2016年

12月

27日

トランプ政権が脅かす「資本主義」 政治的結果を重視し権力振りかざす

Bloomberg
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岩田太郎・在米ジャーナリスト

 

2017年1月に発足する米国のトランプ政権の国内雇用維持政策に関し、米国の有力エコノミストによる議論が熱い。

 

 トランプ氏は、米空調大手の「キャリア」がインディアナ州工場をメキシコに移転する計画に「介入」した。海外移転した企業製品を米国に輸入する場合、35%の高関税を課すという脅しの「ムチ」と、移転により期待されたコスト削減額に相当する6500万ドルともいわれる州助成金の「アメ」で断念させた。

 

 これに対し、独保険大手アリアンツのモハメド・エラリアン首席経済顧問は12月2日に出演した「ブルームバーグ・テレビ」で、「トランプ氏の口先介入の効果は、マクロ経済面では取るに足らない。小さな介入を積み重ねても(大統領選で公約した10年間で2500万人の雇用創出のような)大きな効果はなく、雇用が引き締まった現在においては、具体的で大規模なマクロ政策が必要だ。さらに、賃上げなど、量だけでなく質も重要になる」と語った。

 

 また、国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミストで、ピーターソン国際経済研究所のサイモン・ジョンソン上席研究員は11月27日付の評論サイト「プロジェクト・シンジケート」で、「トランプ氏の経済政策は、人工知能(AI)やロボット化など技術革新と雇用の関係を考慮に入れていない。他国との貿易協定を破棄し、中国やメキシコの製品に高関税を課したとしても、高い賃金の製造業の雇用は米国に戻らず、トランプ氏は対応策を持ち合わせていない。そのため、トランプ氏を権力の座につけた経済格差への不満は、トランプ政権下でさらに悪化するだろう」と予測した。

 

 ◇自由貿易擁護が逆効果に

 

 雇用や貿易を守ることより、資本主義の原則が脅かされるリスクのほうが重大だと論じるのは、民主党のクリントン政権で財務長官を務めたハーバード大学教授、ローレンス・サマーズ氏だ。12月2日付『ワシントン・ポスト』紙で、「次期政権の経済政策は間違ったものばかりだが、700人の国内雇用を守るとしてキャリアの工場移転を断念させたことに最も大きな懸念を抱く。規模こそ小さくても、米資本主義の前提を崩しかねない」と強調した。

 

 その理由としてサマーズ氏は「米資本主義は、ルールと法に則って運用されており、予測性が高く、不確実性を減少させる。一方で、恣意(しい)的な取引で有利な条件を得ようとする『資本主義』が世界中で台頭している。米大統領は巨大な権力を持っており、それが恣意的に使われると、企業は大統領の望む場所に工場を建設し、大統領の望む雇用を創出し、大統領の望む研究を行うようになる。トランプ氏がキャリアの工場移転を思いとどまらせたことは、資本主義手続きより、政治的結果を重視したという象徴的な意味を持つ」と、トランプ氏の資本主義への挑戦に警鐘を鳴らした。

 

 こうしたなか、ハーバード大学のダニ・ロドリック教授は11月15日付の評論サイト「プロジェクト・シンジケート」で、「経済学者たちには長年、自由貿易支持の不文律があった。自由貿易は、労働者層から富裕層への資産再分配となることを理解していながら、『自由貿易には不都合を上回る効果がある』と呪文のように繰り返した」と指摘した。もたらした結果について、「批判に耳を傾けなかったため、(トランプ氏のような)扇動政治家に『反自由貿易・国内雇用維持』の主張を許すことになった。経済学者の自由貿易擁護の熱意は、逆効果だった」と断罪した。

*『週刊エコノミスト』2016年12月27日号「論壇・論調」

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