民生技術で月と火星を再探査

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杉山勝彦・武蔵情報開発代表

 

国際宇宙ステーション(ISS)の運用終了が2024年に設定されるなか、各国の宇宙機関だけでなく、民間企業も独自の次世代ロケット、宇宙船の開発にしのぎを削っている。共通のテーマは、打ち上げロケットの回収・再利用だ。

 

 先行しているのは、資金力のある実業家の主導で実績を重ねる米国だ。アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)が設立したブルー・オリジンは16年6月、推力可変エンジンとエアブレーキ技術を使い、単段式ロケット「ニューシェパード」の4回目の打ち上げと垂直着陸に成功した。

 

また、電気自動車(EV)大手の米テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEOが率いるスペースXも4月に「ファルコン9」ロケットの垂直着陸とISS無人補給船「ドラゴン」の回収に成功している。

 

 IT(情報技術)系大物実業家は、宇宙旅行の実現や数千個の小型衛星による情報ネットワークの構築などを目指しており、こうした起業家の参加により、宇宙開発のターゲットや目的も大きく変わっている。

 

 日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、新型固体燃料ロケット「イプシロン」の改良と、「H2A」ロケットの後継機「H3」の開発を進める。その一方で、ISSに物資を運ぶ無人補給機「こうのとり」の有人宇宙船化を視野に入れ、生命科学実験に使う生体試料の運搬と、回収機能を付与する技術に取り組む。与圧部を耐熱カプセル化して回収するなどが考えられる。

 

 ◇探査から利用へ

 

 目下の関心事は、月と火星への再アプローチだ。月を巡る謎は、07年の月探査衛星「かぐや」の詳細な観測データなどにより、ほぼ解明され、従来の「探査技術」から「利用技術」にシフトしている。その先には火星の探査と利用が視野にある。

 

 米航空宇宙局(NASA)は、新型の「オライオン宇宙船」(乗員4人)と、新型大型ロケット「SLS」を使って21年に月の裏側を飛行する計画だ。成功すれば、1972年のアポロ17号から約半世紀ぶりの有人飛行になる。さらに、後継機では、小惑星を捕獲して、月の周回軌道に固定し基地化することも考えている。

 

 スペースXは、メタンと酸素、太陽電池を推進力とするロケットを開発し、火星にコロニー(入植地)を建設すると発表した。なんと火星までの乗船料は、1人当たり20万ドル(約2340万円)と料金まで決めている。

 

 JAXAは、小型月着陸実証機「SLIM」をイプシロンで打ち上げる計画だ。グーグルがスポンサーの月面無人探査コンテストに日本から参加するベンチャー企業のHAKUTO(東京都港区)もJAXAは支援している。

 

 JAXAはもともと、技術力に優れる中小企業を部品調達先として活用し、関連企業の育成に注力してきたが、近年は中小企業や大学が製作した超小型衛星の相乗り打ち上げなどを契機に宇宙関連事業を目指す企業の輪が広がってきた。

 

 ベンチャー企業のアクセルスペース(東京都千代田区)は22年までに50基もの超小型衛星を打ち上げる計画。また、PDエアロスペース(名古屋市)は、ジェットエンジンとロケットエンジンを切り替えられる次世代エンジンを開発中だ。

 

 宇宙開発技術は、技術の中でも突出する超ハイテク技術で、スピンオフ(応用)技術も数多いが、逆に、近年は、こなれた民生技術を宇宙分野に転用する流れが主流になってきている。

(杉山勝彦・武蔵情報開発代表)