特集:2017中国ショック 2017年2月21日号

◇激烈!米中チキンレース

◇報復合戦の泥沼化リスク

 

 中国が、トランプ米新政権に大きく揺さぶられようとしている。

 

 年間28兆円の対米貿易黒字を計上する中国──。これに対してトランプ氏は、大統領選挙中、45%の関税を課したり、意図的に通貨安にしたりして輸出を増やす「為替操作国」に指定すると警告してきた。中国に厳しい姿勢で知られるカリフォルニア大学のナバロ教授が貿易政策を統括する新設の「国家通商会議」のトップに就任するなど、新政権の中枢を対中強硬派で次々と固めている。

 

 また、2月に入ると、米国のマティス国防長官が日本と韓国を訪問。日本では、沖縄県・尖閣諸島について「対日防衛義務を定めた日米安全保障条約の適用範囲」と発言し、早速、中国にけん制球を投げた。

 一方、習近平国家主席は1月17日、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)に出席。グローバル化や環境保護の重要性などを強調。自由主義を主導してきた米国のお株を奪う演説をしてみせたが、基本的には沈黙を守っている。

 

 日本総合研究所の呉軍華理事は、「中国と米国は、仲が良くなるより悪くなる可能性の方がかなり高い」と予想する。一番の理由は、「トランプ政権が掲げる『米国を再び偉大に』という大方針に対して、最大の障害となっているのが中国」(呉軍華氏)だからだ。

 

 ◇米中の殴り合いで起きること

 

 中国と米国が“殴り合う”と、何が起こるのか。双方が持つ「カード」を整理してみよう。

 

 米国のカードは、前述の関税引き上げや為替操作国指定だけでなく、台湾も中国の領土の一部と考える「一つの中国政策」を見直したり、中国資本による米国企業買収を厳格化する手段もある。

 

 さらに、中国を世界貿易機関(WTO)協定上の「市場経済国」と認めない選択肢もある。中国は01年にWTO加盟時に、ダンピング(不当廉売)認定などで不利になる「非市場経済国」として扱われることを受け入れた一方で、「加盟から15年たった16年12月にこの取り扱いは終了する」と主張している。

 

 一方、中国はこうしたカードに対する対向処置を持っている。

 

 最も可能性が高そうなのが、米国製品の「不買運動」を中国国内で展開することだ。12年、日本政府による尖閣諸島購入後に起こした日本製品に対する不買運動の前例もある。中国で活動する米国企業の売り上げは、すでに年間4700億ドル(約53兆円)に達する。

 

 米自動車メーカーにとって、世界一となった中国の新車販売市場は、不可欠な市場となっている。例えば、世界3位のゼネラル・モーターズ(GM)は、15年の世界販売984万台に対し、中国での販売台数が361万台(36・7%)を占めた。また、世界6位のフォード・モーターは15年の世界販売663万台に対し、116万台(17・5%)を中国で売っている。

Bloomberg
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 他にも、アップルは15年の世界売上高2156億ドルのうち、22・5%に当たる484億ドルを大中華圏(中国・香港・台湾)で稼ぎ出す。小売り世界最大手のウォルマートは、16年時点で432店舗のスーパーマーケットなどを中国で展開する。

 

 米中対立は、航空機大手ボーイングにとっても一大事だ。ボーイングは、15年の売上高961億ドルのうち、13・0%に当たる125億ドルを中国市場で計上している。15年9月に習近平主席が訪米した際、中国の企業連合はボーイングから旅客機300機を購入する契約を交わした。しかし、「習近平主席は、外交上は民間企業の判断にして、旅客機注文を取り消すこともできる」(外交専門家)。

 

 さらに、中国政府は日本政府と並んで米国債の大量保有国だ。その額は1兆2348億ドル(香港含む、16年11月末時点)。すでに外貨準備の米国債を大量に売って人民元を買い支えているが、さらにトランプ氏が為替操作国として批判を強めれば、米国債を売却して応戦せざるを得なくなる。

 

 米国・トランプ大統領と中国・習近平主席が、外交通商カードを切り合うと、報復合戦に発展し、世界1位と2位の大国関係が泥沼化するリスクをはらんでいるのだ。前述の呉軍華氏は、「習近平主席の個性は『わが道を行く』ということ。米中間の価値観の対立はいずれ浮上し、米中はチキンレースに陥る」と予測する。

 

 この報復合戦は、互いに大きな痛みとなる。米国の対中関税45%に関しては、実現すると貿易額は半減するとも言われる。中国から米国への貿易が減れば、中国での雇用に影響する半面、米国の消費者も中国の格安製品がないと困ることも事実だ。

 

 ◇カギ握る王岐山氏

 

 今年の中国は、5年に1度開催される共産党大会を秋に控える。反腐敗運動で習近平主席の右腕となっている王岐山氏が、米国関係を含めてカギを握る人事となりそうだ。今年69歳になる王氏は、本来なら、最高指導部の政治局常務委員の“定年”となるが、米国と太いパイプを持ち、留任観測が多い。

 

 王氏は、人民銀行副行長(中央銀行副総裁)や建設銀行行長などを歴任し、金融業界の人脈を持つ。特に米財務長官などを歴任した、ゴールドマン・サックス元最高経営責任者(CEO)のヘンリー・ポールソン氏(70)との関係が密だ。「トランプ政権中枢には、ゴールドマン・サックス出身者が多く、今後の米中関係を考えるうえでも、『王岐山=ポールソン』の人脈を維持することが重要なポイントとなる」(元三菱UFJ証券〈香港〉産業調査アナリストで在香港の中国研究者・稲垣清氏)。

   *   *   *

 野村証券が機関投資家に行った調査では、17年にグローバル経済に重大な打撃をもたらすリスクとして、「中国・新興国」が41%で最多だった。その具体的なリスクとして、「米国との貿易戦争」や「元安・資本流出」がともに約37%で1位だった。

 

 16年の中国のGDPは、前年比6・7%増。17年は6・5%成長を目標にしていくとみられている。党大会を前に、中国政府は経済安定が最優先となる見込みだが、トランプ政権の揺さぶりで、そのもくろみが外れる可能性もある。米中衝突による「中国ショック」は計り知れない。

(谷口健、大堀達也=編集部)

 

特集「2017中国ショック」記事リスト

2017中国ショック

 激烈! 米中チキンレース 報復合戦の泥沼化リスク ■谷口 健/大堀 達也

 激突! 米中リスクを読む

 「共産党の臨界点は予測不可」 津上 俊哉 津上工作室代表

 「習主席による軍掌握がカギ」 宮本 雄二 宮本アジア研究所代表

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 IT産業 100兆円市場へ 基盤整備も加速 ■金 堅敏

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