお客様に言ってもらえるのが一番うれしい。

── 中計では「スマートコンストラクション」の名の下、IoT(モノのインターネット)の活用を掲げています。この進捗(しんちょく)は。

大橋 建設機械などのハードウエアに、センサーやドローン(小型無人機)の活用、図面の3次元化などIoT技術を活用していきます。

 この3年間、IT技術を活用した「情報化施工」に対応する機械を約1000の現場で使いました。人工衛星からの情報で、経度・緯度、高さなどを正確に取得したり、設計通りに土を削れるため、「これまでにない効率的な機械だ」という評価もあります。ただし、施工の作業工程で生産性が上がることは確認できましたが、測量や検査などの工程も同時に生産性を上げないといけません。そこが課題です。

── 自動運転の取り組みはどうでしょうか。

大橋 完全無人運転のダンプトラックが約90台稼働しています。08年より少量で販売し、現在は主に新興国(チリや豪州など)の鉱山で動いています。次の成長分野と位置づけています。

 

 ◇半導体装置も好調

 

── 建設機械と建設車両以外で、好調の事業はありますか。

大橋 当社は、実は産業機械や工作機械でも世界トップクラスの製品群を持っています。自動車向けの大型プレス機、自動車エンジン関連の工作機械などがそうです。当社が発祥した時の事業がプレス機で、今も大事にしています。

 また、最近では、半導体を作る際に必要な「レーザー光源発生装置」が好調です。これを(11年に買収した)子会社のギガフォトンが世界で展開、トップを走っています。建機だけでなく他の製品も、世界1位、2位のトップクラスです。

── キャタピラーとはどう競争しますか。

大橋 競争は、競合メーカーを見るのではなく、お客様を見てするもの、という考えです。この意識で価値を訴求していきます。ものづくりへのこだわりを持って、コマツの機械というより、コマツという会社をお客様に選んでもらえるように取り組みます。お客様にとって、なくてはならない存在になることを目指していきます。

 

Interviewer=金山隆一・本誌編集長 構成=谷口健・編集部

 

■横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 英米で現地生産の準備のために奔走していました。特に英国では、拠点をどこに作るかという場所探しの段階から取り組んでいましたので、印象的です。

Q 「私を変えた本」は

A 塩野七生の本が好きで、『ローマ人の物語』はずっと読んでいます。あと、学生時代に読んだ『成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』は勉強になりました。

Q 休日の過ごし方

A のんびりしたり、本を読んだり、ゴルフやジムに行ったりします。

 

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■人物略歴

おおはし・てつじ

 千葉県生まれ。東京・麻布高校、東京大学工学部卒。1977年4月、小松製作所(現・コマツ)入社。2007年、執行役員。常務、専務を経て、13年4月に社長兼CEO(最高経営責任者)。62歳。

 

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■企業データ

事業内容:建設機械・車両、産業機械などを生産、販売

本社所在地:東京都港区

設立:1921年5月

資本金:678億円

従業員数:4万7017人

業績(2015年度)

 売上高:1兆8549億円

 営業利益:2085億円

 

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2016年

7月

12日

編集長インタビュー 辻孝夫 JVCケンウッド社長 2016年7月12日特大号

 ◇音響、通信、映像の技術を医療にも生かす

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── カーナビや車内音響などの車載事業に大きく舵(かじ)を切っています。

辻 現在、売上高の47%を占めています。2008年に日本ビクターとケンウッドが統合した時の二十数%から増えて続けています。20年度には60%にする計画で、基本的に想定通りの動きになっています。

 

── どう拡大させるのですか。

辻 例えば、国内の新車市場は、年間500万台くらいの規模です。そのうちの約6割がOEM(相手先ブランドによる受託生産)、つまり、工場から車が出荷される時にカーナビやステレオ機器などが搭載されています。残りの4割、約200万台弱が各販売店(ディーラー)でお客様が選べるディーラーオプションです。

