
◇ブランド力強化で若者取り込む
「ハッピーターン」や「亀田の柿の種」などの人気商品で知られる米菓最大手。主力ブランドに味や食感のバリエーションを増やしたり、期間限定商品を定期的に開発するなど、ブランド力の強化に取り組む。取締役7人のうち4人を社外取締役とするなど、経営体制変革でも注目を集めている。
── 2015年3月期で6期連続最高益更新見通しと業績好調です。
田中 当社の強みは、「ハッピーターン」や「手塩屋」など確立された強いブランドをいくつか持っていることです。それらを主力8ブランドとして力を入れてきました。たとえば「柿の種」は、もともと中年男性のおつまみというイメージですが、女性向けの商品開発を進め、コマーシャルに若い人気女優を起用するなどして若者層の取り込みをはかっています。ハッピーターンも、高級品を開発してデパートで販売しています。
一方で、ディスカウントショップから土産物店、デパートなどあらゆるチャネルであらゆる階層のお客様に商品を提供できるのが強みです。これは私個人の見解ですが、家計が厳しい局面では、米菓のようなボリュームのある商品が好まれているようです。
売上高はアルファ米の製造販売をしている食品会社の買収もあり、14年3月期は前期比14・2%増となりましたが、営業利益率は3・6%にとどまりました。今期は営業利益の改善を経営目標としており、4・4%を見込んでいます。来期は5%、最終目標は10%においています。
── 株価もこの1年で60%上昇しました。
田中 株価で評価していただいているのはうれしいことですが、短期的な業績ばかり考えず、中長期的な視野で考えています。大切なのは、消費者の方々に「亀田は良い会社だ」と思っていただくことです。
── 米菓市場全体の現状は。
田中 菓子市場2兆5000億円のうち、米菓は1割の2500億円市場です。伸びているのはチョコレートやスナックで、米菓も1%台ですが伸びています。
米菓市場は大手6社でシェア7割を占める構造で、ここ10年ほどで企業数は約600社から約400社に減りました。今後も厳しい生き残り競争は続くと思います。
人口減少と高齢化で、趨勢(すうせい)としては市場は縮小傾向です。米菓はお年寄りに好んでいただける商品ではありますが、お年寄りは食べるボリュームが少ないのです。
── 海外はどう攻めますか。
田中 米菓はスナック菓子に比べてカロリーが低いことから、海外ではヘルシーなイメージをもたれています。米国ではバーベキュー味やチリ味の柿の種などを販売しています。米国には当社のグループ会社が3社あり、米菓(グルテンフリー・オーガニック)市場の6割強のシェアを得ています。ここ5年ほど毎年10~20%くらいずつ市場規模は伸びています。この勢いはまだまだ続くでしょう。せんべいなどは日本のオリジナルで、ライバル商品がないことが強みです。
中国やベトナム、タイにも生産拠点があり、米菓メーカーで海外拠点があるのは当社だけです。いま考えているのはタイで生産した米菓をヨーロッパへ輸出したり、ベトナムでつくって日本へ輸入したりとクロスボーダーの取引を広げることです。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が締結されれば、現状34%の米菓の輸入関税も引き下げられ、当社にとっては追い風になると期待しています。今後は、インドネシアやインドへの進出も検討しています。目標は現在5%の海外売上比率を30%に増やすことです。
── 関税引き下げは輸入米など原材料費についても期待できますか。
田中 輸入米と国産米の割合はこれまで65対35でしたが、実は国産米を引き上げて55対45くらいに変更しています。なぜかと言いますと、輸入米は現在1キロ133円程度ですが、国産米は約2年前まで1キロ200円程度だったのが、現在は70円程度まで下がっているからです。輸入米の方が価格が安定していて購買計画も立てやすいのですが、コスト削減策として国産米を増やしています。
◇過半が社外取締役
── 社外取締役を増やしている狙いは。
田中 00年3月期に最終赤字になり、そこからブランドを整理するなど経営のスリム化をはかってきました。環境の変化に果敢にチャレンジしていくため社員の若返りもはかっていますが、その分リスクもあるので、経験と見識のある社外の方にチェックしてもらおうという狙いです。
02年にアドバイザリーボードを設置し、06年には社外取締役を2人招きました。それでは数が少ないと、14年からは7人の取締役中4人を社外取締役にしました。いずれも企業トップの経験者です。意見の違いから議論が白熱することもありますが、こういうことを経て会社は成長するのだと思います。
── 今期の売上高950億円を20年3月期に1500億円にする目標を立てています。
田中 主力8ブランドの強化を経営目標に掲げていますが、悩みは8ブランドを脅かすような新しいブランドがなかなか育たないことです。新ブランドの育成が課題です。
(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=小林多美子・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 当時はモーレツ社員の時代でした。プライベートの楽しみも追求したいし、社内の競争に乗り遅れたくないとも思っており、ストレスの多い時代でしたね(笑)。
Q 最近買ったもの
A 香木を集めています。香木から作っている香水が前から欲しくて、ドバイで買いました。
Q 休日の過ごし方
A スーパーで消費者がどういうものを買うのか観察するのが好きです。この人はどんなもの買うのかなと想像しながら見ているととても面白い。社内の誰よりもお店を回っていると思います。
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■人物略歴
◇たなか・みちやす
東京都出身。1968年慶応義塾大学法学部卒。同年日本長期信用銀行(現新生銀行)入社。98年亀田製菓入社。99年に取締役ロジスティクス本部副本部長。06年6月から現職。69歳。