2017年

1月

10日

経営者:編集長インタビュー 磯崎功典 キリンホールディングス社長

◇ビール通じて地域活性化の一助に

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── キリンと言えば日本で知らない人はいないビールのブランドです。

磯崎 当社はビールの製造販売からスタートしましたが、目指しているのは事業を通して世の中の社会課題を解決することです。

 

たとえば、今年、ビールの主力ブランド「一番搾り」では47都道府県ごとに、ラベルや風味を変えた商品を発売しました。ビールを通して、忘れかけた古里やゆかりの地を思い出してもらい、地域の活性化に役立てたいのです。全国9工場で、47の商品を製造しています。工程上、手間もかかります。しかし、「面倒くさい、嫌だ」と言っていては、成熟市場では生き残れません。かつては、全国一律の製法で同じ商品を提供することに価値がありました。しかし、今はお客様は商品に個性を求めています。

 

── 他の取り組みは?

磯崎 健康面での取り組みもやっています。プリン体や糖質をカットした発泡酒などを発売しています。また、グループには医薬・バイオ企業「協和発酵キリン」もあり、パーキンソン病や乾癬(かんせん)向けの薬も開発販売しています。

 

── 事業別のポートフォリオは。

磯崎 営業利益で見ると、飲料・ビール・ワインなどの国内事業、ビールが中心の海外事業、医薬・バイオの3分野でそれぞれ3分の1ずつです。

 

── 2016年から3カ年の中期経営計画の初年度です。手応えは。

磯崎 中計では三つの課題を指摘しました。(1)ビール事業の収益基盤強化、(2)国内飲料・ブラジル事業など低収益事業の再生・再編、(3)医薬・バイオケミカル事業の飛躍的成長です。まずビール事業に言及しているのは、当社の元々のDNAだからです。ビール事業が盤石でないと次の手も打てません。国内をはじめ、ブラジル、豪州、フィリピン、ミャンマーなどで展開しています。

 

── 国内のビール事業の現状は。

磯崎 国内ビール消費は1994年をピークに下がり続けており、成熟市場と言えます。どこに市場があるのか、どこに市場を創るか、を考えるのが重要です。14年からはクラフトビールにも力を入れており、製品販売や飲食店運営で市場を創っています。今年10月には米国・ニューヨーク州でクラフトビールを製造する「ブルックリン・ブルワリー」との資本業務提携も公表しました。

 

── クラフトビールの魅力は。

磯崎 これまでは日本人はビールと言えば、琥珀(こはく)色の苦いタイプばかりでした。このため、若者は「ビールは苦い」と言って離れていきました。しかし、クラフトビールは製法上、ラズベリーやチョコレートなど今までなかった風味を付けることも可能です。私もキリン醸造のパクチー風味クラフトビールを飲みました。話題の素材・パクチーの風味が濃く、お勧めです。若い人は、多少高くても、こうした個性あるビールを飲んでくれます。日本では、クラフトビール消費量は、ビール類全体の1%しか占めませんがいずれは3~5%に持っていきたいです。

 

 ◇ブラジル事業は急回復

 

── 海外ビール事業では、ブラジルキリン社が不振で、15年の最終赤字の元凶となりました。

磯崎 ブラジル事業は急速な勢いで回復しています。私が15年3月に社長に就任して最初に訪問した国がブラジルです。当時のCEO(最高経営責任者)と話して「何も市場を分かっていない」と感じ、後任を外部から招きました。現CEOは市場を熟知しています。製品ラインアップは大きく変えていませんが、売り上げが伸びました。CEOが、お客様を見て何をすればいいのかを考えるという当たり前のことを、非凡なレベルで実行したからです。

 

── 国内飲料会社「キリンビバレッジ」の状況は。

磯崎 国内飲料は過当競争で、過去には営業利益率1・5%(15年実績)と厳しい状況でした。しかし、生茶のリニューアルなどが奏功して今年は5%近いところまで行きそうです。しかし、海外の飲料メーカーは10%です。5%に満足せず、さらに収益性を上げていきたいです。ただ、その目標を達成するには自社の努力だけでは困難です。他社との提携などでコストシナジーを発揮せねばなりません。コカコーラと提携も協議しており、もう一段高い収益性を目指します。

 

── 世界市場では、首位のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)が、2位のSABミラー(英国)を買収し大きな変革が起きています。海外戦略は。

磯崎 豪州は日本同様、成熟市場なのでクラフトビールの割合を増やしていきます。ミャンマーやフィリピンでは、市場の主流となっている、標準的な価格で消費も多い商品の魅力を訴えつつ、高付加価値路線のプレミアム商品も投入していきたいです。

 

── 経営で気を付けていることは。

磯崎 若手社員がおっかなびっくりになっています。何をするにもリスクはつきものです。失敗したら怒るのではなく「もういっぺんやってみろ」と言えるのがリーダーです。今年、社長直轄の事業創造部を創設しました。キリンらしくない、未来を変える事業アイデアを考えるのが仕事です。部長は、かつて缶チューハイ「氷結」の開発にもかかわった45歳の女性で、グループでも若手の部門長です。成果は楽しみですが、私が干渉してはダメで、遠くから見守ります。

(構成=種市房子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代のころはどんなビジネスマンでしたか

A 米国留学をしました。言葉が通じず苦しいこともありましたが、見るもの、聞くもの全てが新しく、行ってよかったです。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン)。

 

Q 休日の過ごし方

A 出身地の神奈川県小田原市にミカン畑を所有しており、毎週とは言えないまでも、せん定や草取りをしています。今年も40本から2トンを収穫しました。

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 ■人物略歴

 ◇いそざき・よしのり

 神奈川県出身。小田原高校、慶応義塾大経済学部卒業。1977年キリンビール入社。キリンホテル開発、フィリピン・サンミゲル社出向などを経て2008年経営企画部長、10年常務取締役、12年、キリンビール社長。15年3月から現職。63歳。

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事業内容:飲料、食料、医薬品

本社所在地:東京都中野区

設立:1907(明治40)年2月 ※2007年7月に持ち株会社化に伴い商号変更

資本金:1020億円

従業員数:3万9888人

業績(15年12月期:連結)

 売上高:2兆1969億円

 営業利益:1247億円