 当社はディーラーオプションの市場で急速にシェアを拡大させています。15年9月にホンダとも契約し、昨年の下半期からディーラー向けに出荷し始めています。社名は公表できませんが、他にも大手2社と契約し、今年夏ごろから出荷予定です。

 

── デンソーが3%の大株主です。御社のカーナビがトヨタの車に純正で入ることはありますか。

辻 そこまで単純な話ではありません。当社は市販というアフターマーケットでは強いですが、一足飛びに純正を受注できるわけではありません。将来は純正で稼ぐ計画ですが、その前に(市販と純正の間に当たる)ディーラーオプションの仕事があり、これを増やすことが重要です。

 

── 車向けで伸びている製品は。

辻 カーナビ以外では、運転中の映像を記録する「ドライブレコーダー」です。日本市場は、昨年が100万台弱で、今年は150万台くらいになると言われます。当社は一昨年の夏に最後発で参入しました。当社製品は現在、4機種ですが、有名価格サイトの人気ランキングでは、市場に出回る120機種のなかでいずれも上位です。

 他社の製品は1万円以下が多いなか、当社のドライブレコーダーは数万円と安くはありません。車線から大きく外れたり、前方の車に接近し過ぎたりすると警報が鳴るなどの先進運転支援システム(ADAS)機能が優れており、当社のノウハウが生きています。

 

── 自動運転の戦略は。

辻 自動運転とADASを分けて考えています。自動運転は、要素技術を自動車メーカーに適切に提供することはあるでしょうが、我々が先頭に立って開発できる立場にはありません。

 一方、ADASは、特に「デジタルコックピット」、つまり次世代の運転席に注目しています。コックピットのデジタル化は、航空機で最初に標準化され、今は高速鉄道にも採用されています。それがいよいよ車の世界にも採用され始めています。

 その重要な要素を占めるのが、フロントガラス面に道案内などの情報を表示する「ヘッドアップディスプレー(HUD)」です。これからどんどん採用されると見ています。当社は英マクラーレンと、HUDを含めたデジタルコックピットを共同製作し、1月に米ラスベガスで開催された家電見本市「CES」で発表しました。

 

── 差別化要因は。

辻 遅延の少なさです。車の後方を見るカメラで映像を撮って、画像を圧縮して通信で送り、画面(ディスプレー)に映し出すまで遅延が起こります。例えば、高速道路で時速100キロ出すと秒速は27メートル。つまり、遅延が1秒でも起こると27メートルも異なる映像が映し出されることになります。当社の技術は他社より優れており、3・3ミリ秒にまで遅延を縮めています。

 

 ◇「尖った技術」を応用する

 

── 今の御社の強みをひと言で言うと何でしょうか。

辻 音響、通信、映像の三つの領域に強みを持っています。さまざまな経験や知見に基づく埋もれた技術があります。そういうものを新たな発想や新たな領域で活用できれば、まだまだ成長の余地があります。尖(とが)ったソリューション(解決法)を世に出していきたい。

 

── 「尖った」とは。

辻 例えば、血液などにあるエクソソーム(たんぱく質の一種)の診断機器を、3月から医療用検査機器大手のシスメックスと共同開発しています。これでがんの早期発見につながるかもしれません。この診断機器は、ブルーレイディスクの技術を応用しており、50~100ナノメートルのエクソソームを正確に数えることができるようになっています。知っている限りでは、我々の技術が進んでいます。

 また、自閉症など発達障害の早期発見につながる補助装置の開発も進めています。これは、カメラと画像解析の技術を応用し、子供の視線を検出し、分析します。すでに関西や九州などの自治体が18カ月健診で採用しています。日本医療研究開発機構(AMED)からも補助金をもらい、開発を続けています。このほか、頭外定位という技術を使い、音が前方から聞こえる高級ヘッドホンも市販に向けて開発中です。

 

── 進む道は見えてきましたか。

辻 当社は経営再建の時期を終え、“社会復帰”するところです。これから売り上げが減ることはないでしょう。あとはイノベーション(技術革新)。想像力と技術力を掛け合わせたのがイノベーションなので、結局、想像力をどこまで働かせられるかが重要です。想像力があれば、今の技術でほとんどのことが解決するはずです。

