経営者:編集長インタビュー 来島達夫 JR西日本社長

◇「山陰・山陽の魅力を豪華列車で発信します」

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 2015年春に北陸新幹線が金沢まで開業しました。人の流れはどう変わりましたか。

来島 初年度は東京からのお客様が予想の2倍を超え、3倍に増えました。北陸が注目され、関西から北陸への特急利用客も増えています。

 今は北陸新幹線の上越妙高から金沢までが当社の運行ですが、敦賀、そして大阪まで延伸される予定です。新幹線は保有する鉄道建設・運輸施設整備支援機構に貸付料を30年間にわたって収入から返済していくスキームで、営業努力により利用が想定を上回った分は当社の収益になります。北陸と関西、さらに山陰、山陽との交流を促進していきます。東京と大阪がつながれば東海道新幹線の代替軸にもなります。

 

── 今年6月17日には豪華寝台列車「瑞風(みずかぜ)」が走り出します。

来島 鉄道の旅の魅力を訴えるために打ち出しました。基本は1泊2日で京都・大阪と下関の間を山陰経由あるいは山陽経由で片道運行します。料金はロイヤルツインで1人当たり27万円です。2泊3日で一周するコースもあります。

 山陰、山陽の自然や歴史、食材を味わっていただきたい。立ち寄りの観光地では新たに見どころを発掘してもらっています。沿線の工芸品を車内の随所に取り入れています。沿線の魅力を発信し、瑞風以外でも訪れる機会につなげていきます。

 

── 一生に一度は乗ってみたい。

来島 より気軽に長距離の列車の旅を楽しみたいというニーズに応えるための検討も始めています。

 

── 海外展開は。

来島 国内で打つべき手はまだありますが、私たちの経験を海外で生かす道も模索してきました。15年12月にブラジルの都市鉄道事業に、出資の形で参画しました。技術協力の要素を含んでいます。ブラジルはバスとマイカーが中心で、公共交通としての鉄道は需要があります。まずはブラジルですが、今後、各国の事情を見ながら考えていきます。

 

 ◇安全を根幹に

 

── 社長就任まで4年間、福知山線列車事故ご被害者対応本部長を務めました。その経験をどう生かしますか。

来島 安全性向上は経営の根幹だと認識しています。ご遺族の方々、けがをされた方々の思いに向き合い、私自身が取り組まねばという覚悟です。乗客死傷事故ゼロを基本に据え、昨今はホームや踏切の事故を減らす指標を掲げて取り組んでいます。

 

── 事故から10年以上たつなかで、風化を防ぐ手立ては。

来島 事故後に入社した社員が1万人を超えました。事故の悲惨さを語り継ぐことはもとより、教育訓練によって技能を向上させることを意識しています。研修センター内には事故について学ぶ鉄道安全考動館があります。全社員、グループ会社も含めて事故の教訓を共有しています。

 

── 18年3月までの5年間の中期経営計画は、2年目で収益目標を達成し、計画を上方修正しました。

来島 国内需要増のほか、インバウンド(外国人旅行客)の伸びが大きく、鉄道業を中心に収益が伸びました。財務指標のみならず、安全面や事業創造の目標達成に向けて、着実に進めていきます。

 

── 次の経営計画の方向性は。

来島 当社は発足から30年がたちます。この先の30年を意識して、グループ全体が向かえるような、ありたい姿を明確にしたうえで、一定の期間の数値目標や事業戦略として組み立てたい。人口減や高齢化、過疎化がいっそう進み、厳しい環境ではありますが、成長の可能性は持っていると思っています。

 

── 鉄道とは別の事業も拡大しています。

来島 収益基盤を持続的に確たるものとする必要があります。流通、不動産を中心とした生活関連のサービス事業を重視するとともに新たな事業開拓にもチャレンジしています。

 流通では、駅ナカやホーム上の店舗をセブン─イレブンに転換し、売り上げは1・5倍近く伸びました。不動産ではエリア外にも展開して収益を底上げするため、関東で物件を持つ三菱重工業の不動産子会社に70%出資することを決めました。ホテル事業では、既存のホテルブランドとは別に、ハイクラスの宿泊特化型ホテルを大阪・梅田に建設中です。

 16年3月期の連結売り上げは鉄道業とそれ以外の比率が64対36でした。22年度には6対4まで鉄道業以外の比率を高めたいと考えています。

 

── 16年12月にベンチャーキャピタルを立ち上げました。狙いは。

来島 出資そのものが目的ではありません。技術進化が激しくなるなかで、当社の事業に生かせる技術やノウハウを開拓できればと考えています。スピーディーに動いて成果を共有するため新会社を設立しました。

 

── 鉄道以外の比重が増すなか、グループの全体像をどう描きますか。

来島 鉄道を軸にすることは変わりません。流通や不動産、ホテル事業は鉄道と親和性があります。鉄道をコアに連携する業態の集合体です。

 西日本に住む企業グループとして、地域と一緒に生きていきます。当社だけがもうかればいいというものではありません。地域があって、当社があります。西日本エリアが活性化するために、瑞風はじめ当社がお役に立てることがあると思っています。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A JR発足とともに30代がスタートしました。人事部勤労課の副長の立場で労働組合との窓口を3年間務めました。労使関係のルールがないなか試行錯誤でトラブルもありましたが、経験として大きかったと思います。

Q 「私を変えた本」は

A 城山三郎さんの『少しだけ、無理をして生きる』です。自然体では自分の力が伸びない。少しストレッチした目標のもとで常に自分を高めていくという趣旨の章が好きです。

Q 休日の過ごし方

A 最近はジョギングで汗を流しています。

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 ■人物略歴

 ◇きじま・たつお

 山口県出身。下関西高校、九州大学法学部卒、1978年国鉄入社。JR西日本広報室長、人事部長等を経て、2016年6月より現職。62歳。

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事業内容:運輸、流通、不動産業

本社所在地:大阪市北区

設立:1987年4月

資本金:1000億円

従業員数:4万7456人(連結)

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:1兆4513億円

 営業利益:1815億円