「過払いバブル」の余波 弁護士 vs 司法書士

「払い過ぎたお金が戻ってくる可能性があります」──。こんなCMやチラシは見慣れたものになった。2006年に改正貸金業法が成立し、貸し付けの上限金利は年29・2%から年15~20%に引き下げられた。同年の最高裁判決により、それまで借り手が支払った利息の差の「過払い」分について、貸金業者は請求されると返還しなければならなくなった。

 

 この返還請求に司法書士、弁護士が参入し、「過払いバブル」の様相を呈したのがこの10年だった。広告を打って依頼者を大量に集め、案件処理を効率化することで利益を上げるという弁護士の「ビジネスモデル化」の象徴となった。

 

 08年に返還額はピークを過ぎ、11年には日本弁護士会連合会が弁護士による面談を義務付けたことから、次の分野へと移る動きもあったが、いまも「過払い」広告は盛んだ。「1件当たりの利幅は下がっているが、まだ撤退すべき時期ではない」(アディーレ法律事務所の石丸幸人代表)。

 

 請求権の時効は10年だが、なぜ広告の露出が続くのか。それは、時効の起点が「取引終了」時点だからだ。10年前の法改正とともに利率は下がっていても、その後も取引が継続していれば、利息が下がる前の過払い分について請求権があると同事務所は捉えている。過払いについて知らない人、知りながらまだ請求していない人を“掘り起こす”狙いだ。

 

 ◇境界線示す最高裁判決

 

 司法書士が過払い請求の一角を担ったのは、02年に司法書士法が改正され、簡易裁判所の管轄となるような案件、すなわち140万円以下の案件について、交渉や訴訟を代わって行う代理権が認められたからだ。国民の司法ニーズを満たす目的の司法制度改革の一環だった。

 

 司法書士が弁護士業に食い込む形だが、それが問題視されるようになったのは、にわかに沸いた過払いバブルと、07年から大量の新人弁護士が送り出され、弁護士間の競争が激化した後だ。「140万円」の上限をめぐり、依頼者1人当たりなのか、それとも借り先それぞれに対してなのか。元本の債務額なのか、それとも取り戻す利益額なのか、司法書士と弁護士の間で解釈が食い違ってきた。

 

 そのグレーゾーンに終止符を打つ最高裁判決が昨年6月に下りた。140万円の上限は「各貸金業者ごとの債務額」に適用されるというものだった。弁護士側は「140万円を超えれば司法書士が扱うのは違法、最初から弁護士に相談を」と打ち出す一方、大手司法書士法人の新宿事務所は「運用が適法であったことが改めて追認された」とのコメントを発表した。

 

 ただ、過払い金返還請求の動向に目立った影響はみられないようだ。

 

 背景として、金額が大きな債務者は既に請求が済んだとみられるほか、司法書士側が意図的に請求対象の債務額を140万円以下に抑えているとの指摘もあるが、一方で、140万円を超える案件について、司法書士から弁護士へ引き継ぎが行われている実態がある。依頼者に弁護士を紹介して紹介料をとることは、弁護士法で禁じられているため、抵触しないようスキームが工夫されているもようだ。

 

 弁護士の間では、この「紹介業禁止」規定自体を疑問視する声がある。税理士など他の士業や、不動産取引など他の事業では一般的だからだ。

 

 弁護士がこれまで禁じられてきた手段のうち、00年に広告、02年に複数拠点が解禁された。紹介業には整理屋の参入を防ぐなど規定は不可欠だが、「広告は資金力がものを言う。紹介が解禁されれば、いい仕事をする弁護士が紹介されるようになる」との見方がある。

 

 過払い金返還請求は弁護士業がビジネスへと転じる象徴となった。競争環境の整備はまだ途上にある。

(黒崎亜弓、酒井雅浩・編集部)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト2017年2月28日号

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発売日:2017年2月20日

特別定価:670円