2016年

12月

27日

第42回福島後の未来をつくる 篠田航一/宮川裕章・毎日新聞記者=2016年12月27日号

地下800㍍に広がるドイツ北部ゴアレーベンの高レベル放射性廃棄物最終処分場の候補地=2013年7月3日、篠田航一撮影
地下800㍍に広がるドイツ北部ゴアレーベンの高レベル放射性廃棄物最終処分場の候補地=2013年7月3日、篠田航一撮影

◇独仏の「選択」から学ぶ

◇反対派も推進派も抱える課題

 

 

ドイツ人は、論理や理屈を重視する人たちだ。筆者(篠田)は東日本大震災直後の2011年4月から4年間、ベルリン特派員としてドイツで仕事をした。この年、ドイツは国内17基の原発のうち老朽化していた8基を緊急停止し、22年までの全原発停止を盛り込んだ改正原子力法を成立させる。

 

その論理は明快だ。彼らの議論は、濃淡はあるものの、結局は「原発にはリスクがある」の1点に集約される。「事故やテロが起きたら、そのリスクをドイツは背負い切れない」という理屈だ。

 

 だが「論理的」なはずの彼らも、実際に原発から脱却しようとする過程では単純に白黒をつけられない現実に悩んでいる。

 

 ドイツは今、原発の穴埋めとして再生可能エネルギーの普及を進める。同国の総発電量に占める再生エネの割合は16年8月時点で29・0%。10年に16%程度だったことを考えれば、ドイツの「本気度」が分かる。だが、その道のりは平坦(へいたん)ではない。再生可能エネルギーを発電業者から高く買い取ることで普及させた結果の電気料金高騰もその一例だろう。そして大きな課題の一つが、送電網の整備だ。

 

 ドイツの再生エネの主力は風力だが、既に約2万基ともいわれる風力発電機が稼働する陸上はもう「満杯」のため、北部の洋上風力発電所の建設を急いでいる。一方でドイツの電力の大消費地はベンツを製造するダイムラー、BMW、重電大手のシーメンスなどバイエルン州やバーデン・ビュルテンベルク州など世界的企業が立地する南部に集中している。この地域では今後次々に原発が停止するため、電力不足が生じる懸念が出ている。

 

 このため海がある北部から産業拠点が集中する南部まで、全長約2800キロメートルの高圧送電線を増設する計画を立てている。だが今は景観破壊などへの懸念から各地で建設反対運動が起き、工事が年間数十キロしか進まない。これでは22年までの脱原発にとても間に合わない計算になる。

 

 再生エネで電力を「作る」まではどうにか順調に進めてきたが、今度は「運ぶ」ことの難しさに直面しているのが現在のドイツだ。

 

 さらに課題として挙げられるのが化石燃料との「距離」だろう。ドイツは今も電力供給の4割を石炭・褐炭に頼っている。一方で石炭・褐炭は地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を大量に排出する。環境大国としては好ましくないが、実際に原発をなくし、再生エネが一層の普及を見せるまでの「つなぎ」のエネルギー源として、石炭・褐炭は外せない現実に直面している。ドイツに限らず世界の多くの国は原発と再生エネを単純な「二項対立」と捉えず、両者との距離を測りながら、もがき苦しんでいる。

 

 ◇フランスの現実

 

 フランスは、福島第1原発事故に対し、ドイツとは全く異質の反応を見せた。当初は同じ原発先進国である日本での事故に国民は衝撃を受けるが、メディアも次第に「事故は地震国の日本だから起きた」「フランスの安全技術をもってすれば、原子力事業は継続できる」という論調に傾く。電力の75%を原子力に依存するフランスにとって、原発ゼロはすぐに実現できる選択肢ではない。また経済的な競争相手であるドイツの脱原発は、「安い電力」としての原子力という前提を信じるならば、競争力で相手よりも優位に立てるチャンスともなるからだ。

 

