渡邊啓貴
(東京外国語大学国際関係研究所所長)
ウクライナ情勢はますます西側に打つ手がなくなっている。西欧諸国にはウクライナをめぐって国際法を蹂躙(じゅうりん)し、自己主張するロシアとウクライナ東部親露派勢力を本気でたたくつもりがあるのか。ユーラシアをめぐる地政学的な世界観そのものが問われているようにも見える。ウクライナ東部の、中央政府からの分裂が次第に現実味を帯びてきているからである。
◇西欧側の警告は効かず
8月末のEU首脳会議は、ウクライナ東部での停戦と停戦後の緊張緩和が実現しない場合には、金融やエネルギー分野での追加経済制裁を発動すると警告した。次いで、9月5日に英国ウェールズ地方のニューポートで開かれたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議は即応展開部隊の編成を決定した。NATOの決定は軍事介入へ明確に転換したわけではなかったが、それまで軍事的対応はないとしてきたNATOの姿勢に対して、米欧が対露姿勢を軍事レベルにまで上げてきたことを意味した。………