(構成=谷口健・編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日商岩井(現・双日)時代、33歳で米国に赴任し、電機関連の輸出入に関わっていました。ちょうど日本経済もバブルに向かう時で、日本を背負う感覚でやっていました。

Q 「私を変えた本」は

A トム・クランシーの『レッド・オクトーバーを追え』です。私が米国にいた時に初めて著者が出したのがこの本。彼の本はほとんど読みました。

Q 休日の過ごし方

A 朝、コーヒーショップで新聞を読んで、その後ジョギングやテニスをします。ゴルフは月に2、3回します。

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 ■人物略歴

 ◇つじ・たかお

 大阪府立北野高校、大阪大学卒。1973年、日商岩井入社。2013年、JVCケンウッド社外取締役。14年、社長兼最高執行責任者(COO)。16年6月、社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。66歳。

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事業内容:車載製品、業務用無線機器などの製造・販売

本社所在地:横浜市神奈川区

設立:2008年10月

資本金:100億円

従業員数:1万7884人

業績(2015年度)

 売上高:2922億円

 営業利益:42億円

2016年

7月

05日

経営者:編集長インタビュー 高岡本州 エアウィーヴ会長 2016年7月5日特大号

 

 ◇眠りを研究し、寝具を極める

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 ベッドの上に乗せて使う高反発マットレスパッドの製造・販売を手掛けるエアウィーヴ(本社・東京都中央区)。浅田真央さん、錦織圭さんなどスポーツ選手を起用したテレビCMでおなじみだ。

 

── ベッドに置くマットレスパッドで急成長しています。

高岡 当社は質の良い眠りをお届けすることをミッションにした会社です。人生の3分の1を占める眠りの質を上げることは、残り3分の2の質を上げることにつながります。公益性の高い会社だと思っています。

── 足元の業績は。

高岡 2015年度の売上高は120億円、今期は新商品を積極的に投入するので、130億~140億円を目指しています。主力のマットレスパッドの価格帯は3万~20万円で、百貨店の寝具売り場など150カ所以上で販売しています。

 

 ◇異業種から参入

── 設立のきっかけは。

高岡 伯父が経営していたプラスチックの機械製造会社を04年に引き継ぎ、赤字の経営を再建するため、射出成型の技術を使って寝具の素材製造へと切り替えたのが始まりです。

── なぜ寝具に着目したのですか。

高岡 若い頃にむち打ちになった経験から、反発力の弱い寝具は体に負担がかかると感じていました。反発力が強いクッション材を使えば、良い寝具ができると考えました。

── 寝具業界への参入障壁は。

高岡 極めて高いです。洋服を買うときは試着しますし、食べ物は試食しますよね。しかし寝具は売り場で寝心地を体験できますが、一晩寝た後の感覚までは比べられません。同じ商品をリピートしがちなので、売り場を押さえた企業が勝ちます。

── どのように販売を伸ばしたのですか。

高岡 売り場にベッドを置いてもらうのは難しいので、ベッドの上に乗せる薄いマットレスパッドを作りました。人間が横になったときに沈み込むベッドの上の数センチの部分を徹底的に研究しました。

 開発に当たり、眠りに敏感な人に使ってもらおうと、いろいろな方に製品をお配りしました。中でも即座に良い反応をいただけたのがアスリートでした。そこで07年から国立スポーツ科学センターで、08年から元水泳選手の北島康介さんをはじめとした水泳選手が使い始めました。

── アスリートの反応は。

高岡 テニスの錦織圭選手からは、腰の持病が軽減されたとのメールを09年にいただきました。フィギュアスケートの浅田真央選手は携帯用のパッドを使っていただいたので、ご自宅用をお持ちしたところ、「自宅用も携帯用と同じ硬さのパッドが欲しい」とご要望をいただきました。実は、携帯用と自宅用のパッドの硬さは、微妙に違います。普通の人にはわかりにくいですが、浅田さんはその違いを感じ取った。それだけ体が敏感だということだと思いました。

