経営者:編集長インタビュー 宮下直人 総合車両製作所社長

◇ステンレス車両の先駆けとして進化させる

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 会社の成り立ちから教えてください。

宮下 当社は、2012年にJR東日本が東急車輛製造を買い取って設立し、14年JR東日本新津車両製作所の車両事業を経営統合、新津事業所(新潟県)としました。JR東日本は鉄道の国内需要が人口減少で縮小するなかグローバルな展開を目指し、車両製造を第4の柱に位置づけました。

 鉄道事業が背景にあるので、例えば海外に進出する時、メンテナンスや運行、駅ナカまでパッケージとして展開することができます。その意味で社名に「総合」とつけています。

 

 ◇車両のシステム端末化

 

── 強みは何ですか。

 

宮下 東急車輛は日本で初めてステンレス製車両を製造した会社です。約60年前に、当時の社長がブラジルでアメリカ製のステンレス車両をみて、「これだ」と製造を指示しました。ステンレスはさびないので清掃が楽になり、塗り替えも不要です。美観性にすぐれ、重さも今はアルミ車両並みになっています。JR東日本は通勤車両をステンレスに替えてきました。

 いま一番力を入れているのが、オールステンレスの通勤車両「サスティナ」です。ブランディングすると同時に共通プラットフォームにより製造コストを下げています。

 鉄道車両は顧客の鉄道会社のニーズに合わせてカスタマイズするため、少量生産でコストがかかります。一方で安さも求められ、収益が出にくいのがジレンマでした。ボディーの部品や電装品はこれまで顧客ごとにバラバラのため発注単位が小さかったのですが、どこまで共通して仕入れ規模を大きくできるか取り組んでいます。

 

── 鉄道会社傘下である利点は何ですか。

 

宮下 鉄道会社にとって保守のコストダウンは必須です。線路や架線の画像を走りながら撮る車両を開発しました。山手線に投入されているE235系です。車両のトラブルを把握して地上に送ることもできます。

 従来は例えば月に1度線路を点検し、限度値を超えていれば取り換えていましたが、日々撮影するビッグデータを分析すれば、取り換え頻度を下げることができます。

 鉄道車両はシステムの端末になりつつあります。地上の管理システムと車両との連携は、事業者とともに開発した方がかゆいところに手が届く機能になります。

 

 ◇輸出の勉強代

 

── この5年間のチャレンジは、何ですか。

 

宮下 東急車輛時代に赤字のため中断した新幹線の製造を再開しました。それが北陸新幹線E7系です。72両を納入しました。高速車両は技術力を維持するために必要です。採算はまだ厳しいですが、新幹線は社員にとって特有の求心力があります。

 輸出も円高で採算が見合わず04年に中断していましたが、再開しました。第1号が昨年8月に開業したタイの都市鉄道パープルラインです。海外向け「サスティナ」を63両納入しました。

 

── 輸出の手応えは。

 

宮下 途中で何度もくじけそうになりましたが、完成にこぎつけたことは自信につながりました。欧州基準に合わせるため、設計を何度もやり直しました。

 一番大変だったのは計5万ページに及ぶ文書作成です。設計思想から細かく書かなければなりません。日本流では何から何まで文書に書かなくても良い製品はできると考えます。設計費が通常の倍かかりました。高い勉強代を払いました。

 

── 高くついた勉強代をどう生かしますか。

 

宮下 いい案件を探しています。東南アジアが一番のマーケットでしょう。欧州も広いですから、大メーカーの手が回らないニッチな案件を狙います。

 ただし、日本のやり方を認知させていかなければなりません。欧州規格に合わせるのではなく、日本の規格を打ち出すべきです。

 

 ◇ハイブリッド世界一

 

── 技術面で新たな取り組みは、ありますか。

 

宮下 サスティナのハイブリッド車両ですね。海外で特に注目を浴びています。ディーゼル発電機と蓄電池を積んで非電化区間を走ります。ハイブリッド車両は環境に優しく、初期の設備投資や保守のコストが下がります。

 既に29両が営業運転しています。当社が世界で一番多くハイブリッド車両を作っているメーカーではないでしょうか。蓄電池を積み、架線のあるところではパンタグラフから電気をとるタイプの車両もあります。

 

── 今後の経営目標はどんなものですか。

 

宮下 13年に、10年後は売上高1000億円という目標を掲げました。16年3月期は430億円で目標はまだ高いところにあります。海外比率を4割まで高めていきます。

 社内の課題としては、製造や設計など部門の壁を越えて、一体感をどう作るかです。ただ、モノ作りは、自分たちの仕事が目に見える形となり、社員のプライドやモチベーションにつながるのがいいところですね。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A JR東日本で車両の故障や事故を担当していたら、「事故対応が得意だから」と広報に。非常に鍛えられました。上司には「軸足をJR内部ではなく、外に置け」と教えられました。JR以外の民鉄がお客様である今に生きています。

 

Q 「私を変えた本」は

A 『失敗学のすすめ』(畑村洋太郎著)です。日本人はメンツを守るために失敗を水に流そうとするので同じ轍(てつ)を踏みがちです。失敗を分析し、繰り返さないことが大事だと教えてくれました。

 

Q 休日の過ごし方

A ゴルフですね。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇みやした・なおと

 東京都出身。都立西高校卒業、東京大学大学院機械工学専攻修了。1979年国鉄入社。JR東日本安全対策部長、常務取締役を経て、2012年4月より現職。63歳。

………………………………………………………………………………………………………

事業内容:鉄道車両製造

本社所在地:横浜市金沢区

設立:2012年4月

資本金:31億円

従業員数:1112人(2016年4月現在)

業績(2016年3月期)

 売上高:430億円

 営業利益:マイナス11.9億円