膨張続ける神宮外苑再開発利権 明治神宮と三井不がホテル計画

東京都が配布した「神宮外苑ホテル(仮称)」のイメージ図
東京都が配布した「神宮外苑ホテル(仮称)」のイメージ図

池上正樹・ジャーナリスト

 

小池百合子東京都知事の「東京大改革」にのっとって「豊洲」や「五輪施設」などの問題がメディアに注目される一方で、新国立競技場の周辺では、神宮外苑地区の再開発が水面下で着々と進んでいる。

 

 緑の森に囲まれた絵画館に向かって美しいイチョウ並木が続く明治神宮外苑。そんな景観保護のための風致地区や文教地区として、同地区では厳しい規制が敷かれてきた。

 

ところが、新国立競技場の建設に伴って「再開発等促進区」になったことで、次々に整備計画案が具体化。今回も、新たに都から地区計画の変更案が示され、新国立競技場北側のJR中央・総武線沿いにある旧神宮プール跡地の約8470平方メートルの敷地で、民間の宗教法人明治神宮と三井不動産によるホテル建設計画が明らかになり、「景観が一変するかもしれない」と神宮外苑の杜(もり)が揺れている。

 

 ◇住民説明会は紛糾

 

 都は五輪を理由に強引な再開発を進めているが、これまでは「スポーツクラスター」として運動施設や競技団体拠点を前面に出していた。だが、今回は現在あるフットサルコートを閉鎖し、観光施設を設ける形だ。

 

 このため、都が2016年12月1日、神宮外苑近くで開催した地区計画変更案の住民向け説明会では、「このままでは神宮外苑の景観や面影が守られない」「どんどん歯止めがなくなっちゃう」などと、神宮外苑全体の高層化の進行を心配する声が住民から相次いだ。

 

 都が同日公表した整備計画案の概要によると、高さ50メートル、地上13階建ての「神宮外苑ホテル(仮称)」を建設する。18年度の冬ごろ着工、19年度夏ごろの竣工を目指す。昨年11月に示された新宿区景観まちづくり審議会の資料によると、客室数は350~400室を予定。1階にはレストランを開設、外装は、聖徳記念絵画館などと調和するアースカラーを基調とするという。

 

 三井不動産は「来訪者がスポーツ施設の近くに宿泊し、来訪しやすくなることで、交流を深め、賑わいを創出するといった観点で、街づくりに寄与できると考えている」(広報部)とする。土地を所有する明治神宮も「利便性が高まり、賑わいを創出したい」(総務部)という方針にも見合うと応じた。三井不動産が明治神宮から土地を借りる形で定期借地契約を交わす。ただ、契約年数については「回答を控えたい」(三井不動産)としている。

 

 同地区では、旧都営霞ケ丘アパート敷地の隣接地で、地上16階建て、高さ72メートルの「日本青年館・日本スポーツ振興センター(JSC)本部棟(仮称)」をはじめ、地上14階建て、高さ約65メートルの「日本体育協会・日本オリンピック委員会(JOC)新会館(仮称)」、地上22階建て、高さ約80メートルの民間マンション「外苑ハウス」(約410戸)の建て替えなど、トリプルタワーの計画も進む。

 

 中でも、都営アパートに住む多くの高齢者が、長年住み慣れた我が家から立ち退きを迫られる一方で、道1本挟んだだけの外苑ハウスは、この区画整理事業によって、敷地に接する公道を拡幅するなどの手厚い対応で、容積率が大幅にアップ。従来の196戸から、戸数も2倍以上に増える高層マンションに生まれ変わることになった。公営住宅をなくして住民を追い立てる一方で、民間マンション建て替えに異例の配慮をする都の姿勢は不可解だ。

◇崩れた運動施設集積の建前

 

 こうしたことが積み重なり、神宮外苑近くの住民は説明会でも不信感を募らせた。

 

「今回、規制緩和される点は何か?また、根拠となる公共公益性については、どなたが判断したのか?」

「ホテルとスポーツクラスターは、どう関係があるのか?」

 住民は、本質的な質問を次々と投げかけた。

 これに対し、都は苦しい説明に追われた。

「地区計画の方針に沿ったものが提案されたと判断して、都としては手続きを進めている」

「ホテルを入れることで、もっと活力のある街をつくっていきたい」

 

 そもそも、都が両者から計画の提案を受けたのは、16年8月のこと。都と新宿区は、その前から協議を続けてきたという。

 

「新国立競技場の最初の英国の建築家、ザハ・ハディド氏の設計案は線路をまたぐ形だったのに、コンペの最中、真逆の都営霞ケ丘アパートのほうにしっぽがかかる形に変更された。ザハさんは当時、地権者から要望されたと答えている。ホテル計画をいつ知ったのか?」

 

 そんな質問に対し、都や区は「協議の記録をとっていないのでわからない」と繰り返した。

 

 今回の観光ホテルに限らず、神宮外苑再開発は全貌が伏せられたまま進められている。今後は神宮球場や秩父宮ラグビー場などのある地区でも、再開発のための準備が進んでいるとみられる。

 

 説明会では開発側の秘密主義にも批判が集中した。

 

「住民の側から見ると、国立競技場の建設も含め、全体が一体開発。都が細切れに都市計画案を出してくる。都は、神宮外苑地区に対して、全体的なビジョンを持っていないのか?」

 

 そんな住民の質問にも、都の担当者はこうはぐらかす。

「再開発等促進区は、段階的な街づくりを進める制度です。全体像は、民間の土地ですから、地区計画の目標や考え方を共有しながら民間開発を誘導している」

 

 同地区に80年以上住んでいるという男性は、こう訴える。

「青年館の宿泊施設は、全国の青年団の寄付でつくった。今度のホテルは商業施設。質問すれば“民有地ですから”と言う。なし崩し的に外苑の面影も風情も失われている。どこで歯止めをかけるのか?」

 

 これに対し、都の職員の回答が、

「緑の考え方につきましては、地区計画の目標にも掲げていますが、緑豊かな風格と活力を兼ね備えた魅力ある街を目指しています」

 と、まるで壊れたレコードのように空しく会場に響く。

「全然、わからねえよ…」

 住民の老人は、怒りをかみ殺したような低い声で、そうつぶやいた。

 

 神宮外苑地区計画の情報開示請求を続けている近隣住民の渥美昌純さんは、こう嘆息する。

「景観や環境を維持し、高い建物を建てないよう、地域では皆が協力して我慢してきた。それが、公共の名の下に、こうして高さ制限が撤廃され景観を壊していく。全体像が見えないから、着地点さえわからない」

 

 都は、この計画変更案を2月3日の都市計画審議会にかける予定だ。了承されると、都市計画変更が告示される。都の都計審が神宮外苑再開発がらみの都市計画変更案にストップをかけた例はない。

(池上正樹・ジャーナリスト)