 

 ◇株式上場も視野

 

── 支持される理由は。

高岡 通気性の良さと筋肉疲労が少ないことです。エアウィーヴはポリエチレン樹脂繊維を絡め合わせた素材で、マットの大半が空気の層からできており、通気性が高いです。

 また適度に反発力がある素材なので、寝返りを打つときの体への負荷が少ないという特徴もあります。人間は寝ている間に平均20回寝返りを打つといわれており、それ自体が筋肉の疲労になります。低反発マットレスは疲れが残りやすいといわれているのはそのためです。

── 素材、商品を他社にまねされる可能性はありませんか。

高岡 未来永劫(えいごう)まねされない技術はありません。だから、付加価値を高める取り組みを進めています。

 一つはどのような寝具が質の高い眠りをもたらすかを調べる睡眠研究です。11年から米スタンフォード大学とともに、睡眠中の体温の下がり方などを研究しています。エアウィーヴは他社製品に比べて寝てから体温の下がり方が速く、入眠がスムーズなことがわかっています。また米国のスポーツ養成学校「IMGアカデミー」に所属する子どもたちを対象にした調査も行っています。

── 研究をどう生かしますか。

高岡 一つは研究データを基に、個人ごとに体重・体形などを測定してカスタマイズする商品を3月から売り出しています。

 また、オリンピックは商品の良さを伝える良い機会です。リオデジャネイロ五輪では日米の選手、2000~3000人に使っていただきます。

 マットレスで米オリンピック委員会や、20年の東京五輪・パラリンピック組織委員会のオフィシャルパートナーになっています。豪州、ドイツ、中国のオリンピック委員会ともパートナー契約を結んでいます。

── パートナー契約は高額では。

高岡 米国市場の扉を開けるための費用ととらえています。一方で豪州などはマットレスパッドを現物支給する形なので、当社の費用負担はそれほど大きくありません。

── 今後の展開は。

高岡 最大の目標は米国での販売です。進出にあたり、資金需要が出てきました。株式の上場やマーケティングに強い企業とのアライアンスなども視野に入れています。

(構成=花谷美枝・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 37歳で、父から引き継いだ日本高圧電気の社長に就任しました。

Q 「私を変えた本」は

A デール・カーネギーの『道は開ける』、藤原正彦さんの『国家の品格』。松尾芭蕉『奥の細道』の序文の句「草の戸も住替る代ぞひなの家」は米国で挑戦する今の気持ちと通じるものを感じています。

Q 休日の過ごし方

A 体力維持のためにトレーニングをしています。以前はトライアスロンにも挑戦しました。

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■人物略歴

 ◇たかおか・もとくに

 愛知県出身。東海高校卒業。1983年名古屋大学工学部卒業。98年5月日本高圧電気社長(現任)、2004年11月中部化学機械製作所(現エアウィーヴ)設立、14年9月からエアウィーヴ会長(現任)。55歳。

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事業内容:マットレスパッド・クッション材の製造・販売

本社所在地:東京都中央区

設立:2004年11月

資本金:3000万円

従業員数:約350人(グループ)

業績(2015年度)

 売上高:約120億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年7月5日号<6月27日発売>4~5ページより転載)

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2016年

6月

28日

経営者:編集長インタビュー 山本謙 宇部興産社長 2016年6月28日号

◇化学部門の復活目指す

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 1897年、山口県・宇部の炭田を開発するために地元の人たちが出資してつくった「沖ノ山炭鉱組合」が原点。採掘された石炭が工業用として質が良くなかったため、石炭採掘以外の事業にも取り組んできた。現在、「化学」「医薬」「建設資材」「機械」「エネルギー・環境」の5事業を展開している。

 

── さまざまな製品を扱っていますが、事業戦略は。

山本 非化学部門の収益基盤を強化しながら、中核産業の化学部門を原動力に、グループ全体の成長を図っていくことを目指しています。

 復興需要やインフラ更新需要などにより、建設資材など非化学部門が伸びている一方、化学部門は2008年のリーマン・ショック後の中国国内の設備過剰から悪化していて、厳しい状況が続いています。

