
◇「ソルダーレジスト」で世界シェア6割超
スマートフォンやデジタル家電、車載用電子機器などエレクトロニクス製品に利用されるプリント配線板の表面を覆い、回路パターンを保護する絶縁膜となるインキ「ソルダーレジスト(SR)」の製造販売で世界シェア60%を超える。
── SRで高シェアを維持している理由は。
佐藤 SR技術の特許を1985年に出願しました。それが、今では考えられないほど広い範囲で特許が認められ、ここで他社の追随を許さない状況ができました。すでに特許は切れていますが、顧客ごとにきめ細かい対応をしてきたことや海外展開が早かったことも当社の強みです。
── 製品にはどんな種類がありますか。
佐藤 大きく二つに分かれます。一つは半導体チップに使われるパッケージ基板(プリント配線板)向け、あと一つは汎用品向けです。このうち半導体向けは、現状100億円程度の市場の約90%を当社が押さえています。
── なぜそんなに強いのですか。
佐藤 SRを塗布後、半導体の実装過程で熱や圧力がかかりますが、当社のSRは薄く、かつ熱や圧力に強い。これは原料のメイン樹脂に何を添加するのかといった設計ノウハウや原材料を細かく均一に配合する技術があるからです。
また細かいところまで精密です。SRをプリント配線板の全面に塗布した後に、回路を描いたネガフィルムを通して露光させます。光が当たった部分だけSRが固まり、不要な部分は除去されます。その点や線をいかに細かく正確に描けるかが技術力です。SRによる回路の保護が完全でないとショートしてしまいます。
また、半導体向けSRの売り上げの5割近くは液状ではなくフィルムタイプです。フィルムタイプだとミクロン単位で厚さを均一にできます。これも当社の開発が他社より早く、競争優位に立てる理由です。
── 売り上げ規模としては、あと一つの汎用品向けが多い。
佐藤 500億円程度の市場で、当社が60%弱のシェアを押さえています。こちらは高いシェアを生かしていいものを安くつくっています。競合が参入しやすい市場ですが、今後70%くらいまでシェアを引き上げていきたいと思っています。
── 利益の二ケタ増益が続いています。
佐藤 半導体向けが伸びているほか、当社と激しい価格競争をしていた業界2位の台湾の会社を2013年に買収しました。これによって汎用品向けの価格が下げ止まっただけでなく、むしろ上がりました。
◇利益率は20%前後
── スマホと車載向けが伸びているのも好調の要因ですか。
佐藤 最終製品では確かにその二つが伸びています。ただ当社の場合、最終用途より、半導体向け、汎用品向けというくくりで考えています。そして、今後伸ばしたいのは半導体向けです。市場規模は今後10年で今の倍の200億円くらいになると見ています。
IoT(インターネット・オブ・シングス)の拡大によって、さまざまなモノがインターネットやクラウドに接続するようになると、必ず半導体が乗るようになります。また、電子回路を高密度に多層化する際に使う層間絶縁材というのがあります。300億円程度の市場規模があり、これも今後2倍に拡大すると見ていますが、当社はこの市場を全く見過ごしていました。いまこの分野のシェアトップは食品メーカーの子会社です。ここを攻略したい。
柔軟性があって曲げることができるフレキシブル基板の市場もスマホ向けを中心に伸びています。これらは当社の技術を横に広げればいずれも対応できるものです。
── すべてSR関連なので、SR一本足打法の懸念もあります。
佐藤 我々は一本足打法とは思っていません。汎用品向け、半導体パッケージ、層間絶縁材、フレキシブル基板の四つは用途が違うからです。この4分野に注力していきます。
── スマホでの中国メーカー台頭の影響は。
佐藤 中国メーカーは、高品質製品の値下げを要求してくるわけではなく、最初から安い製品を使ってくれるのである意味やりやすい。ただスマホの需要は今後あまり伸びないと思うので、事業領域を広げることに力を入れていくつもりです。
── 利益率が約20%とメーカーとして非常に高いです。
佐藤 シェアの高さがなせるわざです。内外問わずグループの会社ごとに20%超えを目標に置いています。15年3月期は全社で20%を達成できる見通しです。
── 今後の課題は。
佐藤 社長に就任して4年、最初の2年間は競合他社に打ち勝つための収益基盤づくりに専念してきました。その足場は固まったので、今は人材育成と新規事業の立ち上げに取り組んでいます。
歌舞伎や相撲観戦など遊ぶ機会をつくったり、高級ファッションブランドの社長を招いて講演会もしました。良いアイデアが生まれるには職場環境が大事と、研究部門のある嵐山事業所は、オフィスと社員食堂の大改装もしました。社員の顔つきは明らかに変わってきました。
(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=小林多美子・編集部)
◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A コンサルタント会社を立ち上げた後、(有線放送最大手の)USENのCFO(最高財務責任者)になり経営の立て直しに奔走していました。資金繰りや銀行との交渉に追われる毎日で、自分の会社のことはそっちのけでした。しんどい30代でした。
Q 最近買ったもの
A iPhone6プラスです。ほとんどモノは買いません。
Q 休日の過ごし方
A 座禅とトライアスロンとゴルフです。家にいるときは子どもと遊んでいます。
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■人物略歴
◇さとう・えいじ
東京都出身。1992年中央大学経済学部卒。監査法人勤務、コンサルティング会社経営などを経て、2008年6月に太陽インキ製造(当時)入社、取締役就任。11年4月から現職。45歳。