【がんは薬で治る】インタビュー オプジーボ生んだ本庶佑 2016年7月19日号

本庶佑・京都大学名誉教授

◇「免疫療法薬でがんが治る時代になる」

 

 オプジーボの開発のきっかけとなった「PD─1」分子を発見した本庶佑・京都大学名誉教授にこれからを聞いた。(聞き手=花谷美枝・編集部)

 

── PD─1分子の発見から生まれた免疫療法薬は、がん治療をどう変えたのか。

 

■がんが治るようになったということだ。現在の治療では、抗がん剤が効いてもがん細胞が変異して薬に対して耐性を持つため、別の抗がん剤を使う。耐性ができたらまた別の抗がん剤、といたちごっこになっている。これでは患者の体が持たない。

 

 免疫治療薬は長期的に効果がある。免疫機能を担うリンパ球は、10の14乗の種類の抗原を認識できると推計されており、がん細胞がどんなに変異してもやっつけられる。

 

── 効果があるのは非小細胞肺がんで患者の2割といわれている。

 

■2割というのは、さまざまな抗がん剤を試した末期がん患者を対象にした場合だ。未治療の人が使えば、僕の予想ではもっと生存率が上がる。事実この方式で悪性黒色腫(メラノーマ)では70%が1年半以上生存したが、抗がん剤では20%しか生存しなかった。抗がん剤は患者の免疫力を低下させるので、治療の最初の段階で免疫治療薬を試すべきだ。

 人によって効き方が違うのは、免疫力の個体差が大きいためと考えられる。同じ型のインフルエンザで、あまり熱が出ない人もいれば、39度まで上昇する人もいるのと同じことだ。がんに対する免疫力を簡単に知るマーカー(物質)は見つかっていないが、世界中で研究が進んでいるので1、2年で見つかると思う。

 

── 今後どのように発展するのか。

 

■4、5年はPD─1と何かの組み合わせを探る研究が中心になる。副作用の研究も進むだろう。

 免疫療法薬はがん細胞ではなく免疫側に作用する。がん種横断的な一斉治験ができれば、一気にさまざまながんに適用が広がるだろう。2012年に米国の臨床医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に掲載された論文は、さまざまながん種の末期患者に24週間投与したところ、投与をやめた後2年以上もがん細胞が大きくなっていないことを示した。140週間効果が持続している患者もいた。

 

◇開発は米国が先行

 

── 「オプジーボ」は高額な薬価が議論を巻き起こしている。

 

■開発の原価から薬価を決めているはずなので、特定の薬が高いかどうかについてはコメントできない。がんが治れば長期入院費、高度な手術費、あまり効かない抗がん剤の費用はなくなる。また健康を取り戻し、社会に貢献するプラスも含めて総合的に考えるべきだろう。ただ、一般的に医療費の上昇が財政の負担になっていることは確かで、僕も予防医療の強化などを提言してきた。

 

── PD─1分子の発見は1992年。薬にするまでに22年かかった。

 

■一番難しかったのは、日本の製薬会社がまったく興味を示さなかったことだ。02年に動物モデルでがんに効くことを示した後、薬にするために製薬会社の協力を求めた。抗体をつくる技術がなかった小野薬品工業は日本中の企業を回って協力を求めたが、すべて断られた。「こんなことをしていたら会社がつぶれるぞ」とまで言われたと聞いている。

 

── 日本は免疫療法薬の開発で世界をリードできるか。

 

■日本はぜんぜんだめだ。がんワクチンなど治療成績のない研究に金を出していて、本当に必要な分野の研究費が通らない。一方で米国は官民を挙げて開発研究に資金をつぎ込み、がん免疫治療を推進して20年までにがんを完治するといっている。

 

── 新薬開発で世界と戦うにはどうすればいい。

 

■日本は製薬企業の規模に問題がある。薬の開発はどれが当たるかわからないから、たくさんチップを張るほど確率が高まる。つまり資本力が大きいところが強い。日本の製薬会社は国民皆保険制度に乗っかって薬を販売すれば生き残れるので、中小規模の製薬企業が生き残っている。

 基礎研究の成果を見分ける能力も必要だ。製薬会社は見る目を養った人材を育てなければならない。

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 ◇ほんじょ・たすく

 1942年京都生まれ。66年京都大学医学部卒業。医学博士。大阪大学医学部教授、京都大学医学部教授を歴任した。

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