第44回 福島後の未来:漂流する原子力政策 再構築の道をさぐる=橘川武郎

◇きっかわ・たけお  1951年、和歌山県旧椒村(現有田市)生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東大、一橋大学大学院教授などを経て現職。2030年の電源構成を議論する経済産業省の有識者会議で委員を務めた。
◇きっかわ・たけお  1951年、和歌山県旧椒村(現有田市)生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東大、一橋大学大学院教授などを経て現職。2030年の電源構成を議論する経済産業省の有識者会議で委員を務めた。

橘川武郎・東京理科大学イノベーション研究科教授

 

 本誌2017年2月7日号の特集「電気代は税金となった」の第1部「ずさんな原発事故処理」で、週刊エコノミスト編集部は、福島第1原子力発電所事故後に東京電力の法的整理が見送られた理由について、ある電力関係者の「東電がなくなれば、国策として原子力事業を進めてきた国が批判の対象となる。それを避けるために、東電を存続させる必要があった」という声を紹介している(同号22ページ)。

 

 

 この声は、ずばり正鵠(せいこく)を射ている。日本の原子力事業は「国策民営」方式で進められてきた。福島第1原発事故後、事故を起こした当事者の東電が、福島の被災住民に土下座して謝罪するのは当然のことだ。

 ただし、それだけで済ませてはいけない。国策として原発を進めてきた以上、国の政策に関与する政治家や官僚も、同様に土下座すべきだ。しかし、彼らはそれを避けたかった。そこで思いついたのが、「たたかれる側からたたく側に回る」という作戦である。

 

 この作戦は、東電を「悪役」として存続させると同時に、政治家や官僚が、悪者をこらしめる「正義の味方」に回るという構図で成り立つ。うがった見方かもしれないが、その悪者の役回りは、東電からやがて電力業界、さらには都市ガス業界にまで広げられたようである。

 

 一方で、政治家や官僚は、火の粉をかぶる恐れのある原子力問題については深入りせず、先送りする姿勢に徹した。

 

 こう考えれば、政府が福島第1原発事故後、電力システム改革や都市ガスシステム改革には熱心に取り組みながらも、原子力政策には明確な方針を打ち出してこなかった理由が分かる。熱心に「たたく側」に回ることによって、「たたかれる側」になることを巧妙に回避しようとしたのである。

 

 ◇戦略と司令塔が不在

 

 11年3月11日の福島第1原発事故後も、原子力推進の姿勢を崩さない首相官邸や経済産業省の迷走ぶりは目を覆いたくなるばかりだ。自公政権か民主党政権かを問わず、「3・11」以後に4回あった国政選挙で、政権与党は票を失うことを恐れ、原子力問題を主要な争点としない「作戦」をとった。

 

 15年に安倍晋三内閣が閣議決定した30年の電源構成見通しで原子力発電への依存度を「20~22%」と定めた。その達成のためには、原子炉等規制法で定められた「40年運転規準」によって廃炉となる原発20基(再稼働自体が困難な福島第2原発の4基を除く)のうち、4分の3に当たる15基程度の運転期間を60年に延長しなければならない。

 

 しかし、それでは、14年に閣議決定した「原子力依存度の可能な限りの低減」をうたう「エネルギー基本計画」に明らかに違反する。

 

 エネルギー基本計画の違反という点では、あわただしく決定した高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉も同様だ。

 

 

 

 基本計画は「もんじゅ」について、「増殖炉」というこれまでの位置づけを改め、使用済み核燃料の処理問題(バックエンド問題)の解決に寄与する「減容炉・毒性軽減炉」として、新しい役割を与えた。

 

 にもかかわらず、政府はバックエンド問題の解決に向けた具体的な対案も示さないまま、政治的判断で「もんじゅ」廃炉を決めたのだ。

 

