2017年

2月

07日

泉田裕彦 前新潟県知事インタビュー「国民負担の説明は不十分 まず原子力防災対策急げ」

福島事故後の検証・総括なしに柏崎刈羽原発再稼働の議論はできないと主張してきた前新潟県知事の泉田裕彦氏に、東京電力、経済産業省の問題を聞いた。

(聞き手=後藤逸郎/松本惇・編集部)

 

── 福島の事故処理費用が増え、国民負担が増える話をどう見ているか。

■原子力が安いなら、原発を動かした場合、国民負担は消えるはずだ。そこをまず説明する必要がある。原発を動かしても国民負担が増えるなら、原発は高いことになると思う。本来負担するべきは誰だったのかという議論なしに(試算を)言われても、どうだと言いがたい。東電は改革のリポートをまとめたが、十分に説明し切れているだろうか。情が伝わってこない感じはする。

 

 ◇省庁の「領土問題」

 

── 賠償費用を託送料に上乗せする。税金の形にしたくないのでは。

■そうではない。経済産業省と財務省の「領土問題」が原因だ。国民の一般の税は財務省管轄。今回は経産省の不始末だから経産省、というやり方しかできない。本当はオールジャパンで考えるべきだろう。

 

── 事故処理は国民負担の問題のほか、どのような観点で進めるべきか。

■原子力防災をどうするかがあると思う。原子力事業者がばらばらで持つべきかという問いがある。福島の事故は東京電力だったので、官邸の近くに本社があり、テレビ会議でつながっていた。電源は東北電力のものが来ていた。他の電力で統合本部は作れるのかどうか。スウェーデンは、原発構内に本社を持つ。東電の事故でも(建設費が)1基5000億円だから本社が介入する。最終責任を持つ人が放射能を被るリスクを負うのが望ましいと思う。

 事故のノウハウが他の原子力事業者につながっているかも疑問だ。事故現場に近い事業者は原子力防災や避難の問題をよく知っているが、遠い事業者はわかっていない。原子力防災のノウハウを蓄積するうえで、再編の選択肢はあり得る。原発構内に本社を持つこととノウハウを共有する話は相反するが、この両面を考えて検討していくべきだと思う。

 

── 経産省の改革は再稼働ありきで、コスト、安全面の視点が欠けていないか。

■経産省の中でも2派ある。福島の復興に携わり、「今のままではだめだ」という勢力と、「うるさい知事がいたら首を取って(原発を)動かしてしまえ」という勢力だ。強権的な方向に向かえば人類にとってもマイナスになる。これだけの大事故が起きたのだから、後世に生かさないといけない。

 

── 東電を生かす形で事故処理が進んでいる。

■原子力部門を切り離す可能性もあるだろう。原子力事業の再編はやるべきだと思う。少なくとも切り離しは国主導でできる。

 

── 東電は法的整理するべきだったか。

■それも選択肢の一つだ。日本航空(JAL)は経営再建をするうえで、OBの年金減額まで行った。金融機関も負担した。原子力事業も同じだと思う。融資リスクをきちんと機能させることで、安全面にプラスの効果が出てくるのは間違いない。

 

── 東電の体質の問題は。

■東電はお金が絡むと判断が鈍る。(福島の汚染水対策で)はじめは、凍土壁でなく粘土でしっかり埋めようという計画だったが、債務超過になって株主総会を通らないので発表をやめた。それが2年遅れた揚げ句に凍土壁になって、もう止まらないという状況になっている。

 

── 福島と同様に、女川原発(宮城県)が津波を受けても無事だったのは、建設時に東北電力の幹部が地面を高くさせたからだという。

■逆に東電は、なぜ低くしたのか。(地面を高くすることで)一時循環水をポンプアップ(引き上げること)すると、電気料金がかかるという理由だ。歴史的に見ても、太平洋はプレート型地震で津波が来る。安全性の軽視だ。

 

 ◇再稼働に特定の結論なし

 

── これまでに再稼働の話は早いとしていたが、条件が整えば再稼働も反対ではなかったのか。

■条件があるわけではなくて、原子力防災をどうするのか、安全をどう確保するのか、国民や住民の理解が得られるのかという多元方程式になっていると思う。安定供給、コスト、価格、電気料金の問題もあるので、これとこれがあれば結論はこうだという簡単なものではない。誰がどう助けるのか、規制基準の見直しはどうするかなど、まず、わかっている問題に向き合えということだ。

