
◇銃規制を強化したいオバマ氏
◇市民の自由束縛だと非難
堂ノ脇 伸
(米州住友商事会社ワシントン事務所長)
オバマ大統領は今年の年頭所感で銃規制の強化に改めて取り組む方針を打ち出し、自らの政権の実績として残すことに強い意欲を示している。1月5日には大統領権限に基づく規制強化の方策、すなわち銃保持者のバックグラウンド・チェックの強化、ネット販売を含む銃小売業者に対するライセンス取得の義務化などを打ち出した。発表の場では「銃の犠牲になった子供たちのことを考えるたびに怒りが込み上げる」と異例の涙を見せながら演説した。
米国では、合衆国憲法修正2条によって個人の武器保有が認められている。実際、自らの身を守る自衛の手段として、銃を所持するべきだと主張する米国人は多い。これは米国という移民国家の成り立ちの歴史と関係する。かつての建国途上の脆弱(ぜいじゃく)な治安行政基盤の時代にあって、自らの身は自分で守るという強い自己防衛意識が、根強い価値観として今も残るためだ。
加えて、「国家や国家権力に対する市民の権利として、武器の保有は侵害されてはならない」という意見からは、強い個人主義と国家対市民の関係論という、日本人と異なる価値観や意識も見てとれる。全米ライフル協会(NRA)や、「政府による個人への過度の介入があってはならない」とする共和党保守層を中心に、銃規制そのものに堂々と反対の声が上がるのも、こういった背景があるからだ。
◇3億丁が流通
米国では現在、非公式ながら、約3億丁もの銃が流通していると言われており、国民1人当たりの銃の保有率は世界でも群を抜いて高い。銃の乱射などによる殺人事件は後を絶たない。2015年には、銃によって4人またはそれ以上の被害者が発生する大量殺傷事件が329件起き、457人が命を落としたと報告されている。
最近では、昨年12月2日にカリフォルニア州サンバナディーノ市で発生したテロ事件によって、14人が死亡し、21人が負傷した事件が記憶に新しい。犯人と中東の過激派組織「イスラム国」(IS)との関係も取りざたされる中、このような危険人物が容易に銃を入手できてしまう環境が放置されること自体を問題視する声は、日増しに強まっている。
12年にコネティカット州ニュータウンで20人の子供と6人の教師が銃の犠牲となった事件の際にも、オバマ政権は銃規制法の強化を訴えた。だが、共和党を中心とする反対勢力によって、連邦議会で賛同を得られることはなかった。
そもそも、既に3億丁も市中に出回っている銃を全て取り締まることは、現実的にはほぼ不可能と言われている。「結局、これらの銃を利用した凶悪犯罪から身を守るには、自らも武装するしかない」とする意見の方が現実的だという見方すらある。
オバマ大統領自身も修正2条による個人の武器所有の権利を認めつつ、「少なくとも規制の強化を通じて、悲惨な事件の発生頻度を減らす努力は怠るべきではない」と発言。
最終的には、議会でもこれに呼応して、銃規制法を見直すよう行動を促している。民主党の大統領候補に名乗りを上げているヒラリー・クリントン氏も、すぐさまオバマ大統領の政策に賛意を示した。
他方、共和党は、ポール・ライアン下院議長を中心に、今回もオバマ大統領の規制強化策に反対の立場を示している。「大統領は相変わらず犯罪者やテロリストの把握といった方策ではなく、市民の権利と自由を束縛する方向にばかり目を向けている」と非難の声を上げている。銃を巡る問題に政治的な決着の糸口は依然見えていない。(了)