
馬田啓一
(杏林大学客員教授)
アジア太平洋の経済連携をめぐって米中が主導権争いを繰り広げている。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を推進する米国に対して、中国は「一帯一路」構想とアジアインフラ投資銀行(AIIB)で対抗しようとしている。
TPP交渉が米アトランタでの閣僚会合で大筋合意に達した10月5日、米オバマ大統領は声明で「中国に世界経済のルールを作らせてはならない。米国がルールを作るべきだ」と、アジア太平洋のルール作りを米国が主導した意義を強調し、中国をけん制した。
中国包囲網になりかねないTPPが大筋合意したことに、中国が焦りを感じているのは間違いない。11月1日の日中韓首脳会談で、これまで停滞していた日中韓FTAの交渉を加速することで一致したのは、その表れと見ることができる。
中国が最も恐れているのは、TPPによって企業の国際生産ネットワークから外されることだ。中国の製造業は加工貿易型で、東アジア諸国から部品や原材料を輸入し、それを加工組み立てした完成品をアジアだけでなく米国にも輸出している。TPP参加国の間で関税がかからなければ、部品や原材料、製品の輸出入に関税がかかる中国は、競争上不利になる。
◇TPPvs一帯一路
TPPが発効すれば、サプライチェーン(供給網)の効率化を目指す企業が投資先を中国からベトナムやマレーシアなどにシフトさせる動きが進むだろう。TPP参加国が増えれば、その動きはさらに加速する。いわば国際生産ネットワークからの孤立である。中国としてはTPPに参加するか否か、将来的に難しい選択を迫られることになるだろう。
アジア太平洋の経済連携をめぐる米中の対立は、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP(エフタープ))をどのルートで実現するかをめぐる争いである。 FTAAPは、アジア太平洋経済協力会議(APEC)全体での経済連携を指す構想で、2006年にAPECのベトナム・ハノイ会合で米国が提案した。
米国は、将来的には中国も含めてTPPの参加国をAPEC全体に広げる形でFTAAPを実現しようとしている。投資や競争政策、知的財産権、政府調達などで経済紛争の絶えない中国に対して、TPPへの参加条件として、政府が積極的に市場に介入する「国家資本主義」からの転換を迫るのが、米国の描く最終的なシナリオだ。 ...