2017年

2月

14日

クリストファー・シムズ 米プリンストン大学教授インタビュー「政府債務、インフレで解消」明示を

「金融政策のみではインフレ率の長期的な変動をコントロールできない」とする「物価水準の財政理論(FTPL)」を主張するシムズ教授に、デフレ脱却のための処方箋を聞いた。

(聞き手=坂井隆之、小倉祥徳・毎日新聞経済部、稲留正英・編集部)

 

── 20年に及ぶ政府の財政支出と日銀の金融緩和にもかかわらず、日本はデフレから脱却できていない。

 

シムズ 金融政策と財政政策が連係していないからだ。主要国では長い間、物価とインフレ政策は中央銀行の所管であるとの合意があった。一方、政府は物価水準にかかわらず、財政支出と政府債務をコントロールしている。この役割分担は、物価水準がプラスの時は機能する。しかし、金利がゼロ近傍にあったり、ハイパーインフレの時は機能しない。なぜなら、この状態では、中央銀行は単独ではインフレをコントロールできないからだ。

 

 私の提案は、人々に「財政支出拡大の目標は、インフレの創出である」と明示することだ。言い換えれば「政府の債務はインフレによって解消される」と理解してもらうことである。全ての政府債務がインフレで帳消しになるのを意味するわけではない。現在行われている財政支出の拡大が、将来の増税や歳出削減を伴わないことを人々に周知することが重要だ。

 

 日銀はインフレの創出に財政の支援が必要であることを認め、政府はインフレは政府の債務管理政策に関係があると認めるべきだ。

 

── それはどのように機能するのか。

 

シムズ 今、日本国債は魅力的な投資先に見える。しかし、将来の増税や歳出の削減が保障されなければ、政府債務を削減する唯一の手段はインフレの創出しかない。そのことを人々が「明示的」に理解すれば、インフレにより価値を失う国債は魅力的な投資先でないことに気付き、そのお金を現在の消費に振り向けたり、もっと実体のある投資に向ける。この政策を実現するためには、人々の将来に対する期待を変えなければならない。

 

── 安倍首相は消費税の税率の引き上げを2019年10月に延期した。

 

シムズ 物価上昇率が目標を下回っている限りは、財政再建を延期することは意味がある。しかし、私は財政再建の目標を「期日」ではなく、「インフレの創出」に切り替えるべきだと考える。なぜなら、このままでは消費税率引き上げの時期に近付くと、再びその警戒感が景気を下押す方向に作用するからだ。だから政府は、例えば「2%のインフレが6カ月間達成されたら、消費税を引き上げる」と明示すればよい。

 

 ◇政府債務多いほど効果

 

── 日本の公的債務は1000兆円を超える。このような状況でもあなたの理論は適用できるのか。

 

シムズ 債務の大きさは適用しない理由にならない。むしろ大きいほど効果が大きく現れる。問題は人々が長年のデフレ状態に慣れ、こうしたインフレを創出する政策に懐疑的になっていることだ。その期待を変えることが難しい。

 

── いったんインフレが生じたらコントロールできない危険性はないのか。

 

シムズ 大きな懸念はないと思う。日本をはじめ先進国はインフレの加速を制御するさまざまな手段を備えている。日銀のバランスシートは大きく膨張しているが、金融機関が預ける準備預金の金利を引き上げることにより、行き過ぎたインフレを抑制できる。

 

── 万一、急激なインフレが起きた場合は、国債を保有している金融機関の経営に大きな影響が出る。

 

シムズ 確かに、金利が長期間固定されている資産を運用する民間金融機関はインフレにより困難に陥るかもしれない。日本の場合は、政府系の金融機関が国債を大量に保有しているという問題もある。

 

 しかし、この政策は政府が「インフレにより誰も損をしない」と宣言したら成功しない。この政策の目的は、国債の保有者にインフレにより損をこうむるかもしれないと感じてもらい、他の実体のある投資や消費にお金を振り向けてもらうことだ。

 

 米国では大恐慌時代の1930年代に、大統領選を契機に人々のインフレ期待が劇的に変わり、実際にインフレになった経験がある。だから日本でも同様のことが起こる可能性がある。大半の日本人は、このままゼロ金利に張り付くよりも、緩やかなインフレの創出を望むのではないだろうか。

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 ■人物略歴

 ◇Christopher Sims

 1942年生まれ。米ワシントンDC出身。2011年にトーマス・サージェント米ニューヨーク大学教授と「マクロ経済の原因と結果に関する実証的な研究」でノーベル経済学賞を受賞。

*『週刊エコノミスト』2017年2月14日号「FLASH」掲載

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