会計士が明かす手口 常道は売掛金、在庫の水増し 「のれん」の“隠れみの”に注意

 

前川修満(アスト税理士法人代表社員、公認会計士・税理士)

 

企業会計の粉飾とは、その利益を水増しして過大に表示することだ。会社の正味の業績を示す損益計算書の「利益」は「収益-費用」で計算される。仮に粉飾によって利益を水増ししようとするなら、収益を過大に表示するか、費用(または損失)を過少にするか、いずれかの操作を伴う。

 

こうした操作をする時は必然的に、貸借対照表の正味の資産(純資産=資産-費用)も水増しされるため、粉飾する人たちはどの資産を膨らまし、どの負債を圧縮するかに腐心する。

 

粉飾決算を行う場合、どのような項目が対象になるのだろうか。

 

上場企業の粉飾の手口で現在、預貯金を過大に表示することはまずありえない。預貯金の残高を過大にすれば、それを裏付けに架空の売り上げを計上することが可能だが 、日本の会計監査では会計監査人が必ず金融機関に残高を直接確認する。具体的には、会計監査人はすべての取引銀行に対し、事業年度末日時点で金融機関へ一斉に確認状を送付する。そのため、預貯金の残高が改ざんされると、すぐに発覚してしまう。

◇売掛金や在庫を水増し

 

表1は過去の粉飾(もしくは不正会計)の手口の一覧だ。過去の粉飾決算では圧倒的に、売掛金や受取手形を指す「売上債権」や、販売前の商品・製品や製造途中の仕掛品、原材料といった「在庫」(棚卸資産)の過大計上が多いことが分かる。

 

売上債権を過大に計上すると、売上高を直接水増しできる。また、在庫を過大計上すると、一定の製造経費の中で在庫品製造にかかる費用が膨らみ、実際の売り上げにつながった製品の費用が減少。売上原価も減少し、損益計算書上の利益が増える。 

 

 ◇膨大な数の得意先

 

粉飾でこうした売上債権と在庫の操作が多くなるのには理由がある。

 

売上債権と在庫は預貯金とは異なり、会計監査人による期末日におけるすべての資産の確認作業が物理的に難しいからだ。筆者が監査した企業では、取引金融機関は50件程度の一方、売掛金のある得意先は2000件ほどになることもあった。また、金融機関への確認状は1週間以内で回答が得られるが、売上債権は監査先の企業が金額を確定するだけでも数日かかってしまう。

 

加えて、得意先からの回答は金融機関に比べ相当に遅くなり、会計監査人が送った確認状に回答しない得意先もある。そのため、3月期決算の企業であっても1月末か2月末の残高に対して確認状を発行したりする。また、売上債権の全件調査も難しいため、残高が大きい取引を集中的に調べたり、無作為抽出するなどして一部の得意先のみ確認状を送付する。これは、粉飾しようとする企業にとっては好都合だ。

 

 得意先全件ではなく、それも1カ月や2カ月前の日付で確認状が発送されるのなら、期末近くの取引を使って会計監査人の目を欺くことが可能になる。会計監査人は期末近くの大口売り上げの計上には細心の注意を払うが、取引先と共謀されれば見抜くのは難しい。棚卸資産についても同様だ。棚卸資産は倉庫、工場、営業所など会社の至る所に保管されているが、会計監査人が期末日ですべて正確な在り高を検証するのは物理的に不可能で、一部を調査するのが精いっぱいなのである。

 

 ◇キャッシュフローで見抜く

 

 今なお売上債権や棚卸資産を利用した粉飾事件は後を絶たない。15年に判明した東芝の不正会計も、パソコン事業などで在庫を過大計上したりする古典的な方法だった。 

 

 しかし、こうした手口の粉飾は、会計監査人も異変の兆候を把握しやすくなっている。 それは、ある期間の企業の現預金の増減を示す「キャッシュフロー計算書」が整備されてきたからだ。先に「預貯金残高は操作が困難」と述べたが、これはキャッシュフロー計算書の改ざんが困難であることも意味する。いくら見かけは立派な損益計算書でも、経営実態を正直に表す現預金の流れはごまかすことができないのだ。

粉飾決算の果てに2008年9月に倒産した当時ジャスダック上場の電子部品メーカー、プロデュースの例で説明しよう。

 

プロデュースは04~06年度、本来は赤字経営にもかかわらず架空の売り上げを計上し、損益計算書では3期連続で黒字の決算発表をしていた。しかし、同時期のキャッシュフロー計算書を見ると、本業でどれほどキャッシュ(現預金)を稼いだかを見る営業活動のキャッシュフロー(CF)は3期連続で赤字になっていた。

 

 本業はキャッシュを稼ぐための活動であり、損益計算書で黒字であれば通常、営業CFは黒字になる。損益計算書が黒字なのに営業CFが赤字の状態とは、売掛金などの売上債権や販売前・製造中の棚卸資産の増加を示すが、本業が不振にもかかわらず売上債権や棚卸資産が増えることは考えにくい。こうした企業の決算書類は怪しいことが多く、プロデュースは実際、資金繰りに行き詰まって破綻、粉飾も発覚した。 

 

 ◇のれん悪用したオリンパス

 