── 化学部門の取り組みは。

山本 ナイロン、合成ゴム、セパレーター、高機能コーティングの4事業を化学部門の積極拡大分野と位置付け、重点的に資源投入していく予定です。19年3月期に営業利益200億円レベルまでの回復を目標としています。

 化学部門の営業利益は08年3月期に過去最高の327億円だったところ、16年3月期は120億円になっていて、立て直しが道半ばです。16年3月期は設備の定期修理がなかったことや原燃料安などが寄与して一定程度回復してきたので、更なる収益の改善を目指します。

── 化学部門で事業再編を行ったそうですね。

山本 15年に化成品・樹脂カンパニーと機能品・ファインカンパニーを統合し、化学カンパニーとして再編しました。また、家電などの部材に使うABS樹脂国内首位のテクノポリマーと2位のUMG・ABS(宇部興産が50%出資)が17年10月の経営統合を目指して協議を始めました。国内外の競争激化を背景に、製造効率やコスト競争力を確保するのが狙いです。

 欧米などと比べると日本の化学会社は小さく、汎用(はんよう)品は海外展開は難しい状況となっています。提携はどの部門でも起こってきます。

── 注力していく分野は。

山本 リチウムイオン電池(LiB)の主要部材セパレーターです。車載用LiBの国内外市場の需要が高まっています。セパレーターはリチウムイオンを透過させる多孔質フィルムです。トヨタ自動車「プリウス」などのハイブリッド車や電気自動車をターゲットにしています。

 また、日立マクセルと連携し、塗布型セパレーターの加工能力も高めています。

── 資源投入するナイロン事業は。

山本 国内は宇部市、海外ではスペインとタイに、原料のカプロラクタムなどの生産拠点を設けています。食品の包装用フィルムでのグローバルナンバーワンを目指し、スペインとタイの工場でそれぞれ4万トンの増強を計画。燃料電池自動車の水素漏れ防止の役割を担うライナー(タンクの最も内側の層)用のナイロン材料などは、全世界どのエリアでも供給可能な体制を整えていきます。

 

◇ICTも導入

 

── 好調な建設資材は。

山本 セメント需要は約20年前が最盛期で、現在はその半分くらいになっています。以前から製造の合理化を図ったり、セメント製造の際に廃棄物を原燃料に使用し、処理コストを得たりすることで利益を支えてきました。一部で輸出もしています。

── 17年3月期の業績見通しは。

山本 連結売上高が前期比2%増の6550億円で、化学事業で車のタイヤに使われる合成ゴムなどの販売が増えています。営業利益は同15%減の350億円で、ナイロン原料などとして用いられるアンモニアの製造設備の2年に1度の定期修繕があり、その分、利益が下がります。

── 17年3月期から3カ年の中期経営計画が始動しました。

山本 投資額は前中期経営計画(14年3月期~16年3月期)比3割増の1500億円で、ナイロンやLiBのセパレーターなどの生産拠点の能力増強や基盤事業のコスト競争力向上にあてる予定です。最終年度の19年3月期に、連結売上高7500億円(16年3月期比17%増)、営業利益500億円(同21%増)を目指しています。

── 今後の海外戦略は。

山本 化学部門のナイロンは食品の包装用フィルムなどをスペインやタイで増産します。合成ゴムはタイヤメーカーに高機能材を拡販し、国内に加えて、タイやマレーシアの既存工場で増産を計画しています。新しい工場については、立地を含めて将来的に実施するか検討している段階です。

── 製造現場でも改革を行っているそうですね。

山本 宇部工場でICT(情報通信技術)を使った化学プラントの異常予兆検知システムを試験導入して現在改良中です。プラントに取り付けた約1000個のセンサーから集めるビッグデータを解析し、不良品の発生などを未然に防ぐのが狙いです。

── 会社の将来像は。

山本 当社は技術力や製品化する力はあるのですが、市場につなげて利益にする力が足りていませんでした。それを改善し、利益ベースで一番良かった時代を凌駕(りょうが)したいです。

