病根は国鉄分割民営化 JR北海道の経営危機

記者会見する島田修社長
記者会見する島田修社長

梅原淳(鉄道ジャーナリスト)

 

北海道の深川市から留萌(るもい)市を経て増毛(ましけ)町に至るJR北海道留萌線のうち、留萌と増毛との間、16・7キロメートルが2016年12月4日限りで営業を廃止した。年間1億6000万円以上の営業損失に耐えかねて同社が下した決断である。

 

 留萌線の一部区間の廃止は、JR北海道がこれから迎える激動期の始まりに過ぎない。

 

同社の島田修社長は16年11月18日、自力では鉄道の維持が困難な線区、つまり同社が経営の分離を希望する不採算線区を多数発表したからだ。その数は10路線13区間で合わせて1237・2キロメートルで、同社が営業を展開する14路線、2568・7キロメートルのほぼ半数に相当する。

島田社長は対象となった線区の今後について、北海道や沿線の自治体、地域の交通事業者などをはじめ、国や関係機関とも協議して決めたいとの意向を述べた。維持の可否についての判断を他者に委ね、広く支援を引き出す狙いがうかがえる。

 

 今回の発表が与えた衝撃は大きく、対象線区の沿線はもとより北海道全体に広がった。仮にJR北海道がリストアップした線区が全て廃止となった場合、北海道北部や東部の大多数から鉄道が姿を消すからだ。

 

 16年3月期の決算書からもJR北海道の窮状ぶりは理解できる。鉄道事業での営業損失は483億円に達し、22億円の経常損失を計上したからだ。17年3月期決算は更に悪化すると見込まれ、営業損失は533億円へ、経常損失は235億円へと膨らむという。16年8月に次々に北海道を襲った台風の被害によって減収となったうえ、多額の復旧費も見込まれるため、当初は50億円と発表された当期純損失は120億円に拡大した。

JR函館線の貨物列車脱線事故(2013年)
JR函館線の貨物列車脱線事故(2013年)

◇国は救済せず

 

 JR北海道の経営難が一般に知られるところとなったのは13年の秋。函館線を走る貨物列車が線路の整備不良によって脱線した事故を契機に、同社は安全よりもコストの削減を重視せざるを得ない状況にまで経営が悪化していることが露呈したのだ。

 

 国土交通省の指導に基づき、JR北海道は第三者機関としてJR北海道再生推進会議(議長は日本郵船の宮原耕治元会長、現相談役)を設置し、またJR東日本から人的支援を仰ぎ、収益性の高い事業の選択と集中を旨とする経営再建計画に乗り出す。今回の維持困難線区の発表も同社の再建過程の一環であろう。

 

JR北海道の経営難はここ近年の出来事と捉えられる。しかし、その発端は旧国鉄の分割・民営化が検討された1980年代初頭までさかのぼることが可能だ。

 

 沿線に人口の少ない北海道での鉄道事業は難しく、当時、民営化後も毎年多額の営業損失が発生すると見込まれた。民営化に賛同していた旧国鉄の仁杉巌総裁も分割に反対したほどだ。しかし、旧国鉄の労働組合問題に頭を悩ませていた政府・与党は、労働組合の弱体化にも効果的と分割を決め、仁杉総裁は85年6月に更迭されてしまう。

 

 87年4月に発足したJR北海道を支援するため、同時期に始動した国鉄清算事業団(日本国有鉄道清算事業団)が6822億円にのぼる経営安定基金を用意した。毎年の営業損失はこの基金の運用益で埋め合わせるという趣旨のもと、国はJR北海道が旧国鉄時代と同様に鉄道事業を続けることを期待したのだ。

 

 ところが、経営安定基金の運用益による経営方針は90年代後半に行き詰まりを見せる。同基金は、営業収益のおおむね1%ほどの経常利益が生じるよう、当時の長期国債の平均年利を参考に、年間7・3%の利回りを想定して設計された。だが、バブルの崩壊によって長期国債の金利は下落、運用益の利回りも97年度以降引き下げられ、現在は3・73%にまで低下してしまったからである。