 エネルギー供給計画は、コスト、安定供給、世界情勢、カントリーリスクを含めて判断するものだ。私自身、経産省では石炭部、石油部で2度、エネルギー基本計画の策定に携わった。産業、運用部門でどれだけエネルギーがいるか、計画を立てて見直す。極めて専門的な議論をしている。原子力も例外ではない。

 

── 再稼働の結論が先にあったことはないか。

■特定の結論を持っていたことはない。本心として違う。

 

── 責任を取っていない東電が運営して再稼働することが問題か。

■それは昨年10月の知事選挙で県民の意見が示された。

 

── 安全も確保された状況が整えばいいのか。

■メカニズムの安全だけではない。うそをつかない組織かどうか。人は神様でないから、事故はゼロにならない。その時でも住民の生命、安全、財産を守れるかということを含めて制度設計した上で、(議論の)テーブルに載せることが必要だ。

 

── 議論はできる状況だったか。

■県民の理解を得るのは極めて至難な状況だと思う。事実として原子力発電所は存在している。メンテナンスは続けなければならないし、使用済み核燃料の処分もやらなければならない。誰がやるのかという時に、トラブル隠しをするなど、社内の都合の悪い話はいまだに言えない。

(2011年)3月11日の夜半にはメルトダウン(炉心溶融)が起きている。認識は早い段階で、専門家も認めている。だが、幹部が説明に来た時、メルトダウンしていないと言って帰った。その後、謝罪があって、「情報収集が十分できなくて伝えられなかった」という文章が出ている。

 

── 議論に向かう前の段階ということか。

■本当のことを言えないなら(再稼働の議論は)難しいのではないか。言える人を社長に据えるくらいのことをしないと。

 

── 懸念されてきた安全面についての問題は。

■致命的なのは、線量が上がった時、屋外退避から避難命令に変わるのだが、その時の基準は毎時500マイクロシー ベルトになっており、2時間で1ミリシー ベルトになることだ。1ミリシー ベルトは一般人の年間被ばく量に当たる。

 新潟では44万人が屋外退避の対象になるが、2時間でどう避難させるのか。試算すると1万4000台くらいバスを用意しなければいけない。サービス基準が国交省で定められていて、通常運行しているバスを勝手に運休させていいのか、定時運行しているバスを他から回してよいのかなどの問題が生じる。

 

── 後任の知事の課題は。

■問題は、米山隆一新知事は、柏崎刈羽の火災事故などを指揮した経験がないことだ。地震が起きた時の県の業務や、福島に支援する時の迫られる決断などを経験していない。

 

 ◇知事選出馬撤回の理由

 

── 改めて、知事選出馬を撤回した経緯は。

■撤回した理由の9割は『新潟日報』の虚報だ。(中古フェリーの購入をめぐる県の不手際について)新潟日報が書いているのはうそだから、自分たちの主張を通したいのなら、紙面上で議論しようと言ったのに、我々は正しいと言って議論を避けた。

 報道や取材でいろいろな人に迷惑がかかった。真実しか言っていないのに、職員が新聞を見るのがつらくなったこともあった。職員は議会で説明するために夜遅くまで答弁を書く。翌日、新聞で「県当局、虚偽答弁か」と書く。真実が伝わらず、よくわからない中で説明を求められてまた迷惑をかける。私が身を引き、別の人が新潟の未来を議論した方がよいと考えた。民意がはっきりして政府に対する交渉力が増すと思った。

 

── 新潟日報は原発に厳しかったが、なぜ攻撃されたのか。

■証拠がなく、可能性としてでしか言えないが、(東電が)広告を5回出したと聞いた。(最終)利益7億円の会社で(影響力は)すごいかもしれない。新潟日報は広告費がいくら出たかは明らかにするべきだと思う。

(泉田裕彦・前新潟県知事)

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 ■人物略歴

 ◇いずみだ・ひろひこ

 1962年、新潟県加茂市生まれ。京都大卒。87年に通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁石油部精製課長補佐、国土交通省貨物流通システム高度化推進調整官などを歴任し、2004年の新潟県知事選に初当選。16年10月に退任するまで3期12年務めた。

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