 そのためには、市場調査しながら、既存の事業分野や製品の裾野を広げ、あるいは従来と異なるマーケットに商品を投入しながら、顧客ニーズに合った形の商品を提供します。

(構成=丸山仁見・編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A メカニカルエンジニア(機械の専門技術者)として船を動かす歯車など回転体の設計を担当していました。

Q 「私を変えた本」は

A 日本や中国などの歴史書です。今まで文化として伝わっているもののルーツが何かを知ることが好きです。

Q 休日の過ごし方

A 近所のジムに行って体を動かしたり、美術館に行ったりします。春には庭園を見に行きました。

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■人物略歴

◇やまもと・ゆずる

広島県出身。広島県立福山誠之館高校卒業。1977年京都大学大学院修了後、宇部興産入社。2003年宇部興産機械社長、07年宇部興産常務、10年専務、13年代表取締役。15年4月から現職。63歳。

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事業内容:化学、建設資材、機械など

本社所在地:東京都港区、山口県宇部市

設立:1942年3月

資本金:584億3500万円(16年3月末現在)

従業員数:1万764人(16年3月末現在・連結)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:6417億5000万円

 営業利益:414億800万円

 

 

【訂正しました】この記事は、本誌2016628日号の67ページを転載しています。本誌では、食品の包装用フィルムについて、スペインとタイの工場でそれぞれ増産するのは「40万㌧」となっていますが、正しくは「4万㌧」でした。また、合成ゴム生産について、「マレーシアで新工場の建設も検討しています」なっていますが、正しくは、立地を含めて将来的に実施するか検討している段階のため、本文を訂正しました。

2016年

6月

21日

経営者:編集長インタビュー ガブリエル・ベルチ アストラゼネカ・ジャパン社長 2016年6月21日特大号

 ◇研究開発重視、がん領域で新薬開発に挑む

 

── 売り上げが短期間で拡大しています。

ベルチ 2015年度の日本法人の売上高は3232億円(薬価ベース)で、国内製薬企業の売上高ランキングでは、12年の12位から16年第1四半期は7位まで浮上しました。主力の高脂血症治療薬「クレストール」、抗潰瘍薬「ネキシウム」などが好調だったほか、新薬も貢献しました。今後はがん治療薬の新薬も加わるので、売り上げ倍増を見込んでいます。

 アストラゼネカは新薬の承認件数が米欧日で最も多い企業です。14年から15年にかけては米国で七つの新薬が承認されました。さらに17年末までに世界で60件以上の承認申請に向けて研究を進めています。日本国内でも約300人体制で開発に取り組んでいます。14年の研究開発費は約100億円で、研究開発費の規模は日本国内の製薬会社で3番目というデータもあります。

── 研究開発の重点領域は。

ベルチ 現在進める研究の大半ががん治療に関する研究です。がん治療薬は社会にとって重要度が高い研究であり、肺がん、卵巣がん、乳がん、血液がんなどの新薬の開発を進めています。また呼吸器、循環器の疾患に関する新薬開発にも取り組んでいます。

 これまで製薬会社は、ランダムに化合物を組み合わせることで、新薬を開発する方法をとってきました。当社はその逆です。まず疾患をよく理解して、たんぱく工学などで特定の疾患に狙い撃ちで効く化合物をつくります。他社も同じようなアプローチを始めていますが、当社は豊富な人材と、積極的なM&A(合併・買収)で新薬開発を進めています。

── がん治療で話題の「がん免疫療法」の開発は。

ベルチ 当社でも研究を進めています。免疫療法治療薬は、化学化合物を使ってがんをたたくのではなく、免疫力を高めてがんと闘わせるという賢いアプローチの新薬です。ただし、すべてのがんに対して一つの対策が効くわけではありません。分子標的薬もあればDNA損傷修復、抗体薬物の複合体、がん免疫療法の四つのアプローチで対応できるのが当社の強みです。

 