 

 JR北海道は、国に対して支援を要請したものの、国にも余裕はなかった。約25兆5000億円に上る旧国鉄の長期債務の処理に失敗した国鉄清算事業団は、逆に長期債務を約28兆3000億円に増やし、98年に実質的に破綻している。国はその後処理に追われ、同社の救済どころではなかったのだ。

 

 結局、JR北海道が選択した道は営業費用の削減である。

 

設立初年度の87年度に1万2719人だった社員数は、16年度初頭には7065人と徹底的な合理化が進められていく。13年度のJR北海道の線路1キロメートル当たりの営業費用は4万6000円で、JR東日本、JR東海、JR西日本の3社平均の21万5000円と比べると5分の1ほどだ。だからこそ設立初年度の87年度に計上された538億円の営業損失を15年度には55億円も減らすことに成功したのであり、更なる営業費用の削減はまず不可能と言える。

 

留萌線の最終運行日(2016年12月4日)
留萌線の最終運行日(2016年12月4日)

◇自力では再建困難

 

 JR北海道は営業収益の増加に努めるべきとの意見は一部に根強い。だが、同社の一存ではどうにもならない点ばかりだ。

 

 過疎が進み、旅客数が減るなかで営業収益を引き上げるには運賃の値上げが有効である。しかし、JR旅客会社の運賃は国による認可制のうえ、申請可能な運賃の上限は、97年から導入された鉄道事業に関するコストを他のJR旅客会社と比較して算定するヤードスティック方式によって、JR旅客会社6社間で営業コストを比較した結果に基づいて抑えられてしまう。

 

このため、JR北海道の運賃は消費税関連を除いて1度しか改定されておらず、改定率は7%と、87年から14年までの消費者物価指数の上昇率12%を下回った。

 

 貨物列車を運行するJR貨物に線路を貸し出して得ている線路使用料も、JR北海道にとって重要な収益源だ。しかし、JR貨物も経営が苦しく、国は貨物列車が走行時に発生する費用のみをJR北海道に支払えばよいと定めたため、線路使用料は低く抑えられている。13年度にJR貨物から得た線路1キロメートル当たりの線路使用料は、熊本・鹿児島両県にまたがる同じく経営難の肥薩おれんじ鉄道は513万円であった一方、JR北海道は103万円に過ぎない。

 

 今後、JR北海道が発表した線区を自力で維持するか維持しないかにかかわらず、同社には何らかの支援策が必要となる。

 

北海道や沿線の自治体が同社の線路を所有する上下分離策を求める案が出されているが、現実的ではない。鉄道事業におけるJR北海道の15年度の営業費用は1251億円に達しており、仮に半額の625億円としても、財政難の道や関係自治体が負担することは困難だろう。また、道や関係自治体は、同社が収めるべき固定資産税など、会計検査院の推定で年額28億円の地方税の軽減措置を既に実施済みであり、更なる負担増は容易ではない。

 

 JR北海道に対する現時点で最も現実的な対策は、やはり運賃の値上げだ。

 

年利3・73%の経営安定基金の運用益を前提として、13年度の統計値を用いて営業収支を均衡させようとすると、現行の運賃を1・22倍に引き上げ、年間147億円の増収を図る必要がある。値上げが旅客離れにつながるというのなら、値上げした分だけを道や関係自治体が負担すればよい。これが難しければ、通学定期運賃分の5億円は全額負担するなど、折衝のうえ決定する方策もある。

 

いずれにせよ、このままの状態ではJR北海道に残された時間は少ない。既に同社には多種多様な支援策が講じられているものの、特に国にはJR北海道に対する一層の支援が求められる。

(梅原淳・鉄道ジャーナリスト)