 ここで思い起こされるのは、まっとうな原子力推進論者で、惜しまれながら16年1月に急逝した澤昭裕氏が、雑誌『Wedge(ウェッジ)』に寄せた遺稿だ。澤氏は「原子力を殺すのは、原子力ムラ自身である」と述べた。「3・11」後の6年間が明らかにしたのは、日本の原子力政策を巡っては、戦略も存在しないし、司令塔も不在という冷厳な事実だ。政治家の眼中には「次の選挙」しかなく、官僚の眼中には「次のポスト」しかない。つまり、政策を左右する政治家も官僚も、目先のことばかりに目を向け、将来にわたって大きな影響を及ぼす深刻な問題を先送りしやすくなる。原子力政策が漂流する原因は、このような事情に求めることができる。

 

 原子力問題を含むエネルギー問題を解決するためには、20年先や30年先を読む眼力が必要だ。将来を見据えて、しっかりした展望を持ち、批判するばかりでなく、問題解決につながる建設的な具体案を提示しなければならない。

 

 ◇原発の「たたみ方」

 

 原子力政策を再構築するためには、どんな施策を打ち出すべきか。

 少なくとも、次の三つの方向性を包含したものでなくてはならない。

 

 第一は、原子力発電所の「リプレース」(置き換え)と原発依存度の低下を同時に追求することである。

 

 そもそも、原発を使い続けるというのなら「危険性の最小化」が不可欠だ。それが原発を利用するうえで前提条件となる。原発の危険性を最小化するために、最新鋭設備を使用する必要があることは論をまたない。新増設の議論を避けた原発継続論は無責任極まりないものだ。

 

 多少なりとも原発を使い続けるのであれば、最新鋭炉の建設を堂々と主張すべきだ。その代わり、古い原子炉はどんどん廃炉し、原発依存度全体を引き下げていくべきだ。

 

 新増設と言っても、現実的には、旧型炉の廃棄と組み合わせた「リプレース」という形になる。近未来の原発政策のあるべき姿は「リプレースと依存度低下の同時追求」と表現できる。

 

 第二は、「もんじゅ」に代わる使用済み核燃料の減容炉・毒性軽減炉を開発することだ。

 

 すでに述べたように、現行のエネルギー基本計画は「もんじゅ」をバックエンド対策の切り札に位置づけていた。「もんじゅ」の高速炉を、従来目指していた増殖炉としてではなく、使用済み核燃料の発する放射能が危険な水準にある期間を短縮し、容量を縮小するための減容炉・毒性軽減炉として転用する方針を打ち出した。この方針自体は正しい。

 

 ところが政府は昨年末、「もんじゅ」の廃炉を決定した。

 

 一方で、現行の基本計画は、政府が前面に立って、使用済み核燃料の最終処分地を決める方針だ。しかし、放射能の危険な期間が「万年単位」とされるほど長期に及ぶままでは、最終処分地として手を挙げる地方自治体が登場するはずはない。最終処分地を決定するためには、高速炉技術などを使ってイノベーションを起こし、この期間を大幅に短縮するしかない。「もんじゅ」を使わずに、いかに使用済み核燃料の減容炉・毒性軽減炉の開発を進めるかが焦点だ。

 

 ただし、バックエンド対策には時間がかかる。このため開発を進めている間は、原発敷地内に燃料プールとは別の空冷式冷却装置を設置し、「オンサイト中間貯蔵」を行うことも求められる。

 

 減容炉・毒性軽減炉に関する技術開発は極めて難しい。バックエンド対策が思い通りに進まない可能性もある。

 

 そのため「現実的でポジティブな原発のたたみ方」という選択肢も準備しておくべきだ。これが三つ目のポイントである。

 

 その際に柱となるのは、(1)廃炉する原発の送変電設備を活用した火力発電へのシフト、(2)旧型炉の廃炉作業など廃炉ビジネスによる雇用の確保、(3)使用済み核燃料を預かるオンサイト中間貯蔵に対する電気料などを通じた保管料の支払い──からなる原発立地地域向けの「出口戦略」だ。こうした戦略を確立できれば、現在の立地地域も廃炉を見据えた「原発なきまちづくり」が可能になる。

 

 原子力政策には、このような長期的視点に立った戦略的アプローチが求められている。

 

(橘川武郎・東京理科大学イノベーション研究科教授)