
〔ワイドインタビュー問答有用〕
「この世界の片隅に」主演=のん・女優
お茶の間で親しまれた女優が、「スクリーン」に帰ってきた。能年玲奈から名を改めたのんさんが、声優として初めて主演を務めたアニメ映画「この世界の片隅に」で観客の心を揺さぶる。再始動作で、早くも新たな境地を開いた。
(聞き手=酒井雅浩・編集部)
「毎日続く当たり前の暮らしの大切さに気づいた」
── 声優で主演したアニメ映画「この世界の片隅に」は、太平洋戦争末期の広島・呉が舞台です。
のん 戦時下の話ではありますが、料理とか洗濯、夫婦げんかをしたりという普通の暮らしがとても楽しくて、幸せだなと感じる映画だと思います。
── 戦時下に「楽しい、幸せ」というイメージは湧きにくいのですが、どんなところでそう思える?
のん 物が不足しているので着物を作り直したり、野草をおかずにしたり、日々を暮らすために知恵を絞って、工夫して、自分たちの力で生きていく。家族との日常の中で、楽しさを見つけていくのが印象的でした。

「この世界の片隅に」は、こうの史代さんの原作漫画を、片渕須直監督がアニメ映画化した。広島で育ち、名前も顔も知らぬ相手に見初められ呉に嫁ぐ主人公・すずを演じた。
戦争が始まり、軍港の街・呉にも空襲が押し寄せる。1945年8月、広島に原爆が落ちる。戦争の悲惨さを叫ぶわけではなく、すずの日常から浮かび上がる戦争の理不尽さが、心に染み渡る。
11月12日の公開当初は全国63館と小規模だったが、じわじわと人気が広がり、劇場数は91館まで拡大。観客動員数は12月20日現在、53万人を超えた。

── どこも満席で、上映する映画館も広がっています。
のん 「すずさんと一緒に生きたような気がした」という感想を聞くことが多く、とてもうれしいです。日常が積み重なっていき、映画の中の世界を自分に引き付けて感じられると思います。素直にすずさんや風景を受け入れられるリアルさがあります。
だからこそ、つらいシーンでは直接的に恐怖を抱くというか。どんな事が起きても、それでも日々の生活は続くし、ごほんがおいしかったりまずかったりする。「毎日が必ず巡ってくる」という当たり前のことに気づいて、とても晴れやかな気持ちになる感覚があるのかなと思います。
── これまで抱いていた戦争や、戦時下の暮らしとどう違いましたか。
のん 自分のいる場所とはまったくの別世界だと思っていました。知りたくないという気持ちがあり、目を背けていたのですが、自分が住んでいるこの世界の中にすずさんたちの時間があって、それが続いていて、私たちの過ごす今がある。すずさんのような力強い人たちの後を継ぎ、これからも毎日をつなげていくのだと思いました。
── 毎日に楽しみを見いだして生活していた時代を演じて、自身の生活は変わりましたか。
のん 実を言うと料理、洗濯は嫌いだったんです。両親が共働きで、私は長女なので、小学生のころから、毎日ごはんの当番だったので料理が楽しいと感じる前に、義務になっていたところがあって。「やりたくない!」という意識が強かったです。
東京に出てきて一人暮らしを始め、解放されてうれしかった。ポテトチップスをごはん代わりに食べたり(笑)。
それが、すずさんを見て、自分も料理をするときに誇らしい気持ちになるようになりました。家事を楽しいという感情が自分の中で湧き上がってきて、すずさんと同じで、当たり前の暮らしにおもしろいことが転がっているということに気づきました。

能年からのんへ
親しみ込めたひらがな2文字は
能天気なハンドルネーム
2013年放送のNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」に出演。芸能活動で使う名前を本名の「能年玲奈」から「のん」に改名した直後の16年7月に出演が決まった「この世界の片隅に」は、再始動作でもある。
── 仕事ができずに、苦しい時期があったかと思いますが。
のん これまで忙しくて怠ってたことをやり直したり、習い事を始めたりしてましたね。
(続きは『週刊エコノミスト』2017年1月3日・10日合併号にて!)

発売日:2016年12月26日
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