特集:世界経済総予測 2017年1月3・10日合併号

◇米国に吸い寄せられるマネー

◇警戒される「ブラックスワン」

 

中国の招商銀行が、12月中旬に売り出したドル建て年利2・37%の理財商品は60秒で完売──。

 

米大統領選後のドル高・人民元安を受けて、中国で人民元からの資本逃避が加速している。リアルな金融商品ばかりではない。仮想通貨のビットコインにまで殺到している。

 

11月の世界のビットコイン取引高は過去最高を更新した。それに貢献したのが、中国マネーだった。中国にはビットコインの大手取引所が三つあり、世界取引量の9割以上を占める。11月の取引高は、1億7471万ビットコイン(約16兆円)に達し、これまでの過去最高だった3月の1億4856万ビットコイン(約14兆円)を上回った。

 

人民元相場は12月に入って1ドル=6・9元台後半と、8年7カ月ぶりの安値をつけた。元安を加速させたのは、11月の米大統領選でのトランプ氏の勝利だ。同氏が公約に掲げた大型減税や巨額インフラ投資に期待が集まり、米国経済が活性化するとの思惑から、中国も含めた世界中のマネーが、米国株式市場に流れ込んでいるのである。

 

三井住友アセットマネジメントの渡辺英茂調査部長は「トランプ氏の勝利後、世界の資金フローは大きく変化した」と話す。図は、トランプ政権誕生が決定した直後の2016年11月10日~12月14日の、世界各国・地域の株式・債券ファンドの資金流出入額だ。米国の金融商品調査会社「EPFRグローバル」のデータを基に渡辺氏が分析した。

 

米国の株式市場には、1カ月余りで600億ドル(約7兆円)もの資金が流入。渡辺氏は「積極的な財政政策が取られるという期待が高まり、トランプ氏の掲げる『強いアメリカ』に資金が吸い寄せられているように見える」と指摘する。

 

金利上昇(債券価格下落)、インフレの高まり予想から、米国内で債券から株式への大資金移動が起きる一方で、ドル金利上昇(ドル高・自国通貨安)を見越し世界中からマネーが米国に向かっているのである。投資家はこれまでの低成長・超低金利持続を前提とした運用スタンスの見直しを迫られた。

 

 日本でもファンド経由では流出となっているものの、東京市場では外国人投資家が、米国大統領選の結果が出た11月週2週目以降、5週連続(累計3兆円超)の大幅な買い越しに転じた。また、ファンド経由でも足元では流入超になっている。

 

 ◇理想語れぬ欧州政治家

 

 一方で中国のほか、マレーシアやインドネシアなどマネーが吸い取られた新興国は通貨安にあえぐ。

 

 急激な資金流出は通貨安、インフレを招き、実体経済をむしばむ。通貨安が止まらず、それが連鎖するような事態になれば、1990年代後半のアジア通貨危機の再来となりかねず、「ブラックスワン(めったに起こらないが、発生すると大きな悪影響が出る事象)」を警戒する声もある。

 

英国の欧州連合(EU)離脱や、ドイツ・フランスで相次ぐテロといった政治・社会問題を抱える欧州からは債券資金が大量に流出した。欧州中央銀行(ECB)による金融緩和は継続しているが、景気は上向かず手詰まり感が漂う。シリアなどからの移民難民問題も影を落とす。これらの問題に既存政党が解決策を示せず、大衆の不満が高まる中、17年の「選挙イヤー」を迎える。

 

仏大統領選(4~5月)で極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が有力候補となるなど、移民排斥や反グローバリズムを掲げる勢力が台頭している。大和総研ロンドンリサーチセンター長の菅野泰夫氏は「政治家はもはや理念や理想を語る余裕はない。移民問題や経済政策への不満を本音でぶちまけないと、支持を集められないからだ」と逼迫(ひっぱく)した現地の様子を語る。

 

16年は英国のEU離脱や米大統領選で、エスタブリッシュメント(既成勢力)を否定し、大衆の不満と不安を取り込むポピュリズムが台頭した。17年は各国で国民の分断と反逆の動きがさらに加速し、反グローバリズムが先鋭化するのだろうか。大きな分岐点にある。

(種市房子、荒木宏香・編集部)

「世界経済総予測2017」 特集全体の目次

Part1 超マクロ編

米国に吸い寄せられるマネー 警戒される「ブラックスワン」 ■種市 房子/荒木 宏香

インタビュー

楽観 ポール・シェアード S&Pグローバル チーフエコノミスト

スティーブン・ローチ 米エール大学シニアフェロー

資本主義の終焉 ■水野 和夫

グローバル化の果て ■小野塚 知二

アンケート 経営者・エコノミスト10人が挙げる2017年世界経済の注目テーマ

小山田 隆/片野坂 真哉/小林 栄三/進藤 孝生/筒井 義信/ イェスパー・コール/河野 龍太郎/白井 さゆり/根本 直子/浜 矩子

 

Part2 マネー編

マネーフロー トランプ・ショック ■長谷川 克之

ドル高の新興国通貨への波及 ■山田 雪乃

 相場予測

  米国株 馬渕 治好/欧州株 市川 雅浩/中国株 田代 尚機/ロシア株 デビッド・ヘルネ/原油 芥田 知至/金 亀井 幸一郎

 

Part3 米国編

金利高・ドル高の波紋 ■堀井 正孝

インタビュー ミレヤ・ソリス 米ブルッキングス研究所シニア・フェロー、日本部長

トランプ政策 ■秋山 勇

トランプ外交 ■手嶋 龍一

トランプのネットメディア戦略 ■前嶋 和弘

金融政策 トランプvsイエレン ■鈴木 敏之

ドル・円相場 18年に1ドル=125円 ■高島 修

インタビュー 渡部 陽一 戦場カメラマン

 

Part4 欧州編

EU離脱で英国分裂の危機 ■菅野 泰夫

EUは英国のいいとこ取り許さぬ ■金子 寿太郎

イタリアの不良債権 ■井上 哲也

インタビュー スティーン・ヤコブセン デンマーク・サクソバンク・チーフ・エコノミスト

ロシア「反EU、反移民」で高まる存在感 ■羽場 久美子

リベラルの罪 ■ブレイディ みかこ

 

Part5 中国、韓国、中東編

中国経済 成長維持か構造改革か ■湯浅 健司

中国政治 5年後トップ見据える共産党大会 ■稲垣 清

韓国 財閥と中小企業の絶望的な格差 ■高安 雄一

中東 欧米が生み出したIS ■内藤 正典

原油 追い込まれた減産合意 ■岩瀬 昇

トランプノミクスの新興国リスク ■編集部

インタビュー 白井 聡 京都精華大学専任講師

インタビュー 山折 哲雄 宗教学者

週刊エコノミスト2017年1月3・10日合併号

特別定価:720円(税込み)

 

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