 ◇肺がんの新薬発売

 

── 莫大(ばくだい)な費用を投じる新薬開発はリスクも伴います。

ベルチ 確かに大きなリスクですが、その分利益も大きいです。新薬開発では、効果が期待できない場合には早い段階で勇気を持って研究開発をやめる判断も必要です。また部門横断的に話ができる環境も必要です。

 私が日本法人に来た当初は、部門ごとにオフィス内の空間が分かれていました。それを取っ払い、ガラス張りでオープンなスペースにして、プロジェクト単位で机を並べる配置に切り替えました。

 その効果の一つが日米のドラッグラグ(新薬承認の審査期間の差)の短縮です。以前は7年だったものが今は4カ月まで縮まりました。研究開発部門と医療機関担当者や営業担当者が話をして、どこの施設に患者がいるのかを把握し、その施設で治験を行うなど、コミュニケーションを増やすことで時間を短縮することができました。

── 5月に肺がんの新薬を発売しました。

ベルチ 肺がん治療薬の「タグリッソ」を発売しました。当社には「イレッサ」という肺がん治療薬があり、多くの患者が使用していますが、長期間イレッサで治療するとがん細胞の遺伝子が変異し、抵抗を持ってしまって薬が効かなくなるという課題がありました。タグリッソはそのようなイレッサが効かなくなってしまった患者の2次治療薬です。

 治験では肺がん患者の6割で効果を発揮し、平均生存期間を9・7カ月に延ばした実績があります。既存薬は約4カ月なので大きな効果です。日本で対象になるのは約1万人で、早期承認の要望をいただいていました。効果が高いということで厚生労働省から優先審査の指定を受け、申請から7カ月という異例のスピードで製造販売の承認が下りました。

── イレッサは副作用が問題になりました。教訓をどう生かしますか。

ベルチ 医療機関の先生方に副作用の可能性について丁寧に説明し、また専門の医療機関で適切に使っていただくことを呼びかけています。24時間対応のコールセンターを設置するなど患者さんの支援も配慮しています。

 

 ◇MR出身から社長へ

 

── 新薬の薬価が高く、医療財政を圧迫しているとの指摘もあります。

ベルチ 高齢化による医療費の増大が先進国共通の課題になっていますが、医療費=薬剤費ではありません。医療財政については、薬剤費だけではなく、入院期間の短縮化など医療費を包括的に見て議論すべきです。

── ベルチ社長は医療機関に自社医薬品の情報を提供する医薬情報担当(MR)ご出身だそうですね。製薬会社では珍しいのでは。

ベルチ そうかもしれません。しかし、MRの仕事を理解していないと製薬会社の経営はできません。

 経営に当たっては、明確な成果主義を打ち出しています。年齢、性別、社歴を問わず、成果で評価します。

 女性管理職が多く、CFO(最高財務責任者)も女性です。開発でも販売でも、全てのスタッフに成功の機会を与える経営を心掛けています。

 

Interviewer 金山隆一・本誌編集長 構成=花谷美枝・編集部

 

■横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A ベトナムに赴任して、アストラゼネカの現地法人をゼロから立ち上げました。350人採用して、現地で4番目の規模まで育てました。すばらしい経験でした。

Q 「私を変えた本」は

A ジャック・ウェルチ氏の著書です。実行力について説いた本でした。高いところから俯ふかん瞰して、同時に細かなところもよく見る、という姿勢を学びました。

Q 休日の過ごし方

A ダイビングやスキーを楽しみますが、最近はもっぱら2歳の娘と過ごします。日本生まれのメード・イン・ジャパンです(笑)。

 

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■人物略歴

 ガブリエル ベルチ

 スイス出身。1996年スイス・ヌーシャテル大学理学部卒業、生物学修士号取得。製薬企業のMRとしてキャリアをスタート。99年、アストラゼネカスイス法人入社。ベルギー、スウェーデンでの勤務を経て、2006年よりベトナム&インドシナ法人社長、09年タイ法人社長、11年ドイツ法人社長。13年4月より現職。42歳。