経営者:編集長インタビュー 大前孝太郎 城北信用金庫理事長

◇地域創生とコミュニケーションのプロ目指す

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 城北信金はどのような金融機関ですか。

大前 若い人にチャンスがある、仕事をさせる会社です。進取の気性に富み、自分で進んで仕事をしたい人には、私が直接判断し、どんどん挑戦してもらっています。

 

── 金融業界についてどのような見方ですか。

大前 私は20年来、国内に銀行が多すぎると考える「オーバーバンキング」論者です。そのため、従来の銀行業務だけでは先行きは厳しく、金融以外のサービスを作り上げ、金融と非金融の2本柱で進んでいかないといけないと考えています。

 

── 例えば、どのような取り組みですか。

大前 一つが、昨年7月に創設した「Johoku Athlete Club」です。オリンピックを目指す7人の女子アスリートとマネジャー2人の計9人を職員として採用しています。顧客の中には、スポーツに非常に関心のある経営者や、一般でもシンパシーを感じてくれる顧客がおり、「ぜひ取引をしたい」と言ってくださいます。金利を引き下げなくても、お付き合いできる状態をなるべく作りたいと思います。

 

── なぜ、スポーツなのですか。

大前 スポーツは、経済・社会・教育的にも非常に重要な分野であり、コンテンツであると考えています。実は北区赤羽は日本オリンピック委員会の強化施設があるアマチュアスポーツのメッカです。女子バレーのスター選手が毎晩食事に来るなど、地域との接点があります。私は文部科学省に対して、アスリートのセカンドキャリアをどうするのか、企業も応分の支援をすべきだと提案していました。そこで、率先して採用したのが、クラブの始まりです。

 

── アスリート職員は、どのような仕事をしているのですか。

大前 銀行業務をしてもらうわけではありません。彼女たちには背負ってきた人生があるし、普通の人には得難い経験をしています。そこで、例えば小学校の総合学習の時間に子供たちに実技を教えたりしています。これはある種のタレント育成、プロダクション業務です。私にとって大事なのは金融そのものではなく、その機能を活用して地域を活性化することです。コンテンツは地域に資するものなら、何でも良いと考えます。

 

── 信用金庫の顧客をどのように取り込むのですか。

大前 2015年4月にポータルサイト「NACORD(ナコード)」を立ち上げました。サイバーエージェントと連携したクラウドファンディング(インターネットを活用した資金調達)機能や、マーケティング支援機能があります。中小企業のプロモーションは誰がやるのか、という問題意識からスタートしました。中小企業はものづくりは得意ですが、売るのは得手ではありません。そこで、一番身近な我々が、広告代理店的なノウハウを積んで、BtoC(企業対個人)向け商品であれば、顧客に届くような仕組みを作りました。

 

 ◇地元企業をプロデュース

 

── 具体的には、どのようなものですか。

大前 「NACORD」の特徴は、資金調達だけでなく、商品購入の場でもあることです。

 例えば、新しいレストランを開業する時に、当金庫のライターが経営者に取材し、美しい写真を撮影して、ポータルサイト上でプロデュースする。そこで、ディナー券などを販売します。台東区根岸にある老舗の洋食屋さんでは、レトルトパックのハヤシライスやローストビーフを販売し、2日間で250万円の売り上げがありました。サービスの利用は無償です。草履やげたを製造する会社なども含め、今、30社くらいが利用しています。

 

── 内閣府の官僚を経験するなど、自身の経歴もユニークです。

大前 内閣府時代に福井県鯖江市で、地元眼鏡フレーム産業の振興を手掛けました。日本の眼鏡フレームの大半は鯖江で製造し、産業集積度では他の自治体に比べて恵まれています。

 しかし、シャネル、ルイ・ヴィトンなどの欧米ブランドのOEM(受託生産)中心でやってきたので、自身のブランド力はありません。そうした中、中国企業の台頭で、どんどんOEMの仕事を奪われていきました。そこで、私は事業をいろいろと仕掛けました。

 代表例で言えば、若者向けのブランドに鯖江でファッション眼鏡を作ってもらい、ファッションショー「東京ガールズコレクション」で、鯖江製であることを公表して、ショーを行いました。モデルが身につけている眼鏡を売るのですが、1日で5000個が完売しました。まさにこの時の経験が、「NACORD」などのビジネスプロモーションの仕事につながっています。

 

── 信用金庫の常識を変えたいと。

大前 いろんな形でコミュニケーションを展開していきますが、「信用金庫」にはこだわりたいと思います。信用金庫は、地域に密着し、エンドユーザーに深く関われるコミュニケーションのプロです。最近は、北区の区長から、観光協会の立ち上げを依頼されています。12年から荒川河川敷の花火大会の実行委員長をやっていますし、今後は、都内で一番大きな音楽フェスティバルを仕掛けようかとも思っています。皆さんがよく知っているアーティストを呼ぶかもしれません。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 小渕政権時代に内閣官房で、金融危機対応に追われていました。どっぷり、政策の中につかり、エキサイティングでした。

 

Q 「私を変えた本」は

A 中学の時に読んだ山崎正和さんの『藝術・変身・遊戯』が、私の何かを変えました。芸術の何たるか、という話が新鮮でした。

 

Q 休日の過ごし方

A 音楽が好きなので楽曲制作をしています。エレキギターを弾きながらフュージョン系の作品です。

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 ■人物略歴

 ◇おおまえ・こうたろう

 東京都出身。東京都開成高校、慶応義塾大学卒業。1987年住友銀行(現三井住友銀行)入行。98年内閣官房特別調査員、2001年内閣府参事官補佐、09年城北信用金庫常務理事を経て、15年6月より現職。52歳。

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事業内容:金融業

本部所在地:東京都北区

設立:1921年5月

出資金:302億円(2016年3月期)

従業員数:1988人

業績(2016年3月期)

 経常収益:393億円

 業務純益:82億円