 原発のシンポジウムに出席した筆者(宮川)は、フランスの原子力エリートたちがドイツを「石炭に逆戻りした国」とののしりながら、フランス製原発の英国への輸出の決定に気勢を上げる姿を目の当たりにした。だが、それでも福島の事故はフランスに覆い隠すことのできない変化をもたらしている。福島事故翌年の12年の大統領選では原子力は史上初めて争点の一つとなった。当選したオランド大統領は25年までに原子力の比率を50%に下げる「縮原発」を掲げた。それは他のどのリスクとも異なる原発の特質を、フランス国民が改めて意識した結果だろう。

 

 災害リスク以上に、テロのリスクも原発の脅威だ。しかし、特殊部隊やミサイル、レーダーなど日本より厳重に守られたフランスの原発の安全網も、実は万全ではない実態が明らかになっている。さらに原発産業関係者自身が過激思想に染まるリスクや、ドローン(無人機)など空からの新しいリスクも生まれている。

 

 筆者は、最新鋭原発が建設中の北西部フラマンビルや、日本の使用済み核燃料の処理も行うラアーグ再処理工場周辺の「原発村」、また国内最古の原発があるドイツ国境付近のフッセンハイムなどを歩き、自治体の首長や議員、原発推進派、反対派の住民の声を聞いた。

 

 どの場所でも推進派は雇用や経済的恩恵の重要さを説き、反対派は事故のリスクを懸念する。結局、原発の恩恵とリスクをてんびんにかけ、最後は政治がそれを判断することになる。しかし、その判断基準となる「安い原発」の前提は揺らぎつつある。最も大きいのは、やはり福島事故後に跳ね上がった安全対策費だ。フランス上院や政府の試算結果の中には、安全対策費の上昇から、中長期的には再生エネのコストが原発と同水準になる結果が出ている。

 

 ◇見えない「ゴミ捨て場」

 

 独仏両国に限らず原発を保有する全ての国に共通する課題が使用済み燃料の最終処分をどうするか、という「核のゴミ捨て場」問題である。核のゴミの放射能レベルが生物に無害になるのは10万年かかる。最終処分場をどこに造るのかは、人類共通の課題だ。

 

 ドイツの処分場探しは1970年代から始まり、「ドイツのゴミはドイツで処理する」と決め、国内唯一の最終処分場候補地を77年に決めた。しかし30年以上が経過し、計画を白紙に戻した。

 

 フランスは北東部の村に最終処分場のための試験施設を建設することを98年に決定、処分場は2019年の着工を目指したが、工期が延期されている。

 

 日本では青森県六ケ所村に高レベルの放射性廃棄物の中間貯蔵施設、低レベルの埋設センター、燃料の濃縮ウラン工場があるほか、使用済み核燃料から再利用可能なウランとプルトニウムを取り出す再処理工場が建設中だが完成のめどは立っていない。むつ市では使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設が始まっているが、この操業も延期されている。

 

 原子力関連施設で順風満帆な施設は世界に一つもないというのが現実だ。首都から遠く離れた農村や漁村が国策として核のゴミ捨て場などの開発を受け入れる構図は、最終処分場の候補地に一度は選定されたドイツ北部のゴアレーベンも、原子力関連施設が立地する青森県も同じだ。

 

 フランスでは、廃炉を十分に想定せずに設計された老朽化原発の解体作業が進められているが、安全を確保しながら、早期に解体することができるか、という難題に直面している。日本にも解体より開発優先に設計された70年代の原発が18基ある。これらの廃炉で出る解体物は低レベルの放射性廃棄物であり、これもまた行き場の確保が困難だ。

 

 そして廃炉が終われば、立地自治体で雇用を生む産業が消滅する。「原子炉解体後の経済をどうするか」は原発を持つ地域共通の課題だ。

   *    *    *

 脱原発は簡単には進まない道である。「廃炉を巡る困難」「最終処分場の建設を巡る住民と国家のあつれき」「再生可能エネルギーの弱点克服に向けた研究」など、独仏は日本と共通する問題を抱えている。

(篠田航一・毎日新聞記者)

(宮川裕章・毎日新聞記者)

篠田航一/1997年毎日新聞入社。2011年からベルリン特派員、15年から青森支局次長。

宮川裕章/97年毎日新聞入社。11年からパリ特派員、15年外信部、16年経済部。

共著に『独仏「原発」二つの選択』(筑摩選書)