
◇実物経済と資産市場のバランス崩壊
斎藤 満
(グローバル・エコノミスト)
金融政策には効果の非対称性がある。実物経済への影響という点では、引き締めは有効だが、一方で緩和の効果は条件付きだ。
つまり、経済に十分な推進力が備わっていなければ、金利を下げても、国債を大量に買い入れても、緩和効果は浸透しない。金融政策の基本はブレーキ・コントロール。経済に成長の推進力があるときに摩擦をゼロにすることが最大の緩和だ。しかし、推進力がなければ、ブレーキを外しても走らない。

バブルが崩壊し、金融危機を経て経済に推進力が無くなってしまった日本では、ゼロ金利を長年続けても、異次元の量的緩和を続けても、景気は浮揚せず、インフレ率の引き上げも円安のコスト高がむしろ経済を圧迫するだけで持続しなかった。
◇資産市場に流れたマネー
それにもかかわらず、日本では2013年に2%のインフレ目標が政治的に設定され、デフレ脱却のためと称して、効果の確認できない異次元の量的緩和が推進された。それでも効果が上がらないので、昨年10月には資産買い入れ規模を拡大する「バズーカ緩和」が追加され、1年たって、さらなる追加が論議された。
多くの国ではインフレ目標に幅を持たせ、中期的な目標としているのに対し、日本では「2%を2年で達成」と大風呂敷を広げてしまった。マネタリーベースは12年末の132兆円から今年9月末には332兆円に膨張、国内総生産(GDP)の実に66%(対4~6月期名目GDP比)に達した。欧米では20~25%だから、日本の異常さが分かる。
日銀が大量に供給した緩和マネーは日本の実物経済には向かわず、むしろ新興市場や資産市場に向かった。それは投資に対する期待収益率が、今の日本では実物経済で低く、新興市場や資産市場でのリターンがより大きいためだ。日本では名目GDPはこの20年、500兆円あたりで停滞しているから、実物経済での期待成長率は、ほぼゼロとなる。
一方、新興市場では5~10%の成長が期待され、資産市場では日銀自ら投資家として大量の資産買い入れをするから、国債市場や株式市場では手っ取り早く利益が上げられるとの期待を誘った。特に円安になると株価が上がるとの連想が広がっているから、「日銀の金融緩和→円安→株高」の期待が醸成された。市場では景気が悪化すれば、むしろ追加緩和が期待できるとして株を買い上げる事態まで生じることになった。まさに「緩和中毒」と言ってよい。...