2017年

2月

28日

有罪率99%の日本 刑事弁護にネットで簡単アクセス

「無罪推定」とはいうものの
「無罪推定」とはいうものの

 男性会社員のAさんは、毎朝通勤で満員電車に揺られる。ある朝、会社の最寄り駅で電車を降りると、女子高校生が自分を指差し、大声で叫んだ。「あの人、痴漢です!」。周囲を乗客に取り囲まれ、駅員が駆けつけてくる。まったく身に覚えがないが、毎日利用する駅でもめ事は避けたい。「とりあえず、こちらで話を」と駅員にうながされるまま、部屋に入った。

 

 満員電車でのことだ。手に持っていたバッグが当たったのかもしれない。「きちんと説明すればわかってくれるはずだ」と思ったが、やってきた警察官は「署で話を聞く」と言うばかり。パトカーに乗せられ、連行された。迷惑防止条例違反容疑、痴漢での現行犯逮捕だった。

 

 刑事事件の弁護を専門に手がけ、無罪判決や不起訴処分をいくつも勝ち取ったアトム法律事務所代表の岡野武志弁護士はこの例について、「駅員に部屋に連れていかれた時点で、警察は『私人による現行犯逮捕が成立している』と見なす」と指摘する。身に覚えがないのに痴漢容疑をかけられたとき、避けなければいけないのは身体を「拘束」されることだ。

 

 対処方法は、毅然(きぜん)とした態度でとにかくその場を立ち去ること。その際、名刺を渡すという方法を紹介するサイトもあるが「わざわざ所属や名前を知らせることに意味はない。落ち着いて『私はやっていない』と主張してほしい」と解説する。注意するべきは、あせって走り出したりすると疑いが増すということ。また拘束されないようにと暴れると、暴行容疑で逮捕されかねないので気をつけたい。

 

 憲法は31条で、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若(も)しくは自由を奪はれ、又(また)はその他の刑罰を科せられない」と規定し、「無罪推定の原則」を保障している。しかしAさんは警察署で、「うそをつくな」「正直に話せば楽になる」と迫られた。その場を逃れたい一心で「自白」したAさんは、有罪判決を受けた──。

 

 日本の刑事裁判は1審有罪率が99%を超える。「無罪推定はうそ。初期対応を誤ったら、絶対に覆らない」と岡野弁護士は言う。

 

 ◇72時間が勝負

 

 次善の策が功を奏さず、逮捕されてしまった場合、72時間以内が「勝負」だ。裁判所が、勾留するかどうかを判断する期限だからだ。えん罪の場合はもちろん、罪を犯してしまったとしても、勾留されなければ会社や学校に通うなど、今まで通りの日常生活を送ることができる。周囲に発覚しなければ、会社を解雇されることもない。

 

 そのためには、取り調べ前に、すぐ弁護士に連絡するよう警察官に通告する。弁護士を依頼するのは、起訴された後だけでなく、逮捕直後でも容疑者の権利だ。弁護士が到着するまでは、取り調べに答える必要はない。不利な調書を取られた後に、覆すのは困難だ。

 

 罪を犯してしまったときには、弁護士による早急な対応がより重要だ。「私は犯罪なんて絶対にしないから関係ない」という自信がある人がほとんどだろう。しかしアトム法律事務所の依頼者の多くは、大企業の管理職など、社会的立場があるという。「普段は大丈夫だろうが、酒を飲んだときについ、ということは誰も否定できない」(岡野弁護士)。「前科」をつけないためには、不起訴処分を目指し、示談交渉の時間を十分に確保することが不可欠だ。

 

 岡野弁護士は、インターネットで私選の刑事弁護を専門に請け負う。日本は弁護士へのアクセスが極めて閉鎖的で「ネットを使えば、簡単に身近な存在にできる」と取り組んだ。司法修習生時代に「市場調査」し、日本には刑事専門の弁護士がほとんどいないことにも疑問を持った。弁護士資格を得た2008年9月、「アトム法律事務所」を開設し、サイトを開いた。経験もないまま開業するいわゆる「即独」だが、初日から相談の電話が鳴りやまなかった。

 

 刑事事件は他人に相談しにくいため、ネットとの親和性が高い。アトム法律事務所は24時間、電話による無料相談を受け付けており、この世界の第一人者だ。岡野弁護士は「罪を犯してしまった場合でも、裁判になる前に弁護士ができることがいくらでもある」と話す。

 

 有罪率99%の日本の刑事司法は甘くない。身を守るために心に留めておきたい。

 

(酒井雅浩・編集部)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト2017年2月28日号

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