 売上債権と棚卸資産を改ざんする粉飾は今後、会計監査人による未然の防止が増えるだろう。その一方、筆者はこれらに代わる新種の粉飾が行われるのではないかと危惧することがある。それが、貸借対照表の資産の一部として計上される「のれん」だ。

 

のれんとは企業買収の際、買収金額と買収された企業の正味の資産(純資産=自己資本)の時価との差を、無形の価値として資産の一部に計上する処理を指す。

 

例えば、パナソニックは09年、三洋電機を買収したが、三洋電機の正味の資産(のれんを除く)は当時、4000億円程度だった。パナソニックは三洋電機全体の価値を9000億円ほどと評価して買収資金を投じたが、三洋電機の貸借対照表には載っていない資産(技術力やブランド価値など)を5000億円ほどと評価して、これを買収価格に上乗せしたと解釈できる。これがのれんとして資産計上されたが、資産とは経済価値があると判断された場合にのみ計上が許されるのであって、買収が失敗すれば損失(または費用)となる。

 

 三洋電機の業績はその後、思わしくなく、パナソニックは12年3月期と13年3月期決算で、それぞれ約1600億円と約2500億円の損失(のれんの減損損失)を計上。パナソニックは連結として2期連続の大幅な最終赤字に陥った。パナソニックは投資の失敗を正直に公表したため問題はない。しかし、これを損失として示さず、巧みに資産に計上する粉飾が行われたことがある。それが、11年に発覚したオリンパス事件だ。

 

 バブル期の財テクに失敗したオリンパスは、損失を簿外へ移して隠し続けていた。そうした簿外損失の表面化を防ごうと、オリンパスは06~08年、本業との関連が薄い企業を高値で買収するなどし、08年3月期ののれん代を2990億円程度に膨らませた。しかし、一転して09年3月期では、買収した子会社の価値が下がったとしてのれん代557億円を減損処理。つまり、本来は財テクで生じた損失を、あえて企業買収を失敗させてのれんの減損に付け替え、隠れみのに利用したのである。 

 

 実は、こののれんの評価は専門家にとっても極めて難しい。のれんの評価は企業買収の成否にかかわるが、企業買収の成否は事業環境の変化や今後の成長性、経営者の見通しなどに大きく左右される。日本会計基準では、のれんは不確実な価値と考え、20年以内で均等に償却(費用計上)する。

 

しかし、日本企業で近年、採用が増加している国際財務報告基準(IFRS)や米国会計基準では、のれんを定期的には償却せず、明らかにのれんの価値が下がった場合にのみ減損処理する。 

 

その難しさを象徴したのが、東芝の子会社である米原発大手ウェスチングハウス(WH)ののれんの評価だった。東芝は06年、WHグループを4979億円で買収した際、3507億円の「のれん」を資産に計上した。その後、11年の東日本大震災を経て全世界で原発建設計画が止まり、原発事業の先行きが不透明化。WHでは12年と13年、WH子会社で「のれん」を減損処理し、計13億2000万ドル(当時の為替レートで約1156億円)の損失を計上した。

 

 ◇買収の成否は現金増減で

 

 東芝は米国会計基準を適用しており、連結財務諸表ではWHが損失処理した1156億円をのれんとして資産に計上し続けた。東芝では、WHが行う原発の「新規建設」が収益を上げられなくなったとしても、それ以外の東芝グループの原発事業(「サービス」「燃料供給」など)では収益を上げられており、それらをひとまとめに(グルーピング)すれば、全体として「のれん」は損失処理をしなくてもいいと判断したようだ。

 

 東芝によるWHののれんの減損処理は、15年3月期の決算訂正では反映されず、16年3月期でWHを含めた原子力事業として約2480億円の減損損失を計上した。筆者にはこの処理が、実際に損失処理すべき年度より数年遅れてしまったのではないかという疑問が残る。

 

しかし、東芝の不正会計問題を調査した第三者委員会が15年7月に公表した調査報告書では、「部品加工取引を利用した利益操作」など4項目の会計処理は問題視した一方、WHののれんの減損については言及しなかった。

 

 筆者が強調したいのは、「のれん」の処理には経営者の主観が入りやすいうえ、その金額が売上債権などに比べて比較にならないほど大きくなる点だ。そして、経営者の都合のいい時期に突然、減損損失が計上され、それが粉飾の道具として悪用される恐れがぬぐえない。

のれんの減損処理を意図的に回避したとしても、異常の兆候はやはりキャッシュフロー計算書に表れる。企業買収とは本来、その後の営業CFの増加を伴うが、オリンパスの場合はまったく異なった。

 

オリンパスは08年3月期、買収に伴い2741億円の大幅な投資CFのマイナスとなったが、09年3月期には営業CFはむしろ減少した(図1)。

東芝でも06年のWH買収後、2期連続で営業CFを減少させている(図2)。

 

 こうしたCFを見る限り、企業買収は成功しているとは言いがたく、のれんの減損が発生する可能性を示唆していた。注意深くCFを見ることで、気づけることは決して少なくない。東芝でも06年のWH買収後、2期連続で営業CFを減少させている(図2)。

 

 こうしたCFを見る限り、企業買収は成功しているとは言いがたく、のれんの減損が発生する可能性を示唆していた。注意深くCFを見ることで、気づけることは決して少なくない。

(前川修満・アスト税理士法人代表社員、公認会計士・税理士)

週刊エコノミスト 2016年12月20日号

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