グーグル 自動運転部門を分離 事業売却の布石か

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桃田健史(自動車評論家)

 

米グーグルの親会社アルファベットが12月上旬、自動運転の研究開発部門を独立させ、事業会社「ウェイモ」を設立した。2017年中にも、ドライバーがいなくても走行できる「完全自動運転車」の量産開始を目指す。実現すれば、自動運転の量産で世界初になる。

 

自動運転の車両には、欧州自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ製のミニバンを使い、米国でタクシー事業を始めることを検討しているという。

 

 ところが、「今回のウェイモ設立は、グーグルが自動運転の独自開発から事実上、撤退する布石」という見方が米国の報道では目立つ。自動運転プロジェクトにこれ以上の巨額な投資はせず、事業の売却を視野に入れているといった解釈だ。

 

 ◇会社と技術者の対立

 

 そもそもグーグルは、米国防高等研究計画局(DARPA)が行った無人カーレースに参加した大学研究者らを雇い、09年に自動運転の研究チームを立ち上げた。

 

 研究チームはこれまでにトヨタ自動車の「プリウス」や「レクサス」で実験し、開発を早めるため、実験車両を50台近くに増やしている。14年には、米フォード・モーターの自動車レース部門と関係が深い自動車開発企業と連携し、ハンドルやアクセルといった運転操作用の装置がない自動運転専用の2人乗り車両を開発。まずは100台程度を生産し、カリフォルニア州内で大規模な実証試験を行うという。

 

 開発の潮目が変わったのは、グーグルがアルファベットを親会社とする大規模な組織再編を行った15年夏だ。その際、プロジェクトの採算性が議論され、創業者の1人であるラリー・ペイジ氏の肝煎りでスタートした自動運転車とロボットがやり玉に挙がった。

 

 さらに自動運転の開発責任者には、ヒュンダイアメリカ社長など自動車産業での経営経験が豊富なジョン・クラフチック氏が就任した。クラフチック氏をはじめとして、採算性を重視する経営側が強引に早期の量産化を主張するのに対し、走行精度を高めてから量産したい技術開発陣との間で妥協点が見いだせなかったと見られている。

 

 グーグルの自動運転研究チームでは、この2~3年で技術者が相次ぎ辞めている。16年8月にはプロジェクトの最高技術責任者クリス・アームソン氏が退職した。

 

 今回のグーグルの動きに対して、日本や欧米の多くの大手自動車メーカーは胸をなで下ろしている。各社は自動運転について、安全と安心の観点から完全自動運転の早期量産化に否定的で、新規参入を警戒しているからだ。自動ブレーキや自動の車線変更など、すでに量産化している先進的な安全技術から徐々に開発を広げていく考えである。

 

 こうした慎重なメーカーと違い、今後の動向が注目されるのがフォードとスウェーデンのボルボ・カーズだ。両社は自動運転を早期実用化するため、16年4月からグーグルなどと団体を設立し、自動運転に関する規制緩和を求めるロビー活動を米国で進めていた。グーグルが自動運転事業を縮小すれば、両社の取り組みにも影響は必至だろう。

 

 また、自動運転車の開発で独BMWとの提携を解消した中国の検索大手「バイドゥ」をはじめ、自動運転の早期量産化を狙う中国のIT大手がウェイモを買収する可能性も十分に考えられる。

 

 グーグルは現在、本社のあるカリフォルニア州のほか、ワシントン州、テキサス州、アリゾナ州の4カ所で自動運転の公道実験を行っている。この実験でグーグルマップや人工知能など、アルファベットの技術を応用することで、安全で精度の高い完全自動運転の実現を目指すという姿勢はまだ堅持しているようだ。

(桃田健史・自動車評論家)

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・AIがカギ握る 学習して進化する人工知能

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